利吉さんの子守りバイト奮闘記
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翌日。
今日もきり丸と怒涛の一日が始まった。
「ああ、もう!そっちは囲炉裏があるから行っちゃだめ!」
「うわぁ、やられた……さっき畳んだ洗濯物、目を離したすきにぐちゃぐちゃにされてる……」
開始早々、家の中はしっちゃかめっちゃかになっていた。
生後六か月以降の赤子が縦横無尽に家を這いつくばっている。
逆に、月齢の低い赤子たちは部屋の隅ですやすやと寝入っていた。
「よくこんなうるさい環境で寝ていられるな……」
赤子の逞しさに利吉は感心する。
ちなみに利吉は今、四つん這いの態勢。
赤子を馬乗りにしながら、床を拭いている。
キャッキャ、とはしゃいでいたその赤子が急にぐずりだした。
「おお、どうした?よしよし」
「ふぎゃあ、ふぎゃあ」
「さっきご飯は食べたしな……あ、わかった!喉が渇いているのか」
利吉はお茶を与えてみる。
だが、赤子はプイっと首を振った。
「喉も乾いていないとなると……眠いんだな。それなら、」
利吉は赤子を抱きかかえた。
家の外へ出て、三十分ほどかけて散歩する。
(これで眠ってくれるはず……)
だが、予想に反して赤子の眼はぱっちりと開いていた。
「ええ!お前……眠くなかったのか!?」
「ふぎゃあ、ふぎゃあ」
「う~ん、困ったなぁ……ほかにどうしたらいいんだ?」
「ふぎゃあ、ふぎゃあ」
「頼むから何かにつけて泣くのはやめてくれよ」
「ふぎゃあ、ふぎゃあ」
思い通りにならない、言葉が通じない。
苛立ちは最高潮に達してしまい、ついに我慢の限界を超えてしまった。
「ああもう、いい加減にしろ!静かにしてくれ!うるさぁぁぁぁぁい!」
ついカッとなって叫んだ。
やってしまった――利吉が顔をこわばらせた瞬間、
「ふぎゃ…うわぁぁぁぁぁぁぁん!」
火がついたように赤子が泣く。
奥の部屋にいたきり丸が血相を変えて駆けつけてきた。
「利吉さん!どうしたんですか!?」
「すまん、きり丸……色々手を尽くしても、なかなかぐずりがおさまらなくて」
「なるほど。ちょっと貸してください。おお、よちよち。どうちたんでちゅかぁ~?べろべろばぁ!」
きり丸がベロを出してあやすと、赤子はみるみる笑顔になった。
ガーン!!!
(私はきり丸以下なのか……)
利吉の膝の力ががっくりと抜ける。
敗北感がじわじわと胸に広がっていった。
***
その日の晩。
部屋の隅で利吉が縮こまっている。
「私はきり丸以下、きり丸以下、きり丸以下……」
「利吉さぁん!そう落ち込まないでくださいよ~。子守りなんて場数を踏めば、誰にだってできるんですから!」
きり丸は励まし続けるが、利吉の心の傷は相当深い。
子守りなんて誰でもできる仕事だと高を括っていた分、自分自身への失望が止まらないのだ。
「ちょっとどうしたのよ、きりちゃん。利吉さん、元気ないじゃない!?」
「あー……あれは、その……色々ありまして」
「んもう、良い男なのに台無しねぇ!」
そんな雑音が遠のくほど、利吉は自分の殻に閉じこもっていた。
(考えてみれば、年下の子を面倒みるなんて、今までしてこなかったもんな……)
利吉の実家は人里離れた山奥にある。
自然に恵まれ、都会の喧騒さとは無縁の、静かな空間での生活。
同級生もいるにはいるが、会うには山一つ越えなければ行けないほどの距離があった。
ただでさえ人口の少ない過疎地域で、近所に住むのは老人ばかり。
子ども時代は利吉の存在が周囲に珍しがられたほどだ。
おまけに兄弟姉妹もいない一人っ子。
そういう環境の中、利吉の話し相手は専ら大人だった。
おかげで十二に達した頃には、既に普通の大人と変わらないような情緒や思考を身に着けていた。
みだりに感情をあらわさない。
早熟な利吉は沈着冷静、理知的、思慮深い子と周囲からほめたたえられた。
そんな利吉だからこそ、感情の思うがままに行動する子どもとは水と油の関係なのだ。
自分が言葉の通じない赤子の世話をする――それは試練ともいえた。
しかし、その試練は絶対に越えなければならない。
いずれ空と所帯を持つ――という未来を当たり前のように描いている利吉。
二人の間で子を成したときに、空をリードできるようにしておきたい。
先日の己の妄想で見た、半助の嘲笑が脳裏を掠める。
「はぁ……」
「……」
珍しく意気消沈する利吉に、きり丸と隣のおばちゃんはかける言葉が見つからなかった。
今日もきり丸と怒涛の一日が始まった。
「ああ、もう!そっちは囲炉裏があるから行っちゃだめ!」
「うわぁ、やられた……さっき畳んだ洗濯物、目を離したすきにぐちゃぐちゃにされてる……」
開始早々、家の中はしっちゃかめっちゃかになっていた。
生後六か月以降の赤子が縦横無尽に家を這いつくばっている。
逆に、月齢の低い赤子たちは部屋の隅ですやすやと寝入っていた。
「よくこんなうるさい環境で寝ていられるな……」
赤子の逞しさに利吉は感心する。
ちなみに利吉は今、四つん這いの態勢。
赤子を馬乗りにしながら、床を拭いている。
キャッキャ、とはしゃいでいたその赤子が急にぐずりだした。
「おお、どうした?よしよし」
「ふぎゃあ、ふぎゃあ」
「さっきご飯は食べたしな……あ、わかった!喉が渇いているのか」
利吉はお茶を与えてみる。
だが、赤子はプイっと首を振った。
「喉も乾いていないとなると……眠いんだな。それなら、」
利吉は赤子を抱きかかえた。
家の外へ出て、三十分ほどかけて散歩する。
(これで眠ってくれるはず……)
だが、予想に反して赤子の眼はぱっちりと開いていた。
「ええ!お前……眠くなかったのか!?」
「ふぎゃあ、ふぎゃあ」
「う~ん、困ったなぁ……ほかにどうしたらいいんだ?」
「ふぎゃあ、ふぎゃあ」
「頼むから何かにつけて泣くのはやめてくれよ」
「ふぎゃあ、ふぎゃあ」
思い通りにならない、言葉が通じない。
苛立ちは最高潮に達してしまい、ついに我慢の限界を超えてしまった。
「ああもう、いい加減にしろ!静かにしてくれ!うるさぁぁぁぁぁい!」
ついカッとなって叫んだ。
やってしまった――利吉が顔をこわばらせた瞬間、
「ふぎゃ…うわぁぁぁぁぁぁぁん!」
火がついたように赤子が泣く。
奥の部屋にいたきり丸が血相を変えて駆けつけてきた。
「利吉さん!どうしたんですか!?」
「すまん、きり丸……色々手を尽くしても、なかなかぐずりがおさまらなくて」
「なるほど。ちょっと貸してください。おお、よちよち。どうちたんでちゅかぁ~?べろべろばぁ!」
きり丸がベロを出してあやすと、赤子はみるみる笑顔になった。
ガーン!!!
(私はきり丸以下なのか……)
利吉の膝の力ががっくりと抜ける。
敗北感がじわじわと胸に広がっていった。
***
その日の晩。
部屋の隅で利吉が縮こまっている。
「私はきり丸以下、きり丸以下、きり丸以下……」
「利吉さぁん!そう落ち込まないでくださいよ~。子守りなんて場数を踏めば、誰にだってできるんですから!」
きり丸は励まし続けるが、利吉の心の傷は相当深い。
子守りなんて誰でもできる仕事だと高を括っていた分、自分自身への失望が止まらないのだ。
「ちょっとどうしたのよ、きりちゃん。利吉さん、元気ないじゃない!?」
「あー……あれは、その……色々ありまして」
「んもう、良い男なのに台無しねぇ!」
そんな雑音が遠のくほど、利吉は自分の殻に閉じこもっていた。
(考えてみれば、年下の子を面倒みるなんて、今までしてこなかったもんな……)
利吉の実家は人里離れた山奥にある。
自然に恵まれ、都会の喧騒さとは無縁の、静かな空間での生活。
同級生もいるにはいるが、会うには山一つ越えなければ行けないほどの距離があった。
ただでさえ人口の少ない過疎地域で、近所に住むのは老人ばかり。
子ども時代は利吉の存在が周囲に珍しがられたほどだ。
おまけに兄弟姉妹もいない一人っ子。
そういう環境の中、利吉の話し相手は専ら大人だった。
おかげで十二に達した頃には、既に普通の大人と変わらないような情緒や思考を身に着けていた。
みだりに感情をあらわさない。
早熟な利吉は沈着冷静、理知的、思慮深い子と周囲からほめたたえられた。
そんな利吉だからこそ、感情の思うがままに行動する子どもとは水と油の関係なのだ。
自分が言葉の通じない赤子の世話をする――それは試練ともいえた。
しかし、その試練は絶対に越えなければならない。
いずれ空と所帯を持つ――という未来を当たり前のように描いている利吉。
二人の間で子を成したときに、空をリードできるようにしておきたい。
先日の己の妄想で見た、半助の嘲笑が脳裏を掠める。
「はぁ……」
「……」
珍しく意気消沈する利吉に、きり丸と隣のおばちゃんはかける言葉が見つからなかった。