利吉さんの子守りバイト奮闘記
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腕に抱えた赤子の服が濡れている。
さらに、背負った赤子からは、ポタリポタリと液体が滴り落ちている。
鼻をつくようなアンモニア混じりの刺激臭で、どちらも小便をしたことは一目瞭然だった。
(おいおい。さっきおしめ替えたばっかりだぞ。ああ……)
山田利吉が白目でその場に崩れ落ちる。
数刻前、自分のこんな姿を一体誰が想像できたであろうか。
***
「~♪」
利吉は上機嫌で町の大通りを歩いていた。
すれ違う女たちの視線なんて何のその。
マイペースで歩く足は、しっかりとある場所だけを捉えている。
(さっきの小間物屋……中々いいものが売っていたな。立ち寄ってよかった)
利吉は懐から包みを取り出す。
中には、小さなガラス玉があしらわれた簪。
透き通った薄水色のガラスがあの女性 の瞳に似ている――思わず即買いした。
珍しい素材だったので結構値が張ったが、これを身に着ける女性にはそれに相応しい価値がある。
早く逢いたい。
逢って、プレゼントを渡して、顔を綻ばせる彼女を力いっぱい抱きしめたい――
向かう足どりは自ずと速度を増していた。
***
利吉は目的地に着いた。
似たような家が並ぶ、長屋の一角――半助の家だ。
「こんにちは……って、ええ!!」
戸を開けて飛び込んできた光景に、利吉は目を白黒させる。
七、八人もの赤子が無造作に床に並んでいれば、驚くのも当然だろう。
「……」
一瞬呆気にとられたものの、この家ではよくあることなので、利吉はすぐに表情を正した。
(よくもまぁ、子守を一度にこれだけ引き受けるな。呆れを通り越して感心するよ。あいつは……)
そのあいつ――きり丸が赤子を背負いながら、奥の部屋から現れた。
「あ、利吉さんじゃないっすか。こんっちは!」
「こんにちは。相も変わらずだな、お前は。それより、空さんは?奥にいる?」
そう尋ねると、きり丸の顔がみるみる曇った。
「聞いてくださいよ、利吉さん。実は……」
きり丸から事情を聞き終えて、利吉は隣の家を訪ねていた。
そこにはきり丸たちのご近所さんこと、隣のおばちゃんが住んでいる。
「折角、利吉さんが来てくれたのに、悪いわねぇ。何のもてなしもできないで」
「そんなことは気にしないでください。それより、空さんと土井先生がこんなことになって、隣のおばちゃんも大変でしたね」
利吉は今いる居間の少し離れた場所で寝ている男女を見る。
半助と空。
二人は高熱で床に伏していた。
「そうなのよ。タチの悪い風邪が流行ってるみたいでねぇ。つい三日前も別のお隣さんが体調崩してたし……」
「隣のおばちゃんは大丈夫なのですか?」
「ええ、今のところはね。だから、看病を買ってでたのよ」
「そうですか」
フムと利吉は顎をおさえる。
話をさらに聞けば、なぜ今この状況下できり丸がバイトに精を出している理由にも納得ができた。
実は、きり丸が面倒見ている赤子の親たちも、空と同様風邪でダウン。
この時代、風邪をこじらせて死に至るケースは珍しくない。
特に乳幼児の死亡率は大人のそれよりも高いのだ。
絶対に我が子に風邪を移したくない――そんな親たっての願いで、きり丸は急遽バイトを引き受けていた。
「ねぇ、利吉さん。お願いがあるんだけど……」
「何だ、きり丸?」
「おれと一緒に子守のバイト手伝ってくれませんか?さすがのおれも、あの大人数はちょっと厳しいです。利吉さんがいてくれたら、おれ助かります!」
そう言って、ひしっと利吉の手を取り哀願する。
利吉はきり丸をじっと見た。
いつものきり丸なら軽い調子で押し付けてくるのに、今日はつぶらな瞳が揺れている。
「……」
切羽詰まった表情に、心が動きそうになる。
でも、自分はあくまでプロの忍者であり、子守のバイトの経験なんて一度もない。
どうしよう……
そんな迷える利吉の耳にかすかな声が届いた。
「……ね……ご……」
空だった。
熱にうなされながら、何かを発している。
「「空さん!」」
利吉ときり丸がともに反応する。
急いで近くに寄れば、その呟きがはっきりと聞こえた。
「ごめんね……きりちゃん……バイト、手伝えなくて……」
空の頬には一筋の涙がはしっている。
聞けば、空はバイトを始めようとした矢先に、体調不良を訴えたらしい。
きり丸と赤子の親たちの力になれない悔しさが伝わってくる。
「空さん……」
空が責任感の強い女性であることを、利吉は知っている。
愛している女性の力になりたい。
ここで立ち上がらなければ男がすたる――
空の涙は利吉の迷いをすべて吹き飛ばした。
「きり丸、ぜひ私にも手伝わせてくれ!」
利吉の力強い宣誓に、きり丸も隣のおばちゃんも目を大きくして喜んだ。
さらに、背負った赤子からは、ポタリポタリと液体が滴り落ちている。
鼻をつくようなアンモニア混じりの刺激臭で、どちらも小便をしたことは一目瞭然だった。
(おいおい。さっきおしめ替えたばっかりだぞ。ああ……)
山田利吉が白目でその場に崩れ落ちる。
数刻前、自分のこんな姿を一体誰が想像できたであろうか。
***
「~♪」
利吉は上機嫌で町の大通りを歩いていた。
すれ違う女たちの視線なんて何のその。
マイペースで歩く足は、しっかりとある場所だけを捉えている。
(さっきの小間物屋……中々いいものが売っていたな。立ち寄ってよかった)
利吉は懐から包みを取り出す。
中には、小さなガラス玉があしらわれた簪。
透き通った薄水色のガラスがあの
珍しい素材だったので結構値が張ったが、これを身に着ける女性にはそれに相応しい価値がある。
早く逢いたい。
逢って、プレゼントを渡して、顔を綻ばせる彼女を力いっぱい抱きしめたい――
向かう足どりは自ずと速度を増していた。
***
利吉は目的地に着いた。
似たような家が並ぶ、長屋の一角――半助の家だ。
「こんにちは……って、ええ!!」
戸を開けて飛び込んできた光景に、利吉は目を白黒させる。
七、八人もの赤子が無造作に床に並んでいれば、驚くのも当然だろう。
「……」
一瞬呆気にとられたものの、この家ではよくあることなので、利吉はすぐに表情を正した。
(よくもまぁ、子守を一度にこれだけ引き受けるな。呆れを通り越して感心するよ。あいつは……)
そのあいつ――きり丸が赤子を背負いながら、奥の部屋から現れた。
「あ、利吉さんじゃないっすか。こんっちは!」
「こんにちは。相も変わらずだな、お前は。それより、空さんは?奥にいる?」
そう尋ねると、きり丸の顔がみるみる曇った。
「聞いてくださいよ、利吉さん。実は……」
きり丸から事情を聞き終えて、利吉は隣の家を訪ねていた。
そこにはきり丸たちのご近所さんこと、隣のおばちゃんが住んでいる。
「折角、利吉さんが来てくれたのに、悪いわねぇ。何のもてなしもできないで」
「そんなことは気にしないでください。それより、空さんと土井先生がこんなことになって、隣のおばちゃんも大変でしたね」
利吉は今いる居間の少し離れた場所で寝ている男女を見る。
半助と空。
二人は高熱で床に伏していた。
「そうなのよ。タチの悪い風邪が流行ってるみたいでねぇ。つい三日前も別のお隣さんが体調崩してたし……」
「隣のおばちゃんは大丈夫なのですか?」
「ええ、今のところはね。だから、看病を買ってでたのよ」
「そうですか」
フムと利吉は顎をおさえる。
話をさらに聞けば、なぜ今この状況下できり丸がバイトに精を出している理由にも納得ができた。
実は、きり丸が面倒見ている赤子の親たちも、空と同様風邪でダウン。
この時代、風邪をこじらせて死に至るケースは珍しくない。
特に乳幼児の死亡率は大人のそれよりも高いのだ。
絶対に我が子に風邪を移したくない――そんな親たっての願いで、きり丸は急遽バイトを引き受けていた。
「ねぇ、利吉さん。お願いがあるんだけど……」
「何だ、きり丸?」
「おれと一緒に子守のバイト手伝ってくれませんか?さすがのおれも、あの大人数はちょっと厳しいです。利吉さんがいてくれたら、おれ助かります!」
そう言って、ひしっと利吉の手を取り哀願する。
利吉はきり丸をじっと見た。
いつものきり丸なら軽い調子で押し付けてくるのに、今日はつぶらな瞳が揺れている。
「……」
切羽詰まった表情に、心が動きそうになる。
でも、自分はあくまでプロの忍者であり、子守のバイトの経験なんて一度もない。
どうしよう……
そんな迷える利吉の耳にかすかな声が届いた。
「……ね……ご……」
空だった。
熱にうなされながら、何かを発している。
「「空さん!」」
利吉ときり丸がともに反応する。
急いで近くに寄れば、その呟きがはっきりと聞こえた。
「ごめんね……きりちゃん……バイト、手伝えなくて……」
空の頬には一筋の涙がはしっている。
聞けば、空はバイトを始めようとした矢先に、体調不良を訴えたらしい。
きり丸と赤子の親たちの力になれない悔しさが伝わってくる。
「空さん……」
空が責任感の強い女性であることを、利吉は知っている。
愛している女性の力になりたい。
ここで立ち上がらなければ男がすたる――
空の涙は利吉の迷いをすべて吹き飛ばした。
「きり丸、ぜひ私にも手伝わせてくれ!」
利吉の力強い宣誓に、きり丸も隣のおばちゃんも目を大きくして喜んだ。