恋人たちの和歌(ラブソング)
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朝焼けがにじむように東の空に広がり始める。
瞼に光が差して、空の意識が戻る。
(もうこんなに明るい……急いで部屋に戻って朝の支度しないと……あれっ!?)
完全に目が開ききって、ある事実に空は気づいた。
隣にはいるはずの半助はいない。
ここは逢瀬の場所の蔵ではなかった。
自分の部屋だ。
「……」
おそらく、何度起こしても目を覚まさない自分を半助が部屋まで運んでくれたのだろう。
(やってしまった……半助さんに迷惑かけちゃった……あとで謝らないと)
(そ、それにしても……昨日の半助さんは……すごかった……)
昨夜のことを思い出せば、灼熱のように身体が熱くなる。
昨日の半助の愛し方は明らかにいつもと違った。
従来の半助なら前戯にゆっくり時間をかける。
やさしい愛撫で焦らし、何度も相手を絶頂に導いてから、最後に自らの欲望を果たす、スローセックスが主だ。
だが、昨日は男性本位の性交だった。
身体が壊れるんじゃないかっていうくらい、序盤から怒涛の勢いで貫かれた。
情熱的に愛する様は野獣そのもの。
欲情に滾った眼、荒い息遣い、フェロモン漂う男の匂い、滴り落ちる汗、すべてが蘇ってくる。
「……」
さわやかな朝だというのに、何だかむらむらしてきた。
(わわ、いけないいけないっ……気持ちを切り替えないと!こんな気持ちでみんなのご飯作れない……!)
勢いよく起き上がって、ササッと身支度を整えた。
布団を片付けようとした矢先、枕元にある物に目が留まる。
三つ折りの紙――便箋だった。
「これって……」
空は甘い予感を感じながら、その紙を開く。
差出人はやはり半助だった。
空、
おはよう。身体は大丈夫ですか。
昨夜は無体を強いたことをお許しください。
しかし、和歌に乗せたあなたの想いを知ると、言い尽くせないほどの喜びが身体中を駆け巡り、自分自身を抑えることができませんでした。
本当に嬉しかった。
そして、あなたの想いに深く共感しました。
身も心も結ばれたあの日から、昨日より今日、今日より明日と、あなたへの想いは日々大きくなるばかりで、とどまるところを知りません。
だからでしょう。
あなたと肌を合わせる喜びを知ってから、私は自分でも参ってしまうぐらい、寂しがりやになりました。
温もりが恋しくて恋しくて、今朝も部屋から立ち去るとき、どれほど後ろ髪を引かれていたことか、想像もつかないことだと思います。
知っていますか。
平安の世では、男は女に逢った後、後朝 の歌を贈るのが通例でした。
私もそれに倣って、あなたにこの歌を贈りたいと思います。
明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき あさぼらけかな
最後に、私と逢えてよかった。好きになってよかった――そう言ってくれてありがとう。
私の方こそ、です。
あなたとめぐり逢えて、あなたの傍にいれて、心から幸せです。
これからもずっとお慕い申し上げます。
半助
読み終えて、胸が詰まった。
身体の中の熱いものが、瞼の裏までせり上ってくる。
「もう、ずるいですよ……半助さん……こんなの反則……」
空が洟 をすする。
昨夜の燃え盛った情事もあいまって、尚更半助の言葉が胸に響く。
「……」
身も心もひとつに繋がっている。
こんなに深く愛されて、自分は何て幸せ者なんだろう――
溢れんばかりの多幸感に身を浸しながら、視線は再び便箋の文字を追いかける。
やがて、和歌で止まった。
(明けぬれば……の歌知ってる。確か歌い手は藤原道信朝臣 。意味は……)
夜が明けてしまうと、また日が暮れて夜になり愛しい人に逢える。
そう頭では分かっているが、それでもなお夜明けの別れる時間が恨めしい――と男性が女性に送った、後朝 の歌だ。
(まるで、今の半助さんのような歌みたい……)
空は何度も読んで、嬉しさを噛みしめた。
できることなら、ここに残ってもうしばらくこの感動に浸りたい。
しかし、そろそろ食堂に行かなくてはいけない。
最後にもう一度だけ、と目を通していたときだった。
「あら?」
よく見ると、手紙にはまだ続きがあった。
端の方に小さく書かれていたので、見落としていた。
追伸
偶然にも、この和歌が一年は組にあたるとは誰が予想できたことでしょうか。
あの子たちがきちんと理解できるか、不安でなりません。
(そうだったんだ。一年は組がこの和歌を……!)
授業中の頭を抱える半助の様子がありありと想像できる。
ともすれば、溜息まで聞こえてきそうだ。
空は思わずクスリと笑った。
瞼に光が差して、空の意識が戻る。
(もうこんなに明るい……急いで部屋に戻って朝の支度しないと……あれっ!?)
完全に目が開ききって、ある事実に空は気づいた。
隣にはいるはずの半助はいない。
ここは逢瀬の場所の蔵ではなかった。
自分の部屋だ。
「……」
おそらく、何度起こしても目を覚まさない自分を半助が部屋まで運んでくれたのだろう。
(やってしまった……半助さんに迷惑かけちゃった……あとで謝らないと)
(そ、それにしても……昨日の半助さんは……すごかった……)
昨夜のことを思い出せば、灼熱のように身体が熱くなる。
昨日の半助の愛し方は明らかにいつもと違った。
従来の半助なら前戯にゆっくり時間をかける。
やさしい愛撫で焦らし、何度も相手を絶頂に導いてから、最後に自らの欲望を果たす、スローセックスが主だ。
だが、昨日は男性本位の性交だった。
身体が壊れるんじゃないかっていうくらい、序盤から怒涛の勢いで貫かれた。
情熱的に愛する様は野獣そのもの。
欲情に滾った眼、荒い息遣い、フェロモン漂う男の匂い、滴り落ちる汗、すべてが蘇ってくる。
「……」
さわやかな朝だというのに、何だかむらむらしてきた。
(わわ、いけないいけないっ……気持ちを切り替えないと!こんな気持ちでみんなのご飯作れない……!)
勢いよく起き上がって、ササッと身支度を整えた。
布団を片付けようとした矢先、枕元にある物に目が留まる。
三つ折りの紙――便箋だった。
「これって……」
空は甘い予感を感じながら、その紙を開く。
差出人はやはり半助だった。
空、
おはよう。身体は大丈夫ですか。
昨夜は無体を強いたことをお許しください。
しかし、和歌に乗せたあなたの想いを知ると、言い尽くせないほどの喜びが身体中を駆け巡り、自分自身を抑えることができませんでした。
本当に嬉しかった。
そして、あなたの想いに深く共感しました。
身も心も結ばれたあの日から、昨日より今日、今日より明日と、あなたへの想いは日々大きくなるばかりで、とどまるところを知りません。
だからでしょう。
あなたと肌を合わせる喜びを知ってから、私は自分でも参ってしまうぐらい、寂しがりやになりました。
温もりが恋しくて恋しくて、今朝も部屋から立ち去るとき、どれほど後ろ髪を引かれていたことか、想像もつかないことだと思います。
知っていますか。
平安の世では、男は女に逢った後、
私もそれに倣って、あなたにこの歌を贈りたいと思います。
明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき あさぼらけかな
最後に、私と逢えてよかった。好きになってよかった――そう言ってくれてありがとう。
私の方こそ、です。
あなたとめぐり逢えて、あなたの傍にいれて、心から幸せです。
これからもずっとお慕い申し上げます。
半助
読み終えて、胸が詰まった。
身体の中の熱いものが、瞼の裏までせり上ってくる。
「もう、ずるいですよ……半助さん……こんなの反則……」
空が
昨夜の燃え盛った情事もあいまって、尚更半助の言葉が胸に響く。
「……」
身も心もひとつに繋がっている。
こんなに深く愛されて、自分は何て幸せ者なんだろう――
溢れんばかりの多幸感に身を浸しながら、視線は再び便箋の文字を追いかける。
やがて、和歌で止まった。
(明けぬれば……の歌知ってる。確か歌い手は
夜が明けてしまうと、また日が暮れて夜になり愛しい人に逢える。
そう頭では分かっているが、それでもなお夜明けの別れる時間が恨めしい――と男性が女性に送った、
(まるで、今の半助さんのような歌みたい……)
空は何度も読んで、嬉しさを噛みしめた。
できることなら、ここに残ってもうしばらくこの感動に浸りたい。
しかし、そろそろ食堂に行かなくてはいけない。
最後にもう一度だけ、と目を通していたときだった。
「あら?」
よく見ると、手紙にはまだ続きがあった。
端の方に小さく書かれていたので、見落としていた。
追伸
偶然にも、この和歌が一年は組にあたるとは誰が予想できたことでしょうか。
あの子たちがきちんと理解できるか、不安でなりません。
(そうだったんだ。一年は組がこの和歌を……!)
授業中の頭を抱える半助の様子がありありと想像できる。
ともすれば、溜息まで聞こえてきそうだ。
空は思わずクスリと笑った。