恋人たちの和歌(ラブソング)
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その日の晩。
あたりは既に闇が深まっている。
忍術学園の長屋から離れた、数多ある蔵の一つで半助は空と逢っていた。
「そうか……空もくノ一たちを相手に大変だったんだな。まさか君のクラスも恋の和歌だったとは」
恋バナ大好きなくのたまたちから散々質問攻めにあったらしい。
こちらが無知による地獄を味わったのなら、空は正反対の地獄を味わったのか。
半助は笑った。
「半助さんこそ。和歌を教える前段階で苦労されてますね」
「あいつらに空さんと夜何してるんですかって聞かれたときは眩暈を覚えたよ。詳細なんて決して言えないし、かと言ってオブラートに包んで説明すれば、納得いかないような顔をするし」
「十歳の、しかも男の子に恋の和歌ってちょっと無理がありますよね」
「ほんと、まだ情景や人生観を詠んだ歌の方が楽だったな。一刻も早くこの強化週間が早く終わってほしいよ。ああ、疲れた……こんな日は空の温もりが身に沁みるなぁ」
そう言って、腕の力を強くする。
後ろから空を抱きしめるようにして座っていた。
「もう半助さんったら」
空が振り向きざまに頭を撫でてくれる。
目を合わせると、どちらからともなく唇を重ねた。
空の甘い味がする。
「そういえば……空のいるくノ一教室に出された課題の和歌は何だったんだ?」
そう尋ねると、空は捻った顔を慌てて前に戻した。
「ん?私なんか変なことでも聞いたか?」
「いや、違うんです。半助さんの顔を見ながら、その歌を口に出すのが……その……ちょっと恥ずかしくて」
「え?」
「だって、愛の告白みたいじゃないですか……」
目の前にある白いうなじがほんのり紅く色づいている。
恥じらっている様子が可愛い。
そっとうなじに口つけた。
「愛の告白なんて言われるとますます気になるな。空、ねぇ、教えてよ」
耳元で甘えるように囁く。
チラリと横顔を窺えば、目は潤いを増し、頬は朱に染まっている。
色っぽい表情に胸が高鳴る。
しかし、あまり追い詰めては言いづらくなると、それ以上は何もせず、ただ静かに待つ。
すると、静まり返った室内に澄んだ声が木霊した。
逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり
聞いた瞬間、半助が眼を瞠った。
「あひみての……権中納言敦忠 か」
「わわわっ、半助さん、やっぱりご存じでしたか、恥ずかしい……兵法書ばっかり読み漁ってたわけじゃないんですね」
「失礼な。兵法以外の本も人並み程度にはかじってるぞ……この歌はまさに恋心を表現した歌だな」
「はい。私は知らなかったので、シナ先生にご説明していただきました」
「逢ひ見ての」というのは、男女が情を交わした後という意味だ。
身体を重ねたあとは、想いが深まって苦しい。
その前のただの恋焦がれていた気持ちなんて、まるで無いに等しい――と恋の苦しさをうたった歌だ。
「この歌の意味を聞いたとき……私本当にびっくりしたんです。こんなに自分の気持ちをぴったりと言い当てた歌があるなんて……」
再び沈黙が訪れる。
照れまじりながら、空はなおも言葉を絞りだした。
「もちろん、こうやって恋人同士になる前も半助さんのこと好きだったけど……でも、なってからは違うの。好きって気持ちが日々募って苦しくて、昔の憧れに近い想いなんて、ほんとちっぽけだったな、て」
「……」
「それに……知らなかった。大好きな人と身体を重ねることが、どんなに素晴らしくて心地よくて、幸せなことなんだろう……て」
「……」
「私、この世界に来れてよかった。半助さんに逢えてよかった。半助さんを好きになってよかった。今……とても幸せです」
身体の芯から震えた。
本当に身体中に電気がはしったか思えるくらい、衝撃を受けている。
あの恥じらい深い空が耳から首筋まで真っ赤にしながら、愛の告白をしてくれたのだ。
この喜びをどう表現したらよいのだろう。
「やっぱり口にしちゃったら……思った以上に恥ずかしいですね……」
「……」
「黙られたら恥ずかしいじゃないですか。もう、何か言ってくださいよ……」
「……」
「半助さん?……んンっ!」
空が目を白黒させる。
振り向いた拍子に、体が勝手に動いて唇を塞いでいた。
後頭部をしっかり抑え込んで、お構いなしに舌を入れる。
くなくなと蛇のように舌を絡みつけては、出し入れを繰り返す。
身体による結合――その前哨戦であるかのように。
「ぅんんっ……んんっ……」
互いの舌が火傷するように熱い。
濃厚な口付けを施しながら、身体を倒し、空を真下に組み敷く。
「半助さん……」
息を弾ませながら、空が呟く。
眼の下をねっとりと紅く染めた女の表情というのは、本当に劣情を誘う。
「空。先に謝っておく」
「え……?」
「今日はやさしくできそうにない」
あたりは既に闇が深まっている。
忍術学園の長屋から離れた、数多ある蔵の一つで半助は空と逢っていた。
「そうか……空もくノ一たちを相手に大変だったんだな。まさか君のクラスも恋の和歌だったとは」
恋バナ大好きなくのたまたちから散々質問攻めにあったらしい。
こちらが無知による地獄を味わったのなら、空は正反対の地獄を味わったのか。
半助は笑った。
「半助さんこそ。和歌を教える前段階で苦労されてますね」
「あいつらに空さんと夜何してるんですかって聞かれたときは眩暈を覚えたよ。詳細なんて決して言えないし、かと言ってオブラートに包んで説明すれば、納得いかないような顔をするし」
「十歳の、しかも男の子に恋の和歌ってちょっと無理がありますよね」
「ほんと、まだ情景や人生観を詠んだ歌の方が楽だったな。一刻も早くこの強化週間が早く終わってほしいよ。ああ、疲れた……こんな日は空の温もりが身に沁みるなぁ」
そう言って、腕の力を強くする。
後ろから空を抱きしめるようにして座っていた。
「もう半助さんったら」
空が振り向きざまに頭を撫でてくれる。
目を合わせると、どちらからともなく唇を重ねた。
空の甘い味がする。
「そういえば……空のいるくノ一教室に出された課題の和歌は何だったんだ?」
そう尋ねると、空は捻った顔を慌てて前に戻した。
「ん?私なんか変なことでも聞いたか?」
「いや、違うんです。半助さんの顔を見ながら、その歌を口に出すのが……その……ちょっと恥ずかしくて」
「え?」
「だって、愛の告白みたいじゃないですか……」
目の前にある白いうなじがほんのり紅く色づいている。
恥じらっている様子が可愛い。
そっとうなじに口つけた。
「愛の告白なんて言われるとますます気になるな。空、ねぇ、教えてよ」
耳元で甘えるように囁く。
チラリと横顔を窺えば、目は潤いを増し、頬は朱に染まっている。
色っぽい表情に胸が高鳴る。
しかし、あまり追い詰めては言いづらくなると、それ以上は何もせず、ただ静かに待つ。
すると、静まり返った室内に澄んだ声が木霊した。
逢ひ見ての のちの心に くらぶれば 昔はものを 思はざりけり
聞いた瞬間、半助が眼を瞠った。
「あひみての……
「わわわっ、半助さん、やっぱりご存じでしたか、恥ずかしい……兵法書ばっかり読み漁ってたわけじゃないんですね」
「失礼な。兵法以外の本も人並み程度にはかじってるぞ……この歌はまさに恋心を表現した歌だな」
「はい。私は知らなかったので、シナ先生にご説明していただきました」
「逢ひ見ての」というのは、男女が情を交わした後という意味だ。
身体を重ねたあとは、想いが深まって苦しい。
その前のただの恋焦がれていた気持ちなんて、まるで無いに等しい――と恋の苦しさをうたった歌だ。
「この歌の意味を聞いたとき……私本当にびっくりしたんです。こんなに自分の気持ちをぴったりと言い当てた歌があるなんて……」
再び沈黙が訪れる。
照れまじりながら、空はなおも言葉を絞りだした。
「もちろん、こうやって恋人同士になる前も半助さんのこと好きだったけど……でも、なってからは違うの。好きって気持ちが日々募って苦しくて、昔の憧れに近い想いなんて、ほんとちっぽけだったな、て」
「……」
「それに……知らなかった。大好きな人と身体を重ねることが、どんなに素晴らしくて心地よくて、幸せなことなんだろう……て」
「……」
「私、この世界に来れてよかった。半助さんに逢えてよかった。半助さんを好きになってよかった。今……とても幸せです」
身体の芯から震えた。
本当に身体中に電気がはしったか思えるくらい、衝撃を受けている。
あの恥じらい深い空が耳から首筋まで真っ赤にしながら、愛の告白をしてくれたのだ。
この喜びをどう表現したらよいのだろう。
「やっぱり口にしちゃったら……思った以上に恥ずかしいですね……」
「……」
「黙られたら恥ずかしいじゃないですか。もう、何か言ってくださいよ……」
「……」
「半助さん?……んンっ!」
空が目を白黒させる。
振り向いた拍子に、体が勝手に動いて唇を塞いでいた。
後頭部をしっかり抑え込んで、お構いなしに舌を入れる。
くなくなと蛇のように舌を絡みつけては、出し入れを繰り返す。
身体による結合――その前哨戦であるかのように。
「ぅんんっ……んんっ……」
互いの舌が火傷するように熱い。
濃厚な口付けを施しながら、身体を倒し、空を真下に組み敷く。
「半助さん……」
息を弾ませながら、空が呟く。
眼の下をねっとりと紅く染めた女の表情というのは、本当に劣情を誘う。
「空。先に謝っておく」
「え……?」
「今日はやさしくできそうにない」