恋人たちの和歌(ラブソング)
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「学園長先生も、たまには面白い思いつきしてくれるじゃない!」
「こんなのって、もう私たちの十八番ともいうべき分野よね」
「あ~ん、おじいちゃま、最高でしゅ♡」
「そ、そうだね……あはは……」
満面の笑みでいうユキ・トモミ・おシゲに、舞野空は乾いた笑みを浮かべることしかできなかった。
ここはくノ一教室。
食堂補助兼事務員の空も、今日から一週間くのいち教室にお世話になる。
学園長の思いつきの対象は生徒だけではなかった。
事務員の空と小松田に目をつけた学園長は、強化週間の初日に事務室を訪れ、命じた。
「お前さんたちはまだ若い。ぜひ、この一週間は事務員であることを忘れて、忍たまたちとともに参加し、此度の課題とじっくりと向き合ってほしい。なぁに、クラスはワシの方で適当にふりわけておくから。では、さらなる飛躍を望んでおるぞ。ふぉっふぉっふぉ」
(って、唐突に言われてもねぇ……そりゃ、学ぶのは嫌いじゃないけど、百人一首か……)
百人一首はもちろん知っている。
しかし、知っているのは学校の授業で取り上げられた有名な歌くらいで、それ以外はさっぱりわからない。
くのたまたちは全員キャッキャしていて、圧倒的な熱量差を感じる。
聞けば、おしゃまなくのたまたちは小さい頃から詩や和歌に触れて育ってきたらしい。
(あ~あ、私も小松田さんと同じ、二年い組に振り分けられとけば、まだ気が楽だったかも……)
部屋の隅で縮こまっているところに、それは来た。
「はーい!みんな、席について。授業を始めるわよ」
凛とした声に引き締まった美貌。
騒がしいくのたまたちのまとめ役、担任の山本シナが入室してきた。
そのシナといきなり目が合った。
「って空さん?そんなところに座っていないで、もっと中央へおいでなさい。ほら、こっちこっち」
シナに呼ばれては仕方がない。
空は言われた通りにする。
よりにもよって、一番目立つ場所、最前列のど真ん中へと誘導された。
「今日は空さんも参加するし、いつにも増して楽しい授業になりそうね。さて、あなたたちも知っての通り、今日から一週間百人一首について勉強したいと思います。まぁ、もう馴染みがあるわよね?」
空以外、皆コクリと頷く。
スタート時点で出遅れている分、焦りが募る。
そんな自分の心を見透かしたかのように、シナが言った。
「空さん、安心してね。ちゃんと空さんにもわかるように説明するから。でも、空さんは基本的な和歌のルールは知っているのよね」
「はい」
「それなら大丈夫。では、始めるわよ。学園長からくノ一教室に出された和歌は……これよ!」
シナが巻物の紐を解く。
すべてを開ききると、空だけがハテナ顔になる中、他のくノ一たちは目を爛々と輝かせた。
「うわぁ……これって、」
「いいじゃん!いいじゃん!」
「や~ん、私この歌好き!」
そのテンションからもこの和歌が女子の間で人気が高いことが窺える。
コホンと咳ばらいをして、シナが歌を詠み始めた。
今までも小説を読んだり映画を見たりして、心に刻まれるほど印象に残った物語は多々あった。
だが、百人一首のような古典文学でこれほど深く感銘を受けるのは空にとって初めてのことだった。
(こんな歌が百人一首にあったなんて……!)
(でも、これって……)
まるで自分の心を鏡に映し出されたような和歌だった。
シナの口から紡ぎ出される解説を聞くたびに、空はそうそうと頷きを抑えられない。
しかし、空はハタと気づいた。
横にいるユキが何か悪いことを企んでいるような顔で自分を見ていることに。
「シナ先生!私から一つ提案があります!」
「なぁに?ユキちゃん」
一間置くと、ユキはまるで崇高な使命でも課せられたかのような、真剣な表情で言った。
「この強化週間の最後、私たちはレポートを提出しなければいけません。せっかくだから、より良いものに仕上げたいと思っているんですが、私、いや、私だけでなくみんなにも足りないものがあるんです!」
「というと……?」
「ズバリ経験です。この和歌をより深く理解するには、圧倒的に経験が足りないんです。だって、私たちはまだ十一の子どもですから」
「確かに、そうねぇ」
「そこでです!私たち、ぜひ経験豊富な大人の方から実体験に基づくお話を聞いてみたいと思っています!」
「そうよねぇ……この歌は恋の歌だし、おまけに『事後』のことだもんね」
シナはユキの狙いがわかったらしい。
なぜか空に微笑みかけてきた。
妖しさの混じった美しい微笑。
いつもなら見惚れる空でも、このときばかりは嫌な予感しかしなかった。
「奇遇なことに、今日はくノ一教室に空さんが来てくれています。皆も知っての通り、彼女は今、土井先生と交際中よね。まさにこの和歌のような境遇。ぜひ彼女に色々質問して、よりよきレポートを書くために新たな知見を得ましょう!」
そう言い終えたシナに後ろから両肩をポンと叩かれた。
「え?え?え?何言ってるですか、シナ先生。同じ大人なら、私なんかよりシナ先生の方が経験豊富じゃないですか!」
「空さん、残念ながら私はいまフリーなの。だから、現在進行形の恋について教えるのには力不足だわ」
「そ、そんなぁ……!」
いつの間にか、くのたまたちに周りを囲まれている。
その目つきは、まるで飢えた肉食獣が極上の獲物を見るように滾っている。
耳年間なことが、悪い方向へと働いていた。
「さぁ、空さん。というわけで、今日という今日は、」
「これまでの女子会で語られなかった秘密の部分を全て語ってもらいますよ!」
「レポートを書くためにも、ひいては私たちが大人の階段を上るためにも、絶対絶対必要何でしゅから!」
「空さん。私や食堂のおばちゃんにもまだ語ってないことあるでしょ。今日から一週間、あ~んなことやこ~んなこと、みっちり聞かせてもらうから……ウフフ、楽しみ!」
「絶対、お断りします!勘弁してくださぁぁぁいっ!!!」
くノ一教室に、空の叫声が響き渡った。
「こんなのって、もう私たちの十八番ともいうべき分野よね」
「あ~ん、おじいちゃま、最高でしゅ♡」
「そ、そうだね……あはは……」
満面の笑みでいうユキ・トモミ・おシゲに、舞野空は乾いた笑みを浮かべることしかできなかった。
ここはくノ一教室。
食堂補助兼事務員の空も、今日から一週間くのいち教室にお世話になる。
学園長の思いつきの対象は生徒だけではなかった。
事務員の空と小松田に目をつけた学園長は、強化週間の初日に事務室を訪れ、命じた。
「お前さんたちはまだ若い。ぜひ、この一週間は事務員であることを忘れて、忍たまたちとともに参加し、此度の課題とじっくりと向き合ってほしい。なぁに、クラスはワシの方で適当にふりわけておくから。では、さらなる飛躍を望んでおるぞ。ふぉっふぉっふぉ」
(って、唐突に言われてもねぇ……そりゃ、学ぶのは嫌いじゃないけど、百人一首か……)
百人一首はもちろん知っている。
しかし、知っているのは学校の授業で取り上げられた有名な歌くらいで、それ以外はさっぱりわからない。
くのたまたちは全員キャッキャしていて、圧倒的な熱量差を感じる。
聞けば、おしゃまなくのたまたちは小さい頃から詩や和歌に触れて育ってきたらしい。
(あ~あ、私も小松田さんと同じ、二年い組に振り分けられとけば、まだ気が楽だったかも……)
部屋の隅で縮こまっているところに、それは来た。
「はーい!みんな、席について。授業を始めるわよ」
凛とした声に引き締まった美貌。
騒がしいくのたまたちのまとめ役、担任の山本シナが入室してきた。
そのシナといきなり目が合った。
「って空さん?そんなところに座っていないで、もっと中央へおいでなさい。ほら、こっちこっち」
シナに呼ばれては仕方がない。
空は言われた通りにする。
よりにもよって、一番目立つ場所、最前列のど真ん中へと誘導された。
「今日は空さんも参加するし、いつにも増して楽しい授業になりそうね。さて、あなたたちも知っての通り、今日から一週間百人一首について勉強したいと思います。まぁ、もう馴染みがあるわよね?」
空以外、皆コクリと頷く。
スタート時点で出遅れている分、焦りが募る。
そんな自分の心を見透かしたかのように、シナが言った。
「空さん、安心してね。ちゃんと空さんにもわかるように説明するから。でも、空さんは基本的な和歌のルールは知っているのよね」
「はい」
「それなら大丈夫。では、始めるわよ。学園長からくノ一教室に出された和歌は……これよ!」
シナが巻物の紐を解く。
すべてを開ききると、空だけがハテナ顔になる中、他のくノ一たちは目を爛々と輝かせた。
「うわぁ……これって、」
「いいじゃん!いいじゃん!」
「や~ん、私この歌好き!」
そのテンションからもこの和歌が女子の間で人気が高いことが窺える。
コホンと咳ばらいをして、シナが歌を詠み始めた。
今までも小説を読んだり映画を見たりして、心に刻まれるほど印象に残った物語は多々あった。
だが、百人一首のような古典文学でこれほど深く感銘を受けるのは空にとって初めてのことだった。
(こんな歌が百人一首にあったなんて……!)
(でも、これって……)
まるで自分の心を鏡に映し出されたような和歌だった。
シナの口から紡ぎ出される解説を聞くたびに、空はそうそうと頷きを抑えられない。
しかし、空はハタと気づいた。
横にいるユキが何か悪いことを企んでいるような顔で自分を見ていることに。
「シナ先生!私から一つ提案があります!」
「なぁに?ユキちゃん」
一間置くと、ユキはまるで崇高な使命でも課せられたかのような、真剣な表情で言った。
「この強化週間の最後、私たちはレポートを提出しなければいけません。せっかくだから、より良いものに仕上げたいと思っているんですが、私、いや、私だけでなくみんなにも足りないものがあるんです!」
「というと……?」
「ズバリ経験です。この和歌をより深く理解するには、圧倒的に経験が足りないんです。だって、私たちはまだ十一の子どもですから」
「確かに、そうねぇ」
「そこでです!私たち、ぜひ経験豊富な大人の方から実体験に基づくお話を聞いてみたいと思っています!」
「そうよねぇ……この歌は恋の歌だし、おまけに『事後』のことだもんね」
シナはユキの狙いがわかったらしい。
なぜか空に微笑みかけてきた。
妖しさの混じった美しい微笑。
いつもなら見惚れる空でも、このときばかりは嫌な予感しかしなかった。
「奇遇なことに、今日はくノ一教室に空さんが来てくれています。皆も知っての通り、彼女は今、土井先生と交際中よね。まさにこの和歌のような境遇。ぜひ彼女に色々質問して、よりよきレポートを書くために新たな知見を得ましょう!」
そう言い終えたシナに後ろから両肩をポンと叩かれた。
「え?え?え?何言ってるですか、シナ先生。同じ大人なら、私なんかよりシナ先生の方が経験豊富じゃないですか!」
「空さん、残念ながら私はいまフリーなの。だから、現在進行形の恋について教えるのには力不足だわ」
「そ、そんなぁ……!」
いつの間にか、くのたまたちに周りを囲まれている。
その目つきは、まるで飢えた肉食獣が極上の獲物を見るように滾っている。
耳年間なことが、悪い方向へと働いていた。
「さぁ、空さん。というわけで、今日という今日は、」
「これまでの女子会で語られなかった秘密の部分を全て語ってもらいますよ!」
「レポートを書くためにも、ひいては私たちが大人の階段を上るためにも、絶対絶対必要何でしゅから!」
「空さん。私や食堂のおばちゃんにもまだ語ってないことあるでしょ。今日から一週間、あ~んなことやこ~んなこと、みっちり聞かせてもらうから……ウフフ、楽しみ!」
「絶対、お断りします!勘弁してくださぁぁぁいっ!!!」
くノ一教室に、空の叫声が響き渡った。