しつこいアイツ
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忍術学園が休暇中の出来事。
ここは町の大通り。
空、半助、きり丸が横一列で歩いている。
目指すのは、しんべヱが暮らす町――大都会の堺だ。
「今日は晴れてお出かけ日和ですね。ん~空気が美味しい……私、久々の境の港楽しみ!」
「おれもおれも!カステイラさん、元気にしてるかなぁ」
「あとで乱太郎・山田先生・利吉君とも合流するから、夜はさぞ賑やかになるだろうな」
先月、しんべヱの父から文をもらった。
一か月後の今日、ポルトガルからカステイラが来日するから、酒宴を催すという。
空たち一行は招待を受けていた。
「ああ、南蛮由来の品が見れるの、ほんっとうに楽しみ。こっちでは買えない、可愛い服や小物……ワクワクしちゃう!」
「とかなんとか言っちゃって。空さんは色気より食い気だから、本当のところはしんべヱの家で振舞われるご馳走がお目当てなんでしょ」
「お。きり丸、よくわかってるじゃないか」
「もう二人とも!」
空が眼を吊り上げてはきり丸と半助があははは……と笑う。
平穏な光景。
このまま道中何も起こらないだろうと思っていた、そのときだった。
(あ……)
空が前方に何かを見つける。
ある男が道の端に座っている。
顔は菅笠を被っているからよく見えないが、歳は少年と呼べるくらいだろう。
身なりはみすぼらしく、服は所々汚れている。
男の膝元には金銭を投げてもらうための古びた茶碗が一つ。
いわゆる物乞いという行為をやっている。
この時代、物乞いなんて珍しくないが、実際にそういう人をみるのは空にとって初めてのことだった。
「……」
不思議だった。
前の世界――現代でホームレスを見たときは何となく申し訳ない気持ちになって、ただ通り過ぎていただけなのに。
今、空の胸の内に湧き上がっているのは男に対して何かしてあげたいという奉仕の気持ちだ。
飢えを凌いで命を繋ぐ――それはセーフティネットのないこの時代では何倍にも難しい。
この世界で暮らし始めて様々なことを経験し、「生」への執着がより強くなったからこその心境の変化だろう。
もう一度あたりを見た。
行楽シーズンで行き交う人の数は多い。
だが、だれもその物乞いの男なんて路傍の石。
見向きもしない。
(やらない善より、やる偽善よね……うん!)
「あの、」
「ん?」
「どうしたんっすか?」
「私、ちょっとあちらの方にこれを渡してきます」
そう言って、空が荷物の中から取り出したのは、昼食用の弁当だった。
半助ときり丸は一瞬目を見開くが、すぐに彼女の意図を組んだ。
「うん。行っておいで。お昼は私の弁当を分けて食べよう」
「しゃーないなぁ。そういうことなら、おれもそうするよ」
空は物乞いの方へと歩き出した。
半助ときり丸は見合っては肩を竦めた。
困っている人に手を差し伸べようとする空の優しさに、ほっこりと心温まったのだ。
いかにも彼女らしい――
黙って見守っていた二人だったが、あることに気が付くと、急に半助の顔が険しくなった。
「あいつ……もしかして!」
半助が空を追いかける。
がしっと空の腕を掴んで言った。
「待て、空!そいつに近づくんじゃない!」
「えっ?ど、どうしたんですか、半助さん?」
「空、気づかないのか?あの男をよ~く観察してみろ!」
そう言われて、空は物乞いの男をじっと見た。
よく見ると、男の膝元には銭入れ用の茶碗以外にもう一つ物が置いてあった。
刀だ。
さらに、物乞いには似つかわしくない、やけに肉のついた体躯――
「あ!」
空も気づいたようだ。
半助の言うことに納得したらしい。
数秒の沈黙が降りた後、半助に背中を支えられ、回れ右した、そのときだ。
「おいおいおいっ!この俺を無視しないでくれぇぇ!!」
物乞いの男が慌てて立ち上がる。
男はハンプティ・ダンプティのようにずんぐりむっくりで足は短い。
さらに緊張感なんて全く感じさせない顔。
男は滑り込むようにして空たちの前に立ちはだかった。
「よーう、空!それに土井半助にきり丸も。久しぶりだな?元気にしてたか?」
男が親しげに話しかける。
だが、
「さ、先を急ごう」
「は、はい」
「空さん、絶対目を合わせないようにしてくださいね」
とあっけなく横を通過され、三人に無視された。
男がその場でひっくり返った。
「ひ、ひどいじゃないか!久々の登場だってのによぉう~~~っ!」
ガバッと起き上がると、男は先回りして、再び空たちの前で仁王立ちをした。
めげない性格。
そのめげない性格の男が菅笠を脱ぎ捨て、高らかに叫んだ。
「フッ……我こそは忍術学園剣術師範、戸部新左エ門の最大にして最強のライバル!ゆくゆくはこの日 の本 を代表する美少年大剣豪こと……アッ、は・な・ぶ・さぁ~、ま・き・の・す・けぇぇぇい!」
そう言って、歌舞伎役者のように首を回し、ポーズを決めた。
だが、渾身の演出もむなしく、
「お昼はどこで食べようか?」
「確かこの先に見晴らしのいい丘があったような、」
「おっ、いいねいいね。そこにしましょ。空さんに、賛成!」
と三人に無関心を貫かれた。
再び牧之介は地面とごっつんこした。
「もう、お三方ともつれないんだからぁ~。よーし、こうなったら、」
やっぱりめげない(しつこいともいう)牧之介はもう一度立ち上がる。
今度は狙いを空に定めた。
ガバッ!
「きゃあ!」
いきなり牧之介に抱き着かれて、空が悲鳴を上げる。
必死に牧之介を振りほどこうとするが、四肢をがっちりと固め込まれて反抗にもならない。
「おい、牧之介!空から離れろ!」
半助が二人を引き剥がそうと牧之介に突進しようとしたときだった。
「おおっと、それ以上近づくな!さもないと……こいつに「ちゅう」しちゃうぞ~~~!ニッヒヒッ」
そう言って、牧之介がタコのように口を尖らせた。
「やだっ、やだっ、そんなの絶対にいやぁっ!半助さん、きりちゃん、助けてぇぇぇ!!!」
空が髪をざんばらに振り乱して絶叫する。
「くそっ……空を人質にとられては手も足も出せないっ!」
「ひでえ……牧之介のやつ、なんて卑怯なんだっ!」
「クックック。さぁ、空を返してほしければ、お前たちの弁当を寄越すんだな!」
結局、牧之介の要求を飲むことになり、半助ときり丸は全員分の弁当を差し出すことを余儀なくされた。
ここは町の大通り。
空、半助、きり丸が横一列で歩いている。
目指すのは、しんべヱが暮らす町――大都会の堺だ。
「今日は晴れてお出かけ日和ですね。ん~空気が美味しい……私、久々の境の港楽しみ!」
「おれもおれも!カステイラさん、元気にしてるかなぁ」
「あとで乱太郎・山田先生・利吉君とも合流するから、夜はさぞ賑やかになるだろうな」
先月、しんべヱの父から文をもらった。
一か月後の今日、ポルトガルからカステイラが来日するから、酒宴を催すという。
空たち一行は招待を受けていた。
「ああ、南蛮由来の品が見れるの、ほんっとうに楽しみ。こっちでは買えない、可愛い服や小物……ワクワクしちゃう!」
「とかなんとか言っちゃって。空さんは色気より食い気だから、本当のところはしんべヱの家で振舞われるご馳走がお目当てなんでしょ」
「お。きり丸、よくわかってるじゃないか」
「もう二人とも!」
空が眼を吊り上げてはきり丸と半助があははは……と笑う。
平穏な光景。
このまま道中何も起こらないだろうと思っていた、そのときだった。
(あ……)
空が前方に何かを見つける。
ある男が道の端に座っている。
顔は菅笠を被っているからよく見えないが、歳は少年と呼べるくらいだろう。
身なりはみすぼらしく、服は所々汚れている。
男の膝元には金銭を投げてもらうための古びた茶碗が一つ。
いわゆる物乞いという行為をやっている。
この時代、物乞いなんて珍しくないが、実際にそういう人をみるのは空にとって初めてのことだった。
「……」
不思議だった。
前の世界――現代でホームレスを見たときは何となく申し訳ない気持ちになって、ただ通り過ぎていただけなのに。
今、空の胸の内に湧き上がっているのは男に対して何かしてあげたいという奉仕の気持ちだ。
飢えを凌いで命を繋ぐ――それはセーフティネットのないこの時代では何倍にも難しい。
この世界で暮らし始めて様々なことを経験し、「生」への執着がより強くなったからこその心境の変化だろう。
もう一度あたりを見た。
行楽シーズンで行き交う人の数は多い。
だが、だれもその物乞いの男なんて路傍の石。
見向きもしない。
(やらない善より、やる偽善よね……うん!)
「あの、」
「ん?」
「どうしたんっすか?」
「私、ちょっとあちらの方にこれを渡してきます」
そう言って、空が荷物の中から取り出したのは、昼食用の弁当だった。
半助ときり丸は一瞬目を見開くが、すぐに彼女の意図を組んだ。
「うん。行っておいで。お昼は私の弁当を分けて食べよう」
「しゃーないなぁ。そういうことなら、おれもそうするよ」
空は物乞いの方へと歩き出した。
半助ときり丸は見合っては肩を竦めた。
困っている人に手を差し伸べようとする空の優しさに、ほっこりと心温まったのだ。
いかにも彼女らしい――
黙って見守っていた二人だったが、あることに気が付くと、急に半助の顔が険しくなった。
「あいつ……もしかして!」
半助が空を追いかける。
がしっと空の腕を掴んで言った。
「待て、空!そいつに近づくんじゃない!」
「えっ?ど、どうしたんですか、半助さん?」
「空、気づかないのか?あの男をよ~く観察してみろ!」
そう言われて、空は物乞いの男をじっと見た。
よく見ると、男の膝元には銭入れ用の茶碗以外にもう一つ物が置いてあった。
刀だ。
さらに、物乞いには似つかわしくない、やけに肉のついた体躯――
「あ!」
空も気づいたようだ。
半助の言うことに納得したらしい。
数秒の沈黙が降りた後、半助に背中を支えられ、回れ右した、そのときだ。
「おいおいおいっ!この俺を無視しないでくれぇぇ!!」
物乞いの男が慌てて立ち上がる。
男はハンプティ・ダンプティのようにずんぐりむっくりで足は短い。
さらに緊張感なんて全く感じさせない顔。
男は滑り込むようにして空たちの前に立ちはだかった。
「よーう、空!それに土井半助にきり丸も。久しぶりだな?元気にしてたか?」
男が親しげに話しかける。
だが、
「さ、先を急ごう」
「は、はい」
「空さん、絶対目を合わせないようにしてくださいね」
とあっけなく横を通過され、三人に無視された。
男がその場でひっくり返った。
「ひ、ひどいじゃないか!久々の登場だってのによぉう~~~っ!」
ガバッと起き上がると、男は先回りして、再び空たちの前で仁王立ちをした。
めげない性格。
そのめげない性格の男が菅笠を脱ぎ捨て、高らかに叫んだ。
「フッ……我こそは忍術学園剣術師範、戸部新左エ門の最大にして最強のライバル!ゆくゆくはこの
そう言って、歌舞伎役者のように首を回し、ポーズを決めた。
だが、渾身の演出もむなしく、
「お昼はどこで食べようか?」
「確かこの先に見晴らしのいい丘があったような、」
「おっ、いいねいいね。そこにしましょ。空さんに、賛成!」
と三人に無関心を貫かれた。
再び牧之介は地面とごっつんこした。
「もう、お三方ともつれないんだからぁ~。よーし、こうなったら、」
やっぱりめげない(しつこいともいう)牧之介はもう一度立ち上がる。
今度は狙いを空に定めた。
ガバッ!
「きゃあ!」
いきなり牧之介に抱き着かれて、空が悲鳴を上げる。
必死に牧之介を振りほどこうとするが、四肢をがっちりと固め込まれて反抗にもならない。
「おい、牧之介!空から離れろ!」
半助が二人を引き剥がそうと牧之介に突進しようとしたときだった。
「おおっと、それ以上近づくな!さもないと……こいつに「ちゅう」しちゃうぞ~~~!ニッヒヒッ」
そう言って、牧之介がタコのように口を尖らせた。
「やだっ、やだっ、そんなの絶対にいやぁっ!半助さん、きりちゃん、助けてぇぇぇ!!!」
空が髪をざんばらに振り乱して絶叫する。
「くそっ……空を人質にとられては手も足も出せないっ!」
「ひでえ……牧之介のやつ、なんて卑怯なんだっ!」
「クックック。さぁ、空を返してほしければ、お前たちの弁当を寄越すんだな!」
結局、牧之介の要求を飲むことになり、半助ときり丸は全員分の弁当を差し出すことを余儀なくされた。