きりちゃんの、もうかりまっか?
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「これって、土井先生の女装姿……つまりは半子さんだよね?」
「こっちには利吉さんの女装姿、利子さんが映ってるよ~」
きり丸が落とした紙――それは半助と利吉の女装を映したブロマイドだった。
察しのいい半助と利吉にはそれが何を物語っているのか瞬時に理解した。
「そういうことか。きり丸……お前、私や利吉君の、女装姿のブロマイドを作って町で売り捌いていたんだな!」
「うわっ、しかも、これ……ブロマイド一枚70文(3500円)って……酒一升とほぼ同じじゃないか!」
きり丸の商売道具にされて、半助と利吉の怒りは頂点に達している。
般若の形相できり丸を睨みつける。
だが、きり丸はとっくに開き直っていた。
「ははは、バレちゃあ、しょうがねぇ。いやぁ、実は半子さんと利子さんのブロマイドを軽い気持ちで町の男たちに見せたら、皆目の色変えるんですもん。ぜひ売ってくれって。これがまた結構高値で売れるんですよ、ニヒヒヒヒ!」
「「き~り~ま~る~!よくも勝手なことをしてくれたな!!」」
「寝顔バージョンのブロマイドなんて一瞬で完売しちゃいました。ああ、おれこんな女装のお美しい二人と知り合いで、鼻高々だなぁ」
「「な~にが鼻高々だ!いい加減にしろっ!」」
ドカッ、バキッ、グシャッ!!
「あがががが……」
数十秒後、正義の鉄槌をくらい見る影もなくなったきり丸の姿がそこにはあった。
「全く……お前というやつは本っ当に油断も隙もならないな!」
「うぅっ…これでしばらく女装姿で偵察はできない。とんだ営業妨害だ!」
半助は呆れ、利吉は顔をおさえて嘆くほどだ。
そんな中、しげしげと売上集計表を眺めていた空が呟いた。
「この売上集計表の「半」と「利」が半子さんと利子さんということなら、「仙」や「伊」や「久」の字って、もしかして……」
「空、もしかしなくてもそれぞれの文字は……立花仙蔵、善法寺伊作、久々知兵助、いずれも女装に定評のある忍たまたちだ」
被害者は半助と利吉だけではなかった。
大人三人と親友二人の冷ややかな視線がきり丸を貫いた。
「常連客からのリクエストがあって、半子さんと利子さん以外にも欲しいって言われたもんだから、つい……あは。あはははは」
肩身を狭くするきり丸の横で、しんべヱが言った。
「綺麗な女性のブロマイドがこんなに人気があるなんて知らなかった~。でもさ、きり丸。なんでわざわざ女装した男性のブロマイドを売ったの?綺麗な女性ならこんなに身近にいるじゃない」
そう言って、空を指す。
「しんべヱ。ホントにニブチンだなぁ。半子さんや利子さんは紛い物 だからいいとして……空さんは本物の女性なの!そんなことでもしたら、忍術学園に男たちが押し寄せてきて実生活で迷惑かけるだろ。それに、」
「え?」
空が短い声をあげる。
きり丸が両手を腰に回してきたのだ。
きり丸は空をぎゅっと抱きしめて言った。
「おれが嫌なの。空さんのブロマイドを見てニヤニヤする男がいるなんて絶対にイヤだ!ただでさえ、土井先生と利吉さんって面倒くさい二人に追いかけ回されているのに、これ以上余計な虫を増やしたくないっ!」
「こらー!なんだ、きり丸、その言い草は!」
「そうですよ。未来の兄に向かって失礼な!」
「利吉君、それは違ーう!おい、きり丸。空から離れろ!」
「い~やですよ~だ!あぁ、やっぱり空さんってやわらけぇ……!」
「ずるいぞ、きり丸お前だけ!ならば私も!」
「ひゃあっ!利吉さんっ、こ、子どもたちの前でこういうのは、その……困ります!ひとまず、みなさん落ち着いてください!」
空と、空をとりまく男たちによる騒がしい掛け合いが始まる。
相も変わらずの光景に乱太郎としんベヱがそれぞれ苦笑した。
その後、きり丸は半助と利吉にこってりお仕置きされた。
既に売却している分は今後回収・返金を命じられ、これから売り捌こうとしたブロマイドは全て没収となった。
「ちぇっ」
「「ちぇっ」じゃない!まっとうに働け!」
「は~い」
「……本当にこれで全部だろうな?」
「えーっと、あ!まだ在庫が部屋のほうに残ってたなぁ」
そう言って、きり丸がそそくさと自室に戻った。
きり丸を待つ間、半助が深い嘆息をつく。
「全く、ちょっとほったらかすと碌でもないことを思いつく奴だな」
「でも、良かったです。きりちゃんが危険なことに手を出していなくて。」
「ま、それもそうですね。ん、空さん、その手に持ってるのは?」
「あ、これは、えーっと……」
見れば、空は半子さんと利子さん、二人分のブロマイドを握りしめていた。
「だって、お二人の女装姿、本当に本当に可愛いから、さっきこっそりきりちゃんにお願いして、お裾分けしてもらったんです」
そう言って、空がバツが悪そうに舌を出す。
一間置いて、半助と利吉がその場でずっこけた。
そんな中、しんべヱと乱太郎は先ほどの「売上集計表」を見ながら、様々な気づきを得ていた。
「それにしても、きり丸は色んな人の女装ブロマイドを作ってたんだね。この滝、三木、ってあの平滝夜叉丸先輩と田村三木エ門先輩のことだよね~」
「数を見ると、予想以上に売れてるのがなんか納得いかないけど、、」
「でも、売上トップはダントツ土井先生と利吉さんだね~!それだけ女装が様になっているってことだよね~」
「やっぱり二人って凄いっ!」
キラキラキラッ
乱太郎としんべヱから憧れの眼差しで見つめられて、半助と利吉は気をよくする……かと思えばそうでもなかった。
「わ~、やめてくれ!ちっとも凄くないっ!大体、男にブロマイドを買われて喜ぶ男がどこにいるんだ!」
「知らない男が夜な夜な自分のブロマイドを眺めているかと思うと……おえっ」
ズーンと男たち二人の空気が重くなる。
まぁまぁ……と空が慰めていると、きり丸が戻ってきた。
「土井先生、とってきました。これで全部です」
「!?」
差し出されたブロマイドの山を見た瞬間、半助が、ひいては全員が顔を引きつらせた。
「こ、これって…伝子さんのブロマイド?この大漁の山の分、全部?」
「はい、そうです」
「ど、どうして伝子さんの分だけこんなに在庫があるんだ?」
「実は、増刷をかけた半子さんと利子さんの分に、うっかり伝子さんのブロマイドが混じっちゃって。なんとか在庫を減らそうかと売りに出したんですが、これが全然鳴かず飛ばずで」
「そりゃそうだ。あの伝子さんのブロマイドが飛ぶように売れたら、世も末だ」
半助の発言に場の空気が和んだ。
この雰囲気に自分がしでかしたことを許されたような気がしたのだろう。
きり丸の口が徐々に滑り出す。
「百戦錬磨のおれでも、これ売り切るのほんっと大変なんですよ。松千代先生や斜堂先生の女装ブロマイドでさえ意外と売れたのに。伝子さんブロマイドはおまけでもいらないって断られちゃって」
このきり丸の発言に最初皆は笑っていたが、きり丸の背後に現れた人物を見るやいなや、表情が一気に凍り付いた。
「まぁ、おれが客なら絶対買わないよな―。伝子さんのブロマイド。不気味すぎて手元に置いとけないし」
「お、おい、きり丸。それ以上言わん方がいいぞ……」
「え、だって本当のことでしょ。人気ま~~たっくないし」
「……そんなに人気がないのか?」
「うん、全っ然!もう、ナシナシでえーす!只今、絶賛最下位をキープ中!!て、あれ……?」
新たなる声色にきり丸が思わず振り向く。
そこには今絶対に会いたくない人物――伝子さんに扮する忍者、山田伝蔵の姿があった。
「ゲゲッ!や、山田先生……!あ、今の発言はぜ~んぶ冗談ですよ、冗談!!」
ドスの利いた声で伝蔵が呟く。
「きり丸……これは一体どういうことだ?」
「ど、どういうことかと言われましても……」
伝蔵の身体がわなわなと震えている。
あれだけ侮辱されたのだから怒りを覚えても当然だ――言ったきり丸本人でさえ、そう思っていた。
このときまでは。
わずかな沈黙のあと、伝蔵は怒りに身を任せながら叫んだ。
「とぼけるな!伝子さんのブロマイドの売れ行きが最下位というのはどういうことかと聞いとるんだ!!!!!」
「「へっ?」」
伝蔵を除く一同の目がテンになった。
伝蔵は愕然と頭を抑えながら、尚も続ける。
「どう考えてもおかしいぞ!立てば芍薬……の美人の代名詞で知られながら、尚且つ「お嫁さんにしたい室町小町ナンバーワン」の伝子さんのブロマイドが一枚も売れていないなんて……一体どういうことなんだ!?」
これを聞いて、空たちはへなへなとその場に脱力した。
「ど、どうやら、山田先生だけは怒りの趣旨が違うようですね……」
「我々がきり丸に「どうして売ったんだ?」と怒っているのに対し、山田先生は「どうして売れないのか?」だもんな」
「父上は自身の女装に絶対的な自信をお持ちですからね……」
伝蔵がきり丸の腕をむんずと掴む。
「行くぞ!」
「へっ?ど、どこへ行くんですか?」
「そんなの町に決まっているだろう。今からこれを売り捌くためにな!」
そう言って、伝蔵が大量の伝子ブロマイドを風呂敷に包む。
「ええ!!おれもっすか?」
「当然だ。一枚も売れなかった責任をきっちり果たしてもらわないと。なぁに、心配することはない!今度は……生伝子がいるから、数分で完売できちゃうわよぉん♡」
「ぎゃあ!話の途中で伝子さんに変装するのやめてください!って、なんだこれ!?」
きり丸が身体の自由を奪われている。
いつの間にか伝子によって身体に縄を巻き付けられていた。
「きり丸、四の五の言わないのぉん。さぁ、売上ナンバーワンに向けて、一気に挽回するわよぉん☆町の男たち、待ってなさぁい♡」
「だ、だれか!だれか、助けてぇぇぇぇ!!!!」
きり丸の叫びもむなしく、伝子に縄を引きずられていく。
やがて二人の姿は見えなくなった。
「あ~あ、行っちゃったね」
「うん……あ、乱太郎。ボクたちもうすぐ委員会の時間じゃない?」
「そだね。行こ!」
乱太郎としんべヱが事も無げに去っていく。
「さてと、空、利吉君。我々も仕事に戻るか。そういえば、利吉君と議論の途中だったな」
「そうでした。再開させましょう。えーっと、確かマイタケ城近隣の勢力状況についてでしたよね?」
半助と利吉が歩き出す。
その少し後ろを空はついていく。
「……」
前の二人にバレないよう、懐からそっと二枚のブロマイドを取り出した。
じ~っと見つめていれば、空の頬がぽっと紅く灯る。
(半子さんも利子さんもどっちも綺麗で素敵……惚れ惚れしちゃう♡部屋に帰ったら額縁に入れて飾っておかないと)
片方は敵に向かってチョークを放っている半子さん。
もう片方は手裏剣を投げつける利子さん。
その二枚のブロマイドに向かって、空がにっこりと最高の微笑みを放った。
「こっちには利吉さんの女装姿、利子さんが映ってるよ~」
きり丸が落とした紙――それは半助と利吉の女装を映したブロマイドだった。
察しのいい半助と利吉にはそれが何を物語っているのか瞬時に理解した。
「そういうことか。きり丸……お前、私や利吉君の、女装姿のブロマイドを作って町で売り捌いていたんだな!」
「うわっ、しかも、これ……ブロマイド一枚70文(3500円)って……酒一升とほぼ同じじゃないか!」
きり丸の商売道具にされて、半助と利吉の怒りは頂点に達している。
般若の形相できり丸を睨みつける。
だが、きり丸はとっくに開き直っていた。
「ははは、バレちゃあ、しょうがねぇ。いやぁ、実は半子さんと利子さんのブロマイドを軽い気持ちで町の男たちに見せたら、皆目の色変えるんですもん。ぜひ売ってくれって。これがまた結構高値で売れるんですよ、ニヒヒヒヒ!」
「「き~り~ま~る~!よくも勝手なことをしてくれたな!!」」
「寝顔バージョンのブロマイドなんて一瞬で完売しちゃいました。ああ、おれこんな女装のお美しい二人と知り合いで、鼻高々だなぁ」
「「な~にが鼻高々だ!いい加減にしろっ!」」
ドカッ、バキッ、グシャッ!!
「あがががが……」
数十秒後、正義の鉄槌をくらい見る影もなくなったきり丸の姿がそこにはあった。
「全く……お前というやつは本っ当に油断も隙もならないな!」
「うぅっ…これでしばらく女装姿で偵察はできない。とんだ営業妨害だ!」
半助は呆れ、利吉は顔をおさえて嘆くほどだ。
そんな中、しげしげと売上集計表を眺めていた空が呟いた。
「この売上集計表の「半」と「利」が半子さんと利子さんということなら、「仙」や「伊」や「久」の字って、もしかして……」
「空、もしかしなくてもそれぞれの文字は……立花仙蔵、善法寺伊作、久々知兵助、いずれも女装に定評のある忍たまたちだ」
被害者は半助と利吉だけではなかった。
大人三人と親友二人の冷ややかな視線がきり丸を貫いた。
「常連客からのリクエストがあって、半子さんと利子さん以外にも欲しいって言われたもんだから、つい……あは。あはははは」
肩身を狭くするきり丸の横で、しんべヱが言った。
「綺麗な女性のブロマイドがこんなに人気があるなんて知らなかった~。でもさ、きり丸。なんでわざわざ女装した男性のブロマイドを売ったの?綺麗な女性ならこんなに身近にいるじゃない」
そう言って、空を指す。
「しんべヱ。ホントにニブチンだなぁ。半子さんや利子さんは
「え?」
空が短い声をあげる。
きり丸が両手を腰に回してきたのだ。
きり丸は空をぎゅっと抱きしめて言った。
「おれが嫌なの。空さんのブロマイドを見てニヤニヤする男がいるなんて絶対にイヤだ!ただでさえ、土井先生と利吉さんって面倒くさい二人に追いかけ回されているのに、これ以上余計な虫を増やしたくないっ!」
「こらー!なんだ、きり丸、その言い草は!」
「そうですよ。未来の兄に向かって失礼な!」
「利吉君、それは違ーう!おい、きり丸。空から離れろ!」
「い~やですよ~だ!あぁ、やっぱり空さんってやわらけぇ……!」
「ずるいぞ、きり丸お前だけ!ならば私も!」
「ひゃあっ!利吉さんっ、こ、子どもたちの前でこういうのは、その……困ります!ひとまず、みなさん落ち着いてください!」
空と、空をとりまく男たちによる騒がしい掛け合いが始まる。
相も変わらずの光景に乱太郎としんベヱがそれぞれ苦笑した。
その後、きり丸は半助と利吉にこってりお仕置きされた。
既に売却している分は今後回収・返金を命じられ、これから売り捌こうとしたブロマイドは全て没収となった。
「ちぇっ」
「「ちぇっ」じゃない!まっとうに働け!」
「は~い」
「……本当にこれで全部だろうな?」
「えーっと、あ!まだ在庫が部屋のほうに残ってたなぁ」
そう言って、きり丸がそそくさと自室に戻った。
きり丸を待つ間、半助が深い嘆息をつく。
「全く、ちょっとほったらかすと碌でもないことを思いつく奴だな」
「でも、良かったです。きりちゃんが危険なことに手を出していなくて。」
「ま、それもそうですね。ん、空さん、その手に持ってるのは?」
「あ、これは、えーっと……」
見れば、空は半子さんと利子さん、二人分のブロマイドを握りしめていた。
「だって、お二人の女装姿、本当に本当に可愛いから、さっきこっそりきりちゃんにお願いして、お裾分けしてもらったんです」
そう言って、空がバツが悪そうに舌を出す。
一間置いて、半助と利吉がその場でずっこけた。
そんな中、しんべヱと乱太郎は先ほどの「売上集計表」を見ながら、様々な気づきを得ていた。
「それにしても、きり丸は色んな人の女装ブロマイドを作ってたんだね。この滝、三木、ってあの平滝夜叉丸先輩と田村三木エ門先輩のことだよね~」
「数を見ると、予想以上に売れてるのがなんか納得いかないけど、、」
「でも、売上トップはダントツ土井先生と利吉さんだね~!それだけ女装が様になっているってことだよね~」
「やっぱり二人って凄いっ!」
キラキラキラッ
乱太郎としんべヱから憧れの眼差しで見つめられて、半助と利吉は気をよくする……かと思えばそうでもなかった。
「わ~、やめてくれ!ちっとも凄くないっ!大体、男にブロマイドを買われて喜ぶ男がどこにいるんだ!」
「知らない男が夜な夜な自分のブロマイドを眺めているかと思うと……おえっ」
ズーンと男たち二人の空気が重くなる。
まぁまぁ……と空が慰めていると、きり丸が戻ってきた。
「土井先生、とってきました。これで全部です」
「!?」
差し出されたブロマイドの山を見た瞬間、半助が、ひいては全員が顔を引きつらせた。
「こ、これって…伝子さんのブロマイド?この大漁の山の分、全部?」
「はい、そうです」
「ど、どうして伝子さんの分だけこんなに在庫があるんだ?」
「実は、増刷をかけた半子さんと利子さんの分に、うっかり伝子さんのブロマイドが混じっちゃって。なんとか在庫を減らそうかと売りに出したんですが、これが全然鳴かず飛ばずで」
「そりゃそうだ。あの伝子さんのブロマイドが飛ぶように売れたら、世も末だ」
半助の発言に場の空気が和んだ。
この雰囲気に自分がしでかしたことを許されたような気がしたのだろう。
きり丸の口が徐々に滑り出す。
「百戦錬磨のおれでも、これ売り切るのほんっと大変なんですよ。松千代先生や斜堂先生の女装ブロマイドでさえ意外と売れたのに。伝子さんブロマイドはおまけでもいらないって断られちゃって」
このきり丸の発言に最初皆は笑っていたが、きり丸の背後に現れた人物を見るやいなや、表情が一気に凍り付いた。
「まぁ、おれが客なら絶対買わないよな―。伝子さんのブロマイド。不気味すぎて手元に置いとけないし」
「お、おい、きり丸。それ以上言わん方がいいぞ……」
「え、だって本当のことでしょ。人気ま~~たっくないし」
「……そんなに人気がないのか?」
「うん、全っ然!もう、ナシナシでえーす!只今、絶賛最下位をキープ中!!て、あれ……?」
新たなる声色にきり丸が思わず振り向く。
そこには今絶対に会いたくない人物――伝子さんに扮する忍者、山田伝蔵の姿があった。
「ゲゲッ!や、山田先生……!あ、今の発言はぜ~んぶ冗談ですよ、冗談!!」
ドスの利いた声で伝蔵が呟く。
「きり丸……これは一体どういうことだ?」
「ど、どういうことかと言われましても……」
伝蔵の身体がわなわなと震えている。
あれだけ侮辱されたのだから怒りを覚えても当然だ――言ったきり丸本人でさえ、そう思っていた。
このときまでは。
わずかな沈黙のあと、伝蔵は怒りに身を任せながら叫んだ。
「とぼけるな!伝子さんのブロマイドの売れ行きが最下位というのはどういうことかと聞いとるんだ!!!!!」
「「へっ?」」
伝蔵を除く一同の目がテンになった。
伝蔵は愕然と頭を抑えながら、尚も続ける。
「どう考えてもおかしいぞ!立てば芍薬……の美人の代名詞で知られながら、尚且つ「お嫁さんにしたい室町小町ナンバーワン」の伝子さんのブロマイドが一枚も売れていないなんて……一体どういうことなんだ!?」
これを聞いて、空たちはへなへなとその場に脱力した。
「ど、どうやら、山田先生だけは怒りの趣旨が違うようですね……」
「我々がきり丸に「どうして売ったんだ?」と怒っているのに対し、山田先生は「どうして売れないのか?」だもんな」
「父上は自身の女装に絶対的な自信をお持ちですからね……」
伝蔵がきり丸の腕をむんずと掴む。
「行くぞ!」
「へっ?ど、どこへ行くんですか?」
「そんなの町に決まっているだろう。今からこれを売り捌くためにな!」
そう言って、伝蔵が大量の伝子ブロマイドを風呂敷に包む。
「ええ!!おれもっすか?」
「当然だ。一枚も売れなかった責任をきっちり果たしてもらわないと。なぁに、心配することはない!今度は……生伝子がいるから、数分で完売できちゃうわよぉん♡」
「ぎゃあ!話の途中で伝子さんに変装するのやめてください!って、なんだこれ!?」
きり丸が身体の自由を奪われている。
いつの間にか伝子によって身体に縄を巻き付けられていた。
「きり丸、四の五の言わないのぉん。さぁ、売上ナンバーワンに向けて、一気に挽回するわよぉん☆町の男たち、待ってなさぁい♡」
「だ、だれか!だれか、助けてぇぇぇぇ!!!!」
きり丸の叫びもむなしく、伝子に縄を引きずられていく。
やがて二人の姿は見えなくなった。
「あ~あ、行っちゃったね」
「うん……あ、乱太郎。ボクたちもうすぐ委員会の時間じゃない?」
「そだね。行こ!」
乱太郎としんべヱが事も無げに去っていく。
「さてと、空、利吉君。我々も仕事に戻るか。そういえば、利吉君と議論の途中だったな」
「そうでした。再開させましょう。えーっと、確かマイタケ城近隣の勢力状況についてでしたよね?」
半助と利吉が歩き出す。
その少し後ろを空はついていく。
「……」
前の二人にバレないよう、懐からそっと二枚のブロマイドを取り出した。
じ~っと見つめていれば、空の頬がぽっと紅く灯る。
(半子さんも利子さんもどっちも綺麗で素敵……惚れ惚れしちゃう♡部屋に帰ったら額縁に入れて飾っておかないと)
片方は敵に向かってチョークを放っている半子さん。
もう片方は手裏剣を投げつける利子さん。
その二枚のブロマイドに向かって、空がにっこりと最高の微笑みを放った。
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