大木先生と風変わりな茶店
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茶店の中は意外と広かった。
こちらには家族連れや老人などカップル以外の通常の客がちらほらいる。
そして、彼らに給仕をしている人物を見て、大木は驚愕した。
「空!?」
地声が馬鹿でかかったので、空もすぐ気づいた。
客にお茶を渡し終えると、慌てて駆け寄って来た。
「大木先生!?どうしてここに……?」
「帰り道でたまたま通ったんだ。きり丸を見つけたときはびっくりしたけど、まさかお前までバイトしているとは……そんな格好で」
「あはは。びっくりしますよね。私もまさかメイド服着てバイトするなんて想像してなかったから……」
「……」
「大木先生?」
だんまりとする大木に、空ときり丸が首をかしげる。
大木は見惚れていたのだ――空のメイド姿に。
普段下ろしている髪は、片側の耳上で一纏めにしている、サイドポニーテール。
服のデザインは基本的にはきり丸と一緒だが、裾のスカート部分は膝下より長く、露出は控えめである。
普段の小袖姿もいいが、この見慣れぬ西洋の衣装を纏った空をいかにもお嬢さまっぽい。
高貴な顔立ちが映え、美しかった。
(うぉぉぉぉ!可愛いすぎる、可愛いすぎるぞぉぉ!!!)
(い、生きててよかった……!)
いつの間にか拳を振り上げて涙ぐむ大木に、きり丸が言った。
「大木先生、大木先生ってば!お代払うんでしょ、お代を。会計は空さんが担当しているんです」
「ん?ああ、そうだった!ほれ、」
「ありがとうございます。柏餅ですね。かしこまりました」
その後、奥の厨房へ注文を伝えた空が座席へ案内してくれた。
甘味が来るまでの間、大木は空を見てはにやにやとする。
甲斐甲斐しく働く空の姿は周りの目を引くほど魅力的だった。
きっとこの店の看板娘に違いない。
もうすぐ自分の席に品を運んできた時に、空をつかまえて会話しよう。
ルンルンな気分で大木は待つ。
しかし、こういう時に限って、予想だにしないことが起きるものである。
「は~い、お待ちどうさまぁ、」
「いっ!?」
注文の品を運んできた人物を見て、大木の身体が固まった。
お店の通路を歩くのもやっと、というほどの肥満体。
声はしっとりと濡れているが、明らかに女性よりも低い。
なのに顔に白粉を塗り、おちょぼ口の唇には赤い紅をさしている。
髪は長いがオールバック風で、頭のてっぺんでお団子を結い上げている。
現代でいうならば、お茶の間を沸かせているあのマツ〇・デラックスに瓜二つだった。
嫌な予感しかしない――
その大木の嫌な予感は見事にあたった。
「あらぁん。お客さま、おひとり?凛々しいお顔、精悍な肉体……んもぅ、かなりの男前じゃないのぉ!モロ私のタ・イ・プ」
「……」
その人物はオカマだった。
気に入られてはまずいと大木は絶対に目を合わせなかった。
が、オカマはめげることなく、積極的にモーションをかけていく。
「ねぇ……よろしければ名前教えてくださらない?私、あなたのことをもっと知りたい……」
そう色っぽく言って、オカマは大木の手に自分の手を重ねてきた。
(ひ、ひぃぃぃぃぃ!!)
全身が総毛立つ。
恐怖に震える大木に助けたのは、きり丸だった。
「もう、松子さん!またお店でお客さんにちょっかい出してる!悪い癖が出てますよ。それに、この人は大木先生といって、おれたちの知り合いなんです!」
「あらぁん、そうだったの。こちらの殿方はきり子ちゃんのお知り合いだったのね」
「大木先生、紹介しますね。こちらお店の主人で松子さん」
「はじめましてぇん」
店主こと松子が悩ましげな目つきで会釈する。
だが、松子の個性が強烈すぎて、大木は引き攣った笑みで返すのが精一杯だった。
「もう、そんなにお堅くならないで。仲良くしましょう」
「そうそう。松子さんってちょっと変わってるけど、結構面白いんですよ。ちなみに……あだ名はゴンちゃんって言うんです」
「やめてぇぇぇ!!」
突如、頭 を振りながら松子が絶叫する。
「ゴンちゃん」という呼び名が気に食わないらしかった。
「もぉう、きり子ちゃん!その名前で呼んじゃダメでしょ!」
「だって、ゴンちゃんの本名って勅使河原 権蔵 でしょ?」
「ひぃぃぃぃ!きり子ちゃんたら、秘密にしてたのに……一体どこで知ったの!?」
「えーと、入口の壁にかけてある表札めくったら、裏に書いてあったけど」
「やぁあだぁ、もうやめてよぉぉう!せっかくダサい本名隠してたのにぃ!!そんな全っ然可愛くない本名なんか、早く忘れちゃってぇ!」
「ええ!おれ、ゴンちゃんってあだ名、結構可愛いと思うけどな……」
「可愛くないったら、可愛くないの!とにかく、今後一切禁止!ちゃんと源氏名の「松子」で呼んで頂戴!」
赤面した松子がくねくねと身を捩る。
気持ち悪い……。
大木は思わず言ってしまった。
「なんか、伝子さんに似てるな」
「あ、おれも全く同じことを思いました。聞いてくださいよ。びっくりなことに、伝子さんと松子さんは知り合いだそうですよ」
「え!?」
「あらぁん。伝子ちゃんをご存じなのねぇん。私と伝子ちゃんは……全日本忍者連合会主催の女装コンテストで知り合った仲なのぉ。懐かしいわ……西の伝子に東の松子、二人でよくトップを競い合っていたのよぉ」
「ふ、ふ~ん。でも、伝子さんを知っているってことは、松子さんも」
大木がそう言うと、松子が静かに頷いた。
「そうよ。私も元忍者。武蔵の国で働いていて、これでもバリキャリの教員だったのよ。でも、こ~んなに太ったから、引退しちゃったけどねぇ」
松子は少しの間、遠い目をして昔を懐かしむ。
しかし、その松子の後ろで眼を吊り上げる人物がいた。
「松子さん!もう、また油売ってる!」
空だった。
「だぁってぇん。こんなに良い男がいるのに、商売どころじゃないじゃない?」
「松子さんったら……でも、お客さん少し引いてきましたね」
そう言われて大木が周りを見る。
忙しさのピークは過ぎたようで、いつしか店内も空席が目立ち始める。
外のカップルたちも徐々に店を離れだしていた。
「せっかくきり子ちゃんと空ちゃんのお知り合いが来たことだし、ここいらで小休止にしましょうか。外で景色をみながらお菓子をつまみましょうよ」
「やったぁ!」
空が歓声を上げる。
きり丸は揉み手をしながら言った。
「確認しますけど、ちなみにお代は……」
「もちろん無料 よぉん!」
「やりぃ!松子さん、さいっこう!太っ腹!」
「あら、きり子ちゃん。太っ腹って今に始まったことじゃないのよ。ほら」
そう言って、松子が脂肪たっぷりのお腹を誇示するようにポンと叩く。
ウィットに富んだ松子の返しに、一同は大爆笑した。
こちらには家族連れや老人などカップル以外の通常の客がちらほらいる。
そして、彼らに給仕をしている人物を見て、大木は驚愕した。
「空!?」
地声が馬鹿でかかったので、空もすぐ気づいた。
客にお茶を渡し終えると、慌てて駆け寄って来た。
「大木先生!?どうしてここに……?」
「帰り道でたまたま通ったんだ。きり丸を見つけたときはびっくりしたけど、まさかお前までバイトしているとは……そんな格好で」
「あはは。びっくりしますよね。私もまさかメイド服着てバイトするなんて想像してなかったから……」
「……」
「大木先生?」
だんまりとする大木に、空ときり丸が首をかしげる。
大木は見惚れていたのだ――空のメイド姿に。
普段下ろしている髪は、片側の耳上で一纏めにしている、サイドポニーテール。
服のデザインは基本的にはきり丸と一緒だが、裾のスカート部分は膝下より長く、露出は控えめである。
普段の小袖姿もいいが、この見慣れぬ西洋の衣装を纏った空をいかにもお嬢さまっぽい。
高貴な顔立ちが映え、美しかった。
(うぉぉぉぉ!可愛いすぎる、可愛いすぎるぞぉぉ!!!)
(い、生きててよかった……!)
いつの間にか拳を振り上げて涙ぐむ大木に、きり丸が言った。
「大木先生、大木先生ってば!お代払うんでしょ、お代を。会計は空さんが担当しているんです」
「ん?ああ、そうだった!ほれ、」
「ありがとうございます。柏餅ですね。かしこまりました」
その後、奥の厨房へ注文を伝えた空が座席へ案内してくれた。
甘味が来るまでの間、大木は空を見てはにやにやとする。
甲斐甲斐しく働く空の姿は周りの目を引くほど魅力的だった。
きっとこの店の看板娘に違いない。
もうすぐ自分の席に品を運んできた時に、空をつかまえて会話しよう。
ルンルンな気分で大木は待つ。
しかし、こういう時に限って、予想だにしないことが起きるものである。
「は~い、お待ちどうさまぁ、」
「いっ!?」
注文の品を運んできた人物を見て、大木の身体が固まった。
お店の通路を歩くのもやっと、というほどの肥満体。
声はしっとりと濡れているが、明らかに女性よりも低い。
なのに顔に白粉を塗り、おちょぼ口の唇には赤い紅をさしている。
髪は長いがオールバック風で、頭のてっぺんでお団子を結い上げている。
現代でいうならば、お茶の間を沸かせているあのマツ〇・デラックスに瓜二つだった。
嫌な予感しかしない――
その大木の嫌な予感は見事にあたった。
「あらぁん。お客さま、おひとり?凛々しいお顔、精悍な肉体……んもぅ、かなりの男前じゃないのぉ!モロ私のタ・イ・プ」
「……」
その人物はオカマだった。
気に入られてはまずいと大木は絶対に目を合わせなかった。
が、オカマはめげることなく、積極的にモーションをかけていく。
「ねぇ……よろしければ名前教えてくださらない?私、あなたのことをもっと知りたい……」
そう色っぽく言って、オカマは大木の手に自分の手を重ねてきた。
(ひ、ひぃぃぃぃぃ!!)
全身が総毛立つ。
恐怖に震える大木に助けたのは、きり丸だった。
「もう、松子さん!またお店でお客さんにちょっかい出してる!悪い癖が出てますよ。それに、この人は大木先生といって、おれたちの知り合いなんです!」
「あらぁん、そうだったの。こちらの殿方はきり子ちゃんのお知り合いだったのね」
「大木先生、紹介しますね。こちらお店の主人で松子さん」
「はじめましてぇん」
店主こと松子が悩ましげな目つきで会釈する。
だが、松子の個性が強烈すぎて、大木は引き攣った笑みで返すのが精一杯だった。
「もう、そんなにお堅くならないで。仲良くしましょう」
「そうそう。松子さんってちょっと変わってるけど、結構面白いんですよ。ちなみに……あだ名はゴンちゃんって言うんです」
「やめてぇぇぇ!!」
突如、
「ゴンちゃん」という呼び名が気に食わないらしかった。
「もぉう、きり子ちゃん!その名前で呼んじゃダメでしょ!」
「だって、ゴンちゃんの本名って
「ひぃぃぃぃ!きり子ちゃんたら、秘密にしてたのに……一体どこで知ったの!?」
「えーと、入口の壁にかけてある表札めくったら、裏に書いてあったけど」
「やぁあだぁ、もうやめてよぉぉう!せっかくダサい本名隠してたのにぃ!!そんな全っ然可愛くない本名なんか、早く忘れちゃってぇ!」
「ええ!おれ、ゴンちゃんってあだ名、結構可愛いと思うけどな……」
「可愛くないったら、可愛くないの!とにかく、今後一切禁止!ちゃんと源氏名の「松子」で呼んで頂戴!」
赤面した松子がくねくねと身を捩る。
気持ち悪い……。
大木は思わず言ってしまった。
「なんか、伝子さんに似てるな」
「あ、おれも全く同じことを思いました。聞いてくださいよ。びっくりなことに、伝子さんと松子さんは知り合いだそうですよ」
「え!?」
「あらぁん。伝子ちゃんをご存じなのねぇん。私と伝子ちゃんは……全日本忍者連合会主催の女装コンテストで知り合った仲なのぉ。懐かしいわ……西の伝子に東の松子、二人でよくトップを競い合っていたのよぉ」
「ふ、ふ~ん。でも、伝子さんを知っているってことは、松子さんも」
大木がそう言うと、松子が静かに頷いた。
「そうよ。私も元忍者。武蔵の国で働いていて、これでもバリキャリの教員だったのよ。でも、こ~んなに太ったから、引退しちゃったけどねぇ」
松子は少しの間、遠い目をして昔を懐かしむ。
しかし、その松子の後ろで眼を吊り上げる人物がいた。
「松子さん!もう、また油売ってる!」
空だった。
「だぁってぇん。こんなに良い男がいるのに、商売どころじゃないじゃない?」
「松子さんったら……でも、お客さん少し引いてきましたね」
そう言われて大木が周りを見る。
忙しさのピークは過ぎたようで、いつしか店内も空席が目立ち始める。
外のカップルたちも徐々に店を離れだしていた。
「せっかくきり子ちゃんと空ちゃんのお知り合いが来たことだし、ここいらで小休止にしましょうか。外で景色をみながらお菓子をつまみましょうよ」
「やったぁ!」
空が歓声を上げる。
きり丸は揉み手をしながら言った。
「確認しますけど、ちなみにお代は……」
「もちろん
「やりぃ!松子さん、さいっこう!太っ腹!」
「あら、きり子ちゃん。太っ腹って今に始まったことじゃないのよ。ほら」
そう言って、松子が脂肪たっぷりのお腹を誇示するようにポンと叩く。
ウィットに富んだ松子の返しに、一同は大爆笑した。