土井先生の最悪な一日
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「土井先生、今朝は宿題を忘れてすみませんでした!」
「「すみませんでした!」」
職員室の戸を開けたのと同時に乱太郎、きり丸、しんべヱが深々と頭を下げる。
それだけではない。
「土井先生……期末テストの件、あれから思い直したのですが、やはり土井先生の言うことにも一理あるということで、訂正はしなくてもいいかと。しかしですね、私の指摘だって決して正当性がないわけではなく……」
と謝罪なのか弁明なのか曖昧な安藤夏之丞も姿を現した。
さらに、
「土井先生!先ほど多田堂禅先生の件を伝えたばかりのところで申し訳ないがのう……実はドクタケ城が南蛮から最新式の石火矢を手に入れたという情報が入った。今すぐドクタケ城に向かって調査してもらいたい!これは緊急事態じゃ!」
と新たなる依頼を持ち込んだ学園長が声を張り上げる。
おまけに、
「土井先生。先ほどの火薬委員会の会議、無事に終わりました!」
と得意気に報告する久々知まで登場した。
(よりにもよって、こんなときに!)
(まずい……非常にまずいぞ……)
職員室に押しかけた者たち全員が絶句している。
彼らの目に映ったのは、やたらと密着し合った男女の姿。
これを見て誤解しないはずがなかった。
しかし、決定的瞬間を見られたわけではないので、言い逃れすれば何とかなるかもしれない。
自分よりも先に、隣にいる空が大慌てで言った。
「あ、あの……これは違うんです!土井先生、体調が悪いみたいで、だから、その、検温 していただけなんです!検温 を!」
「そうです、そうです、空君の言うとおり、単なる検温 の真っ最中であって、」
半助も空に話を合わせた。
二人で必死に弁明したが、言えば言うほど苦しい言い訳でしかない。
乱太郎・きり丸・しんべヱは「私たち、なんかタイミング悪かったね」と気まずい顔で見合ってるし、学園長は「なんじゃ?逢引中じゃったのか。もっと人目を忍んでうまくやらんといかんのう」と呆れている。
久々知は林檎のように顔を赤く染め、「これ……」と申し訳なさそうに議事録を掲げている。
最も注目すべきなのは安藤で、
「土井先生!それに舞野さん!生徒の模範となる教職員のあなたたちが、こんな昼間から濃厚接触 しているとは!!」
と般若のごとき形相で睨みつけてきた。
「あ、安藤先生……何か勘違いされてますよ。私と空君は安藤先生が考えられているようなことは一切、」
「ええい、黙らっしゃい。忍術学園の風紀はこの私が守ります!真面目な舞野さんをたらしこむとは……ああ、嘆かわしい。土井先生、絶対に許しませんぞ !!ちなみにお墓にいるのはご先祖 」
相変わらずの白けたダジャレが炸裂し、発した安藤以外の誰もが凍り付く。
半助はその隙を見逃さなかった。
(えーい、逃げるなら今だ!)
安藤の横をすり抜け、学園長の前で一度足を止めると早口で言った。
「学園長先生……仰せの通り、これからドクタケ城に調査に行ってきます!あと、久々知、議事録ありがとな。安藤先生、ではそういうことで」
そう言うと、目にもとまらぬ速さで走り出した。
「あ、待ちなさい!逃しませんよ!!」
安藤が追いかけてくる。
待てと言われて待つ馬鹿がいるかと思いながら、半助は無我夢中で走り続けた。
安藤には申し訳ないが、体力勝負ではこちらに分がある。
しばらくすると、粘り強く聞こえていた安藤の足音が消えた。
どうやら撒いたようだ――ほっと胸を撫でおろすも、それはほんの束の間のこと。
ドクタケ城へ向かいながら、これからのことを考えると憂鬱でしょうがなかった。
調査を終えて帰還しても、待っているのは新型火薬の開発と安藤による大説教。
あのおしゃべりな乱太郎たちのことだ。
一年は組には既に知れ渡り、ほとぼりが冷めるまでは針のむしろに座しているような心地で授業をしなければならない。
嫌な顔一つせず、委員会の仕事をまとめてくれていた久々知だって今では陰で何を思っていることやら。
確かに勤務中にするような行為ではなかったとは自覚している。
しかし、元はと言えば乱太郎、しんべえ、きり丸、それに安藤と学園長が全部悪い。
そもそも極限まで追い詰められていなければ、こんなことにはならなかったのに。
こんなことには……!
プツン……
半助の中で何かが切れる音がした。
ふぅっと息を大きく吐き出して言う。
「私が一体、何をしたと言うのだぁぁぁぁ!!!」
渾身の叫びは誰に届くこともなく、透き通った春の青空へと吸い込まれていった。
「「すみませんでした!」」
職員室の戸を開けたのと同時に乱太郎、きり丸、しんべヱが深々と頭を下げる。
それだけではない。
「土井先生……期末テストの件、あれから思い直したのですが、やはり土井先生の言うことにも一理あるということで、訂正はしなくてもいいかと。しかしですね、私の指摘だって決して正当性がないわけではなく……」
と謝罪なのか弁明なのか曖昧な安藤夏之丞も姿を現した。
さらに、
「土井先生!先ほど多田堂禅先生の件を伝えたばかりのところで申し訳ないがのう……実はドクタケ城が南蛮から最新式の石火矢を手に入れたという情報が入った。今すぐドクタケ城に向かって調査してもらいたい!これは緊急事態じゃ!」
と新たなる依頼を持ち込んだ学園長が声を張り上げる。
おまけに、
「土井先生。先ほどの火薬委員会の会議、無事に終わりました!」
と得意気に報告する久々知まで登場した。
(よりにもよって、こんなときに!)
(まずい……非常にまずいぞ……)
職員室に押しかけた者たち全員が絶句している。
彼らの目に映ったのは、やたらと密着し合った男女の姿。
これを見て誤解しないはずがなかった。
しかし、決定的瞬間を見られたわけではないので、言い逃れすれば何とかなるかもしれない。
自分よりも先に、隣にいる空が大慌てで言った。
「あ、あの……これは違うんです!土井先生、体調が悪いみたいで、だから、その、
「そうです、そうです、空君の言うとおり、単なる
半助も空に話を合わせた。
二人で必死に弁明したが、言えば言うほど苦しい言い訳でしかない。
乱太郎・きり丸・しんべヱは「私たち、なんかタイミング悪かったね」と気まずい顔で見合ってるし、学園長は「なんじゃ?逢引中じゃったのか。もっと人目を忍んでうまくやらんといかんのう」と呆れている。
久々知は林檎のように顔を赤く染め、「これ……」と申し訳なさそうに議事録を掲げている。
最も注目すべきなのは安藤で、
「土井先生!それに舞野さん!生徒の模範となる教職員のあなたたちが、こんな昼間から
と般若のごとき形相で睨みつけてきた。
「あ、安藤先生……何か勘違いされてますよ。私と空君は安藤先生が考えられているようなことは一切、」
「ええい、黙らっしゃい。忍術学園の風紀はこの私が守ります!真面目な舞野さんをたらしこむとは……ああ、嘆かわしい。土井先生、絶対に許しま
相変わらずの白けたダジャレが炸裂し、発した安藤以外の誰もが凍り付く。
半助はその隙を見逃さなかった。
(えーい、逃げるなら今だ!)
安藤の横をすり抜け、学園長の前で一度足を止めると早口で言った。
「学園長先生……仰せの通り、これからドクタケ城に調査に行ってきます!あと、久々知、議事録ありがとな。安藤先生、ではそういうことで」
そう言うと、目にもとまらぬ速さで走り出した。
「あ、待ちなさい!逃しませんよ!!」
安藤が追いかけてくる。
待てと言われて待つ馬鹿がいるかと思いながら、半助は無我夢中で走り続けた。
安藤には申し訳ないが、体力勝負ではこちらに分がある。
しばらくすると、粘り強く聞こえていた安藤の足音が消えた。
どうやら撒いたようだ――ほっと胸を撫でおろすも、それはほんの束の間のこと。
ドクタケ城へ向かいながら、これからのことを考えると憂鬱でしょうがなかった。
調査を終えて帰還しても、待っているのは新型火薬の開発と安藤による大説教。
あのおしゃべりな乱太郎たちのことだ。
一年は組には既に知れ渡り、ほとぼりが冷めるまでは針のむしろに座しているような心地で授業をしなければならない。
嫌な顔一つせず、委員会の仕事をまとめてくれていた久々知だって今では陰で何を思っていることやら。
確かに勤務中にするような行為ではなかったとは自覚している。
しかし、元はと言えば乱太郎、しんべえ、きり丸、それに安藤と学園長が全部悪い。
そもそも極限まで追い詰められていなければ、こんなことにはならなかったのに。
こんなことには……!
プツン……
半助の中で何かが切れる音がした。
ふぅっと息を大きく吐き出して言う。
「私が一体、何をしたと言うのだぁぁぁぁ!!!」
渾身の叫びは誰に届くこともなく、透き通った春の青空へと吸い込まれていった。