部屋に入った瞬間、机に伏せたっきりの半助が空の視界に飛びこんできた。
ただ事ではない――そう理解するやいなや、素早く半助の元へと寄った。

「土井先生！」
「空君……」

空はすぐさま半助の容態を確認した。
虚ろな目。憔悴しきった表情。
時々目をぎゅっと瞑り、胸のあたりをおさえて痛みに呻く様子が何とも気の毒だった。

「どうしたんですか！？いつもの胃痛ですか？」
「ああ……悪いことに、頭痛も酷くて、」
「大変！一緒に医務室に、」
「医務室にはもう行ったんだ。新野先生に一通り診てもらって、薬も飲んでいる」
「そうですか……なら、せめてちゃんと休んだ方が良いですよ。お布団敷きますから」
「いや、その必要はない……今日中に片付けなければならない仕事があるから、悠長にしている場合ではないし、」
「でも、」

これ以上、自分を追いこまないでほしい――そう懇願するように半助をじっと見た。

「……」

どうやら願いは通じたらしく、観念したように半助がコクリと頷いてくれた。
と同時に、甘えたな瞳を向けてきた。

「じゃあ、少しの間、こうしていい……？」

半助は机から身体を引き剥がすやいなや、今度は空に向かって倒れ込んできた。
今、空の太腿には半助の頭が乗っている。

「え？え？あの……土井先生？」
「……ぐるぢい……じんどい……」
「土井先生……」

いきなりのことに頬を赤らめた空も、事の深刻さを前に照れが消失する。
少しでも痛みが和らぐようにと祈りながら、やさしく頭を撫でる。
半助の症状が落ち着くまで、しばらく付き添うことにした。




断続的な呻き声がしばらくの間部屋を支配していた。
が、ある瞬間からそれがプツリと切れる。
薬が効いてきたのだろう。
やつれていた半助の表情に幾分生気が戻っている。
目が合うと、半助が安堵の息をついた。

「ふぅ……ようやく薬が効いてきたようだ」

半助がゆっくりと起き上がった。

「痛みが引いてよかったです。でも、あまり無理はなさらないほうが、」
「とは言うてもなぁ……無理をしないといけないときもあるんだよ、これが」

そう言って、半助が積み重ねられた書類の山を見る。
通常の何倍もある量に空が目を瞠った。

「こ、こんなに！？相当仕事に追われているようですけど、何かあったんですか？」
「実は、」

半助が渋い表情で語り出した。