禍福は糾える縄の如し
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さて、喧嘩したほうの片割れ――山田伝蔵はどうしているかというと、同僚の土井半助と二人で歩いている。
一年教師陣による合同会議に向かっていた。
「ふぅ……」
同僚が隣で何回も溜息をつく。
見かねた半助はもう言わずにはいられなかった。
「山田先生……さっきから溜息多いですよ」
「そうか?気のせいだろう」
「いや、明らかに多いですよ。利吉君との喧嘩が尾を引いてるんじゃないですか?」
「な……!?ワシは別に。利吉のことなんか、全然、ちっとも、これっぽ~っちも気にしておらん!」
伝蔵がプイっと横を向く。
それを見て、今度は半助が溜息をもらした。
「まったく、素直じゃないんだから。そんなに気になさっているのなら、さっさと謝ればいいのに……」
そんなこと、できるもんならとっくにやっとるわい。
伝蔵が心の中でごちる。
だが、利吉に言われた言葉を思い出すと、絶対にこちらから折れるものかという意地がわいてくる。
「昔は利吉とあんなに仲よかったのにのう……」
伝蔵が虚空を見つめる。
このとき、伝蔵の脳裏には若かりし日の二人が浮かんでいた。
『ちちうえ!』
遠くから利吉が一生懸命走ってくる。
伝蔵は利吉を受け止め、軽々と肩車をした。
『ねぇ、ちちうえ』
『何だ、利吉』
上向けば、つぶらな二つの目が伝蔵を捉える。
『ぼく、ちちうえもははうえも、だいだいだ~いすき!ずっとなかよしでいようね!!!』
そう言って、利吉は弾けるように笑う。
親からすれば、それは最高級の笑顔だった。
現実に戻った伝蔵の目は涙で潤んでいた。
「利吉、ああ利吉!父は、父は……あの頃に戻りたいぃぃっ!!!」
息子への想いが爆発し、伝蔵が号泣する。
横で歩く半助はゲゲッと顔を引きつらせた。
「や、山田先生……とにかく、落ち着いてください!」
「これが落ち着いていられるか……うぉぉぉ、利吉ぃぃぃ!」
「まいったな……やせ我慢せずに素直に謝ればいいのに。ん?あれは……」
前方から歩いてくる人物の姿を目に入れて、半助が声をかける。
「やあ、空君」
「土井先生!」
空が目を丸くする。
というのも、半助が自分を見る目がまるで救世主を見るかのようなものだったからだ。
「あの……どうかされたんですか?」
「う~ん、ちょっとな。アレ……見てくれる?」
半助が指差した方を見る。
そこには少し離れたところで「うぉぉぉぉん!」と男泣きする伝蔵の姿があった。
ちなみに空たちの存在にはまだ気づいていない。
「や、山田先生……一体どうしたんですか?」
「山田先生、利吉君との諍いがよっぽど堪えているみたいなんだ」
「そうですか……」
「それより、その子は誰なんだい?」
半助がチラッと視線を移す。
空の隣にいる子どもの存在が気になっていた。
「利吉さんがなかなか戻ってこないので、探しに行ったら、落とし穴から出てきたこの子を見つけたんです。そういえば、名前聞いてなかった。ボク、お名前は?」
「え……えっと……あの……」
急に注目が集まり、利吉はしどろもどろ。
空と半助は暖かく見守っている。
(空さん一人なら正体を明かせるのに、土井先生がいるとやりづらいな……)
結局、考えあぐねた利吉の口から出たのは、
「ぼ、ぼく、伝助と申します……」
という偽名だった。
「伝助くんか。ふ~ん、近くの村の子かな?」
「詳しいことはあとでこの子から聞きます。それよりも、伝助くんの着物が汚れちゃったので、綺麗にしてきますね」
半助にそう伝え、空がその場をあとにしようとする。
伝蔵の横を通り過ぎようとしたときだった。
「ま、待ってくれ!」
急に伝蔵に呼び止められて、空が足を止める。
「山田先生、何か?」
「空君、その子は……?」
「えっ……この子は、伝助くんって言いますけど」
「よう似ておる!」
空と手を繋いでいる幼児を見た瞬間、伝蔵の身体を電撃が貫いていた。
大きなどんぐりまなこも、丸い輪郭を描いた頬も、幼気な小さな手も何から何まで幼少の利吉そのものだったのだ。
鬼気迫る表情で、伝蔵が空に食らいついた。
「空君、ほんの少しの時間でいいからこの子を貸してくれんか!?」
「はっ?あ、あの……一体どういうことですか、山田先生?」
「この子……小さい頃の利吉にそっくりなんじゃ!ワシは……ワシは今、猛烈に懐かしい親子の思い出に浸りたくてたまらんのだ!」
思わぬ申し出に、伝蔵以外の三人はポカンとする。
「や、山田先生……それは一体どういうことでしょうか?」
「うむ。具体的にはだな、この子を肩車したり、頬にすりすりしたり、ぎゅーっと抱きしめたり、スキンシップを図ろうと思っておる!」
聞いた瞬間、空と半助の背筋が凍りつく。
半助が慌てて言った。
「や、山田先生……さすがにそれはまずいですよ。親戚とかならともかく、顔がおっかなくてむさくるしい中年の男性にいきなり抱きしめられて喜ぶ子どもなんていません!」
「おい、半助ぇ!今台詞の中にさりげなく悪意を散らしていなかったか!?」
「い、いえいえ……決してそんなことは……!ほら、子どもというのは空君みたいな女性なら警戒心がないというか、ねぇ」
半助が助けを乞うように空を見る。
空は何度も何度も頷いた。
利吉に至っては、
(中身は大人なんだぞ!父上と頬ずりとか……冗談じゃないっ!!)
と断固拒否の姿勢である。
防衛本能が働き、咄嗟に空の背後に隠れていた。
「ほ、ほら……あのとおり伝助君も怯えてますよ。だから、」
「フン。それならいい解決方法がある」
「え?」
「男の姿がまずいなら、女になればいい!」
言い終えて、伝蔵がその場でターンする。
次の瞬間には麗しい(と本人だけが思っている)女装姿……伝子が現れた。
「うふふ……これで準備はOK。さぁ、伝助くぅん。遠慮なく私の胸へ飛び込んでいらっしゃ~い♡」
伝子が得意の片瞬きを決める。
残りの三人は喜劇役者のようにずっこけた。
一年教師陣による合同会議に向かっていた。
「ふぅ……」
同僚が隣で何回も溜息をつく。
見かねた半助はもう言わずにはいられなかった。
「山田先生……さっきから溜息多いですよ」
「そうか?気のせいだろう」
「いや、明らかに多いですよ。利吉君との喧嘩が尾を引いてるんじゃないですか?」
「な……!?ワシは別に。利吉のことなんか、全然、ちっとも、これっぽ~っちも気にしておらん!」
伝蔵がプイっと横を向く。
それを見て、今度は半助が溜息をもらした。
「まったく、素直じゃないんだから。そんなに気になさっているのなら、さっさと謝ればいいのに……」
そんなこと、できるもんならとっくにやっとるわい。
伝蔵が心の中でごちる。
だが、利吉に言われた言葉を思い出すと、絶対にこちらから折れるものかという意地がわいてくる。
「昔は利吉とあんなに仲よかったのにのう……」
伝蔵が虚空を見つめる。
このとき、伝蔵の脳裏には若かりし日の二人が浮かんでいた。
『ちちうえ!』
遠くから利吉が一生懸命走ってくる。
伝蔵は利吉を受け止め、軽々と肩車をした。
『ねぇ、ちちうえ』
『何だ、利吉』
上向けば、つぶらな二つの目が伝蔵を捉える。
『ぼく、ちちうえもははうえも、だいだいだ~いすき!ずっとなかよしでいようね!!!』
そう言って、利吉は弾けるように笑う。
親からすれば、それは最高級の笑顔だった。
現実に戻った伝蔵の目は涙で潤んでいた。
「利吉、ああ利吉!父は、父は……あの頃に戻りたいぃぃっ!!!」
息子への想いが爆発し、伝蔵が号泣する。
横で歩く半助はゲゲッと顔を引きつらせた。
「や、山田先生……とにかく、落ち着いてください!」
「これが落ち着いていられるか……うぉぉぉ、利吉ぃぃぃ!」
「まいったな……やせ我慢せずに素直に謝ればいいのに。ん?あれは……」
前方から歩いてくる人物の姿を目に入れて、半助が声をかける。
「やあ、空君」
「土井先生!」
空が目を丸くする。
というのも、半助が自分を見る目がまるで救世主を見るかのようなものだったからだ。
「あの……どうかされたんですか?」
「う~ん、ちょっとな。アレ……見てくれる?」
半助が指差した方を見る。
そこには少し離れたところで「うぉぉぉぉん!」と男泣きする伝蔵の姿があった。
ちなみに空たちの存在にはまだ気づいていない。
「や、山田先生……一体どうしたんですか?」
「山田先生、利吉君との諍いがよっぽど堪えているみたいなんだ」
「そうですか……」
「それより、その子は誰なんだい?」
半助がチラッと視線を移す。
空の隣にいる子どもの存在が気になっていた。
「利吉さんがなかなか戻ってこないので、探しに行ったら、落とし穴から出てきたこの子を見つけたんです。そういえば、名前聞いてなかった。ボク、お名前は?」
「え……えっと……あの……」
急に注目が集まり、利吉はしどろもどろ。
空と半助は暖かく見守っている。
(空さん一人なら正体を明かせるのに、土井先生がいるとやりづらいな……)
結局、考えあぐねた利吉の口から出たのは、
「ぼ、ぼく、伝助と申します……」
という偽名だった。
「伝助くんか。ふ~ん、近くの村の子かな?」
「詳しいことはあとでこの子から聞きます。それよりも、伝助くんの着物が汚れちゃったので、綺麗にしてきますね」
半助にそう伝え、空がその場をあとにしようとする。
伝蔵の横を通り過ぎようとしたときだった。
「ま、待ってくれ!」
急に伝蔵に呼び止められて、空が足を止める。
「山田先生、何か?」
「空君、その子は……?」
「えっ……この子は、伝助くんって言いますけど」
「よう似ておる!」
空と手を繋いでいる幼児を見た瞬間、伝蔵の身体を電撃が貫いていた。
大きなどんぐりまなこも、丸い輪郭を描いた頬も、幼気な小さな手も何から何まで幼少の利吉そのものだったのだ。
鬼気迫る表情で、伝蔵が空に食らいついた。
「空君、ほんの少しの時間でいいからこの子を貸してくれんか!?」
「はっ?あ、あの……一体どういうことですか、山田先生?」
「この子……小さい頃の利吉にそっくりなんじゃ!ワシは……ワシは今、猛烈に懐かしい親子の思い出に浸りたくてたまらんのだ!」
思わぬ申し出に、伝蔵以外の三人はポカンとする。
「や、山田先生……それは一体どういうことでしょうか?」
「うむ。具体的にはだな、この子を肩車したり、頬にすりすりしたり、ぎゅーっと抱きしめたり、スキンシップを図ろうと思っておる!」
聞いた瞬間、空と半助の背筋が凍りつく。
半助が慌てて言った。
「や、山田先生……さすがにそれはまずいですよ。親戚とかならともかく、顔がおっかなくてむさくるしい中年の男性にいきなり抱きしめられて喜ぶ子どもなんていません!」
「おい、半助ぇ!今台詞の中にさりげなく悪意を散らしていなかったか!?」
「い、いえいえ……決してそんなことは……!ほら、子どもというのは空君みたいな女性なら警戒心がないというか、ねぇ」
半助が助けを乞うように空を見る。
空は何度も何度も頷いた。
利吉に至っては、
(中身は大人なんだぞ!父上と頬ずりとか……冗談じゃないっ!!)
と断固拒否の姿勢である。
防衛本能が働き、咄嗟に空の背後に隠れていた。
「ほ、ほら……あのとおり伝助君も怯えてますよ。だから、」
「フン。それならいい解決方法がある」
「え?」
「男の姿がまずいなら、女になればいい!」
言い終えて、伝蔵がその場でターンする。
次の瞬間には麗しい(と本人だけが思っている)女装姿……伝子が現れた。
「うふふ……これで準備はOK。さぁ、伝助くぅん。遠慮なく私の胸へ飛び込んでいらっしゃ~い♡」
伝子が得意の片瞬きを決める。
残りの三人は喜劇役者のようにずっこけた。