禍福は糾える縄の如し
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小休止が終わると、利吉は空と行動を共にすることにした。
今、事務の仕事を手伝っている。
本来ならば父・伝蔵の部屋で適当にくつろぐのだが、彼と喧嘩してしまった今完全に居場所を失っていた。
「利吉さん、お休み中なのに付き合わせちゃってすみません」
「いいんですよ。それに……書類整理とか普段やらない仕事って、新鮮で結構楽しいです」
「あの」
「なんですか?」
「少し元気ないみたいですけど、大丈夫ですか?その……山田先生と口論されたみたいだったし、ちょっと心配で」
「別に。気にしてませんよ、あんなのはいつものことです」
「そうですか……」
利吉は顔を曇らせる空を無視し、何事もなかったように書類を紐でまとめていく。
だが、指摘された瞬間、胸がズシンと重くなったのは行き過ぎた言動を後悔している証拠だ。
「空さん、こちらの分終わりました」
「ありがとうございます。次の資料は……あ、蔵からとってこないと。私が取りに……」
「いえ、私が行ってきます。空さんはここで自分の仕事を続けてください」
利吉は事務室を後にした。
歩きながら、利吉は伝蔵との諍いを思い出していた。
振り返ってみれば、数々の言葉の刃で伝蔵を責めた。
(確かに言い過ぎたかもしれないな……)
しかし、
『ひよっこ忍者』
『スットコドッコイ』
と侮辱の台詞を思い出せば、はらわた煮えくりかえる思いが甦ってくる。
(私は客観的事実を述べたまでだ!悪いのは向こうだ!)
利吉が歩みを早める。
(ああ、思い出すんじゃなかった!イライラして、動悸がしてくるし……)
(ん?動悸?)
自分の身体の異変に気付き、足を止める。
左胸に手を当ててみた。
ドクドクドクドク……
まるで激しい運動をした後のような、速い鼓動。
そう自覚した途端、今度は血が煮え滾るように沸騰していて、身体が熱くなっていく。
(な、なんなんだ……?)
次第に苦しさを感じ始めて、呼吸が乱れ始める。
たまらずその場に屈みこんだ。
蓄積され続ける体内の熱。
その熱はやがて外へと飛び出すように爆発した。
ボンッ!
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
利吉の悲鳴が劈くように響き渡った。
それから数十分後――
「ねぇ!」
「……ん?」
「しっかりして!ねぇ、大丈夫!?」
誰かがゆすり起こす。
重い瞼を持ち上げると、視界におさまったのはお転婆くのたまたちこと、ユキ、トモミ、そしてシゲだった。
(くノ一教室の子たちか……どうして私はこんなところで倒れているんだろう?そういえば……確か、蔵に向かう途中だったはず……)
利吉がゆっくりと起き上がる。
「私なら大丈夫だ。ありがとう……ん!?」
自分の発した声に、利吉の顔が凍り付く。
声色が稚児のように甲高くなっていたからだ。
(な、何で声が変わってるんだ!?)
そんな動転する利吉に対して、ユキたちは興味津々な目を向けている。
「ねぇ、ボク。どこから来たの?」
「年はいくつ?」
「だんまりとして……緊張しているのかしら?可愛いでしゅ♡」
目の前の人間が利吉と認識できていない、初対面な態度。
しかも子ども扱い。
ユキたちがやけに大きく見えるのも違和感ありまくりだった。
(なんかおかしいぞ……!)
利吉は咄嗟に自分の手を見た。
指は短く、丸っこい。
(も、もしかして……)
利吉は立ち上がった。
ユキたちを見上げるほど背丈が縮んでいる――嫌な予感がまた一歩現実へと近づいていく。
「あ!ねぇ、ボク!どこ行くの!?」
ユキたちの声も無視して、利吉は駆けだしていた。
一刻も早く自分の身に降りかかったことを確認するために。
***
忍術学園の庭の一角にある広い池を目指す。
池を見つけると、利吉はいの一番に水面を覗いた。
そこに映った自分の顔を見て、しばし呆然となった。
(やっぱり、若返っている……!)
頬はふっくらとしているし、キリリと引き締まった目元はくりくりと愛らしいそれに変わっている。
外見からするに、三歳くらいだろう。
(な、なんでこんなことに!?)
こんな緊急事態、父上ならどうするか。
が、真っ先に思いついた人間が伝蔵であることを認めたくなくて、思わずそっぽを向く。
(絶対に父上なんかに頼るものか!)
(落ち着け落ち着け……ひとまず状況を整理しよう……)
利吉はふぅと深く深呼吸し、周囲の目が届かない茂みに隠れる。
頭を冷やしながら、一人考察を始めた。
(やっぱり、どう考えてもあの木の実があやしいな……それしか考えられない)
(大体、鉄の胃袋の消化力を持つしんべヱを常人に当てはめることがおかしかったんだ!早いとこしんべヱを見つけて、木の実の詳細を調べないと……)
だが、ここで一つ不安がある。
いきなり子どもの姿で話しかければ、しんべヱたちは不審がるかもしれない。
或いはまともに取り合ってくれない可能性だってある。
「う~ん……」
変なものを食べて幼児になってしまった。
こんな奇想天外な話を信じてくれるのは、やはりあの人しかいない。
(未来から来た空さんなら、きっと私の話を信じてくれるはず。しんべヱたちに話しかけるのはそのあとだ!)
そうと決まればと、利吉は駆け出していた。
空のいる事務室へと。
利吉は風のように疾走していく。
幼児とはいえ、一流忍者としての能力が衰えてしまったわけではない。
(あそこ……土の盛り方が怪しい。落とし穴だな)
利吉がジャンプする。
競合地域の罠も難なくスルーする……はずだった。
ドッシャーン!
まさかの転落だった。
身体が縮んでいるため、大人の時ほど跳躍が伸びなかったのだ。
(いててて……私としたことが。体型が変わったことをすっかり忘れていた……)
穴に落ちた利吉が真上を見上げる。
(くそ……やっかいだな)
通常なら軽々と抜け出せるのに、幼児体型の今は死に物狂いだ。
ゼエゼエと息を切らしながら、なんとか登り切ると、ちょうどそこへ一人の女性が駆け付けてきた。
「っ……!大丈夫!?怪我してない?」
空だった。
おそらく長時間戻ってこない自分を心配して探しに来てくれたのだろう。
(空さん!)
思わず名を呼ぼうとしたが、寸前で躊躇ってしまう。
というのも、
「こんなに小さい子供が、可哀想に……」
「!」
至近距離でまじまじと顔を見つめられるわ、怪我をしていないか確認するためにボディタッチされるわ。
通常では考えられない空の積極性に真っ赤になって立ち尽くすのみだ。
「……」
ぼーっとする利吉に空はやさしく微笑みかける。
「こんな深い穴に落ちても泣かないなんて、強いのね。凄いよ、ボク」
「……」
「でも、服が汚れちゃってる……そうだ、綺麗にしてあげる。歩けるかな?」
「は、はい」
「じゃあ、行こう。ついてきて」
空が歩き出す。
(いかん。つい言いそびれてしまった……でも、)
「ん?どうしたの?」
と振り返った空から眩しい微笑みを向けられると、子どもの姿に満更でもなくなる利吉なのだった。
今、事務の仕事を手伝っている。
本来ならば父・伝蔵の部屋で適当にくつろぐのだが、彼と喧嘩してしまった今完全に居場所を失っていた。
「利吉さん、お休み中なのに付き合わせちゃってすみません」
「いいんですよ。それに……書類整理とか普段やらない仕事って、新鮮で結構楽しいです」
「あの」
「なんですか?」
「少し元気ないみたいですけど、大丈夫ですか?その……山田先生と口論されたみたいだったし、ちょっと心配で」
「別に。気にしてませんよ、あんなのはいつものことです」
「そうですか……」
利吉は顔を曇らせる空を無視し、何事もなかったように書類を紐でまとめていく。
だが、指摘された瞬間、胸がズシンと重くなったのは行き過ぎた言動を後悔している証拠だ。
「空さん、こちらの分終わりました」
「ありがとうございます。次の資料は……あ、蔵からとってこないと。私が取りに……」
「いえ、私が行ってきます。空さんはここで自分の仕事を続けてください」
利吉は事務室を後にした。
歩きながら、利吉は伝蔵との諍いを思い出していた。
振り返ってみれば、数々の言葉の刃で伝蔵を責めた。
(確かに言い過ぎたかもしれないな……)
しかし、
『ひよっこ忍者』
『スットコドッコイ』
と侮辱の台詞を思い出せば、はらわた煮えくりかえる思いが甦ってくる。
(私は客観的事実を述べたまでだ!悪いのは向こうだ!)
利吉が歩みを早める。
(ああ、思い出すんじゃなかった!イライラして、動悸がしてくるし……)
(ん?動悸?)
自分の身体の異変に気付き、足を止める。
左胸に手を当ててみた。
ドクドクドクドク……
まるで激しい運動をした後のような、速い鼓動。
そう自覚した途端、今度は血が煮え滾るように沸騰していて、身体が熱くなっていく。
(な、なんなんだ……?)
次第に苦しさを感じ始めて、呼吸が乱れ始める。
たまらずその場に屈みこんだ。
蓄積され続ける体内の熱。
その熱はやがて外へと飛び出すように爆発した。
ボンッ!
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!」
利吉の悲鳴が劈くように響き渡った。
それから数十分後――
「ねぇ!」
「……ん?」
「しっかりして!ねぇ、大丈夫!?」
誰かがゆすり起こす。
重い瞼を持ち上げると、視界におさまったのはお転婆くのたまたちこと、ユキ、トモミ、そしてシゲだった。
(くノ一教室の子たちか……どうして私はこんなところで倒れているんだろう?そういえば……確か、蔵に向かう途中だったはず……)
利吉がゆっくりと起き上がる。
「私なら大丈夫だ。ありがとう……ん!?」
自分の発した声に、利吉の顔が凍り付く。
声色が稚児のように甲高くなっていたからだ。
(な、何で声が変わってるんだ!?)
そんな動転する利吉に対して、ユキたちは興味津々な目を向けている。
「ねぇ、ボク。どこから来たの?」
「年はいくつ?」
「だんまりとして……緊張しているのかしら?可愛いでしゅ♡」
目の前の人間が利吉と認識できていない、初対面な態度。
しかも子ども扱い。
ユキたちがやけに大きく見えるのも違和感ありまくりだった。
(なんかおかしいぞ……!)
利吉は咄嗟に自分の手を見た。
指は短く、丸っこい。
(も、もしかして……)
利吉は立ち上がった。
ユキたちを見上げるほど背丈が縮んでいる――嫌な予感がまた一歩現実へと近づいていく。
「あ!ねぇ、ボク!どこ行くの!?」
ユキたちの声も無視して、利吉は駆けだしていた。
一刻も早く自分の身に降りかかったことを確認するために。
***
忍術学園の庭の一角にある広い池を目指す。
池を見つけると、利吉はいの一番に水面を覗いた。
そこに映った自分の顔を見て、しばし呆然となった。
(やっぱり、若返っている……!)
頬はふっくらとしているし、キリリと引き締まった目元はくりくりと愛らしいそれに変わっている。
外見からするに、三歳くらいだろう。
(な、なんでこんなことに!?)
こんな緊急事態、父上ならどうするか。
が、真っ先に思いついた人間が伝蔵であることを認めたくなくて、思わずそっぽを向く。
(絶対に父上なんかに頼るものか!)
(落ち着け落ち着け……ひとまず状況を整理しよう……)
利吉はふぅと深く深呼吸し、周囲の目が届かない茂みに隠れる。
頭を冷やしながら、一人考察を始めた。
(やっぱり、どう考えてもあの木の実があやしいな……それしか考えられない)
(大体、鉄の胃袋の消化力を持つしんべヱを常人に当てはめることがおかしかったんだ!早いとこしんべヱを見つけて、木の実の詳細を調べないと……)
だが、ここで一つ不安がある。
いきなり子どもの姿で話しかければ、しんべヱたちは不審がるかもしれない。
或いはまともに取り合ってくれない可能性だってある。
「う~ん……」
変なものを食べて幼児になってしまった。
こんな奇想天外な話を信じてくれるのは、やはりあの人しかいない。
(未来から来た空さんなら、きっと私の話を信じてくれるはず。しんべヱたちに話しかけるのはそのあとだ!)
そうと決まればと、利吉は駆け出していた。
空のいる事務室へと。
利吉は風のように疾走していく。
幼児とはいえ、一流忍者としての能力が衰えてしまったわけではない。
(あそこ……土の盛り方が怪しい。落とし穴だな)
利吉がジャンプする。
競合地域の罠も難なくスルーする……はずだった。
ドッシャーン!
まさかの転落だった。
身体が縮んでいるため、大人の時ほど跳躍が伸びなかったのだ。
(いててて……私としたことが。体型が変わったことをすっかり忘れていた……)
穴に落ちた利吉が真上を見上げる。
(くそ……やっかいだな)
通常なら軽々と抜け出せるのに、幼児体型の今は死に物狂いだ。
ゼエゼエと息を切らしながら、なんとか登り切ると、ちょうどそこへ一人の女性が駆け付けてきた。
「っ……!大丈夫!?怪我してない?」
空だった。
おそらく長時間戻ってこない自分を心配して探しに来てくれたのだろう。
(空さん!)
思わず名を呼ぼうとしたが、寸前で躊躇ってしまう。
というのも、
「こんなに小さい子供が、可哀想に……」
「!」
至近距離でまじまじと顔を見つめられるわ、怪我をしていないか確認するためにボディタッチされるわ。
通常では考えられない空の積極性に真っ赤になって立ち尽くすのみだ。
「……」
ぼーっとする利吉に空はやさしく微笑みかける。
「こんな深い穴に落ちても泣かないなんて、強いのね。凄いよ、ボク」
「……」
「でも、服が汚れちゃってる……そうだ、綺麗にしてあげる。歩けるかな?」
「は、はい」
「じゃあ、行こう。ついてきて」
空が歩き出す。
(いかん。つい言いそびれてしまった……でも、)
「ん?どうしたの?」
と振り返った空から眩しい微笑みを向けられると、子どもの姿に満更でもなくなる利吉なのだった。