春休み、ふたりきり(前編)
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
結局、空と半助は花畑を離れた。
どこへ向かっているのか空にはわからない。
手を握る半助に黙ってついていくのみだ。
暖かい春風がふたりの頬を撫でていく。
白いちょうちょが周りをふわふわと飛び、道端の花の上で羽根を休める。
視界に映り込む風景は穏やかなのに、ふたりを取り巻く空気は重い。
あの家族に水を差されてからというもの、半助は一言も発さない。
おそるおそる隣にいる半助を見れば、眉間に皺を寄せ、渋面をつくっている。
未遂に終わったことが、余程悔やまれるのか。
もし、あそこで邪魔が入らなければ、半助の唇は自分の唇だけでなく、首や鎖骨にも降りてきていたかもしれない。
想像して、思わず身体が熱くなった。
「空」
「はい」
「少し早いけど、もう家に帰らないか?」
「えっ?」
「今日はもう……」
一瞬言いよどんでから、半助は思い切るように続きを言った。
「君とふたりきりになりたい」
大きな手がぎゅっと握りしめてくる。
もうずっとふたりきりなのに……。
半助が何を求めているか、空はもう理解している。
こうなる甘い予感はあった。
それは直前の花畑にいるときではなくて、出発間際に身体を撫でられたあの瞬間 から。
「……」
自分とて、心の底ではずっと半助を求めていた。
欲情していた。
女の悦びを知ってからというもの、愛された記憶に浸るだけで身体が疼いてしまう。
裸で抱き合い、武骨な男の手で全身を愛撫され、熱く滾った男のもので貫かれる。
そんな淫らな情景がふとした瞬間にまで頭によぎっている。
ついこの間まで男を知らなかった女とは思えない。
自分が、こんなにはしたなかったなんて……。
愛されたい。
そう願うば願うほど、肉欲に支配される自分が自分ではないみたいだった。
恥ずかしかったし、何だか疚しくもある。
だから、あの日の晩半助とふたりきりになることを空は避けた。
だが、猛烈に自分を欲している半助を見てしまうと、生じていた戸惑いが砂のように消えてゆく。
いつも凪いでいるはずのやさしい瞳に、焼けつくような欲情を浮かばせている。
その眼を見た瞬間、好きな男に求められる以上に幸せなことはない――そう気づいてしまった。
激しい渇望を向ける半助がただただ愛おしかった。
きっとこの男になら、すべてを見せられる。
いやらしい自分を含めて、何もかも。
「……」
空は返事の代わりに、少し汗ばんだ半助の手を強く握り返した。
どこへ向かっているのか空にはわからない。
手を握る半助に黙ってついていくのみだ。
暖かい春風がふたりの頬を撫でていく。
白いちょうちょが周りをふわふわと飛び、道端の花の上で羽根を休める。
視界に映り込む風景は穏やかなのに、ふたりを取り巻く空気は重い。
あの家族に水を差されてからというもの、半助は一言も発さない。
おそるおそる隣にいる半助を見れば、眉間に皺を寄せ、渋面をつくっている。
未遂に終わったことが、余程悔やまれるのか。
もし、あそこで邪魔が入らなければ、半助の唇は自分の唇だけでなく、首や鎖骨にも降りてきていたかもしれない。
想像して、思わず身体が熱くなった。
「空」
「はい」
「少し早いけど、もう家に帰らないか?」
「えっ?」
「今日はもう……」
一瞬言いよどんでから、半助は思い切るように続きを言った。
「君とふたりきりになりたい」
大きな手がぎゅっと握りしめてくる。
もうずっとふたりきりなのに……。
半助が何を求めているか、空はもう理解している。
こうなる甘い予感はあった。
それは直前の花畑にいるときではなくて、出発間際に身体を撫でられたあの
「……」
自分とて、心の底ではずっと半助を求めていた。
欲情していた。
女の悦びを知ってからというもの、愛された記憶に浸るだけで身体が疼いてしまう。
裸で抱き合い、武骨な男の手で全身を愛撫され、熱く滾った男のもので貫かれる。
そんな淫らな情景がふとした瞬間にまで頭によぎっている。
ついこの間まで男を知らなかった女とは思えない。
自分が、こんなにはしたなかったなんて……。
愛されたい。
そう願うば願うほど、肉欲に支配される自分が自分ではないみたいだった。
恥ずかしかったし、何だか疚しくもある。
だから、あの日の晩半助とふたりきりになることを空は避けた。
だが、猛烈に自分を欲している半助を見てしまうと、生じていた戸惑いが砂のように消えてゆく。
いつも凪いでいるはずのやさしい瞳に、焼けつくような欲情を浮かばせている。
その眼を見た瞬間、好きな男に求められる以上に幸せなことはない――そう気づいてしまった。
激しい渇望を向ける半助がただただ愛おしかった。
きっとこの男になら、すべてを見せられる。
いやらしい自分を含めて、何もかも。
「……」
空は返事の代わりに、少し汗ばんだ半助の手を強く握り返した。