利吉さんと外出

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と利吉は町一番の人気の茶店を訪れていた。
席に着くやいなや、は真っ先にお品書きに目を通す。
目を凝らしながら、やがて向かいに座る利吉に確認するように尋ねた。

「お品書きなんですけど……これは草餅って書いてあるんですよね?」
「はい。そうですけど……」

質問された側の利吉は、目を丸くして驚いている。
子どもの乱太郎たちと同席しても、そのような質問を受けたことは一度もないからだ。
訝しがる利吉の視線を受け、はまずいと思ったのか慌てて弁明していく。

「あの……私、実は今文字を勉強中なんです。小さい頃周りから大事にされすぎてしまったようで、今苦労しているんです……ははは……」
「だから、土井先生の授業をとっているんですか?」
「そうそう、そうなんです!」
「へぇ……」

は内心ヒヤヒヤしていた。
自分が未来から来た、なんて俄かには信じがたいことを口外するつもりは毛頭ないからだ。

利吉は何ともない顔で聞いているようで、やはり疑っていた。
思えば、に関して不思議に思う点が多々あった。
ごくごく一般的な話は成立しているが、地名の話や慣習の話になるとしどろもどろ。
適当に相槌を打ったり、知ったかぶりをしたり。
不自然さが際立っていた。

それに、のどこか神秘的な雰囲気も常々気になっていた。
普通の人間にはない、まるで遥か遠い異国の地で生まれ育ったような独特の雰囲気が――

利吉は今、無性に知りたくなっていた。
の秘密を。

さん」
「は、はい!」
「あなたが学園長の知り合いの孫ということで忍術学園に身を置いているのは父上から聞いています。ですが、私はそれだけが理由とはどうしても思えないのです……」
「……」
「あなたが何故忍術学園にいるのか……その本当の理由を部外者の私にはやはり口外できないのでしょうか?」
「利吉さんは……どうしてそこまで私のことを気にかけてくれるんですか?」

利吉の真摯な瞳を受け、逆にが質問せずにはいられなかった。

「力になりたいんです。もし、あなたが何者かに追われて命を狙われている身であれば、私も忍術学園の皆と同様、あなたを守りたい、そう思ったんです」

利吉の言葉を受けて、は困惑してしまう。
かえって本当の理由を言いづらくなってしまったのだ。
おそらく利吉は自分のことを一国の姫や身分の高い人間だと良い方へと勘違いしているのだろう。
そんな大層な理由など、もちろんなかった。

「利吉さん……生憎ですが、私には追手もいないし、また命を狙われてもいません。本当に世間知らずの私を矯正するために、忍術学園に住まわせてもらっているんです」

としてはこう返すしかなかった。

「やはり……私は信頼に足る人間ではないということですか」

利吉は目を伏せる。

「……」

周囲の客たちの話し声が聞こえなくなるほど、は動揺していた。
もう気まずくてしょうがなかった。
せっかく利吉と親しくなれたのに、勘の鋭い利吉に隠し事をしなければいけないことが。

(利吉さん……)

は利吉の顔をじっと見る。
見ているうちに、は少し前のことを思い出していた。
忍術学園に訪れた利吉と初めて対面して、利吉と穴に落ちたときのことを。

あのとき――
穴に落ちる瞬間、利吉は身を挺して自分をかばってくれた。
会って間もない自分にそんなことができる利吉は、十分に信用できる人間ではないか。

(忍術学園の皆……ごめんなさい!利吉さんには、きちんと話しておきたい……!)

「利吉さん!」

に強く呼ばれ、利吉は顔を上げた。
見れば、の表情は固い。
覚悟が伴っている。

「あの……忍術学園のみんなも、そして、先生方も知っているんですけど、実は私……」

は自分のことを包み隠さず語り出した。
利吉は口をつぐんだまま、その話に耳を傾けていた。






「信じられない……」

さすがの利吉も、目の前の少女が未来から来たという事実には、絶句せざるをなかった。

「そう受け取るのも、無理はないです……」

はやるせない表情を浮かべている。
不思議な力でこの過去の世界へと導かれた――その支離滅裂な内容に自分でも呆れてしまうのだから。
こうやって話したところで否定や嘲笑は当然なのかもしれない。
そう覚悟はしているし、また諦めてもいる。

利吉はを静かに見据えている。
どこか怒ったような眼差しに、は落胆した。

(そうだよね……信じられないよね……)

だが、利吉の口から出たのは言葉は、意外なものだった。

「正直、まだ実感が湧きません……だけど、話している様子からさんが嘘をついているとはとても思えない」
「え……?」
「ただ……私はさんの話をもっと聞きたいと思いました。向こうで何をしていたのか。どんな風に育ってきたのか。どんな光景を見てきたのか」
「利吉さん……」
「仕事柄、疑り深い性格だと自覚していましたが、どうやら意外と単純なようです。あなたのことになると」

そう言って、利吉はを安心させるように微笑んだ。

「利吉さん……」

利吉が自分の話したことを信じてくれた。
ほっとした瞬間、嬉しさで目頭が熱くなる。
涙が頬を伝い落ちる前に、慌てて目元を押さえた。

「まだ時間はありますから、さんのいた世界のこと、色々と聞いてもいいですか?」
「はい。あ、でも、私も利吉さんのこと色々知りたいです。小さい頃の話とか……」
「もちろん」

利吉が快く返事をする。
こうしてと利吉は時間の許す限り、語り合った。

話し終える頃には、互いが互いを見る瞳には親しみがこもっている。
二人の心の距離は急速に縮まっていた。
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