意外な一面

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は食堂のおばちゃんと杭瀬村に来ていた。
大木から文をもらい、杭瀬村で育てている野菜を取りに来たのだ。
二人がいる辺りはそこかしこと農地が広がっている。

「のどかなところですね」
「そうねぇ。あ、ちゃん、あそこが大木先生の家よ!」

そう言って、おばちゃんがある一点を指す。
他の民家と少し距離をとるようにして、大木の家は存在していた。




「大木先生!いらっしゃいますか?」

目の前の戸を叩きながら、おばちゃんが声をかける。
だが、返事はすぐには返ってこなかった。
しばらくして、ゆっくりと木戸が開く。
弱弱しい声とともに大木が姿を現した。

「おお……食堂のおばちゃんに……よく来たな」
「大木先生!?」

大木はよろよろとしながらも出迎えてくれたが、すぐにその場にへたりこんでしまった。

「わっ!すごい熱じゃないですか……!?」
ちゃん、手伝ってくれる?大木先生を床まで運ぶわよ」
「はい!」

食堂のおばちゃんとは両側から大木の身体を支え、布団まで連れていった。



***


「二人がきてくれて、助かった……」

大木は昨晩から調子を崩していた。
熱がある、と気づいたときにはもう遅かった。
すでに身体が重く、強い倦怠感が全身を襲っていて、たちが来るまでずっと床に伏していたのだ。

「はぁ、びっくりしたわよ。あの病気と無縁な大木先生がねぇ」
「食堂のおばちゃん、ワシ自身も驚いておる。このワシとしたことが体調管理を怠るとは……情けない」
「とにかく、ただの風邪みたいでよかったですね。はい、これ……村の人に薬を頂いてきました」

そう言って、が粉薬と水を運んでくる。
仰向けに寝ている大木の近くへ座ると、心配そうにその顔を覗き込んだ。
普段の大木の顔には見られない、目の下にできた窪みが痛々しい。

「大丈夫ですか?薬……飲めそうですか?」

いつも顔を合わせれば、諍いへと発展してしまう間柄のも、このときだけは心から気遣っている。
(尤も、から喧嘩を吹っかけたことは一度もないが)
そんなの態度が意外だったようで、大木はぽーっと見とれてしまった。

(こいつ……本当にあのか?)
(こんなに……可愛かったっけ……?)

一回り以上も年下で、恋愛対象として見ていなかったが意外にも魅力にあふれていることに気づく。
見目が良いのは認めているが、所詮は小娘だと軽視していた。
しかし、近くで見れば、その均整のとれた顔立ちに目をみはる。
小ぶりで愛らしい唇がわずかに開き、心配そうに見つめてくる瞳は潤んでいる。
その憂う顔が上品な色気を醸し出していた。

(い、いかん……!)

これ以上見ては目の毒だと、慌ててから目をそらす。
元々発熱していた顔がさらに赤くなる。
そんな大木を見て、と食堂のおばちゃんはますます不安の色を強くした。

「大木先生、熱あがってきたんじゃない?」
「ほんとですね……大木先生、ちょっと失礼しますね」

そう言って、が大木の額に手を添えた。
ひんやりとした手の感触が心地よい。
が、今の大木には逆効果だった。

「やだ!さっきよりも熱があがってきてるかも。大木先生、早く薬を飲んでください!起き上がれますか?」
「あ、ああ」

の口調がいつになく厳しく真剣で、そのギャップにドキリとした大木は素直に指示に従う。

「……」

水で溶いた薬を胃へ流しこみながら、大木はのことをチラッと見る。
眉を曇らせ、ひたすら自分の身を案じていてくれる。
それがなぜだか無性に嬉しかった。

「よかった。薬は全部飲んだから、あとは安静にしておくことですね」
「はん、にしては上出来だ」

やさしくされているにもかかわらず、ついいつもの調子で憎まれ口を叩いてしまう。
だが、病気を患っている大木の挑発に、は流石に乗らない。
逆に十分元気そうだと、安心したように微笑んでいた。

「それにしても……大木先生、早くお嫁さんもらったほうがいいんじゃない?こういうとき、奥さんがいた方が安心でしょう」
「いや、まだ結構だ。一人の女のものになったら、ワシのファンが悲しむからな」
「またまた」

食堂のおばちゃんとがどっと笑った。

「でも、今日みたいなことがまたあったら心配。これからは、ちょくちょく私とちゃんで様子を見に来た方がいいのかしら」
「はは。そうしてくれたら、食堂のおばちゃんの手料理が頻繁に食える。嬉しいな」
「んま、大木先生たら」

大木に甘えられて上機嫌のおばちゃんの横で、は微妙な表情をつくっている。
会う機会が増える――それは大木と自分が衝突する機会も増えることを意味する。

(まぁ……しょうがないか……)

食堂のおばちゃんと楽しそうに話す大木を見ると、そんなもやもやした思いがどこかへ吹き飛んでしまうのだった。



***

薬を飲んでしっかり睡眠をとった大木は、夕方までにはほぼ熱が下がっていた。
驚くべき回復力であった。

食堂のおばちゃんはご近所へ挨拶しに出かけている。
は忍術学園に帰る準備をしていた。
収穫した野菜を籠に積み終えたところに、大木がやってきた。


「あ、大木先生。横になってなくて大丈夫ですか?」
「いや、この通り、どこんじょー!で風邪は治った。だから大丈夫だ」
「どこんじょーですか、」

ははは……とは苦笑する。
対して、大木はどこか恥ずかしそうにしているが、やがて意を決して言った。

……今日は世話になった。礼を言う」
「……」
「なんだその間抜けな顔は?」
「い、いえ。何だかやけに素直だな、て……」
「おい、何か勘違いしていないか?元々、ワシは心が清らかな人間だぞ。感謝するときは素直に感謝する」

自分のことを清らかだときっぱり言う大木に唖然とするだったが、やがてニコッと笑った。

「風邪、良くなってよかったですね」
「ああ。まぁ、たまには風邪を引くのも悪くない。色々と発見があった」
「はぁ。発見ですか……」
「ふむ。もちったぁ、色気が出てきたんじゃないか?この辺とか」

そう言って、大木がの頬を指でツンツンと突いた。

「い、いきなり何するんですか!?私のこと、また馬鹿にしてるんですか?」
「う~ん、これで看病のとき、一緒に添い寝を申し出ていたら、大人の女として完璧だったんじゃが……」
「やだ、もう!」
「ああ、でも抱き心地悪そうだから、やっぱり遠慮しておこう」
「大木先生!」

結局、は大木におちょくられてしまう。
いつも通りの光景がそこにはあった。

「あらあら」

ご近所回りから戻ってきた食堂のおばちゃんが、いがみ合う二人の姿を呆れたように見つめていた。
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