利吉さんと外出
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日が徐々に傾き、周囲が赤く染まり始めた時間。
空と利吉は並んで田舎道を歩いていた。
利吉は買い物の品をパンパンに詰めた重い籠を背負って歩いているのに、行きと同様、疲れの表情を一切見せない。
一流忍者の名は伊達ではなかった。
「今日利吉さんと沢山話せてよかったです。利吉さんって結構気さくなんですね」
空は心からそう言った。
仕事柄、様々な人間と会話をする機会の多い利吉は話が上手い。
聞いていて、ついプッと吹き出すことが何度もあった。
こんな風に親しく話せる男性は半助だけだと思いこんでいた空にとって、利吉という男の出現はその固定観念を覆していた。
会話中、利吉は終始笑顔を浮かべていた。
が、ある人物が話題に出るたびに、その心はチクリと痛んだ。
半助だ。
半助の話をするときの空の表情は、頬が緩み切っている。
余程、尊敬を寄せているのだろう。
その感情が友愛の域におさまればいいが、放っておけば、いつしか半助を愛してしまうかもしれない。
そう考えた瞬間、利吉の心を抑えきれないほどの嫉妬の感情が覆い尽くし、今の状況に危惧した。
空が申し訳なさそうに言う。
「すみません、荷物全部持たせた上にお団子までご馳走になっちゃって」
「お団子、お代わりしてましたよね」
「おごってもらった上にお代わりまでして、本当にごめんなさい」
次からは厚意に甘えすぎないようにしようと、空は反省している。
「……」
利吉は空の様子を窺っていた。
相手が申し訳なさや後ろめたさを感じていればいるほど、自分の要求が通りやすいものである。
これを利用し、空にもっと自分を男として意識してもらおう。
利吉はあることを願い出た。
「気にしないでください。その代わり、一つもらっても良いですか?空さんのお仕事をお手伝いしたご褒美を」
「ご褒美……ですか?」
何のことかと空はキョトンとする。
利吉は荷物の入った籠を降ろし、空の前に立ち、片膝をつく。
徐に空の手を取ると、静かに接吻 をした。
「あっ……」
手が、次に身体全体が熱くなる。
「利吉さん……」
陶然とした顔で、空は利吉の名を呟いていた。
(忍術学園にずっと居られない私は土井先生より不利だからな。今はこれで十分……)
利吉は無言のまま、優しく微笑む。
その頬もまた、夕焼けのように赤く染まっていた。
***
利吉と空は日の沈みきる前に忍術学園へ戻ってこれた。
食堂のおばちゃんに買い出しの品を届けたあと、二人は教職員長屋の方へと向かう。
廊下を歩いていると、反対側からやってきた半助と出くわした。
「あれ!?利吉君、来てたんだ。……ん!」
にこやかに挨拶する半助だったが、利吉の後ろで佇む小袖姿の空を見た瞬間、その顔が強張る。
今の今まで利吉と二人でいたのか。
半助はもう気が気じゃなかった。
一方、利吉は半助の動揺を目の当たりにし、これ見よがしに言った。
「父上に会いにこちらに寄ったのですが……訳あって、さっきまで町に出かけていました。ね、空さん」
「はい、利吉さんに食堂の買い出しの仕事を手伝ってもらって」
「そ、そうだったのか」
張り付いた笑顔をつくる半助を見て、利吉は内心ほくそ笑んでいる。
追い打ちをかけるように話を続けた。
「今日という日に、忍術学園に立ち寄って正解でした。空さんのお役に立てたし、ご褒美まで頂けて」
「り、利吉さん!あ、あれは……!」
「わかってます。秘密ですよね、二人だけの」
利吉と空による、当人同士にしかわからない会話。
二人の親密ぶりに当てられ、半助は今心の中で激しい苛立ちを募らせている。
慌てふためく空。
平然としている利吉。
どこか面白くないような表情で軽く唇を噛む半助。
そんな三者三様の反応をする三人の前に、伝蔵が姿を現した。
「父上!」
「利吉。何だ、来てたのか」
「お待ちしておりました!母上のことで、話があります!さあ、早く中へ……」
伝蔵の背中を押しつつ、涼しげな顔で二人を見届けながら、利吉は部屋の中へと消えていった。
半助は空をチラリと見る。
うっすらと頬を紅く染めて、自分の左手を愛おしげに見つめている。
キスをされた方の手を。
「空君。さっきからずっと手ばっかり見てるけど」
「え、あ、いや……あの、これは……何でもないです。何でも……」
空が誤魔化すように笑う。
「怪しい……」
「べ、別に何でもないですってば」
ジト目の半助に見つめられれば、何故か後ろめたさを感じずにはいられない。
次第に空に焦りが生じ始めた、そのときだった。
「あ、土井先生に空さん!」
「ほんとだ」
放課後裏山で時間をつぶしていた乱太郎、しんベヱ、きり丸が戻ってきたのだ。
いつもと異なる空の装いに気づいたきり丸が何気なく尋ねる。
「空さん、どうして今日は小袖なんですか?」
「え……ああ、ちょっとね。食堂の仕事で、町に買い出しにいってたの」
「その着物、初めて見た。すっげえ似合ってる。ねぇ、土井先生?」
「あ、ああ」
利吉といたことに動揺しすぎた半助だったが、頭巾を被っていない髪を下ろした空の小袖姿は、持ち前の魅力を存分に引き出している。
ひとたび意識すれば、その美しさに半助は胸の高鳴りを抑えられない。
「今度、その服着てみんなで町へ行きましょうよ!空さんと初めて一緒に町へ行ってから、それっきりだもん」
「きり丸、それいい!」
「うんうん!ボク、また空さんとお団子食べた~い!」
和気あいあいとする三人を見て、空は目を細めている。
「うん。じゃあ、次に町にいくときはこの服を着ていくね」
「約束っすよ。ねぇ、土井先生!」
「ああ」
無事頭数に入れられたことにほっとしたのか、半助は嬉しそうに相槌を打つ。
ふと、乱太郎が気づいたように言った。
「あのときと同じメンバーなら、伝子さんはどうしますか?誘いますか?」
「誘うしかないだろう……少し前にお気に入りの紅が切れたって私まで巻き込んで大騒ぎしていたからな」
どこか諦めたような半助の発言に、その場にいた全員が弾けるように笑った。
空と利吉は並んで田舎道を歩いていた。
利吉は買い物の品をパンパンに詰めた重い籠を背負って歩いているのに、行きと同様、疲れの表情を一切見せない。
一流忍者の名は伊達ではなかった。
「今日利吉さんと沢山話せてよかったです。利吉さんって結構気さくなんですね」
空は心からそう言った。
仕事柄、様々な人間と会話をする機会の多い利吉は話が上手い。
聞いていて、ついプッと吹き出すことが何度もあった。
こんな風に親しく話せる男性は半助だけだと思いこんでいた空にとって、利吉という男の出現はその固定観念を覆していた。
会話中、利吉は終始笑顔を浮かべていた。
が、ある人物が話題に出るたびに、その心はチクリと痛んだ。
半助だ。
半助の話をするときの空の表情は、頬が緩み切っている。
余程、尊敬を寄せているのだろう。
その感情が友愛の域におさまればいいが、放っておけば、いつしか半助を愛してしまうかもしれない。
そう考えた瞬間、利吉の心を抑えきれないほどの嫉妬の感情が覆い尽くし、今の状況に危惧した。
空が申し訳なさそうに言う。
「すみません、荷物全部持たせた上にお団子までご馳走になっちゃって」
「お団子、お代わりしてましたよね」
「おごってもらった上にお代わりまでして、本当にごめんなさい」
次からは厚意に甘えすぎないようにしようと、空は反省している。
「……」
利吉は空の様子を窺っていた。
相手が申し訳なさや後ろめたさを感じていればいるほど、自分の要求が通りやすいものである。
これを利用し、空にもっと自分を男として意識してもらおう。
利吉はあることを願い出た。
「気にしないでください。その代わり、一つもらっても良いですか?空さんのお仕事をお手伝いしたご褒美を」
「ご褒美……ですか?」
何のことかと空はキョトンとする。
利吉は荷物の入った籠を降ろし、空の前に立ち、片膝をつく。
徐に空の手を取ると、静かに
「あっ……」
手が、次に身体全体が熱くなる。
「利吉さん……」
陶然とした顔で、空は利吉の名を呟いていた。
(忍術学園にずっと居られない私は土井先生より不利だからな。今はこれで十分……)
利吉は無言のまま、優しく微笑む。
その頬もまた、夕焼けのように赤く染まっていた。
***
利吉と空は日の沈みきる前に忍術学園へ戻ってこれた。
食堂のおばちゃんに買い出しの品を届けたあと、二人は教職員長屋の方へと向かう。
廊下を歩いていると、反対側からやってきた半助と出くわした。
「あれ!?利吉君、来てたんだ。……ん!」
にこやかに挨拶する半助だったが、利吉の後ろで佇む小袖姿の空を見た瞬間、その顔が強張る。
今の今まで利吉と二人でいたのか。
半助はもう気が気じゃなかった。
一方、利吉は半助の動揺を目の当たりにし、これ見よがしに言った。
「父上に会いにこちらに寄ったのですが……訳あって、さっきまで町に出かけていました。ね、空さん」
「はい、利吉さんに食堂の買い出しの仕事を手伝ってもらって」
「そ、そうだったのか」
張り付いた笑顔をつくる半助を見て、利吉は内心ほくそ笑んでいる。
追い打ちをかけるように話を続けた。
「今日という日に、忍術学園に立ち寄って正解でした。空さんのお役に立てたし、ご褒美まで頂けて」
「り、利吉さん!あ、あれは……!」
「わかってます。秘密ですよね、二人だけの」
利吉と空による、当人同士にしかわからない会話。
二人の親密ぶりに当てられ、半助は今心の中で激しい苛立ちを募らせている。
慌てふためく空。
平然としている利吉。
どこか面白くないような表情で軽く唇を噛む半助。
そんな三者三様の反応をする三人の前に、伝蔵が姿を現した。
「父上!」
「利吉。何だ、来てたのか」
「お待ちしておりました!母上のことで、話があります!さあ、早く中へ……」
伝蔵の背中を押しつつ、涼しげな顔で二人を見届けながら、利吉は部屋の中へと消えていった。
半助は空をチラリと見る。
うっすらと頬を紅く染めて、自分の左手を愛おしげに見つめている。
キスをされた方の手を。
「空君。さっきからずっと手ばっかり見てるけど」
「え、あ、いや……あの、これは……何でもないです。何でも……」
空が誤魔化すように笑う。
「怪しい……」
「べ、別に何でもないですってば」
ジト目の半助に見つめられれば、何故か後ろめたさを感じずにはいられない。
次第に空に焦りが生じ始めた、そのときだった。
「あ、土井先生に空さん!」
「ほんとだ」
放課後裏山で時間をつぶしていた乱太郎、しんベヱ、きり丸が戻ってきたのだ。
いつもと異なる空の装いに気づいたきり丸が何気なく尋ねる。
「空さん、どうして今日は小袖なんですか?」
「え……ああ、ちょっとね。食堂の仕事で、町に買い出しにいってたの」
「その着物、初めて見た。すっげえ似合ってる。ねぇ、土井先生?」
「あ、ああ」
利吉といたことに動揺しすぎた半助だったが、頭巾を被っていない髪を下ろした空の小袖姿は、持ち前の魅力を存分に引き出している。
ひとたび意識すれば、その美しさに半助は胸の高鳴りを抑えられない。
「今度、その服着てみんなで町へ行きましょうよ!空さんと初めて一緒に町へ行ってから、それっきりだもん」
「きり丸、それいい!」
「うんうん!ボク、また空さんとお団子食べた~い!」
和気あいあいとする三人を見て、空は目を細めている。
「うん。じゃあ、次に町にいくときはこの服を着ていくね」
「約束っすよ。ねぇ、土井先生!」
「ああ」
無事頭数に入れられたことにほっとしたのか、半助は嬉しそうに相槌を打つ。
ふと、乱太郎が気づいたように言った。
「あのときと同じメンバーなら、伝子さんはどうしますか?誘いますか?」
「誘うしかないだろう……少し前にお気に入りの紅が切れたって私まで巻き込んで大騒ぎしていたからな」
どこか諦めたような半助の発言に、その場にいた全員が弾けるように笑った。