手ごわい三姉妹
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こ、こういうのって、修羅場っていうんだよな……。
井戸で洗濯のアルバイトをしているきり丸はオロオロしていた。
最近、空の機嫌がすこぶる悪いのだ。
というのも――
「はんすけさん!おっきくなったら、あたちとケッコンちて!」
「だめよ!はんすけさんは、このあたちと『めおと』になるの!」
「おねえちゃまがた!どちらもちがいまちゅ!はんすけさんの『こいびと』になるのは、このあ・た・ち!」
「はいはい……でも、お願いだから、いい加減私から離れてくれ。洗濯の邪魔だから」
年は全員三つほどだろうか。
おかっぱ頭の幼女三人が半助をめぐって言い争っている。
同じ顔立ち、つまりは三つ子だった。
先日、半助たちの長屋の一角に引っ越してきたこの三姉妹。
父母と一緒に長屋の挨拶回りで半助の家を訪ねた際、甘いマスクの半助に一目ぼれしてしまったのだ。
「すみません。この子たち、ハンサムなお兄さんに目がなくて」
「本当にご迷惑おかけします……!」
と彼女たちの両親はあきらめているようで、野放しにしている。
それからというもの、隙あらば半助に言い寄る幼女三人と、そんな幼女たちのなすがままな半助に空は頭にきていた。
空が今、ギュウと握り絞った洗濯物からは、一滴の水分も滴り落ちてない。
「行きましょ、きりちゃん!」
「う、うん……土井先生、早くなんとかしてくださいね!」
空ときり丸は場所を移動する。
「ええ!?ああ、ちょっと待って……!空、きり丸!」
「はんすけさぁん!はやくあたちを『およめさん』にちてぇ!」
全く同じセリフを三つ子は言う。
三つ子のうち二人が半助の両の腕をとった状態で、背中に残りの一人がのしかかってくる。
身動きのとれない半助はそのまま頭から洗濯桶にドボンと突っ込んでしまった。
その日の晩――
本日の土井家の夕食は、アジのつみれの味噌汁に、はんぺんと大根の煮物、それにほうれん草と竹輪の胡麻和え。
練り物総ナメであった。
「空!頼むから、練り物だけは出さないでくれ!」
半助が涙をちょちょ切らせながら叫ぶが、空の反応は冷たいものだった。
「さぁ、食べましょ。きりちゃん」
「う、うん」
半助を無視し、空はひたすら無言で食べ進めた。
結局、半助の分の練り物はきり丸の胃の中へと消えていった。
言うまでもなく、銭と引き換えに。
空は今洗い物をしている。
空から見えない場所まで移動したきり丸と半助が、小声でひそひそと話をしていた。
「土井先生……あの子たちに好かれてからずっと夕食に練り物のオンパレードですよ!?三日間も!おれはなんでも食べれるけど、さすがに飽きてきました……いい加減、ちゃんと誤解を解いてください!四股は良くないっすよ!」
「コラコラコラ!きり丸こそ誤解を招くこと言うな!大体……私はいつだって空一筋だ!」
「じゃあ、何であの子たちに断固とした態度をとらないんですか!?『はいはい』なんて答えて、いつもなぁなぁで済ませて。まだ小さい女の子たちだけど、あんなに好き好き言われたら、いくら空さんだって心穏やかではないっすよ」
「それはだな……」
半助の顔がポッと赤くなる。
きり丸にそっと耳打ちをした。
「……」
聞き終えたきり丸は呆れていた。
「……は!?そんな理由ですか?結局、長引かせてんのは土井先生じゃないっすか?」
「ははは……そうだよな。でも、いつも利吉君や上級生たちにやきもきする身だから、立場が逆転したのがなんか新鮮で」
きり丸がジト目で半助を見る。
というのも、あの三つ子たちに煮え切らない態度をとり続けている理由が「嫉妬してくれる空が新鮮で、どうしようもなく愛おしい」というものだった。
「んもう。独身が長かった分、こじらせてるんですかねぇ?」
「よ、余計なお世話だ、きり丸」
「とにかく、明日こそ四股に終止符を打ってくださいよ!」
「だから、四股ではないと言っとるだろうが!……わかった、きり丸。明日きっちりあの三つ子たちに引導を渡すから」
そう。半助の方も限界だった。
あの三姉妹に迫られて以降、空は一言も口をきいてくれない。
いくら空の拗ねた顔やつっけんどんな態度が可愛らしくても、やっぱり蕾がほころぶような満面の笑みには敵わない。
あまり長引くと空の心が自分から離れていくかもしれないと危惧した半助は、明日こそは、と決意するのであった。
***
翌日。
半助は三姉妹に会って開口一番、きっぱりと彼女たちの申し出を断った。
「悪いけど、私にはもう心に決めた人がいる。だから、君たちの恋人にはなれないんだ」
だが、三姉妹は聞く耳をもたず、
「はんすけさぁん!」
「今日もかっこいい!」
「はやくあたちをおよめさんにちてぇ!」
と半助に向かって熱烈にアタックをし続ける。
「あ、あのなぁ!」
結局、いつもと変わらない光景が繰り広げられる。
相も変わらず、半助にベタベタする三つ子たち。
そのやりとりを一部始終見ていた空は、またか……と眉を顰める。
「……」
このとき、空は嫉妬も感じているが、それ以上に自分自身に対してもどかしさを感じていた。
半助のことが好きすぎるあまり、幼子ですら余裕を感じられない自分自身に。
あげた拳をどう下げていいかわからない、素直になれない自分自身に。
(はぁ……)
屈折した思いを抱きながら、空は遠巻きに三つ子たちと半助を見つめるのみだ。
だが、空の視界に看過できない光景が飛び込んできた。
「!」
三つ子のうちの一人が、隙ありと半助の頬にチュウしようとしているのだ。
別の三つ子に気をとられていた半助が気づいたころにはもう遅い。
半助の頬に幼女の唇が触れようとした、そのときだった。
「だめぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
大絶叫に驚いた三人と半助の動きがピタリと止まる。
四人は声の主の方をパッと見た。
「もう、堪忍袋の緒が切れた!」
そこには怒りを顔いっぱいにした空がいた。
空が四人の前まですっ飛んでくると、これ以上ないくらい力を込めて叫んだ。
「ちょっと、私の半助さんに勝手なことしないでよね!それは私と半助さんだけが許される行為なの!いくらあなたたちが小さい子どもだからといっても、絶対絶対ぜ~ったい、許さないんだから!」
そう言って、空はえいや、と三つ子たちを振り払い、半助の腕に絡みついた。
(空……!)
なりふり構わない、激しい空の愛情表現に、このとき半助は「もう死んでもいい」と思ったそう。(本人談)
それほど空に感激していた。
腕にしがみついて離れない空の頭を半助は愛おしげに何度も撫でる。
ひとしきりそうした後、やがて三つ子たちをキッと見据えてこう言った。
「すまない。私が愛しているのはこの女性だけだ」
言い終えて、半助は空のおでこにチュッと口付けをする。
この甘い光景に、三つ子たちは大ショック。
涙目になっている。
「あたちたち……」
「さんにんとも……」
「はんすけさんとはケッコンできないの?」
「ああ。君たちには、いつかきっと私よりふさわしい相手が現れるよ」
半助がやさしく諭す。
夢破れ、失恋を悟った三つ子たちはいっせいに泣き出した。
「うえ~ん!あたちというものがありながら……うわきよ、うわき!ちんじられない!」
「ほかのおんなにてをだすなんて、さいてぇ!」
「もう、かおもみたくない!……かかさま!ととさま!」
あれだけ半助を慕っておきながら、本命の存在を知った途端、コロッと態度を一変させた三つ子たちは一目散に自分の家へと帰っていった。
井戸で洗濯のアルバイトをしているきり丸はオロオロしていた。
最近、空の機嫌がすこぶる悪いのだ。
というのも――
「はんすけさん!おっきくなったら、あたちとケッコンちて!」
「だめよ!はんすけさんは、このあたちと『めおと』になるの!」
「おねえちゃまがた!どちらもちがいまちゅ!はんすけさんの『こいびと』になるのは、このあ・た・ち!」
「はいはい……でも、お願いだから、いい加減私から離れてくれ。洗濯の邪魔だから」
年は全員三つほどだろうか。
おかっぱ頭の幼女三人が半助をめぐって言い争っている。
同じ顔立ち、つまりは三つ子だった。
先日、半助たちの長屋の一角に引っ越してきたこの三姉妹。
父母と一緒に長屋の挨拶回りで半助の家を訪ねた際、甘いマスクの半助に一目ぼれしてしまったのだ。
「すみません。この子たち、ハンサムなお兄さんに目がなくて」
「本当にご迷惑おかけします……!」
と彼女たちの両親はあきらめているようで、野放しにしている。
それからというもの、隙あらば半助に言い寄る幼女三人と、そんな幼女たちのなすがままな半助に空は頭にきていた。
空が今、ギュウと握り絞った洗濯物からは、一滴の水分も滴り落ちてない。
「行きましょ、きりちゃん!」
「う、うん……土井先生、早くなんとかしてくださいね!」
空ときり丸は場所を移動する。
「ええ!?ああ、ちょっと待って……!空、きり丸!」
「はんすけさぁん!はやくあたちを『およめさん』にちてぇ!」
全く同じセリフを三つ子は言う。
三つ子のうち二人が半助の両の腕をとった状態で、背中に残りの一人がのしかかってくる。
身動きのとれない半助はそのまま頭から洗濯桶にドボンと突っ込んでしまった。
その日の晩――
本日の土井家の夕食は、アジのつみれの味噌汁に、はんぺんと大根の煮物、それにほうれん草と竹輪の胡麻和え。
練り物総ナメであった。
「空!頼むから、練り物だけは出さないでくれ!」
半助が涙をちょちょ切らせながら叫ぶが、空の反応は冷たいものだった。
「さぁ、食べましょ。きりちゃん」
「う、うん」
半助を無視し、空はひたすら無言で食べ進めた。
結局、半助の分の練り物はきり丸の胃の中へと消えていった。
言うまでもなく、銭と引き換えに。
空は今洗い物をしている。
空から見えない場所まで移動したきり丸と半助が、小声でひそひそと話をしていた。
「土井先生……あの子たちに好かれてからずっと夕食に練り物のオンパレードですよ!?三日間も!おれはなんでも食べれるけど、さすがに飽きてきました……いい加減、ちゃんと誤解を解いてください!四股は良くないっすよ!」
「コラコラコラ!きり丸こそ誤解を招くこと言うな!大体……私はいつだって空一筋だ!」
「じゃあ、何であの子たちに断固とした態度をとらないんですか!?『はいはい』なんて答えて、いつもなぁなぁで済ませて。まだ小さい女の子たちだけど、あんなに好き好き言われたら、いくら空さんだって心穏やかではないっすよ」
「それはだな……」
半助の顔がポッと赤くなる。
きり丸にそっと耳打ちをした。
「……」
聞き終えたきり丸は呆れていた。
「……は!?そんな理由ですか?結局、長引かせてんのは土井先生じゃないっすか?」
「ははは……そうだよな。でも、いつも利吉君や上級生たちにやきもきする身だから、立場が逆転したのがなんか新鮮で」
きり丸がジト目で半助を見る。
というのも、あの三つ子たちに煮え切らない態度をとり続けている理由が「嫉妬してくれる空が新鮮で、どうしようもなく愛おしい」というものだった。
「んもう。独身が長かった分、こじらせてるんですかねぇ?」
「よ、余計なお世話だ、きり丸」
「とにかく、明日こそ四股に終止符を打ってくださいよ!」
「だから、四股ではないと言っとるだろうが!……わかった、きり丸。明日きっちりあの三つ子たちに引導を渡すから」
そう。半助の方も限界だった。
あの三姉妹に迫られて以降、空は一言も口をきいてくれない。
いくら空の拗ねた顔やつっけんどんな態度が可愛らしくても、やっぱり蕾がほころぶような満面の笑みには敵わない。
あまり長引くと空の心が自分から離れていくかもしれないと危惧した半助は、明日こそは、と決意するのであった。
***
翌日。
半助は三姉妹に会って開口一番、きっぱりと彼女たちの申し出を断った。
「悪いけど、私にはもう心に決めた人がいる。だから、君たちの恋人にはなれないんだ」
だが、三姉妹は聞く耳をもたず、
「はんすけさぁん!」
「今日もかっこいい!」
「はやくあたちをおよめさんにちてぇ!」
と半助に向かって熱烈にアタックをし続ける。
「あ、あのなぁ!」
結局、いつもと変わらない光景が繰り広げられる。
相も変わらず、半助にベタベタする三つ子たち。
そのやりとりを一部始終見ていた空は、またか……と眉を顰める。
「……」
このとき、空は嫉妬も感じているが、それ以上に自分自身に対してもどかしさを感じていた。
半助のことが好きすぎるあまり、幼子ですら余裕を感じられない自分自身に。
あげた拳をどう下げていいかわからない、素直になれない自分自身に。
(はぁ……)
屈折した思いを抱きながら、空は遠巻きに三つ子たちと半助を見つめるのみだ。
だが、空の視界に看過できない光景が飛び込んできた。
「!」
三つ子のうちの一人が、隙ありと半助の頬にチュウしようとしているのだ。
別の三つ子に気をとられていた半助が気づいたころにはもう遅い。
半助の頬に幼女の唇が触れようとした、そのときだった。
「だめぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
大絶叫に驚いた三人と半助の動きがピタリと止まる。
四人は声の主の方をパッと見た。
「もう、堪忍袋の緒が切れた!」
そこには怒りを顔いっぱいにした空がいた。
空が四人の前まですっ飛んでくると、これ以上ないくらい力を込めて叫んだ。
「ちょっと、私の半助さんに勝手なことしないでよね!それは私と半助さんだけが許される行為なの!いくらあなたたちが小さい子どもだからといっても、絶対絶対ぜ~ったい、許さないんだから!」
そう言って、空はえいや、と三つ子たちを振り払い、半助の腕に絡みついた。
(空……!)
なりふり構わない、激しい空の愛情表現に、このとき半助は「もう死んでもいい」と思ったそう。(本人談)
それほど空に感激していた。
腕にしがみついて離れない空の頭を半助は愛おしげに何度も撫でる。
ひとしきりそうした後、やがて三つ子たちをキッと見据えてこう言った。
「すまない。私が愛しているのはこの女性だけだ」
言い終えて、半助は空のおでこにチュッと口付けをする。
この甘い光景に、三つ子たちは大ショック。
涙目になっている。
「あたちたち……」
「さんにんとも……」
「はんすけさんとはケッコンできないの?」
「ああ。君たちには、いつかきっと私よりふさわしい相手が現れるよ」
半助がやさしく諭す。
夢破れ、失恋を悟った三つ子たちはいっせいに泣き出した。
「うえ~ん!あたちというものがありながら……うわきよ、うわき!ちんじられない!」
「ほかのおんなにてをだすなんて、さいてぇ!」
「もう、かおもみたくない!……かかさま!ととさま!」
あれだけ半助を慕っておきながら、本命の存在を知った途端、コロッと態度を一変させた三つ子たちは一目散に自分の家へと帰っていった。