利吉さんと外出
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とある日の、忍術学園の午後の時間。
空は今、食堂の清掃作業をしている。
テーブルを拭いていると、ふと一人の男性に声をかけられた。
「空さん、こんにちは」
「利吉さん!」
思わぬ再会に、空が喜びをあらわにしながら男性の名を呼んだ。
山田利吉。
一年は組の実技担当教師、山田伝蔵の息子であり、フリーの売れっ子忍者である。
空は掃除の手を止めて、利吉のもとへ歩み寄った。
「今日はお仕事で立ち寄ったんですか?」
「うーん、ちょっと色々あって……」
そう言って、利吉は憂鬱そうに溜息をつく。
何か訳アリでここへ来た――空はそう判断した。
「立ち話もなんだから、今お茶を用意しますね」
空は笑顔で軽く一礼し、厨房へと消えていく。
「……」
利吉は近くにあった椅子に腰を下ろし、空があくせくと動き回る様子を静かに見ている。
利吉の顔はほんのりと朱に色づき、唇は笑みの形をつくっていた。
「ええ!山田先生、秋休みに奥様とケンカしたんですか!?」
「はい。秋休みのあと、久しぶりに私が家に帰ったら母上の機嫌がすこぶる悪くて……母上に理由を聞いたら、そういうことだと。ただでさえ、母上は寂しがっているのに、諍いなんてされるともう……何としても仲直りして頂きたく、父上に家に帰るよう、説得しに来たんです」
「まあ……」
空が気の毒そうに呟く。
お茶を飲みながら利吉の相談に乗っている――そのときだった。
「あら、利吉君。忍術学園 に来てたのね」
食堂のおばちゃんが二人の前に姿を現したのだ。
利吉を見ておばちゃんは顔を綻ばせるが、ほんの一瞬のこと。
すぐに困ったような顔つきに変わり、溜息をつく。
空と利吉が問うより先に、おばちゃんが口を開いた。
「学園長に年末の特別メニューの件で相談があるって呼び出されちゃったわ。今からすぐ学園長室に行かないと……今日は買い出しに行く予定だったのに」
「おばちゃん、それなら私が行きますよ。私だって食堂のお手伝いやってるんですから!」
「……空ちゃん、一人で町まで行ける?」
「うっ……」
得意気に申し出たのはいいが、痛いところを突かれて、空は言葉に詰まる。
「ああ、本当にどうしましょう……」
タイミングの悪さを嘆いているおばちゃんとは対照的に、利吉の表情は明るい。
何やら良い解決策があるようだ。
「食堂のおばちゃん。私が空さんに付き添って、町へ行きます。空さんも、どうぞ私を荷物持ちとして使ってください!」
「あら……本当!?利吉さんが一緒に行ってくれるなら助かるわ。荷物も嵩張るだろうし……これなら空ちゃんも安心ね!」
渡りに船とはまさにこのこと。
利吉の素晴らしい提案に、食堂のおばちゃんは大いに喜び、また安堵していた。
利吉の手を取って、感謝の言葉まで述べている。
「はぁ……」
こうして、空の口を挟む余地もなく、利吉との外出があっという間に決まってしまった。
「そうと決まったら、空さん、服を着替えないと。流石に忍術学園の制服のままでは町を歩けませんからね」
「あ、そうだった!じゃあ、着替えてきます」
空は学園を発つ支度をするために、大慌てで部屋へ戻った。
***
「お待たせしました」
そう言って利吉の前に再び姿を現した空は、制服から小袖に着替え、結った髪を下ろしていた。
せっかく町へ行くというのに、準備に悠長な時間はない。
だもんで、化粧は本当にごく簡単に済ませた。
その分、小袖をグレードアップすることでお洒落をしたいという乙女心に折り合いをつけた。
今着ている薄紫色の小袖は、実は初めて袖を通す。
くノ一教室の教師である山本シナから譲ってもらったものだ。
(新しい服はやっぱりテンションあがる……!)
新調した服にほくほく顔の空は、いつしか利吉の様子がおかしいことに気づく。
利吉はぽーっと呆けていた。
(綺麗だ……)
忍び装束を脱ぎ捨てた空は、利吉が言葉を失うほど美しかった。
ストンと落ちる艶やかな黒髪も、元々造りの良い顔に施した控えめな化粧も、品のある小袖も、何もかもが見事に調和している。
「り、利吉さん?あの……どうかしましたか?」
「いえ……何でもないです」
我に返った利吉が何でもないような顔で言葉を返す。
その背には荷物用の籠を背負っていた。
「じゃあ、出発しましょうか」
そう言って、利吉は唐突に空を抱えあげ、町を目指して一気に走り出した。
「ちょ、ちょっと、利吉さん……!?」
「急がないと夜暗くなりますからね。行きの道だけですよ。帰りは荷物が増えますので、こういう風にできないのが残念ですが」
空は利吉のやり方に戸惑うも、抱えてもらった方が早いのならばしょうがない、と従うより他になかった。
「……」
横抱きにされている空は、身動きがとれない。
この密着した体勢では、利吉の端正な横顔が嫌でも目に入る。
(利吉さんって、本当にイケメンよね。女の子にモテるのも納得……)
ふと、利吉と目が合う。
甘い微笑みが空の視界いっぱいに広がる。
顔の温度が急上昇するのを止められない。
心臓はとっくに早鐘を打っている。
慌てて利吉から顔を背け、別のことを考えて気を紛らわした。
(それにしても、利吉さん凄い……私を持ち上げているのに、今全然苦しそうにしていない……)
利吉は人一人を横抱きにして走っているにもかかわらず、息ひとつ乱してなかった。
空は今、食堂の清掃作業をしている。
テーブルを拭いていると、ふと一人の男性に声をかけられた。
「空さん、こんにちは」
「利吉さん!」
思わぬ再会に、空が喜びをあらわにしながら男性の名を呼んだ。
山田利吉。
一年は組の実技担当教師、山田伝蔵の息子であり、フリーの売れっ子忍者である。
空は掃除の手を止めて、利吉のもとへ歩み寄った。
「今日はお仕事で立ち寄ったんですか?」
「うーん、ちょっと色々あって……」
そう言って、利吉は憂鬱そうに溜息をつく。
何か訳アリでここへ来た――空はそう判断した。
「立ち話もなんだから、今お茶を用意しますね」
空は笑顔で軽く一礼し、厨房へと消えていく。
「……」
利吉は近くにあった椅子に腰を下ろし、空があくせくと動き回る様子を静かに見ている。
利吉の顔はほんのりと朱に色づき、唇は笑みの形をつくっていた。
「ええ!山田先生、秋休みに奥様とケンカしたんですか!?」
「はい。秋休みのあと、久しぶりに私が家に帰ったら母上の機嫌がすこぶる悪くて……母上に理由を聞いたら、そういうことだと。ただでさえ、母上は寂しがっているのに、諍いなんてされるともう……何としても仲直りして頂きたく、父上に家に帰るよう、説得しに来たんです」
「まあ……」
空が気の毒そうに呟く。
お茶を飲みながら利吉の相談に乗っている――そのときだった。
「あら、利吉君。
食堂のおばちゃんが二人の前に姿を現したのだ。
利吉を見ておばちゃんは顔を綻ばせるが、ほんの一瞬のこと。
すぐに困ったような顔つきに変わり、溜息をつく。
空と利吉が問うより先に、おばちゃんが口を開いた。
「学園長に年末の特別メニューの件で相談があるって呼び出されちゃったわ。今からすぐ学園長室に行かないと……今日は買い出しに行く予定だったのに」
「おばちゃん、それなら私が行きますよ。私だって食堂のお手伝いやってるんですから!」
「……空ちゃん、一人で町まで行ける?」
「うっ……」
得意気に申し出たのはいいが、痛いところを突かれて、空は言葉に詰まる。
「ああ、本当にどうしましょう……」
タイミングの悪さを嘆いているおばちゃんとは対照的に、利吉の表情は明るい。
何やら良い解決策があるようだ。
「食堂のおばちゃん。私が空さんに付き添って、町へ行きます。空さんも、どうぞ私を荷物持ちとして使ってください!」
「あら……本当!?利吉さんが一緒に行ってくれるなら助かるわ。荷物も嵩張るだろうし……これなら空ちゃんも安心ね!」
渡りに船とはまさにこのこと。
利吉の素晴らしい提案に、食堂のおばちゃんは大いに喜び、また安堵していた。
利吉の手を取って、感謝の言葉まで述べている。
「はぁ……」
こうして、空の口を挟む余地もなく、利吉との外出があっという間に決まってしまった。
「そうと決まったら、空さん、服を着替えないと。流石に忍術学園の制服のままでは町を歩けませんからね」
「あ、そうだった!じゃあ、着替えてきます」
空は学園を発つ支度をするために、大慌てで部屋へ戻った。
***
「お待たせしました」
そう言って利吉の前に再び姿を現した空は、制服から小袖に着替え、結った髪を下ろしていた。
せっかく町へ行くというのに、準備に悠長な時間はない。
だもんで、化粧は本当にごく簡単に済ませた。
その分、小袖をグレードアップすることでお洒落をしたいという乙女心に折り合いをつけた。
今着ている薄紫色の小袖は、実は初めて袖を通す。
くノ一教室の教師である山本シナから譲ってもらったものだ。
(新しい服はやっぱりテンションあがる……!)
新調した服にほくほく顔の空は、いつしか利吉の様子がおかしいことに気づく。
利吉はぽーっと呆けていた。
(綺麗だ……)
忍び装束を脱ぎ捨てた空は、利吉が言葉を失うほど美しかった。
ストンと落ちる艶やかな黒髪も、元々造りの良い顔に施した控えめな化粧も、品のある小袖も、何もかもが見事に調和している。
「り、利吉さん?あの……どうかしましたか?」
「いえ……何でもないです」
我に返った利吉が何でもないような顔で言葉を返す。
その背には荷物用の籠を背負っていた。
「じゃあ、出発しましょうか」
そう言って、利吉は唐突に空を抱えあげ、町を目指して一気に走り出した。
「ちょ、ちょっと、利吉さん……!?」
「急がないと夜暗くなりますからね。行きの道だけですよ。帰りは荷物が増えますので、こういう風にできないのが残念ですが」
空は利吉のやり方に戸惑うも、抱えてもらった方が早いのならばしょうがない、と従うより他になかった。
「……」
横抱きにされている空は、身動きがとれない。
この密着した体勢では、利吉の端正な横顔が嫌でも目に入る。
(利吉さんって、本当にイケメンよね。女の子にモテるのも納得……)
ふと、利吉と目が合う。
甘い微笑みが空の視界いっぱいに広がる。
顔の温度が急上昇するのを止められない。
心臓はとっくに早鐘を打っている。
慌てて利吉から顔を背け、別のことを考えて気を紛らわした。
(それにしても、利吉さん凄い……私を持ち上げているのに、今全然苦しそうにしていない……)
利吉は人一人を横抱きにして走っているにもかかわらず、息ひとつ乱してなかった。