35.この世界より、愛をこめて
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「空さん、それに乱太郎たちも……危ないところでしたね」
その男性を空はもちろん知っている。
真摯な想いをぶつけられ、空自身もまたほのかな恋心を抱いた男性――
「利吉さん!」
この利吉の登場に、その場にいたくのたまたちは大歓喜。
目は恍惚状態であった。
「きゃあ、利吉さんよ!」
「なんて、格好いいの……ステキ!」
だが、利吉の視界にはあくまでも空しか入っていない。
うやうやしく空に一礼し、穏やかな笑みを向けながら、利吉は言った。
「ご無沙汰しております。空さん、足の怪我治ってよかったですね」
「はい」
「一日遅れですが、誕生日おめでとうございます」
利吉の笑みに空は笑顔で応じる。
だが、空の胸中は複雑だった。
久しぶりの再会を嬉しく思う一方で、後ろめたい気持ちもある。
半助と恋仲になったことを報告しなければいけないのだから。
「あ、あの、利吉さん……その、」
どう伝えようかと焦った空は言葉に詰まってしまう。
その気持ちを察したように、半助がさりげなく空の肩を抱いた。
「……」
空が何を言わんとしていたか、利吉にも理解できた。
少しの沈黙のあと、利吉はさみしそうに微笑んだ。
「やっぱり、あなたには土井先生がお似合いのようですね」
「利吉さん……」
「利吉君……」
俯いた利吉を見て、半助は顔を歪めた。
同じ女 を好きになったからこそ、身を引く利吉の苦しさが伝わってくる。
が、次の瞬間、半助はぎょっとする。
利吉は意地悪く笑っていた。
「……なんて殊勝なこと、この私が言うと思いましたか?」
「え?あ、あれ?」
半助が今手にしているのは空が持っていた花束のみ。
寄り添っていた空はというと、少し離れたところで利吉の腕の中にいた。
一瞬の隙をついて、利吉が半助から空を奪っていたのだ。
ただならぬ雰囲気を感じ、文次郎と留三郎を囲んでいた人々がこの騒ぎの方へと流れてくる。
「え、ちょっと……これってそういうことよね?」
「土井先生と利吉さんが空さんを取り合ってるなんて!」
中でも、色恋沙汰に敏感なくのたまたちは嬉々としている。
そんな好奇の目を無視し、利吉は空の顔をまじまじと見つめ、憐れむように言った。
「本当にいいんですか?空さん。土井先生とお付き合いすると、この先ずっと苦労しますよ?」
「え、苦労って……どういうことですか?」
「土井先生、仕事の忙しさにかまけて、あなたをほったらかしにすることは確実です。ズボラだから洗濯物を溜め込むし、家賃だってしょっちゅう払い忘れるし、」
「利吉君、言わせておけば!」
憤慨する半助を無視し、利吉は続けた。
「その点、私は公私ともしっかりしていますから、あなたに無駄な苦労はかけさせません。あなたのためなら仕事だってセーブできます」
「り、利吉さん……?あの、」
「私は……土井先生よりも何倍もあなたを満足させる自信がありますよ、こちらの方も、」
そう言って、利吉は強引に空の唇を塞いだ。
公衆の面前で。
「んん……!」
五秒くらいの濃厚なキスだった。
極上の微笑みを湛えた利吉が甘く囁く。
「これで、二回目ですね」
「あ……」
空は沸騰したように顔を赤くしている。
この劇的な瞬間に立ち会った人々の反応は様々だ。
下級生たちは茫然と立ち尽くしているし、くのたまをはじめ女性陣たちは、
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」
と甲高く叫び、三つ巴の恋に大興奮。
(こ、これが大人の接吻 か……)
上級生たちは大人の接吻を間近で見て、心なしか頬に赤みがさしている。
色々知識はあるとはいえ、全員根が純情なようだ。
教職員たちは安藤や厚着、日向らが「いいぞ、いいぞ」と囃して立てているが、この人物だけは例外だった。
愕然と衝撃を受けているのは利吉の父親である伝蔵だ。
(ま、まさか、利吉が空君を好いていたなんて……)
(そうとは知らず、ワシは……)
もし知っていたら、半助に肩入れせず、中立の立場をとっていただろう。
激しい自責の念に駆られた伝蔵は思い詰めるあまり、思考がショートしてしまう。
(ワシは、ワシは、ワシは……!)
頭をめちゃくちゃにかき混ぜて、その場に屈みこんだ。
「山田先生、大丈夫ですか?」
伝蔵の様子がおかしい、と隣にいた安藤が落ち着かせようとするが、まるで反応なしだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
伝蔵の思いはとうとう爆発した。
次の瞬間、伝蔵はいなかった。
その代わり、現れたのは伝子。
現実逃避した結果、女の姿へと変身〈メタモルフォーゼ〉したのだ。
伝子は吹っ切れた表情で笑っている。
「うふ、うふふ。あたしは伝子。伝子なら、利吉も半助も関係ないわ。なぜなら、伝子はすべての女の子の味方だ・か・ら」
伝子はそう言いながら、立てた人差し指を左右に振る。
近くにいた教職員たちはド○フのコントのようにずっこけた。
その男性を空はもちろん知っている。
真摯な想いをぶつけられ、空自身もまたほのかな恋心を抱いた男性――
「利吉さん!」
この利吉の登場に、その場にいたくのたまたちは大歓喜。
目は恍惚状態であった。
「きゃあ、利吉さんよ!」
「なんて、格好いいの……ステキ!」
だが、利吉の視界にはあくまでも空しか入っていない。
うやうやしく空に一礼し、穏やかな笑みを向けながら、利吉は言った。
「ご無沙汰しております。空さん、足の怪我治ってよかったですね」
「はい」
「一日遅れですが、誕生日おめでとうございます」
利吉の笑みに空は笑顔で応じる。
だが、空の胸中は複雑だった。
久しぶりの再会を嬉しく思う一方で、後ろめたい気持ちもある。
半助と恋仲になったことを報告しなければいけないのだから。
「あ、あの、利吉さん……その、」
どう伝えようかと焦った空は言葉に詰まってしまう。
その気持ちを察したように、半助がさりげなく空の肩を抱いた。
「……」
空が何を言わんとしていたか、利吉にも理解できた。
少しの沈黙のあと、利吉はさみしそうに微笑んだ。
「やっぱり、あなたには土井先生がお似合いのようですね」
「利吉さん……」
「利吉君……」
俯いた利吉を見て、半助は顔を歪めた。
同じ
が、次の瞬間、半助はぎょっとする。
利吉は意地悪く笑っていた。
「……なんて殊勝なこと、この私が言うと思いましたか?」
「え?あ、あれ?」
半助が今手にしているのは空が持っていた花束のみ。
寄り添っていた空はというと、少し離れたところで利吉の腕の中にいた。
一瞬の隙をついて、利吉が半助から空を奪っていたのだ。
ただならぬ雰囲気を感じ、文次郎と留三郎を囲んでいた人々がこの騒ぎの方へと流れてくる。
「え、ちょっと……これってそういうことよね?」
「土井先生と利吉さんが空さんを取り合ってるなんて!」
中でも、色恋沙汰に敏感なくのたまたちは嬉々としている。
そんな好奇の目を無視し、利吉は空の顔をまじまじと見つめ、憐れむように言った。
「本当にいいんですか?空さん。土井先生とお付き合いすると、この先ずっと苦労しますよ?」
「え、苦労って……どういうことですか?」
「土井先生、仕事の忙しさにかまけて、あなたをほったらかしにすることは確実です。ズボラだから洗濯物を溜め込むし、家賃だってしょっちゅう払い忘れるし、」
「利吉君、言わせておけば!」
憤慨する半助を無視し、利吉は続けた。
「その点、私は公私ともしっかりしていますから、あなたに無駄な苦労はかけさせません。あなたのためなら仕事だってセーブできます」
「り、利吉さん……?あの、」
「私は……土井先生よりも何倍もあなたを満足させる自信がありますよ、こちらの方も、」
そう言って、利吉は強引に空の唇を塞いだ。
公衆の面前で。
「んん……!」
五秒くらいの濃厚なキスだった。
極上の微笑みを湛えた利吉が甘く囁く。
「これで、二回目ですね」
「あ……」
空は沸騰したように顔を赤くしている。
この劇的な瞬間に立ち会った人々の反応は様々だ。
下級生たちは茫然と立ち尽くしているし、くのたまをはじめ女性陣たちは、
「きゃあぁぁぁぁぁぁ!」
と甲高く叫び、三つ巴の恋に大興奮。
(こ、これが大人の
上級生たちは大人の接吻を間近で見て、心なしか頬に赤みがさしている。
色々知識はあるとはいえ、全員根が純情なようだ。
教職員たちは安藤や厚着、日向らが「いいぞ、いいぞ」と囃して立てているが、この人物だけは例外だった。
愕然と衝撃を受けているのは利吉の父親である伝蔵だ。
(ま、まさか、利吉が空君を好いていたなんて……)
(そうとは知らず、ワシは……)
もし知っていたら、半助に肩入れせず、中立の立場をとっていただろう。
激しい自責の念に駆られた伝蔵は思い詰めるあまり、思考がショートしてしまう。
(ワシは、ワシは、ワシは……!)
頭をめちゃくちゃにかき混ぜて、その場に屈みこんだ。
「山田先生、大丈夫ですか?」
伝蔵の様子がおかしい、と隣にいた安藤が落ち着かせようとするが、まるで反応なしだ。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
伝蔵の思いはとうとう爆発した。
次の瞬間、伝蔵はいなかった。
その代わり、現れたのは伝子。
現実逃避した結果、女の姿へと変身〈メタモルフォーゼ〉したのだ。
伝子は吹っ切れた表情で笑っている。
「うふ、うふふ。あたしは伝子。伝子なら、利吉も半助も関係ないわ。なぜなら、伝子はすべての女の子の味方だ・か・ら」
伝子はそう言いながら、立てた人差し指を左右に振る。
近くにいた教職員たちはド○フのコントのようにずっこけた。