35.この世界より、愛をこめて
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「話は全部聞かせてもらったわよ」
食堂のおばちゃんとシナは勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
半助は当然の疑問を投げた。
「お二人がどうしてここに!?」
「バッタリ会った小松田君がぺらぺらと全部話してくれたわよ。しんべヱ君のパパが来たことや、土井先生が贈り物の相談していることも……これはもう、絶対に空ちゃん絡みだと踏んだのよ。ねぇ、シナ先生」
「ええ」
恐るべき女の勘であった。
女たちの目はこう訴えている――自分たちも話に混ぜろ、と。
シナがツカツカと伝蔵の元に歩み寄り、不満げに言った。
「それより、山田先生駄目じゃないですか。『今すぐ渡してこい』なんて、さっきの発言……女心が全然わかっていません!」
女心、と言われて伝蔵はハッと自らの過ちに気づいたようだ。
次の瞬間には、伝蔵は身をひるがえし、何故か伝子へと女装していた。
「あら、いやだ。私ったら……今すぐなんてムードのかけらもないことを言ってしまって。せっかくこんな素敵な贈り物をするなら、タイミングが大事ないのにぃ。んもう、伝子のドジドジぃ」
そう言って、伝子が頭をコツンと叩き、舌を出す。
「テヘペロ」と言わんばかりの、あざとい仕草。
「うぷっ……」
男性陣たちはあまりの気持ち悪さに口元をおさえ、吐き気に耐えた。
対して、シナと食堂のおばちゃんは伝子に耐性があるので、全く気にしていないが。
「それにしても、相手のために、こんなに心のこもった贈り物を考え付くなんて……。土井先生、空さんのことを本当に愛しているんですね!」
「シナ先生、それだけ土井先生にとって空ちゃんは運命の人なのよ」
「そうなのよぉ、そうなのよぉ。この前もね、職員室に空ちゃんが入って来たときなんて、」
「シナ先生、食堂のおばちゃん!それに伝子さん!揶揄うのもいい加減にしてください!」
姦しい女たちに向かって半助が怒鳴り散らす。
が、女たちも負けじと話を続ける。
「……」
蚊帳の外に置かれた人間たちはその騒がしいやりとりを呆然と見ている。
乱太郎が口を開いた。
「食堂のおばちゃんたちは『今すぐ渡す』のに不満があるみたいですけど、いつならいいんですか?」
「問題はそこよ、乱太郎君。こんなに大層な贈り物を空ちゃんに渡すなんて、中々ないことよ。せっかくなら、特別な日に渡したいじゃない?」
「特別な日って……それなら、明後日に空さんの足の怪我が治った快気祝いがあります。その日にみんなの前で渡せば……」
「あら、しんべヱ君。グッドアイデアじゃない!」
大賛成!とシナが顔を明るくする。
が、ここで待ったがかかった。
半助だ。
「勝手に話を進めないでください!何で私が全校生徒の前でそんなこっぱずかしいことをしなければいけないんですか!?」
「いいじゃない、別に」
「良くありません!それに、大勢の前でいきなりそんなことをすれば、彼女だって困ります!」
これを聞いて、シナが残念そうに首をかしげる。
「う~ん。でも、なんてことない日に渡すのもねぇ……」
シナがブツブツ言う。
どうも女たちは特別感を演出したいらしい。
「快気祝いの日がダメとなると……それ以外の日は特別なイベントがあるわけでもないし、」
「せめて、誕生日とか……あ!空さんの誕生日っていつだろう?ねぇねぇ、誰か、知ってる?」
きり丸があたりを見回しながら聞く。
が、場は沈黙を保っている。
誰も知る者はいないようだ。
「仮に知っていたとしても、この時期に誕生日なんて『偶然』あるわけないか……」
誕生日という案もボツか……と皆が諦めかけた、そのときだった。
学園長が懐からごそごそと何かを取り出した。
「そういえば、こんなものがあるが、何か手がかりにはならんかのう?」
「ん?」
その場にいた全員が学園長の元にすっとんでくる。
学園長が持っていたのは一枚の札だ。
大人の掌におさまるくらいの大きさ。
ただ、その札はこの時代にはない素材で作られている。
「この札……空さんの顔が描いてありますね。かなり精巧に」
「あと、何か文字が書いてあるよ。『学生証』って」
しんべヱの言う通り、これは空が通っていた大学の学生証だった。
「なぜ、学園長がこれを?」
「ふぉっふぉっふぉっ」
汗ジトの一同を前に、学園長が誤魔化すように笑った。
ここで、視線を戻した乱太郎が、あることに気が付く。
学生証のある一点を指さした。
「これって空さんの誕生日ですよね。ほら、生年月日ってありますよ」
「ただ、数字がボクたちが使用している字と違うね」
「ふむふむ……これはカステイラさんに教えてもらった南蛮式の数字のようじゃな。それによると、、おお!」
「何がわかったの、パパ?」
少し間をおいて、しんべヱのパパは衝撃の言葉を放った。
「空さんの誕生日は……なんと明日じゃ!」
「ええっ!?」
一瞬、驚きをかたどった表情はすぐに喜びのそれに変わった。
「凄い偶然じゃない!これはもう……この日しかないわよ」
「食堂のおばちゃん、私もそう思います!やだっ……今から興奮してきちゃった」
「ほんと、ほんとぉ。世紀の瞬間をこの目におさめないとぉ!」
主役の半助を差し置いて、女たちは盛り上がっている。
「言っておきますが、彼女にこれを渡す日は自分で決めます!」
「とかなんとか言っちゃって。明日に渡すんでしょ。ふたりっきりになったときに」
「きり丸、うるさいぞ!」
半助がきり丸の頭をポカっと殴る。
顔が赤い。
「空さん、喜んでくれるといいですね」
「ほんとほんと」
呑気に言う乱太郎としんべえの横で、半助はワシワシと頭をかきむしっている。
こんなはずじゃなかったのに、と。
(ああ、最悪だ。贈り物のこと……山田先生だけでなく、食堂のおばちゃんたちにまで知られるなんて!)
(絶対に皆の目をかいくぐらなければ……)
彼らのいる手前、「渡す日は自分で決める」なんて言った半助だったが、恋人の誕生日以上に相応しい日はなく、結局明日渡すことを余儀なくされるのである。
食堂のおばちゃんとシナは勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
半助は当然の疑問を投げた。
「お二人がどうしてここに!?」
「バッタリ会った小松田君がぺらぺらと全部話してくれたわよ。しんべヱ君のパパが来たことや、土井先生が贈り物の相談していることも……これはもう、絶対に空ちゃん絡みだと踏んだのよ。ねぇ、シナ先生」
「ええ」
恐るべき女の勘であった。
女たちの目はこう訴えている――自分たちも話に混ぜろ、と。
シナがツカツカと伝蔵の元に歩み寄り、不満げに言った。
「それより、山田先生駄目じゃないですか。『今すぐ渡してこい』なんて、さっきの発言……女心が全然わかっていません!」
女心、と言われて伝蔵はハッと自らの過ちに気づいたようだ。
次の瞬間には、伝蔵は身をひるがえし、何故か伝子へと女装していた。
「あら、いやだ。私ったら……今すぐなんてムードのかけらもないことを言ってしまって。せっかくこんな素敵な贈り物をするなら、タイミングが大事ないのにぃ。んもう、伝子のドジドジぃ」
そう言って、伝子が頭をコツンと叩き、舌を出す。
「テヘペロ」と言わんばかりの、あざとい仕草。
「うぷっ……」
男性陣たちはあまりの気持ち悪さに口元をおさえ、吐き気に耐えた。
対して、シナと食堂のおばちゃんは伝子に耐性があるので、全く気にしていないが。
「それにしても、相手のために、こんなに心のこもった贈り物を考え付くなんて……。土井先生、空さんのことを本当に愛しているんですね!」
「シナ先生、それだけ土井先生にとって空ちゃんは運命の人なのよ」
「そうなのよぉ、そうなのよぉ。この前もね、職員室に空ちゃんが入って来たときなんて、」
「シナ先生、食堂のおばちゃん!それに伝子さん!揶揄うのもいい加減にしてください!」
姦しい女たちに向かって半助が怒鳴り散らす。
が、女たちも負けじと話を続ける。
「……」
蚊帳の外に置かれた人間たちはその騒がしいやりとりを呆然と見ている。
乱太郎が口を開いた。
「食堂のおばちゃんたちは『今すぐ渡す』のに不満があるみたいですけど、いつならいいんですか?」
「問題はそこよ、乱太郎君。こんなに大層な贈り物を空ちゃんに渡すなんて、中々ないことよ。せっかくなら、特別な日に渡したいじゃない?」
「特別な日って……それなら、明後日に空さんの足の怪我が治った快気祝いがあります。その日にみんなの前で渡せば……」
「あら、しんべヱ君。グッドアイデアじゃない!」
大賛成!とシナが顔を明るくする。
が、ここで待ったがかかった。
半助だ。
「勝手に話を進めないでください!何で私が全校生徒の前でそんなこっぱずかしいことをしなければいけないんですか!?」
「いいじゃない、別に」
「良くありません!それに、大勢の前でいきなりそんなことをすれば、彼女だって困ります!」
これを聞いて、シナが残念そうに首をかしげる。
「う~ん。でも、なんてことない日に渡すのもねぇ……」
シナがブツブツ言う。
どうも女たちは特別感を演出したいらしい。
「快気祝いの日がダメとなると……それ以外の日は特別なイベントがあるわけでもないし、」
「せめて、誕生日とか……あ!空さんの誕生日っていつだろう?ねぇねぇ、誰か、知ってる?」
きり丸があたりを見回しながら聞く。
が、場は沈黙を保っている。
誰も知る者はいないようだ。
「仮に知っていたとしても、この時期に誕生日なんて『偶然』あるわけないか……」
誕生日という案もボツか……と皆が諦めかけた、そのときだった。
学園長が懐からごそごそと何かを取り出した。
「そういえば、こんなものがあるが、何か手がかりにはならんかのう?」
「ん?」
その場にいた全員が学園長の元にすっとんでくる。
学園長が持っていたのは一枚の札だ。
大人の掌におさまるくらいの大きさ。
ただ、その札はこの時代にはない素材で作られている。
「この札……空さんの顔が描いてありますね。かなり精巧に」
「あと、何か文字が書いてあるよ。『学生証』って」
しんべヱの言う通り、これは空が通っていた大学の学生証だった。
「なぜ、学園長がこれを?」
「ふぉっふぉっふぉっ」
汗ジトの一同を前に、学園長が誤魔化すように笑った。
ここで、視線を戻した乱太郎が、あることに気が付く。
学生証のある一点を指さした。
「これって空さんの誕生日ですよね。ほら、生年月日ってありますよ」
「ただ、数字がボクたちが使用している字と違うね」
「ふむふむ……これはカステイラさんに教えてもらった南蛮式の数字のようじゃな。それによると、、おお!」
「何がわかったの、パパ?」
少し間をおいて、しんべヱのパパは衝撃の言葉を放った。
「空さんの誕生日は……なんと明日じゃ!」
「ええっ!?」
一瞬、驚きをかたどった表情はすぐに喜びのそれに変わった。
「凄い偶然じゃない!これはもう……この日しかないわよ」
「食堂のおばちゃん、私もそう思います!やだっ……今から興奮してきちゃった」
「ほんと、ほんとぉ。世紀の瞬間をこの目におさめないとぉ!」
主役の半助を差し置いて、女たちは盛り上がっている。
「言っておきますが、彼女にこれを渡す日は自分で決めます!」
「とかなんとか言っちゃって。明日に渡すんでしょ。ふたりっきりになったときに」
「きり丸、うるさいぞ!」
半助がきり丸の頭をポカっと殴る。
顔が赤い。
「空さん、喜んでくれるといいですね」
「ほんとほんと」
呑気に言う乱太郎としんべえの横で、半助はワシワシと頭をかきむしっている。
こんなはずじゃなかったのに、と。
(ああ、最悪だ。贈り物のこと……山田先生だけでなく、食堂のおばちゃんたちにまで知られるなんて!)
(絶対に皆の目をかいくぐらなければ……)
彼らのいる手前、「渡す日は自分で決める」なんて言った半助だったが、恋人の誕生日以上に相応しい日はなく、結局明日渡すことを余儀なくされるのである。