35.この世界より、愛をこめて
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学園長の庵まで続く長い廊下を、半助、しんべえ、乱太郎、きり丸、伝蔵の順で歩いている。
小刻みに振り返りながら、半助がうざったそうに言う。
「しんべヱはともかくとして、何で乱太郎ときり丸までついてくるんだ!?」
「まあまあ。いいじゃないっすか。それに、おれたちだけでなくて山田先生にも注意してくださいよ」
そう言われて、半助が列の最後尾にいる伝蔵をギリッと睨む。
が、伝蔵は全然気にしていない。
「土井先生が秘密裏にしんべヱのパパに文を出したのが、ひどく気になってのう」
伝蔵はいやらしい笑みを浮かべる。
意地でも首を突っ込むつもりらしい。
半助は諦めから溜息をこぼした。
「しんべヱ、とにかく入るぞ」
「はぁい」
「学園長先生、土井です」
半助がそう発せば、部屋の奥から「入れ、入れ」と上機嫌の声が返ってくる。
障子を開ければ、学園長、ヘムヘム、それからしんべヱのパパが一斉に顔を向けた。
「おお、土井先生……お待ちしておりましたよ」
「しんべヱのお父上……ご無沙汰しています」
しんべヱのパパと半助は互いに会釈を交わし合う。
「パパ、久しぶり~!」
しんべヱのパパはしんべヱにむぎゅっと抱き着く。
この過剰な愛情表現に、息子のしんべヱは食傷気味だ。
「んもう、パパったら。放してよ~!!」
「しんべヱ。元気にしておったか?鼻をかんでやろうか?」
「パパ!そんなことより、今日ここに来たのは、」
息子におっかない顔で睨まれてしまい、しんべヱのパパはしぶしぶと溺愛モードを断ち切った。
「すまんすまん、いつもの癖で。今日ここを訪ねたのは、勿論お前たちから頼まれたものを持ってきたんじゃ」
そう言って、しんべヱのパパは脇に置いてあった大きな唐櫃 に手を添えた。
自宅から運んできたらしい。
いかにも高級品が詰まっていそうな唐櫃を見て、きり丸は大興奮。
目を銭にし、唐櫃に頬ずりしている。
「しんべヱのパパさぁん、これってぇ、一体何が入っているんですかぁ?」
「ほっほっほ。きり丸君。ここには忍術学園への土産品が沢山入っておるんじゃが……それとは別に土井先生に渡したい重要な物を持ってきたんじゃ。これじゃよ」
そう言って、しんべヱのパパは唐櫃からあるものを取り出した。
風呂敷に包んである。
思わず、その場にいた皆が身を乗り出した。
しんべヱのパパは皆に構わず、開封作業を続ける。
丁寧にほどいていくと、中から姿をあらわしたのは……細長い箱。
漆で細かい装飾が施されている。
その外観だけで、どんなお宝が入っているのか、きり丸の夢が膨らむ。
「ウヒャウヒャ……何が入ってるんだろう!宝石かな?小判かな?」
横でよだれを出すきり丸をさておいて、しんべヱのパパは箱の蓋を取った。
箱に収められたものが意外だったようで、きり丸は唖然と呟いた。
「これって……」
事情を知らないきり丸と伝蔵、それから学園長とヘムヘムは目を白黒させている。
乱太郎だけが「当たった!」と納得の表情をしていた。
「土井先生、なんでまた……?」
きり丸が怪訝そうな顔で聞く。
それを受けて、半助の顔に赤みがさした。
その反応で伝蔵は全てを察したらしい。
「半助がコレを使いこなせるとは思えんのう。ということは、あの娘 のためじゃな?」
伝蔵がニッと笑いながら聞く。
しばらく黙していた半助だったが、やがてコクリと頷いた。
「文には書いてありませんでしたが、空さんに渡すためのものでしたか、成程成程。そういえば、最近土井先生と空さんは恋仲になったと今しがたお聞きしましたよ」
「へっ!?」
「先ほど、学園長と世間話している間に……なんでも、土井先生が日頃から空君にしつこいくらいにアタックしていて、ようやく実を結んだとか」
「事実と違います!」
半助は学園長を強烈に睨みつけた。
「学園長先生!しんべヱのお父上にどういうものの伝え方をしたんですか!?」
「軽いジョークじゃよ、ジョーク。ふぉふぉふぉ」
「ヘムヘムヘムゥ」
学園長とヘムヘムが茶目っ気たっぷりに笑う。
この厄介な性格はどうにかならんのか、と嘆く半助なのだった。
きり丸が口を開いた。
「でも、どうして空さんにコレを渡そうと思ったんですか?」
「それは……」
半助は語り出した。
先日、空とふたりきりで町へ外出したときに知ったことを。
一部始終を聞いて、きり丸は納得の表情を見せた。
「へぇ~そうだったんっすね。そういや、初めて一年は組の授業に出た時の自己紹介でも、そんなことを話していたような、」
半助が急にしんべヱのパパを向き直し、両手を畳につける。
改まった口調で言った。
「しんべヱのお父上。ぜひこちらを私に譲っていただけませんか?こんな高価な代物、もちろんタダでとは言いません。お代はお支払いしますから、」
「何を言ってるんですか、土井先生。タダで結構です。お代なんていりませんよ」
「ええぇっ!タダ!?」
「きりちゃん、ちょっと話の腰を折らないで!」
きり丸の悪い癖を乱太郎がたしなめる。
半助は話を続けた。
「そんな……勝手なお願いをした挙句こちらまでご足労頂いて……流石に何もお支払しないわけには、」
「何を言ってるんですか、土井先生!何かお礼をしなければいけないと思っていたのは、寧ろ私のほうなんです」
「え?」
驚く半助を前に、今度はしんべヱのパパが語り出した。
「聞けばうちのしんべヱは頻繁に補習を受けて土井先生の休日を台無しにしています……申し訳ない。おまけに事件に巻き込まれたときなんて、何度も命を救って頂いて」
「それは当然のことで、」
「そんなことはありません!それに……私自身、空さんに借りがあるんです。冬休み、堺の港でトラブルに遭っていた私を助けてくれました。おかげであの日無事に大口の取引を済ませることができました」
「しんべヱのお父上……」
「ここで何もしないのでは、男がすたります。なにとぞ、私の顔を立てては頂けませんか、土井先生」
しんべえのパパがにっこりと笑う。
穏やかな笑みだったが、これ以上の申し出は一切つっぱねるという強固な意志が含まれている。
深々と頭を下げつつ、半助が言った。
「しんべヱのお父上。ありがとうございます。こちらの品、謹んで頂戴いたします」
「いいなぁ、いいなぁ!土井先生、タダでもらえて、タダで!」
「きりちゃん……いい加減落ち着いてくんない?でも、よかったですね、土井先生!」
乱太郎の顔は喜びで満ちている。
「よかったのう、半助」
「ヘムヘムゥ」
「そうとなったら、善は急げだな。今すぐにでも、渡してこい」
学園長、ヘムヘム、伝蔵もともに喜びを分かち合っている。
そのときだった。
「ちょっと、待ったぁぁ!」
庵の外から二つの声が飛び込んでくる。
バン!と障子を叩き開いた人物たちは、この学園で知らない人はいない女性ふたり。
食堂のおばちゃんと山本シナだった。
小刻みに振り返りながら、半助がうざったそうに言う。
「しんべヱはともかくとして、何で乱太郎ときり丸までついてくるんだ!?」
「まあまあ。いいじゃないっすか。それに、おれたちだけでなくて山田先生にも注意してくださいよ」
そう言われて、半助が列の最後尾にいる伝蔵をギリッと睨む。
が、伝蔵は全然気にしていない。
「土井先生が秘密裏にしんべヱのパパに文を出したのが、ひどく気になってのう」
伝蔵はいやらしい笑みを浮かべる。
意地でも首を突っ込むつもりらしい。
半助は諦めから溜息をこぼした。
「しんべヱ、とにかく入るぞ」
「はぁい」
「学園長先生、土井です」
半助がそう発せば、部屋の奥から「入れ、入れ」と上機嫌の声が返ってくる。
障子を開ければ、学園長、ヘムヘム、それからしんべヱのパパが一斉に顔を向けた。
「おお、土井先生……お待ちしておりましたよ」
「しんべヱのお父上……ご無沙汰しています」
しんべヱのパパと半助は互いに会釈を交わし合う。
「パパ、久しぶり~!」
しんべヱのパパはしんべヱにむぎゅっと抱き着く。
この過剰な愛情表現に、息子のしんべヱは食傷気味だ。
「んもう、パパったら。放してよ~!!」
「しんべヱ。元気にしておったか?鼻をかんでやろうか?」
「パパ!そんなことより、今日ここに来たのは、」
息子におっかない顔で睨まれてしまい、しんべヱのパパはしぶしぶと溺愛モードを断ち切った。
「すまんすまん、いつもの癖で。今日ここを訪ねたのは、勿論お前たちから頼まれたものを持ってきたんじゃ」
そう言って、しんべヱのパパは脇に置いてあった大きな
自宅から運んできたらしい。
いかにも高級品が詰まっていそうな唐櫃を見て、きり丸は大興奮。
目を銭にし、唐櫃に頬ずりしている。
「しんべヱのパパさぁん、これってぇ、一体何が入っているんですかぁ?」
「ほっほっほ。きり丸君。ここには忍術学園への土産品が沢山入っておるんじゃが……それとは別に土井先生に渡したい重要な物を持ってきたんじゃ。これじゃよ」
そう言って、しんべヱのパパは唐櫃からあるものを取り出した。
風呂敷に包んである。
思わず、その場にいた皆が身を乗り出した。
しんべヱのパパは皆に構わず、開封作業を続ける。
丁寧にほどいていくと、中から姿をあらわしたのは……細長い箱。
漆で細かい装飾が施されている。
その外観だけで、どんなお宝が入っているのか、きり丸の夢が膨らむ。
「ウヒャウヒャ……何が入ってるんだろう!宝石かな?小判かな?」
横でよだれを出すきり丸をさておいて、しんべヱのパパは箱の蓋を取った。
箱に収められたものが意外だったようで、きり丸は唖然と呟いた。
「これって……」
事情を知らないきり丸と伝蔵、それから学園長とヘムヘムは目を白黒させている。
乱太郎だけが「当たった!」と納得の表情をしていた。
「土井先生、なんでまた……?」
きり丸が怪訝そうな顔で聞く。
それを受けて、半助の顔に赤みがさした。
その反応で伝蔵は全てを察したらしい。
「半助がコレを使いこなせるとは思えんのう。ということは、あの
伝蔵がニッと笑いながら聞く。
しばらく黙していた半助だったが、やがてコクリと頷いた。
「文には書いてありませんでしたが、空さんに渡すためのものでしたか、成程成程。そういえば、最近土井先生と空さんは恋仲になったと今しがたお聞きしましたよ」
「へっ!?」
「先ほど、学園長と世間話している間に……なんでも、土井先生が日頃から空君にしつこいくらいにアタックしていて、ようやく実を結んだとか」
「事実と違います!」
半助は学園長を強烈に睨みつけた。
「学園長先生!しんべヱのお父上にどういうものの伝え方をしたんですか!?」
「軽いジョークじゃよ、ジョーク。ふぉふぉふぉ」
「ヘムヘムヘムゥ」
学園長とヘムヘムが茶目っ気たっぷりに笑う。
この厄介な性格はどうにかならんのか、と嘆く半助なのだった。
きり丸が口を開いた。
「でも、どうして空さんにコレを渡そうと思ったんですか?」
「それは……」
半助は語り出した。
先日、空とふたりきりで町へ外出したときに知ったことを。
一部始終を聞いて、きり丸は納得の表情を見せた。
「へぇ~そうだったんっすね。そういや、初めて一年は組の授業に出た時の自己紹介でも、そんなことを話していたような、」
半助が急にしんべヱのパパを向き直し、両手を畳につける。
改まった口調で言った。
「しんべヱのお父上。ぜひこちらを私に譲っていただけませんか?こんな高価な代物、もちろんタダでとは言いません。お代はお支払いしますから、」
「何を言ってるんですか、土井先生。タダで結構です。お代なんていりませんよ」
「ええぇっ!タダ!?」
「きりちゃん、ちょっと話の腰を折らないで!」
きり丸の悪い癖を乱太郎がたしなめる。
半助は話を続けた。
「そんな……勝手なお願いをした挙句こちらまでご足労頂いて……流石に何もお支払しないわけには、」
「何を言ってるんですか、土井先生!何かお礼をしなければいけないと思っていたのは、寧ろ私のほうなんです」
「え?」
驚く半助を前に、今度はしんべヱのパパが語り出した。
「聞けばうちのしんべヱは頻繁に補習を受けて土井先生の休日を台無しにしています……申し訳ない。おまけに事件に巻き込まれたときなんて、何度も命を救って頂いて」
「それは当然のことで、」
「そんなことはありません!それに……私自身、空さんに借りがあるんです。冬休み、堺の港でトラブルに遭っていた私を助けてくれました。おかげであの日無事に大口の取引を済ませることができました」
「しんべヱのお父上……」
「ここで何もしないのでは、男がすたります。なにとぞ、私の顔を立てては頂けませんか、土井先生」
しんべえのパパがにっこりと笑う。
穏やかな笑みだったが、これ以上の申し出は一切つっぱねるという強固な意志が含まれている。
深々と頭を下げつつ、半助が言った。
「しんべヱのお父上。ありがとうございます。こちらの品、謹んで頂戴いたします」
「いいなぁ、いいなぁ!土井先生、タダでもらえて、タダで!」
「きりちゃん……いい加減落ち着いてくんない?でも、よかったですね、土井先生!」
乱太郎の顔は喜びで満ちている。
「よかったのう、半助」
「ヘムヘムゥ」
「そうとなったら、善は急げだな。今すぐにでも、渡してこい」
学園長、ヘムヘム、伝蔵もともに喜びを分かち合っている。
そのときだった。
「ちょっと、待ったぁぁ!」
庵の外から二つの声が飛び込んでくる。
バン!と障子を叩き開いた人物たちは、この学園で知らない人はいない女性ふたり。
食堂のおばちゃんと山本シナだった。