18.疑似家族の土井家 (前編)
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(一体、何なんだ、隣のおばちゃんは!)
恋人の存在を告げた途端、逆セクハラされてしまう半助なのだった。
が、半助はあることにハタと気づく。
空がまだ、自分の腕にしがみついていることに。
きり丸を見れば、にんまりとした顔でこっちを見てくるではないか。
「空さん、もう隣のおばちゃん行っちゃったけど」
暗に言うが、空は全く気付いていない。
「よかった……なんとかやり過ごせたね」
「それなのに、まだ土井先生から離れないなんて。お熱いですね、ニヒヒヒヒッ!」
「あ!」
ようやくここで空がきり丸の意図に気が付いた。
慌てて半助から身を離す。
「ご、ごめんなさい」
「い、いや……こっちこそフォローしてもらって、助かった。ありがとう」
「そ、そんな……私の方こそ……」
半助と空が背中合わせで感謝の意を伝え合う。
この二人、初日から見てて飽きないな……ときり丸が思っていた、そのときだった。
ぎゅるるるるるる
甘い空気を切り裂くように音が鳴る。
その音とは、空の腹の虫だった。
「あはは……何か安心したら、お腹空いてきちゃった」
空があっけらかんに言う。
半助ときり丸は堪えきれずに吹き出してしまった。
「ププッ……しんべえのお腹の音ぐらい大きな音でしたね、土井先生!」
「ああ……くっ!」
「何言ってるんですか、二人とも!極めて普通の音だったじゃないですか、もう失礼しちゃう!!」
「……」
「普通の音」と言い放つ空に、半助ときり丸は唖然としていた。
「ああ、そっか。二人とも忍者だから、耳が良すぎるんですよ。だから……うんうん」
空が勝手に一人で納得している。
その傍ら、きり丸と半助がヒソヒソと小声でささやき合った。
「さっきのお腹の音といい、食欲といい、何故か過小評価してますよね」
「ああ、よくわからんが、殊 食べることに関しては都合の良い耳を持っているようだな」
結構な言われ様に、空が気づくことはなかった。
「それより、だいぶ日が傾いてきましたね」
「いかん!隣のおばちゃん対策に時間をとられすぎて、夕飯の買い物を忘れてた!」
「土井先生、まだ間に合うかもしれません!おれがひとっ走りしてくるから、土井先生と空さんで家にある材料で作れるところまで作っておいてください。頑張って値切りますから!」
「わかった。頼んだぞ、きり丸」
きり丸は台所に置いてあったかごをガバッと掴むと、風のように家を飛び出していった。
***
残された空と半助の二人は夕飯の支度に取り掛かっていた。
台所で調理しているが、空は生きた心地がしなかった。
自分が料理できないことを、半助は知らない。
食堂の仕事をしている自分に、過度の期待が向けられたらどうしようかとヒヤヒヤしていたのだ。
空が野菜を切っている傍ら、半助は馴れた手つきで準備を進めていく。
その手際の良さは空が思わず見入るほどだった。
「は、半助さんって、料理できるんですね……」
「ん、そうか?まあ、普通だよ。長いこと独身が板についているからな」
その言葉を聞いて、包丁を動かす空の手は止まっていた。
ショックを受けていたのだ。
今の料理ができない自分は、男性以下なのだと。
(あれ……?)
半助の方が驚いていた。
今しがたの発言は、未婚の自分のことを半ば自虐的に言ったつもりだった。
笑うのならまだしも、何故思いつめたような顔をしているのか、不思議でしょうがなかった。
「……」
半助は料理を中断する。
空の前に回り込み、両肩を掴んでその顔を覗き込んだ。
「どうして、そんなつらそうな顔をしているんだ?さっき私が言ったこと、何か気に障ったのか?」
「……」
空は間近にいる半助を見た。
心から自分を心配する、真摯な瞳がそこにはある。
その目に安心感を感じた空は、今抱えている悩みを正直に打ち明けてみることにした。
「半助さん、実は私……料理が得意じゃないかも、です」
「へ?」
「自分でもよくわかりませんが、料理しようとすると、全部黒焦げになってしまって」
「……」
「こっちの調理器具に慣れてないから、って食堂のおばちゃんはそう励ましてくれるけど……こんな私が食堂のお手伝いやってるなんて笑っちゃいますよね」
そう言って、空は力なく笑う。
「……」
少しの思案のあと、半助が口を開いた。
「それでも、普段の食堂の仕事では、肉や野菜を切ったり、配膳をしたり、膨大な数の食器を洗ったり、しているんだよな」
「そりゃあ、まあ、そうですけど……」
「なら、それでいいじゃないか」
半助は何事もなかったかのように料理を再開する。
そんなこと全然気にするな、と言ったつもりなのだろう。
が、空からすれば深刻な問題なのだ。
「半助さんはそういいますけど、私にとっては結構大きな問題で、」
不満をあらわに空はブツクサ言う。
「……」
半助は何を思ったのか、再び料理を中断して空に近寄り、いきなり空の両の頬をぐにぐにと抓った。
今朝きり丸にやられたことと同じことを空にしていた。
突然のことに、空は当惑している。
「ひゃ、ひゃいふるんでふは(な、なにするんですか)!?」
「もっとほぐさないと、そのつまらない表情が顔にひっついて取れなくなってしまうよ」
そう言って、半助は悪戯っぽく笑った。
「も、もう!」
やられっぱなしでは悔しいと、空も応戦する。
負けじと半助の左右の頬を抓っては引っ張り上げる。
そのときだった。
「あれぇ!土井先生に空さん、おれがいないときにまで「恋人役」の練習してるんですか?いやぁ、感心、感心!」
いつの間にかきり丸が買い物から戻ってきていた。
大急ぎで二人は相手の身体から離れる。
「き、きり丸(ちゃん)!」
「あれ?でも、こんなお互いの頬を抓るシーンなんて、おれの用意した台本に書いてあったっけ?パターンBだっけか?」
「おい!そ、それより……買い物はどうだった?」
「あ、そうだそうだ、見てください!こんなに大きな魚を半額で買えてラッキーでした。閉店ギリギリに駆け込んで、まけにまけてもらったんです」
「うわぁ、凄いね……!」
空は目をキラキラと輝かせている。
きり丸の買ってきた魚に釘付けだった。
さっきまでの悩みはどこへやら、といった様子だ。
それを見て、半助は安心したように微笑んだ。
恋人の存在を告げた途端、逆セクハラされてしまう半助なのだった。
が、半助はあることにハタと気づく。
空がまだ、自分の腕にしがみついていることに。
きり丸を見れば、にんまりとした顔でこっちを見てくるではないか。
「空さん、もう隣のおばちゃん行っちゃったけど」
暗に言うが、空は全く気付いていない。
「よかった……なんとかやり過ごせたね」
「それなのに、まだ土井先生から離れないなんて。お熱いですね、ニヒヒヒヒッ!」
「あ!」
ようやくここで空がきり丸の意図に気が付いた。
慌てて半助から身を離す。
「ご、ごめんなさい」
「い、いや……こっちこそフォローしてもらって、助かった。ありがとう」
「そ、そんな……私の方こそ……」
半助と空が背中合わせで感謝の意を伝え合う。
この二人、初日から見てて飽きないな……ときり丸が思っていた、そのときだった。
ぎゅるるるるるる
甘い空気を切り裂くように音が鳴る。
その音とは、空の腹の虫だった。
「あはは……何か安心したら、お腹空いてきちゃった」
空があっけらかんに言う。
半助ときり丸は堪えきれずに吹き出してしまった。
「ププッ……しんべえのお腹の音ぐらい大きな音でしたね、土井先生!」
「ああ……くっ!」
「何言ってるんですか、二人とも!極めて普通の音だったじゃないですか、もう失礼しちゃう!!」
「……」
「普通の音」と言い放つ空に、半助ときり丸は唖然としていた。
「ああ、そっか。二人とも忍者だから、耳が良すぎるんですよ。だから……うんうん」
空が勝手に一人で納得している。
その傍ら、きり丸と半助がヒソヒソと小声でささやき合った。
「さっきのお腹の音といい、食欲といい、何故か過小評価してますよね」
「ああ、よくわからんが、
結構な言われ様に、空が気づくことはなかった。
「それより、だいぶ日が傾いてきましたね」
「いかん!隣のおばちゃん対策に時間をとられすぎて、夕飯の買い物を忘れてた!」
「土井先生、まだ間に合うかもしれません!おれがひとっ走りしてくるから、土井先生と空さんで家にある材料で作れるところまで作っておいてください。頑張って値切りますから!」
「わかった。頼んだぞ、きり丸」
きり丸は台所に置いてあったかごをガバッと掴むと、風のように家を飛び出していった。
***
残された空と半助の二人は夕飯の支度に取り掛かっていた。
台所で調理しているが、空は生きた心地がしなかった。
自分が料理できないことを、半助は知らない。
食堂の仕事をしている自分に、過度の期待が向けられたらどうしようかとヒヤヒヤしていたのだ。
空が野菜を切っている傍ら、半助は馴れた手つきで準備を進めていく。
その手際の良さは空が思わず見入るほどだった。
「は、半助さんって、料理できるんですね……」
「ん、そうか?まあ、普通だよ。長いこと独身が板についているからな」
その言葉を聞いて、包丁を動かす空の手は止まっていた。
ショックを受けていたのだ。
今の料理ができない自分は、男性以下なのだと。
(あれ……?)
半助の方が驚いていた。
今しがたの発言は、未婚の自分のことを半ば自虐的に言ったつもりだった。
笑うのならまだしも、何故思いつめたような顔をしているのか、不思議でしょうがなかった。
「……」
半助は料理を中断する。
空の前に回り込み、両肩を掴んでその顔を覗き込んだ。
「どうして、そんなつらそうな顔をしているんだ?さっき私が言ったこと、何か気に障ったのか?」
「……」
空は間近にいる半助を見た。
心から自分を心配する、真摯な瞳がそこにはある。
その目に安心感を感じた空は、今抱えている悩みを正直に打ち明けてみることにした。
「半助さん、実は私……料理が得意じゃないかも、です」
「へ?」
「自分でもよくわかりませんが、料理しようとすると、全部黒焦げになってしまって」
「……」
「こっちの調理器具に慣れてないから、って食堂のおばちゃんはそう励ましてくれるけど……こんな私が食堂のお手伝いやってるなんて笑っちゃいますよね」
そう言って、空は力なく笑う。
「……」
少しの思案のあと、半助が口を開いた。
「それでも、普段の食堂の仕事では、肉や野菜を切ったり、配膳をしたり、膨大な数の食器を洗ったり、しているんだよな」
「そりゃあ、まあ、そうですけど……」
「なら、それでいいじゃないか」
半助は何事もなかったかのように料理を再開する。
そんなこと全然気にするな、と言ったつもりなのだろう。
が、空からすれば深刻な問題なのだ。
「半助さんはそういいますけど、私にとっては結構大きな問題で、」
不満をあらわに空はブツクサ言う。
「……」
半助は何を思ったのか、再び料理を中断して空に近寄り、いきなり空の両の頬をぐにぐにと抓った。
今朝きり丸にやられたことと同じことを空にしていた。
突然のことに、空は当惑している。
「ひゃ、ひゃいふるんでふは(な、なにするんですか)!?」
「もっとほぐさないと、そのつまらない表情が顔にひっついて取れなくなってしまうよ」
そう言って、半助は悪戯っぽく笑った。
「も、もう!」
やられっぱなしでは悔しいと、空も応戦する。
負けじと半助の左右の頬を抓っては引っ張り上げる。
そのときだった。
「あれぇ!土井先生に空さん、おれがいないときにまで「恋人役」の練習してるんですか?いやぁ、感心、感心!」
いつの間にかきり丸が買い物から戻ってきていた。
大急ぎで二人は相手の身体から離れる。
「き、きり丸(ちゃん)!」
「あれ?でも、こんなお互いの頬を抓るシーンなんて、おれの用意した台本に書いてあったっけ?パターンBだっけか?」
「おい!そ、それより……買い物はどうだった?」
「あ、そうだそうだ、見てください!こんなに大きな魚を半額で買えてラッキーでした。閉店ギリギリに駆け込んで、まけにまけてもらったんです」
「うわぁ、凄いね……!」
空は目をキラキラと輝かせている。
きり丸の買ってきた魚に釘付けだった。
さっきまでの悩みはどこへやら、といった様子だ。
それを見て、半助は安心したように微笑んだ。
