18.疑似家族の土井家 (前編)
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「よっしゃあぁぁぁぁ!」
ガッツポーズをとった、きり丸の雄叫びがほとばしる。
一方、半助は驚きのあまり硬直してしまう。
直前の空の言葉が、脳内でエコーのように木霊していた。
『恋人にしてください』
『恋人にしてください』
『恋人にしてください』
偽りの関係だと頭で理解していても、その発言の破壊力は相当なものだった。
しばしの間、唖然とする半助だったが、不意に顔を真っ赤にした空と目が合う。
その顔は困っていて、半ば泣きそうな表情にも見える。
「恋人にしてください」と言った以降、半助から何も反応が返ってこないのが不安なようだ。
半助が慌てて言った。
「こ、こちらこそ、その……私でよければ是非。君の恋人として、しっかり護衛するから!」
「はい……」
か細い声。
けれど、はにかみがちに微笑みをつくる空に半助は胸の高鳴りが抑えられない。
甘酸っぱい空気が家じゅうを満たす中、満面喜色に染めて一人喜ぶのはきり丸だ。
「んもう、お二人さん!あくまでフリなのに、まるで本当の恋人同士みたいな雰囲気を出してますね!」
「き、きり丸(きりちゃん)……」
「おお、息ぴったり。仲のいいこと。でも、それだけで果たして隣のおばちゃんが騙せるかな?」
挑発的なきり丸の物言いに、半助が怪訝な顔つきで聞き返した。
「どういうことだ、きり丸?」
「おれと空さんが隣のおばちゃんたちの前で姉弟を演じる分には大丈夫ですが……土井先生と空さん、二人の間にはまだ壁があります。そんなに緊張した様子だと、隣のおばちゃんにおれたちの関係が全部嘘だってバレてしまいますよ!」
「って言われてもなぁ……じゃあ、どうすればいいんだ?」
「そのために練習をするんですよ、恋人らしい振舞いの練習を」
「練習?」
ハテナ顔をした半助と空、二人の声が重なった。
「こうなるかと思って、先に準備しておきました。何事も予習復習は大事ですからね」
きり丸がそう言って、何枚ものの紙が綴られた冊子のようなものをそれぞれに渡した。
「何事も予習復習が大事か……補習や宿題忘れの常習犯であるお前が言うほど、むなしく響く言葉はないな」
皮肉交じりに受け取った冊子をめくる半助は、そこに書かれた文字を見て驚愕した。
後に続いた空も絶句している。
「おい、きり丸!これはなんだ!」
「何って……台本ですよ。そこに書いてある言葉くらいスラスラ言えるようにならないと、隣のおばちゃんを欺けませんよ!」
紙には「〇〇(相手の名)、愛してる」とか「〇〇(相手の名)、一生離さない」とか驚くほどの甘ったるい言葉の羅列だった。
他にも、「人前では常に寄り添うように」やら「相手を見るときは瞳を潤ませて」、「おばちゃんたちのいないところでも常に名前で呼び合うように」など、ご丁寧に演技指導まで記してある。
「ここまでやる必要があるのか!?」
「そうよ、きりちゃん!悪ふざけも大概にして!」
半助と空がじりじりときり丸に詰め寄る。
対して、きり丸がその大きな瞳をうるうるとさせている。
「ひ、ひどいっす……おれ、二人のためにどうやったら恋人らしく自然に見えるのか、茶店のバイトに入った時、お姉さんたちに聞き込みまでしたのに……」
「き、きり丸(きりちゃん)……」
「いいです、いいです。おれのやったことは二人にとっては迷惑なんだ!うっ……ううっ……」
きり丸が目をゴシゴシと擦る。
二人に背を向け、とうとうその場で泣き崩れてしまった。
「……」
泣くきり丸のそばで、半助と空はきまりが悪そうにしている。
ここまで念入りに準備するなんて、今日という日を余程楽しみにしていたのだろう、と申し訳なく思っていたのだ。
二人はもう一度顔を見合わせる。
お互いの表情から読み取れる思いは同じ――
やがて半助がきり丸の元へ近づき、肩にポンと手を置いた。
「ごめんな、きり丸。一生懸命考えてくれたのに、ひどいことを言ってしまって」
「もういいんです……どうせ……おれなんか……」
「そんなこと言うなよ。こんなに真剣に考えてくれたんなら、私たちもできる限り協力したい」
「……本当ですか?」
「ああ、本当だ」
その言葉に、きり丸はピタッと涙を止める。
ゆっくりと半助の方を振り返った。
(し、しまった!)
きり丸のしたり顔を見て、半助は後悔していた。
「哀車の術」にしてやられた、と。
ちなみに、この時のきり丸のあくどい顔は空からは見えていない。
「じゃあ、早速練習しましょう……まずは土井先生から……」
キラーン
きり丸の目が妖しく光った。
***
きり丸によるスパルタ指導は半刻ほど続いた。
最初は互いの名を呼び合うだけで、夕日のように顔を赤くし、ダンマリする二人であった。
しかしながら、不思議なものでそれが何度も続くと、いつしかそれが当たり前のような感覚になって馴染んでくる。
愛を囁く言葉を口にするときは流石に恥ずかしいが、少なくとも呼び名を変えることに抵抗感はなくなりつつあった。
「うん、二人とも大分イイ感じ。呼び名が定着してきましたね」
「ほんと?それを聞いて安心した。ね、半助さん」
「そうだな、空」
心なしか二人の頬が赤い。
きり丸は独り勝ちの状態で見つめていた。
(ニヒヒヒッ。ちょろいちょろい……)
現在、半助と空は以前よりも身体の距離を縮めながら、打ち合わせを展開している。
「きり丸と会うまで、空がどう過ごしていたかだが、これは忍術学園で使用している理由と同じで問題ないよな?」
「学園長の友人の孫ということですよね。その家で捨て子だった私を拾ってもらったということでいいんじゃないですか、半助さん」
「うん、そうしよう」
二人ともすっかり板についているではないか。
こんなにすんなり事が運ぶとは。
きり丸は内心笑いが止まらない状態であった。
そうこうするうちに、隣のおばちゃん突撃対策の打ち合わせは終了した。
ふと空がクスっと笑う。
「こんなに演技の練習して綿密に打ち合わせして……なんだか学芸会の劇みたいだね」
「単なる劇では終わらせませんよ。こんなのはまだ序章ですから」
「え?」
意味ありげな顔をしたきり丸の真意が分からず、空は一人目を丸くしていた。
ガッツポーズをとった、きり丸の雄叫びがほとばしる。
一方、半助は驚きのあまり硬直してしまう。
直前の空の言葉が、脳内でエコーのように木霊していた。
『恋人にしてください』
『恋人にしてください』
『恋人にしてください』
偽りの関係だと頭で理解していても、その発言の破壊力は相当なものだった。
しばしの間、唖然とする半助だったが、不意に顔を真っ赤にした空と目が合う。
その顔は困っていて、半ば泣きそうな表情にも見える。
「恋人にしてください」と言った以降、半助から何も反応が返ってこないのが不安なようだ。
半助が慌てて言った。
「こ、こちらこそ、その……私でよければ是非。君の恋人として、しっかり護衛するから!」
「はい……」
か細い声。
けれど、はにかみがちに微笑みをつくる空に半助は胸の高鳴りが抑えられない。
甘酸っぱい空気が家じゅうを満たす中、満面喜色に染めて一人喜ぶのはきり丸だ。
「んもう、お二人さん!あくまでフリなのに、まるで本当の恋人同士みたいな雰囲気を出してますね!」
「き、きり丸(きりちゃん)……」
「おお、息ぴったり。仲のいいこと。でも、それだけで果たして隣のおばちゃんが騙せるかな?」
挑発的なきり丸の物言いに、半助が怪訝な顔つきで聞き返した。
「どういうことだ、きり丸?」
「おれと空さんが隣のおばちゃんたちの前で姉弟を演じる分には大丈夫ですが……土井先生と空さん、二人の間にはまだ壁があります。そんなに緊張した様子だと、隣のおばちゃんにおれたちの関係が全部嘘だってバレてしまいますよ!」
「って言われてもなぁ……じゃあ、どうすればいいんだ?」
「そのために練習をするんですよ、恋人らしい振舞いの練習を」
「練習?」
ハテナ顔をした半助と空、二人の声が重なった。
「こうなるかと思って、先に準備しておきました。何事も予習復習は大事ですからね」
きり丸がそう言って、何枚ものの紙が綴られた冊子のようなものをそれぞれに渡した。
「何事も予習復習が大事か……補習や宿題忘れの常習犯であるお前が言うほど、むなしく響く言葉はないな」
皮肉交じりに受け取った冊子をめくる半助は、そこに書かれた文字を見て驚愕した。
後に続いた空も絶句している。
「おい、きり丸!これはなんだ!」
「何って……台本ですよ。そこに書いてある言葉くらいスラスラ言えるようにならないと、隣のおばちゃんを欺けませんよ!」
紙には「〇〇(相手の名)、愛してる」とか「〇〇(相手の名)、一生離さない」とか驚くほどの甘ったるい言葉の羅列だった。
他にも、「人前では常に寄り添うように」やら「相手を見るときは瞳を潤ませて」、「おばちゃんたちのいないところでも常に名前で呼び合うように」など、ご丁寧に演技指導まで記してある。
「ここまでやる必要があるのか!?」
「そうよ、きりちゃん!悪ふざけも大概にして!」
半助と空がじりじりときり丸に詰め寄る。
対して、きり丸がその大きな瞳をうるうるとさせている。
「ひ、ひどいっす……おれ、二人のためにどうやったら恋人らしく自然に見えるのか、茶店のバイトに入った時、お姉さんたちに聞き込みまでしたのに……」
「き、きり丸(きりちゃん)……」
「いいです、いいです。おれのやったことは二人にとっては迷惑なんだ!うっ……ううっ……」
きり丸が目をゴシゴシと擦る。
二人に背を向け、とうとうその場で泣き崩れてしまった。
「……」
泣くきり丸のそばで、半助と空はきまりが悪そうにしている。
ここまで念入りに準備するなんて、今日という日を余程楽しみにしていたのだろう、と申し訳なく思っていたのだ。
二人はもう一度顔を見合わせる。
お互いの表情から読み取れる思いは同じ――
やがて半助がきり丸の元へ近づき、肩にポンと手を置いた。
「ごめんな、きり丸。一生懸命考えてくれたのに、ひどいことを言ってしまって」
「もういいんです……どうせ……おれなんか……」
「そんなこと言うなよ。こんなに真剣に考えてくれたんなら、私たちもできる限り協力したい」
「……本当ですか?」
「ああ、本当だ」
その言葉に、きり丸はピタッと涙を止める。
ゆっくりと半助の方を振り返った。
(し、しまった!)
きり丸のしたり顔を見て、半助は後悔していた。
「哀車の術」にしてやられた、と。
ちなみに、この時のきり丸のあくどい顔は空からは見えていない。
「じゃあ、早速練習しましょう……まずは土井先生から……」
キラーン
きり丸の目が妖しく光った。
***
きり丸によるスパルタ指導は半刻ほど続いた。
最初は互いの名を呼び合うだけで、夕日のように顔を赤くし、ダンマリする二人であった。
しかしながら、不思議なものでそれが何度も続くと、いつしかそれが当たり前のような感覚になって馴染んでくる。
愛を囁く言葉を口にするときは流石に恥ずかしいが、少なくとも呼び名を変えることに抵抗感はなくなりつつあった。
「うん、二人とも大分イイ感じ。呼び名が定着してきましたね」
「ほんと?それを聞いて安心した。ね、半助さん」
「そうだな、空」
心なしか二人の頬が赤い。
きり丸は独り勝ちの状態で見つめていた。
(ニヒヒヒッ。ちょろいちょろい……)
現在、半助と空は以前よりも身体の距離を縮めながら、打ち合わせを展開している。
「きり丸と会うまで、空がどう過ごしていたかだが、これは忍術学園で使用している理由と同じで問題ないよな?」
「学園長の友人の孫ということですよね。その家で捨て子だった私を拾ってもらったということでいいんじゃないですか、半助さん」
「うん、そうしよう」
二人ともすっかり板についているではないか。
こんなにすんなり事が運ぶとは。
きり丸は内心笑いが止まらない状態であった。
そうこうするうちに、隣のおばちゃん突撃対策の打ち合わせは終了した。
ふと空がクスっと笑う。
「こんなに演技の練習して綿密に打ち合わせして……なんだか学芸会の劇みたいだね」
「単なる劇では終わらせませんよ。こんなのはまだ序章ですから」
「え?」
意味ありげな顔をしたきり丸の真意が分からず、空は一人目を丸くしていた。
