18.疑似家族の土井家 (前編)
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ようやく冷静さを取り戻した空は、半助の家を見渡していた。
基本的には乱太郎の家と似た造りである。
違う点と言えば、乱太郎の家は家の中に生活用具や食料が沢山置いてあったが、休暇中しか利用しない半助の家は物が少なめで、こざっぱりとしている。
半助が淹れてくれたお茶を啜っていると、きり丸が声をかけてきた。
「空さん、ちょっとご相談があるんですけど」
「うん。どうしたの?」
「実はですね……」
その言葉の後、きり丸は隣のおばちゃんの存在を空に伝えた。
何かと世話を焼いてくれる良いおばちゃんなのだが、一方で詮索好きな面があり、一度気になったらとことん追ってしまう性格なのだと。
半助が忍者であることがバレそうになったことも同時に説明した。
「へぇぇ……土井先生、その節は大変だったんですね」
「うん。だから、今回私ときり丸が心配しているのは、空君のことだ。隣のおばちゃんは絶対に君に興味を持つだろう」
「でも、それのどこが心配なんですか?」
「空さん、まだまだこの時代のことに疎いでしょ?だから、隣のおばちゃんと話して、空さんが未来から来たって勘づかれないか心配で……」
「あ、なるほど」
「一度隣のおばちゃんに知れたら、噂が広まるのは確実だ。その噂が近隣の大名たちの耳にでも入って、彼らが君に興味を持ってしまったら大変なことになるぞ。君を拉致しようとする輩が必ず現れる」
空の背筋に冷たいものがはしる。
半助の発言は決して脅しではなかった。
力のある大名がひとたび命令を出せば、彼の配下である兵士たちは皆「右に倣え」で従う。
ここはそういう時代なのだ。
「だから、おれと土井先生がいつも空さんと一緒に付き添っていて、不自然ではない関係を作っておきたいんです。ここにいる間。そしたら、おれと土井先生のどっちかが、空さんを守ることができます!」
「不自然ではない関係……」
「この家に住む間、おれと空さん、生き別れた姉弟 ってことにしておきませんか?」
「姉弟……!?」
「空さんがおれの姉ちゃん。おれは空さんの弟……て、いきなり提案されても、やっぱ困りますか?」
きり丸が自信なさげに言う。
これに空は大きく首を振った。
「ううん、ちっとも。本当はね、ずっと兄弟がいる友達が羨ましかったの。私一人っ子だったから。だから、きり丸君が弟になってくれたら、すごく嬉しい」
「ほんと!?」
「うん」
空がにっこりと笑う。
その温かみのある笑顔を見た瞬間、きり丸はもう我慢ができなかった。
衝動のまま、空の胸に飛び込んでいく。
「きり丸君……」
「えへへ」
空はまじまじときり丸の顔を見て言った。
「弟ってことにしておくなら、もう『きり丸君』て呼べないね。これからは『きりちゃん』って呼んでいい?」
「はい!じゃあ、おれは空さんのこと、隣のおばちゃんたちの前では『姉ちゃん』って呼びますね!」
「よかったな、きり丸」
「はい!」
弾んだ返事をかえすきり丸を見て、半助は微笑んでいた。
家族のいないきり丸が家族を呼ぶ名を使う――それはずっとそばで見守ってきた半助にとって、感慨深いものであった。
よかったよかった、と一人完結する半助を見て、きり丸が急にハッとした表情で話を続ける。
「空さん……おれと空さんは姉弟ってことで決まりだけど、土井先生と空さんも、ずっと一緒にいてもおかしくない関係にしておく必要があります。おれがずっとそばにいることはできないから、そのときは土井先生に守ってもらわないと……どうです、ここは二人、恋人同士ってことにしておくのは?」
揉み手をしながらきり丸が言う。
空はしばらく目を白黒させている。
どうやらきり丸の言ったことをうまく飲みこめてないようだ。
が、しばらくすると、空がこれ以上ないくらい真っ赤な顔で叫んだ。
「こ、恋人ぉぉぉ!?」
その叫び声は向こう三軒先の家まで轟くほど大きいものだった。
きり丸も半助も目を丸くして驚いている。
(私が土井先生の恋人だなんて……)
自分が抱く半助への想いは何なのか。
それを自問自答している真っ最中の空にとって、その二文字は非常に敏感な言葉だった。
空は半助の家に行く決め手になった、食堂のおばちゃんの言葉を思い出していた。
『きり丸君の力になりたいんでしょ。冬休みもバイトを手伝うなんて、素晴らしい心意気じゃないの。こんな立派な理由がある以上、もう行くっきゃないじゃない!そこに、土井先生云々とか関係ないわよ。土井先生はあくまでオマケみたいなもんよ、オマケ』
(食堂のおばちゃん!こんな展開になるなんて……土井先生のこと、とてもオマケとは思えません……!)
空は恥ずかしさのあまり、両手で顔をおさえて首をブンブン横に振る。
(そんなにイヤだったか……)
半助はガックリと肩を落とした。
空の狼狽ぶりを、自分への拒絶と解釈してしまっていたのだ。
「……」
二人の間に気まずい空気が流れる。
これに、きり丸が焦りに焦った。
「あ、あの空さん、落ち着いて下さい!あくまでフリ、ですから、フリ。恋人ってことにしておけば、空さん自身より恋人っていう「関係性」の方に気が向くでしょ!ほら、女の人ってそういう話好きですし……」
「恋人のフリ……」
「おれたち、空さんとここで楽しく過ごしたいんです。でも、そのためには空さんを守らなければいけません!おれも土井先生も必死なんです!」
きり丸が空をじっと見る。
その真摯な瞳を前にして、過熱していた頭が次第に冷えていく。
(確かにきり丸君の言う事は一理ある。住んだことがない町で私一人にされると、どんな人に声かけられるかわからないし……)
(恋人っていうのは良い隠れ蓑になるかもしれない……)
空は半助とチラッと見た。
何故か顔を赤くしていたが、その表情はきり丸と同じ。
真剣そのものだった。
「私もきり丸と同じ思いだよ。ここにいる間は楽しく過ごしてほしい……そう思っている。だけど、空君があまりに困るようだったら、無理しなくていい。別の方法を考えよう」
「……」
「考えてみれば、私と恋人になれだなんて、そりゃイヤだよな」
「ど、土井先生!」
せっかくの作戦を、ときり丸が鬼の形相で半助を睨む。
だが、半助は空を困らせるほどの嘘をつきたくはなかった。
(土井先生……)
半助の誠実な態度は、かえって空を感動させていた。
と同時に深く反省していた。
自分のことをきちんと考えてくれたというのに、必要以上に恥ずかしがってしまったことに。
(私のことで二人に迷惑かけるわけにはいかない……!)
「あの!」
空が二人に向かって叫ぶ。
半助ときり丸はパッと空を見た。
「土井先生に不快な思いをさせてしまってすみません。土井先生のことをイヤだなんて……私、思ったことないです!その、いきなりの提案だったから、あまりに恥ずかしくてびっくりしただけ」
「空君……」
「私、大丈夫です。せっかくここに来たし、この一週間、ふたりと楽しく過ごしたいと思っています。そのために、自分が出来ることがあったら何でも協力します。だから、」
「……」
「ど、土井先生がよろしければ……わ、私を恋人にしてください!」
まるで真剣勝負でも申し込むかのような勢いで、空が叫んだ。
基本的には乱太郎の家と似た造りである。
違う点と言えば、乱太郎の家は家の中に生活用具や食料が沢山置いてあったが、休暇中しか利用しない半助の家は物が少なめで、こざっぱりとしている。
半助が淹れてくれたお茶を啜っていると、きり丸が声をかけてきた。
「空さん、ちょっとご相談があるんですけど」
「うん。どうしたの?」
「実はですね……」
その言葉の後、きり丸は隣のおばちゃんの存在を空に伝えた。
何かと世話を焼いてくれる良いおばちゃんなのだが、一方で詮索好きな面があり、一度気になったらとことん追ってしまう性格なのだと。
半助が忍者であることがバレそうになったことも同時に説明した。
「へぇぇ……土井先生、その節は大変だったんですね」
「うん。だから、今回私ときり丸が心配しているのは、空君のことだ。隣のおばちゃんは絶対に君に興味を持つだろう」
「でも、それのどこが心配なんですか?」
「空さん、まだまだこの時代のことに疎いでしょ?だから、隣のおばちゃんと話して、空さんが未来から来たって勘づかれないか心配で……」
「あ、なるほど」
「一度隣のおばちゃんに知れたら、噂が広まるのは確実だ。その噂が近隣の大名たちの耳にでも入って、彼らが君に興味を持ってしまったら大変なことになるぞ。君を拉致しようとする輩が必ず現れる」
空の背筋に冷たいものがはしる。
半助の発言は決して脅しではなかった。
力のある大名がひとたび命令を出せば、彼の配下である兵士たちは皆「右に倣え」で従う。
ここはそういう時代なのだ。
「だから、おれと土井先生がいつも空さんと一緒に付き添っていて、不自然ではない関係を作っておきたいんです。ここにいる間。そしたら、おれと土井先生のどっちかが、空さんを守ることができます!」
「不自然ではない関係……」
「この家に住む間、おれと空さん、生き別れた
「姉弟……!?」
「空さんがおれの姉ちゃん。おれは空さんの弟……て、いきなり提案されても、やっぱ困りますか?」
きり丸が自信なさげに言う。
これに空は大きく首を振った。
「ううん、ちっとも。本当はね、ずっと兄弟がいる友達が羨ましかったの。私一人っ子だったから。だから、きり丸君が弟になってくれたら、すごく嬉しい」
「ほんと!?」
「うん」
空がにっこりと笑う。
その温かみのある笑顔を見た瞬間、きり丸はもう我慢ができなかった。
衝動のまま、空の胸に飛び込んでいく。
「きり丸君……」
「えへへ」
空はまじまじときり丸の顔を見て言った。
「弟ってことにしておくなら、もう『きり丸君』て呼べないね。これからは『きりちゃん』って呼んでいい?」
「はい!じゃあ、おれは空さんのこと、隣のおばちゃんたちの前では『姉ちゃん』って呼びますね!」
「よかったな、きり丸」
「はい!」
弾んだ返事をかえすきり丸を見て、半助は微笑んでいた。
家族のいないきり丸が家族を呼ぶ名を使う――それはずっとそばで見守ってきた半助にとって、感慨深いものであった。
よかったよかった、と一人完結する半助を見て、きり丸が急にハッとした表情で話を続ける。
「空さん……おれと空さんは姉弟ってことで決まりだけど、土井先生と空さんも、ずっと一緒にいてもおかしくない関係にしておく必要があります。おれがずっとそばにいることはできないから、そのときは土井先生に守ってもらわないと……どうです、ここは二人、恋人同士ってことにしておくのは?」
揉み手をしながらきり丸が言う。
空はしばらく目を白黒させている。
どうやらきり丸の言ったことをうまく飲みこめてないようだ。
が、しばらくすると、空がこれ以上ないくらい真っ赤な顔で叫んだ。
「こ、恋人ぉぉぉ!?」
その叫び声は向こう三軒先の家まで轟くほど大きいものだった。
きり丸も半助も目を丸くして驚いている。
(私が土井先生の恋人だなんて……)
自分が抱く半助への想いは何なのか。
それを自問自答している真っ最中の空にとって、その二文字は非常に敏感な言葉だった。
空は半助の家に行く決め手になった、食堂のおばちゃんの言葉を思い出していた。
『きり丸君の力になりたいんでしょ。冬休みもバイトを手伝うなんて、素晴らしい心意気じゃないの。こんな立派な理由がある以上、もう行くっきゃないじゃない!そこに、土井先生云々とか関係ないわよ。土井先生はあくまでオマケみたいなもんよ、オマケ』
(食堂のおばちゃん!こんな展開になるなんて……土井先生のこと、とてもオマケとは思えません……!)
空は恥ずかしさのあまり、両手で顔をおさえて首をブンブン横に振る。
(そんなにイヤだったか……)
半助はガックリと肩を落とした。
空の狼狽ぶりを、自分への拒絶と解釈してしまっていたのだ。
「……」
二人の間に気まずい空気が流れる。
これに、きり丸が焦りに焦った。
「あ、あの空さん、落ち着いて下さい!あくまでフリ、ですから、フリ。恋人ってことにしておけば、空さん自身より恋人っていう「関係性」の方に気が向くでしょ!ほら、女の人ってそういう話好きですし……」
「恋人のフリ……」
「おれたち、空さんとここで楽しく過ごしたいんです。でも、そのためには空さんを守らなければいけません!おれも土井先生も必死なんです!」
きり丸が空をじっと見る。
その真摯な瞳を前にして、過熱していた頭が次第に冷えていく。
(確かにきり丸君の言う事は一理ある。住んだことがない町で私一人にされると、どんな人に声かけられるかわからないし……)
(恋人っていうのは良い隠れ蓑になるかもしれない……)
空は半助とチラッと見た。
何故か顔を赤くしていたが、その表情はきり丸と同じ。
真剣そのものだった。
「私もきり丸と同じ思いだよ。ここにいる間は楽しく過ごしてほしい……そう思っている。だけど、空君があまりに困るようだったら、無理しなくていい。別の方法を考えよう」
「……」
「考えてみれば、私と恋人になれだなんて、そりゃイヤだよな」
「ど、土井先生!」
せっかくの作戦を、ときり丸が鬼の形相で半助を睨む。
だが、半助は空を困らせるほどの嘘をつきたくはなかった。
(土井先生……)
半助の誠実な態度は、かえって空を感動させていた。
と同時に深く反省していた。
自分のことをきちんと考えてくれたというのに、必要以上に恥ずかしがってしまったことに。
(私のことで二人に迷惑かけるわけにはいかない……!)
「あの!」
空が二人に向かって叫ぶ。
半助ときり丸はパッと空を見た。
「土井先生に不快な思いをさせてしまってすみません。土井先生のことをイヤだなんて……私、思ったことないです!その、いきなりの提案だったから、あまりに恥ずかしくてびっくりしただけ」
「空君……」
「私、大丈夫です。せっかくここに来たし、この一週間、ふたりと楽しく過ごしたいと思っています。そのために、自分が出来ることがあったら何でも協力します。だから、」
「……」
「ど、土井先生がよろしければ……わ、私を恋人にしてください!」
まるで真剣勝負でも申し込むかのような勢いで、空が叫んだ。
