16.天井裏から来るアイツ
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発狂した空が廊下に出れば、幸運なことに前方に人がいるのが見えた。
伝蔵だ。
自分のいる場所に向かって歩き進んでくる。
とにかく助けを乞うべく、伝蔵めがけてひたすら走った。
「や、ややや、やま、やま、山田先生ぃぃぃぃ!!」
伝蔵は空を見てぎょっとした。
ヘビが巻きついているではないか、と。
「なんだあ!?あれは……孫兵のジュンコか!」
また飼育小屋から脱走したのだろう。
察しのついた伝蔵は急いで空からジュンコを引き剥がす。
離れたジュンコは縁側の柱にシュルルッと巻き付き、舌をシャーっと出している。
(もう、何よこのおっさん!彼女と良いところだったのに!)
このとき、ジュンコはランデブーを邪魔され、怒り心頭だったという。
無事ジュンコから解放された空だったが、その顔は恐怖に歪んでいる。
「もう大丈夫だ、空君」
伝蔵が空の肩にそっと手を置く。
危機は脱したものの、未だ半狂乱の空はついさっきまでの恐怖が抜けきれていない。
すがるように伝蔵に抱き着いた。
「山田先生!」
「えっ?えっ?えっ?」
空のパニックが伝蔵に移った瞬間だった。
(お、落ちつけ……伝蔵!)
焦った伝蔵は、空は息子の利吉と同じ年齢だし、我が子だ……と思い込んでパニックを消滅させようとした。
が、こどもとは思えないほど空の身体には質量と柔らかさがあり、逆に大人の女だと思い知らされる。
その感触を直に受け止めて、伝蔵の心臓の鼓動は超速で打ち鳴らしていた。
「私、ホント爬虫類とか虫とかダメで……!」
「そ、そうか」
次第に空から嗚咽が漏れる。
(女子 というのは、こういう類のものが実に苦手だな……)
このとき、伝蔵はふとあることを思い出していた。
それは、若かりし日の自分と妻の姿だった。
***
ここは人里離れた、伝蔵の自宅。
まだ伝蔵が妻を娶ったばかりで、息子の利吉も存在していない、新婚ホヤホヤ期のこと。
「きゃあああああ!」
妻の悲鳴を聞きつけた伝蔵が、炊事場へと駆け着く。
そこでは、火をくべる前の竈のそばで何かに慄く妻の姿があった。
「どうしたんだ?」
「ああ、あなた!見て、あそこ!」
指をさした先には、一匹のヤモリがいた。
竈の周辺を這いつくばっているので、料理ができないらしい。
ああ、と伝蔵は納得した表情になると、ヤモリを手で追い払う。
あっという間にヤモリはその場を離れ、目の前から消えた。
伝蔵の妻はほっと胸をなでおろしている。
「よかった……」
「やれやれ。希代のくノ一で、敵の忍者なら容赦なく始末するお前が、あんな小さいヤモリに怯えるとは……」
「あなたったら、ひどい!怖いものは怖いんです!」
そう言って、妻は伝蔵の胸の中へと飛び込んでいく。
震える妻の身体を伝蔵はやさしく抱き留めた。
それまでからかうような伝蔵の口調は真剣なものへと変わっていた。
「もう大丈夫だ。お前に何かあったら、私がすぐに駆け付ける」
「あなた……」
愛しい男からの力強い言葉に、伝蔵の妻は込み上げてくる衝動を抑えることができなかった。
伝蔵の首に腕を回して、ゆっくりと顔を寄せていく。
伝蔵は抱きしめる腕に力をこめ、妻の唇を静かに待った――
***
(ああいう甘い時代も、あった……まぁ、今もそれなりに良好だが……)
いつしか伝蔵は空に飛びつかれた照れや恥ずかしさを消失していた。
そればかりか、懐かしさに浸った影響か、今の空に妻の姿を重ね、自分の方へと空の身体をしっかりと引き寄せている。
彼女が落ち着くまではこうして抱きしめてあげよう。
伝蔵はあやすように背中をさすっている。
しかし、運の悪いことに、半助と利吉がちょうどこの現場に出くわしたのだ。
「あ、あれは!」
半助と利吉は伝蔵と空の方を見て驚愕する。
無理もなかった。
伝蔵は満更でも無い様子で空を抱き締めている。
そして、空は伝蔵にしがみついてすすり泣いている。
恋する男たちの目は、それをこう捉えたのだ。
伝蔵が空をたぶらかしている――と。
強烈な嫉妬に駆られた半助と利吉は赤い顔でそれぞれ叫んだ。
「山田先生、これは一体どういうことですか!」
「父上!母上というものがありながら、空さんに対し、白昼堂々と狼藉を働くなんて!」
「お、おい、お前ら!誤解だ!騒ぎの元凶はこいつだよ」
そう言って、伝蔵は指をさす。
そこには、依然として柱に巻きついたままのジュンコがいた。
「ジュンコが空君の首に巻き付いていたんだ。私はただ、空君をなだめていただけで」
「イヤッ……毒ヘビ、まだいる!」
空がジュンコを目に入れて、ますます伝蔵に身体を密着させる。
怖がる空の様子からして、伝蔵の言ったことは真実なのだろう。
そうとわかった半助と利吉は矛を収め、急いで空の元へ寄る。
バシッ!!
伝蔵は二人に押しのけられてしまった。
「大丈夫?空君?」
「怖かったですよね、空さん」
半助と利吉、二人は競い合うように空に声をかける。
「こぉら!人をぞんざいに扱いおって!」
思いっきり手で払われて床に伸びていた伝蔵が二人に罵声を飛ばす。
が、謝るどころか二人は伝蔵そっちのけ。
空に構っている。
「ジュンコに巻き付かれていたんだな……可哀想に」
「噛まれていなくて、本当によかったです」
この一連の流れを、ジュンコは冷ややかに見つめていた。
(あのお兄さんたちは、この娘 に惚れているのね……)
(ヤダ、ライバル多いじゃない!まぁ、障害は多い方が燃えるけど……)
すっかり空を気に入ってしまったジュンコであった。
伝蔵だ。
自分のいる場所に向かって歩き進んでくる。
とにかく助けを乞うべく、伝蔵めがけてひたすら走った。
「や、ややや、やま、やま、山田先生ぃぃぃぃ!!」
伝蔵は空を見てぎょっとした。
ヘビが巻きついているではないか、と。
「なんだあ!?あれは……孫兵のジュンコか!」
また飼育小屋から脱走したのだろう。
察しのついた伝蔵は急いで空からジュンコを引き剥がす。
離れたジュンコは縁側の柱にシュルルッと巻き付き、舌をシャーっと出している。
(もう、何よこのおっさん!彼女と良いところだったのに!)
このとき、ジュンコはランデブーを邪魔され、怒り心頭だったという。
無事ジュンコから解放された空だったが、その顔は恐怖に歪んでいる。
「もう大丈夫だ、空君」
伝蔵が空の肩にそっと手を置く。
危機は脱したものの、未だ半狂乱の空はついさっきまでの恐怖が抜けきれていない。
すがるように伝蔵に抱き着いた。
「山田先生!」
「えっ?えっ?えっ?」
空のパニックが伝蔵に移った瞬間だった。
(お、落ちつけ……伝蔵!)
焦った伝蔵は、空は息子の利吉と同じ年齢だし、我が子だ……と思い込んでパニックを消滅させようとした。
が、こどもとは思えないほど空の身体には質量と柔らかさがあり、逆に大人の女だと思い知らされる。
その感触を直に受け止めて、伝蔵の心臓の鼓動は超速で打ち鳴らしていた。
「私、ホント爬虫類とか虫とかダメで……!」
「そ、そうか」
次第に空から嗚咽が漏れる。
(
このとき、伝蔵はふとあることを思い出していた。
それは、若かりし日の自分と妻の姿だった。
***
ここは人里離れた、伝蔵の自宅。
まだ伝蔵が妻を娶ったばかりで、息子の利吉も存在していない、新婚ホヤホヤ期のこと。
「きゃあああああ!」
妻の悲鳴を聞きつけた伝蔵が、炊事場へと駆け着く。
そこでは、火をくべる前の竈のそばで何かに慄く妻の姿があった。
「どうしたんだ?」
「ああ、あなた!見て、あそこ!」
指をさした先には、一匹のヤモリがいた。
竈の周辺を這いつくばっているので、料理ができないらしい。
ああ、と伝蔵は納得した表情になると、ヤモリを手で追い払う。
あっという間にヤモリはその場を離れ、目の前から消えた。
伝蔵の妻はほっと胸をなでおろしている。
「よかった……」
「やれやれ。希代のくノ一で、敵の忍者なら容赦なく始末するお前が、あんな小さいヤモリに怯えるとは……」
「あなたったら、ひどい!怖いものは怖いんです!」
そう言って、妻は伝蔵の胸の中へと飛び込んでいく。
震える妻の身体を伝蔵はやさしく抱き留めた。
それまでからかうような伝蔵の口調は真剣なものへと変わっていた。
「もう大丈夫だ。お前に何かあったら、私がすぐに駆け付ける」
「あなた……」
愛しい男からの力強い言葉に、伝蔵の妻は込み上げてくる衝動を抑えることができなかった。
伝蔵の首に腕を回して、ゆっくりと顔を寄せていく。
伝蔵は抱きしめる腕に力をこめ、妻の唇を静かに待った――
***
(ああいう甘い時代も、あった……まぁ、今もそれなりに良好だが……)
いつしか伝蔵は空に飛びつかれた照れや恥ずかしさを消失していた。
そればかりか、懐かしさに浸った影響か、今の空に妻の姿を重ね、自分の方へと空の身体をしっかりと引き寄せている。
彼女が落ち着くまではこうして抱きしめてあげよう。
伝蔵はあやすように背中をさすっている。
しかし、運の悪いことに、半助と利吉がちょうどこの現場に出くわしたのだ。
「あ、あれは!」
半助と利吉は伝蔵と空の方を見て驚愕する。
無理もなかった。
伝蔵は満更でも無い様子で空を抱き締めている。
そして、空は伝蔵にしがみついてすすり泣いている。
恋する男たちの目は、それをこう捉えたのだ。
伝蔵が空をたぶらかしている――と。
強烈な嫉妬に駆られた半助と利吉は赤い顔でそれぞれ叫んだ。
「山田先生、これは一体どういうことですか!」
「父上!母上というものがありながら、空さんに対し、白昼堂々と狼藉を働くなんて!」
「お、おい、お前ら!誤解だ!騒ぎの元凶はこいつだよ」
そう言って、伝蔵は指をさす。
そこには、依然として柱に巻きついたままのジュンコがいた。
「ジュンコが空君の首に巻き付いていたんだ。私はただ、空君をなだめていただけで」
「イヤッ……毒ヘビ、まだいる!」
空がジュンコを目に入れて、ますます伝蔵に身体を密着させる。
怖がる空の様子からして、伝蔵の言ったことは真実なのだろう。
そうとわかった半助と利吉は矛を収め、急いで空の元へ寄る。
バシッ!!
伝蔵は二人に押しのけられてしまった。
「大丈夫?空君?」
「怖かったですよね、空さん」
半助と利吉、二人は競い合うように空に声をかける。
「こぉら!人をぞんざいに扱いおって!」
思いっきり手で払われて床に伸びていた伝蔵が二人に罵声を飛ばす。
が、謝るどころか二人は伝蔵そっちのけ。
空に構っている。
「ジュンコに巻き付かれていたんだな……可哀想に」
「噛まれていなくて、本当によかったです」
この一連の流れを、ジュンコは冷ややかに見つめていた。
(あのお兄さんたちは、この
(ヤダ、ライバル多いじゃない!まぁ、障害は多い方が燃えるけど……)
すっかり空を気に入ってしまったジュンコであった。