16.天井裏から来るアイツ
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利吉は教職員長屋にある伝蔵の部屋を訪れていた。
「父上、土井先生!」
「おぉ、利吉。良いところに来た!」
そう言いながら、伝蔵が差し出したのは雑巾だった。
「はいはい」
挨拶もそこそこに早く掃除にとりかかってくれ。
そう言わんばかりの伝蔵に苦笑しつつ、利吉は雑巾を受け取った。
「毎年すまないね」
掃除を加勢しに来た利吉の心遣いを感謝する半助だったが、ここで思わぬ一言が利吉から返ってくる。
「皆で協力すれば早く終わりますから。そうすれば、空さんと話す時間も増えますし」
そう答えた利吉の笑顔はとても清々しいものだった。
いつもならムッとする半助だったが、今日は違う。
心にゆとりがあった。
何故なら、冬休みに空が家に来ることが確定しているからだ。
自分の方が優位に立っているいう自信から、半助もまた爽やかな笑顔で言葉を返していく。
「そっか。きっと利吉君が来て、空君も喜ぶんじゃないかな?まぁ、私は常に 彼女と一緒にいるし、話したいとき に話せるから」
「……そうですか」
嫌味な半助の返しに、利吉の眉がぴくっと動く。
「……」
両者はしばし睨み合った。
やがてどちらからともなく手を伸ばし、がっしりと握手した。
宣戦布告。正々堂々戦いましょう、という握手であった。
「ん?」
押入れの奥に潜り込んでいた伝蔵がひょいっと顔を出す。
どうして二人が握手をしているのか、伝蔵は全く持ってチンプンカンプンだった。
さて、そんな二人の男が火花を散らす裏側では、大変なドラマが進行していた。
食堂の大掃除を終えた空は、屋外を経由して自分の部屋に向かっている。
次は自室を掃除しなければならないのだ。
とぼとぼと歩いていると、前方に慌ただしい様子の忍たまたちがいるのが見えた。
茂みや木の上に向かって、長い棒を上下左右に振りかざしながら、何かを探している。
「孫次郎、そっちは居たか?」
「いえ、いないです……僕、向こうを見てみます」
「ジュンコー!どこだーい!?」
その忍たまたちのかたまりの中で、最も年嵩の忍たま――傷んだ髪の毛が特徴的な五年生、竹谷八左ヱ門が空の目にとまる。
一体何があったのだろう。
空は八左ヱ門に話しかけてみることにした。
「竹谷君、何か探しているようだけど、どうしたの?」
「空さん!あ、えっと……」
急に話しかけられて、それが密かに憧れる空だったものだから、いきなりのことに八左ヱ門はドギマギ。
わずかに頬を染める。
が、今の状況を思い出せば、八左ヱ門は深刻な表情で語り出した。
「じ、実は、生物委員会で管轄しているペットが逃げてしまって」
そう言われたとき、空は過去の経験からウサギや鶏などの動物くらいにしか捉えていなかった。
学校の飼育室で育てられる動物といえば、そのような人畜無害の生き物だろう、と。
「ペットって、具体的には?」
「名前はジュンコっていって、毒ヘビです」
「へぇ……ジュンコ……毒ヘビねぇ……え!?」
空は言葉を失う。
呆然と固まる空を心配そうに揺するのは、近くで話を聞いていた一年は組の虎若と三治郎であった。
「空さん、大丈夫ですか?」
「しっかりしてください!」
「なんで……なんで……?なんで忍術学園は毒ヘビを買っているの?」
愕然とする空が泣きそうな顔で虎若たちに質問する。
何を隠そう、空は爬虫類が大の苦手なのだ。
「実は、あちらにいる三年い組の伊賀崎先輩が飼育されてまして……」
そう言って、三治郎が萌黄色の制服に身を包んだ人物を指さした。
三年い組の伊賀崎孫兵。
毒蛇や毒サソリ等の危険な生き物を数多く溺愛し、飼育している。
だけど、その生き物たちは度々脱走し、学園内を徘徊しては大騒動を巻き起こす。
但し彼から言わせれば、それは「脱走」ではなくて「散歩」なのだそうだ。
八左ヱ門は話を続けた。
「本来なら学園の忍たまたちに声かけて、一緒に探すの手伝ってもらうんですけど、今日は皆大掃除中で応援を頼めません。だから、生物委員会のメンバーだけで捜索しているんです」
「そ、そうなんだ……」
今も毒ヘビが学園のどこかを徘徊している。
もし自分が遭遇してしまったら。
想像しただけで、卒倒ものである。
そんな青ざめる空を元気づけるように、虎若と三治郎が叫んだ。
「ボクたち、絶対ジュンコを捕まえてみせますから!」
「だから、空さんは安心して部屋の掃除をしてください!」
私たちを頼りにしてください――虎若と三治郎はそう言わんばかりに胸を張った。
年下の少年たちのいじらしさに空は胸が詰まる。
たまらず、虎若と三治郎を抱きしめた。
「ありがとう、二人とも!」
「えへへ……任せてください!」
空に感激の意をあらわされて、その上抱きしめられている虎若と三治郎に対し、八左ヱ門は「いいなぁ……」と指をくわえて見つめることしかできなかった。
「父上、土井先生!」
「おぉ、利吉。良いところに来た!」
そう言いながら、伝蔵が差し出したのは雑巾だった。
「はいはい」
挨拶もそこそこに早く掃除にとりかかってくれ。
そう言わんばかりの伝蔵に苦笑しつつ、利吉は雑巾を受け取った。
「毎年すまないね」
掃除を加勢しに来た利吉の心遣いを感謝する半助だったが、ここで思わぬ一言が利吉から返ってくる。
「皆で協力すれば早く終わりますから。そうすれば、空さんと話す時間も増えますし」
そう答えた利吉の笑顔はとても清々しいものだった。
いつもならムッとする半助だったが、今日は違う。
心にゆとりがあった。
何故なら、冬休みに空が家に来ることが確定しているからだ。
自分の方が優位に立っているいう自信から、半助もまた爽やかな笑顔で言葉を返していく。
「そっか。きっと利吉君が来て、空君も喜ぶんじゃないかな?まぁ、私は
「……そうですか」
嫌味な半助の返しに、利吉の眉がぴくっと動く。
「……」
両者はしばし睨み合った。
やがてどちらからともなく手を伸ばし、がっしりと握手した。
宣戦布告。正々堂々戦いましょう、という握手であった。
「ん?」
押入れの奥に潜り込んでいた伝蔵がひょいっと顔を出す。
どうして二人が握手をしているのか、伝蔵は全く持ってチンプンカンプンだった。
さて、そんな二人の男が火花を散らす裏側では、大変なドラマが進行していた。
食堂の大掃除を終えた空は、屋外を経由して自分の部屋に向かっている。
次は自室を掃除しなければならないのだ。
とぼとぼと歩いていると、前方に慌ただしい様子の忍たまたちがいるのが見えた。
茂みや木の上に向かって、長い棒を上下左右に振りかざしながら、何かを探している。
「孫次郎、そっちは居たか?」
「いえ、いないです……僕、向こうを見てみます」
「ジュンコー!どこだーい!?」
その忍たまたちのかたまりの中で、最も年嵩の忍たま――傷んだ髪の毛が特徴的な五年生、竹谷八左ヱ門が空の目にとまる。
一体何があったのだろう。
空は八左ヱ門に話しかけてみることにした。
「竹谷君、何か探しているようだけど、どうしたの?」
「空さん!あ、えっと……」
急に話しかけられて、それが密かに憧れる空だったものだから、いきなりのことに八左ヱ門はドギマギ。
わずかに頬を染める。
が、今の状況を思い出せば、八左ヱ門は深刻な表情で語り出した。
「じ、実は、生物委員会で管轄しているペットが逃げてしまって」
そう言われたとき、空は過去の経験からウサギや鶏などの動物くらいにしか捉えていなかった。
学校の飼育室で育てられる動物といえば、そのような人畜無害の生き物だろう、と。
「ペットって、具体的には?」
「名前はジュンコっていって、毒ヘビです」
「へぇ……ジュンコ……毒ヘビねぇ……え!?」
空は言葉を失う。
呆然と固まる空を心配そうに揺するのは、近くで話を聞いていた一年は組の虎若と三治郎であった。
「空さん、大丈夫ですか?」
「しっかりしてください!」
「なんで……なんで……?なんで忍術学園は毒ヘビを買っているの?」
愕然とする空が泣きそうな顔で虎若たちに質問する。
何を隠そう、空は爬虫類が大の苦手なのだ。
「実は、あちらにいる三年い組の伊賀崎先輩が飼育されてまして……」
そう言って、三治郎が萌黄色の制服に身を包んだ人物を指さした。
三年い組の伊賀崎孫兵。
毒蛇や毒サソリ等の危険な生き物を数多く溺愛し、飼育している。
だけど、その生き物たちは度々脱走し、学園内を徘徊しては大騒動を巻き起こす。
但し彼から言わせれば、それは「脱走」ではなくて「散歩」なのだそうだ。
八左ヱ門は話を続けた。
「本来なら学園の忍たまたちに声かけて、一緒に探すの手伝ってもらうんですけど、今日は皆大掃除中で応援を頼めません。だから、生物委員会のメンバーだけで捜索しているんです」
「そ、そうなんだ……」
今も毒ヘビが学園のどこかを徘徊している。
もし自分が遭遇してしまったら。
想像しただけで、卒倒ものである。
そんな青ざめる空を元気づけるように、虎若と三治郎が叫んだ。
「ボクたち、絶対ジュンコを捕まえてみせますから!」
「だから、空さんは安心して部屋の掃除をしてください!」
私たちを頼りにしてください――虎若と三治郎はそう言わんばかりに胸を張った。
年下の少年たちのいじらしさに空は胸が詰まる。
たまらず、虎若と三治郎を抱きしめた。
「ありがとう、二人とも!」
「えへへ……任せてください!」
空に感激の意をあらわされて、その上抱きしめられている虎若と三治郎に対し、八左ヱ門は「いいなぁ……」と指をくわえて見つめることしかできなかった。