34.新たなる一歩
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忍術学園までの帰路。
のどかな風景が広がる中、細長く続く田舎道を空と半助は手を繋いで歩いていた。
三月に入り、暖かい陽が差す日が多くなった。
穏やかで気持ちの良い風が二人の髪を揺らしている。
「身体……痛むなら言って」
「はい」
半助が時々気遣いの言葉をかけるくらいで会話は長く続かない。
いや、二人にはそんなこと大した問題ではなかった。
手から伝わる温かさがある。
二人とも、もうこれだけでいいというように満足気な表情を浮かべている。
空はふと夢にでてきた女、即ち前世の自分の言葉を頭の中に思い浮かべていた。
〈忘れないで、空。大切な人と強い絆ができたとき……それはあなたがこの世界に適応できた瞬間。そのときあなたは……これ以上ないくらい満たされている〉
〈その『満たされた想い』で、私は消滅することができるの。私の後世であるあなたの幸せは……私の幸せだから……〉
もうあの女はこの世にはいないのだろう。
半助と心も身体も結ばれて、その強い絆の源である「満たされた想い」を得ることができたのだから。
「……」
前世の自分の運命を振り返ると、胸がぎゅっと締め付けられる。
半助との恋を実らせた今だからこそ、彼女の苦しみを肌で感じていた。
超人的な力を保つために自らの個を犠牲にし、愛を捨てた彼女の孤独を。
満たされた想い――それは前世の自分からすれば、決して知りえなかった、禁忌の想い。
心を満たすこの温かい気持ちを、空はもう失うことができない。
(私は……ずっとずっと半助さんと一緒にいたい……)
気が昂った空は、繋いだ手を強く握りしめる。
それを受けて、半助が声をかけた。
「どうした?」
やさしく覗き込んでくる半助を空はじっと見つめる。
自分が最も愛している人――半助。
そんな半助と自分との間に築き上げた深い絆。
それは空がこの世界で生きていく原動力となるもの。
空にとって、もうなくてはならないもの。
最高のもの。
そして……最も大切なもの。
「空!?」
気がつけば、空の瞳から涙が溢れていた。
「あ……」
自分でも泣いていることに気がつき驚きがわく。
が、すぐにそんな驚きは消し飛び、半助の胸にたまらず飛び込んでいった。
「大丈夫か!?身体、痛む……?」
勘違いする半助に対し、感情の赴くまま空は叫んだ。
「私、もう半助さんと離れたくない!」
「え……!?」
「もう元の世界になんか一生帰れなくたっていい!後悔なんてしない!半助さんと一緒なら……私、この世界で死んだってかまわないっ!」
どんなことがあろうと、この世界で生きていく。
空の覚悟が完全に固まった瞬間だった。
「空……」
このとき、半助はあることを思い出していた。
それは、忍術学園に来てから半助に心を開く前までの、過去の空の姿だ。
あの頃、空は異世界で生きていくことになってしまった己の運命をひっそりと嘆き悲しんでいた。
元の世界に未練を残していたのだ。
彼女を近くで見守っていた半助はその繊細な心の機微にすぐ気づいたし、夜一人で涙する姿だって目撃している。
そんな空が、今は真剣に半助を愛し、彼とともにこの世界で生きたいと強く懇願している。
空の変化は半助に深い感銘を与えていた。
半助は腕の中に閉じ込めた温もりを噛み締める。
そして、今の素直な思いを自身の口から語り出した。
「空……私は正直、君に働いた不思議な力が未だ理解できないでいる……だけど、これだけははっきりと言える。君がこの世界に辿り着いたのは偶然じゃない。私と君が出逢うための……運命だった、そう思えてしょうがないんだ」
空は何度も頷く。
彼女もまた、半助と同じことを直感していたのだ。
半助は空の顔を上向かせる。
濡れた瞳をしっかりと見据え、真摯な口調で言った。
「約束するよ、空。私たちはこの先ずっと一緒だ。君からすれば不便で苦労の多い世界かもしれないけど……私はいつだって君を支えるから」
「半助さん……」
想いを爆発させるように空は号泣した。
あふれる涙が半助の襟を濡らす。
半助には、その涙が肌を焦がすように熱く感じられた。
のどかな風景が広がる中、細長く続く田舎道を空と半助は手を繋いで歩いていた。
三月に入り、暖かい陽が差す日が多くなった。
穏やかで気持ちの良い風が二人の髪を揺らしている。
「身体……痛むなら言って」
「はい」
半助が時々気遣いの言葉をかけるくらいで会話は長く続かない。
いや、二人にはそんなこと大した問題ではなかった。
手から伝わる温かさがある。
二人とも、もうこれだけでいいというように満足気な表情を浮かべている。
空はふと夢にでてきた女、即ち前世の自分の言葉を頭の中に思い浮かべていた。
〈忘れないで、空。大切な人と強い絆ができたとき……それはあなたがこの世界に適応できた瞬間。そのときあなたは……これ以上ないくらい満たされている〉
〈その『満たされた想い』で、私は消滅することができるの。私の後世であるあなたの幸せは……私の幸せだから……〉
もうあの女はこの世にはいないのだろう。
半助と心も身体も結ばれて、その強い絆の源である「満たされた想い」を得ることができたのだから。
「……」
前世の自分の運命を振り返ると、胸がぎゅっと締め付けられる。
半助との恋を実らせた今だからこそ、彼女の苦しみを肌で感じていた。
超人的な力を保つために自らの個を犠牲にし、愛を捨てた彼女の孤独を。
満たされた想い――それは前世の自分からすれば、決して知りえなかった、禁忌の想い。
心を満たすこの温かい気持ちを、空はもう失うことができない。
(私は……ずっとずっと半助さんと一緒にいたい……)
気が昂った空は、繋いだ手を強く握りしめる。
それを受けて、半助が声をかけた。
「どうした?」
やさしく覗き込んでくる半助を空はじっと見つめる。
自分が最も愛している人――半助。
そんな半助と自分との間に築き上げた深い絆。
それは空がこの世界で生きていく原動力となるもの。
空にとって、もうなくてはならないもの。
最高のもの。
そして……最も大切なもの。
「空!?」
気がつけば、空の瞳から涙が溢れていた。
「あ……」
自分でも泣いていることに気がつき驚きがわく。
が、すぐにそんな驚きは消し飛び、半助の胸にたまらず飛び込んでいった。
「大丈夫か!?身体、痛む……?」
勘違いする半助に対し、感情の赴くまま空は叫んだ。
「私、もう半助さんと離れたくない!」
「え……!?」
「もう元の世界になんか一生帰れなくたっていい!後悔なんてしない!半助さんと一緒なら……私、この世界で死んだってかまわないっ!」
どんなことがあろうと、この世界で生きていく。
空の覚悟が完全に固まった瞬間だった。
「空……」
このとき、半助はあることを思い出していた。
それは、忍術学園に来てから半助に心を開く前までの、過去の空の姿だ。
あの頃、空は異世界で生きていくことになってしまった己の運命をひっそりと嘆き悲しんでいた。
元の世界に未練を残していたのだ。
彼女を近くで見守っていた半助はその繊細な心の機微にすぐ気づいたし、夜一人で涙する姿だって目撃している。
そんな空が、今は真剣に半助を愛し、彼とともにこの世界で生きたいと強く懇願している。
空の変化は半助に深い感銘を与えていた。
半助は腕の中に閉じ込めた温もりを噛み締める。
そして、今の素直な思いを自身の口から語り出した。
「空……私は正直、君に働いた不思議な力が未だ理解できないでいる……だけど、これだけははっきりと言える。君がこの世界に辿り着いたのは偶然じゃない。私と君が出逢うための……運命だった、そう思えてしょうがないんだ」
空は何度も頷く。
彼女もまた、半助と同じことを直感していたのだ。
半助は空の顔を上向かせる。
濡れた瞳をしっかりと見据え、真摯な口調で言った。
「約束するよ、空。私たちはこの先ずっと一緒だ。君からすれば不便で苦労の多い世界かもしれないけど……私はいつだって君を支えるから」
「半助さん……」
想いを爆発させるように空は号泣した。
あふれる涙が半助の襟を濡らす。
半助には、その涙が肌を焦がすように熱く感じられた。