34.新たなる一歩
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「安藤先生はやっぱり安藤先生だったな……」
胃を押さえながら、誰もいない廊下で思わず呟いてしまう。
どっと疲れを見せる半助だったが、次に行くべきところは決まっている。
自分の部屋だ。
は組の生徒たちのこと。
自分の不在の件で伝蔵を質問攻めにしただろうとすぐ想像できた。
次に会う伝蔵は安藤以上に手ごわい人物かもしれない。
何せ常日頃から空のことで自分を弄り倒しているのだから。
深い溜息をついた後、覚悟を決めた半助は戸を開けた。
「おお、土井先生。戻ってきたか」
「山田先生!本日はその……ご迷惑をおかけしました」
「噂の方は大丈夫だったか?」
「はい、あの花房牧之介が空君の名を語ってご近所に悪さをしてました」
半助は語りながら伝蔵の前に席をとった。
騒動に巻き込まれたにもかかわらず、どこか楽しげに報告する半助に、伝蔵は目を細めた。
「ほう~。だが、花房牧之介ごときの騒動なら、すぐ帰ってこれただろうに」
半助がギクリとする。
(は、始まった……)
が、これは予想できたこと。
知らぬ顔で理由を並べ立てていった。
「いやぁ、久々隣のおばちゃんや大家さんに会って、その別れを惜しまれて。不在の間もお世話になっているし、こういうときこそご近所づきあいが大切だと思って……気がついてたら長居してしまいましたよ」
「ふ~ん。でも、乱太郎たちから聞いたぞ。空君を背負って帰ってきたそうで。彼女に何か特別に疲れさせるようなことでもしたのかのぅ?」
グサッグサッと半助の胸に鋭い矢が何本も突き刺ささった。
安藤に引き続き、伝蔵も全てを察しているのだと瞬時に理解した。
全く人が悪い、と半助は真っ赤な顔で伝蔵を恨みがましく睨む。
だが、伝蔵があまりに温かい眼差しを送るものだから、半助も怒気を一瞬にしてひっこめた。
「よかったな、半助。無事、あの娘 と心を通わせることができて」
呼び方が親しみを込めたものへと変わっている。
半助は黙ってコクリと頷く。
すると伝蔵はしみじみとした口調で自らの思いを語り出した。
「安心したよ。お前さんに良い人ができて。抜け忍だったお前にここを紹介して、一生懸命働いてくれるのはいいが、真面目過ぎて女の噂一つもなかったしのう……」
「……」
「ワシはな、お前の境遇を知ったときからずっとお前の幸せを願っておった。いつか素敵な女性に巡り会って、ふたたび幸せな家庭を持ってほしい……と。ワシのようにな」
「山田先生……」
伝蔵は、自慢の髭を撫でながら澄ました顔でこう言った。
「気が早いかもしれんが……今から、ふたりの子が楽しみだ。そうなったらきり丸は兄になるのか」
「や、山田先生!それは……」
飛躍的すぎる発想に半助は顔を真っ赤にして叫んでいた。
そんなわかりやすい反応に、実にからかいがいがあると伝蔵はクックッと笑った。
「半助……人生の先輩としてこれだけは忠告しておく」
「な、なんですか?」
それまで笑っていた伝蔵が急に真面目な顔になるものだから、半助が固唾を飲んで次の言葉を待つ。
わずかな沈黙のあと、伝蔵が不敵な笑みを浮かべて、こう言った。
「女の柔肌に腑抜けすぎるなよ」
「!」
「まぁ、今の半助には難しいか!」
伝蔵はそう言ってガハハと爆笑する。
半助は一瞬でも伝蔵に感動した自分に後悔するのだった。
胃を押さえながら、誰もいない廊下で思わず呟いてしまう。
どっと疲れを見せる半助だったが、次に行くべきところは決まっている。
自分の部屋だ。
は組の生徒たちのこと。
自分の不在の件で伝蔵を質問攻めにしただろうとすぐ想像できた。
次に会う伝蔵は安藤以上に手ごわい人物かもしれない。
何せ常日頃から空のことで自分を弄り倒しているのだから。
深い溜息をついた後、覚悟を決めた半助は戸を開けた。
「おお、土井先生。戻ってきたか」
「山田先生!本日はその……ご迷惑をおかけしました」
「噂の方は大丈夫だったか?」
「はい、あの花房牧之介が空君の名を語ってご近所に悪さをしてました」
半助は語りながら伝蔵の前に席をとった。
騒動に巻き込まれたにもかかわらず、どこか楽しげに報告する半助に、伝蔵は目を細めた。
「ほう~。だが、花房牧之介ごときの騒動なら、すぐ帰ってこれただろうに」
半助がギクリとする。
(は、始まった……)
が、これは予想できたこと。
知らぬ顔で理由を並べ立てていった。
「いやぁ、久々隣のおばちゃんや大家さんに会って、その別れを惜しまれて。不在の間もお世話になっているし、こういうときこそご近所づきあいが大切だと思って……気がついてたら長居してしまいましたよ」
「ふ~ん。でも、乱太郎たちから聞いたぞ。空君を背負って帰ってきたそうで。彼女に何か特別に疲れさせるようなことでもしたのかのぅ?」
グサッグサッと半助の胸に鋭い矢が何本も突き刺ささった。
安藤に引き続き、伝蔵も全てを察しているのだと瞬時に理解した。
全く人が悪い、と半助は真っ赤な顔で伝蔵を恨みがましく睨む。
だが、伝蔵があまりに温かい眼差しを送るものだから、半助も怒気を一瞬にしてひっこめた。
「よかったな、半助。無事、あの
呼び方が親しみを込めたものへと変わっている。
半助は黙ってコクリと頷く。
すると伝蔵はしみじみとした口調で自らの思いを語り出した。
「安心したよ。お前さんに良い人ができて。抜け忍だったお前にここを紹介して、一生懸命働いてくれるのはいいが、真面目過ぎて女の噂一つもなかったしのう……」
「……」
「ワシはな、お前の境遇を知ったときからずっとお前の幸せを願っておった。いつか素敵な女性に巡り会って、ふたたび幸せな家庭を持ってほしい……と。ワシのようにな」
「山田先生……」
伝蔵は、自慢の髭を撫でながら澄ました顔でこう言った。
「気が早いかもしれんが……今から、ふたりの子が楽しみだ。そうなったらきり丸は兄になるのか」
「や、山田先生!それは……」
飛躍的すぎる発想に半助は顔を真っ赤にして叫んでいた。
そんなわかりやすい反応に、実にからかいがいがあると伝蔵はクックッと笑った。
「半助……人生の先輩としてこれだけは忠告しておく」
「な、なんですか?」
それまで笑っていた伝蔵が急に真面目な顔になるものだから、半助が固唾を飲んで次の言葉を待つ。
わずかな沈黙のあと、伝蔵が不敵な笑みを浮かべて、こう言った。
「女の柔肌に腑抜けすぎるなよ」
「!」
「まぁ、今の半助には難しいか!」
伝蔵はそう言ってガハハと爆笑する。
半助は一瞬でも伝蔵に感動した自分に後悔するのだった。