34.新たなる一歩
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東の空がまだ薄暗い暁の頃。
元気でいて、爽やかな声が食堂の調理場に響き渡った。
「おはようございます、食堂のおばちゃん」
「おはよう、空ちゃん。今日は遅刻しなかったじゃない?疲れは取れた?」
「はい。昨日の夜はぐっすり眠れました」
「あら。昨日は土井先生と寝なかったのね?」
「お、おばちゃん!!」
朝一番から茶化されてしまい、空の顔が真っ赤になる。
平然と言うおばちゃんに、大声で叫んでいた。
「もうからかわないでくださいっ!私も土井先生もそんな節操なしじゃありません!昨日は……軽くお話ししただけです!」
ムキになって否定する空に対し、おばちゃんは涼しい表情で受け流している。
そればかりか、
(なんだかんだ言って、夜ちゃっかり土井先生と会っていたのね)
と無意識に口を滑らせた空に若い……と青臭さを感じ、遠い目をしていた。
「本当……何から何まで私の若い頃によく似てるわ……!」
「へっ?」
「ううん、何でもないの。とにかく、今日も一日しっかりと働いてもらうわよ。早速だけど野菜の下ごしらえをお願いしようかしら」
「はい!」
返事をした空はすぐに作業に取り掛かろうとする。
が、湯気の上る竈を見て、どうしても確かめたいことがあった。
「……」
竈のそばに近づいて、その炎をじっと見据える。
いつもなら、空が近づけば炎の勢いが増して、今竈に乗せている炊飯用の羽釜からご飯が滝のように吹きこぼれるはず。
だが、何も起こらなかった。
(やっぱり思った通りだ……これって、私の身体に起こっていた波長の乱れが無くなってるってことだよね……)
(私、ようやくこの世界の人間になれたんだ……)
なんとなく予感があったとはいえ、空はこの突然の変化に呆然としている。
この異変におばちゃんも気づいたようだ。
目をパチクリとさせて、一連の出来事を見ていた。
「まあ!空ちゃんが近づいても吹きこぼれなかったじゃない!あの体質治ったの!?」
「そ、そうみたいです」
空は竈の中でゆらめく炎にもう一度目をやる。
炎は以前と違って穏やかに燃え続けている。
その炎を見ているうちに、次第に感傷的な気分が空を覆った。
前世の自分――
思い返せば、不思議な出会いであった。
唐突に夢に現れてきて、中々正体を明かさない彼女に歯がゆい想いもした。
だが、最終的には彼女に逢えてよかった、と感謝していた。
彼女のおかげで、自分のルーツを知ることができたのだから。
そんな彼女が何も告げず、パタリとこの世から去ってしまった。
戦友を失くしたような、寂しい心地であった。
しかし、食堂のおばちゃんの歓喜の声が空の意識を現実に引き戻した。
「よかったじゃない!これでやっと、料理を覚えられるじゃないの!空ちゃん、ずっと気に病んでたから……本当によかったわねぇ」
「そ、そうですね」
テンションの高いおばちゃんに合せるように、空は慌てて返事を返した。
「んふふ。いいことづくめじゃない。土井先生と無事恋人になれたし、悩みも解決したし、これも全部愛の力かしらねぇ」
おばちゃんの顔がうっとりと蕩ける。
愛の力――言い得て妙だと、空は苦笑いした。
「じゃあ、急いで基本のことを覚えないと。春休み、土井先生の家で過ごすんでしょ。美味しい手料理を振舞って胃袋もがっちり掴むのよ!今日早速お味噌汁を教えるわね」
「はい、前乱太郎君のお母さんに教わりましたけど、所々忘れてると思うので……改めてよろしくお願いします」
空はそう言って頭を下げた。
おばちゃんが笑顔で頷く。
空は今、新しい一歩を踏み出したのだ。
元気でいて、爽やかな声が食堂の調理場に響き渡った。
「おはようございます、食堂のおばちゃん」
「おはよう、空ちゃん。今日は遅刻しなかったじゃない?疲れは取れた?」
「はい。昨日の夜はぐっすり眠れました」
「あら。昨日は土井先生と寝なかったのね?」
「お、おばちゃん!!」
朝一番から茶化されてしまい、空の顔が真っ赤になる。
平然と言うおばちゃんに、大声で叫んでいた。
「もうからかわないでくださいっ!私も土井先生もそんな節操なしじゃありません!昨日は……軽くお話ししただけです!」
ムキになって否定する空に対し、おばちゃんは涼しい表情で受け流している。
そればかりか、
(なんだかんだ言って、夜ちゃっかり土井先生と会っていたのね)
と無意識に口を滑らせた空に若い……と青臭さを感じ、遠い目をしていた。
「本当……何から何まで私の若い頃によく似てるわ……!」
「へっ?」
「ううん、何でもないの。とにかく、今日も一日しっかりと働いてもらうわよ。早速だけど野菜の下ごしらえをお願いしようかしら」
「はい!」
返事をした空はすぐに作業に取り掛かろうとする。
が、湯気の上る竈を見て、どうしても確かめたいことがあった。
「……」
竈のそばに近づいて、その炎をじっと見据える。
いつもなら、空が近づけば炎の勢いが増して、今竈に乗せている炊飯用の羽釜からご飯が滝のように吹きこぼれるはず。
だが、何も起こらなかった。
(やっぱり思った通りだ……これって、私の身体に起こっていた波長の乱れが無くなってるってことだよね……)
(私、ようやくこの世界の人間になれたんだ……)
なんとなく予感があったとはいえ、空はこの突然の変化に呆然としている。
この異変におばちゃんも気づいたようだ。
目をパチクリとさせて、一連の出来事を見ていた。
「まあ!空ちゃんが近づいても吹きこぼれなかったじゃない!あの体質治ったの!?」
「そ、そうみたいです」
空は竈の中でゆらめく炎にもう一度目をやる。
炎は以前と違って穏やかに燃え続けている。
その炎を見ているうちに、次第に感傷的な気分が空を覆った。
前世の自分――
思い返せば、不思議な出会いであった。
唐突に夢に現れてきて、中々正体を明かさない彼女に歯がゆい想いもした。
だが、最終的には彼女に逢えてよかった、と感謝していた。
彼女のおかげで、自分のルーツを知ることができたのだから。
そんな彼女が何も告げず、パタリとこの世から去ってしまった。
戦友を失くしたような、寂しい心地であった。
しかし、食堂のおばちゃんの歓喜の声が空の意識を現実に引き戻した。
「よかったじゃない!これでやっと、料理を覚えられるじゃないの!空ちゃん、ずっと気に病んでたから……本当によかったわねぇ」
「そ、そうですね」
テンションの高いおばちゃんに合せるように、空は慌てて返事を返した。
「んふふ。いいことづくめじゃない。土井先生と無事恋人になれたし、悩みも解決したし、これも全部愛の力かしらねぇ」
おばちゃんの顔がうっとりと蕩ける。
愛の力――言い得て妙だと、空は苦笑いした。
「じゃあ、急いで基本のことを覚えないと。春休み、土井先生の家で過ごすんでしょ。美味しい手料理を振舞って胃袋もがっちり掴むのよ!今日早速お味噌汁を教えるわね」
「はい、前乱太郎君のお母さんに教わりましたけど、所々忘れてると思うので……改めてよろしくお願いします」
空はそう言って頭を下げた。
おばちゃんが笑顔で頷く。
空は今、新しい一歩を踏み出したのだ。