31.二人だけのワルツ
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「土井先生!」
「ん?」
半助は本の整理の最中だった。
呼ばれて振り返った半助は、いつもの優しい笑みを向けている。
「えっと、その……」
だが、空は気持ちが先走りすぎて行動が追いついていない。
緊張で表情が強張り、言葉がそこでつっかえてしまう。
結局、出てきた言葉は告白とは全く関係のないものだった。
「ほ、本の片づけ……私も手伝います」
言い終えて、空は苦々しく笑った。
内心、自分が情けなくて惨めだった。
この大チャンスをどうして生かせないのかと。
(あ~あ、私のバカ……!ほんっと意気地無し……)
「……?」
半助は空に話しかけられて、身構えていた。
が、手伝いと聞き、どこか肩透かしをくらったような心地であったことを空は知らない。
気を取り直し、冷静に返事を返した。
「うん。じゃあ、こっちに来てこの本を並べてもらえると助かる」
「はい」
それぞれの思惑を抱えながら作業を進める二人だが、半助はある本を見つけると感慨深そうにパラパラとめくる。
その本を嬉しそうに空に差し出した。
「これ、君でも読めるかも」
「え?」
「私が修業時代に読んでいた、火薬に関する本だよ」
「火薬の本……」
空は本を見るふりしてちらっと半助を見る。
その目は爛爛と輝いていた。
火薬は半助の得意分野だ。
少年のような幼ささえ感じる半助の表情を見て、空の口許に笑みが浮かぶ。
その表情を自分は何度も見たことがある、と。
「もう穴が開くほどこの本を読んだよ。どこに何が書いてあるかわかるくらい。えーっと、まずは……」
半助が本の説明を始めようとする。
が、次の瞬間二人は絶句した。
「!」
突然、ある昆虫が顔を出した。
それは蜘蛛だった。
天井から糸を引きながら下りてきて、ちょうど空の顔の前でピタリと止まったのだ。
半助の反応はああ……くらいでほとんど動じてなかったが、空はそうもいかなかった。
小さい蜘蛛ならともかく、その蜘蛛は全長10センチ以上はある。
うねうねと手足が動く様は、虫が苦手な女性なら身の毛がよだつ。
そいつを間近で目に入れた衝撃はあまりに大きかった。
「…………っ!」
声は挙げなかったものの、パニックになった空は慌てて半助に抱きついてしまった。
蜘蛛は空の驚きぶりに満足したのか、床に降りると格子の方へ進み、そこから外へ出てしまった。
それを見届けた半助は、空にやさしく声をかけた。
「もういなくなったから大丈夫だよ」
「……」
それを聞いて、空は落ち着きを取り戻し、顔を上げた。
眼前に半助の顔がある。
ようやく自分が何をしでかしたか知った。
「ご、ごめんなさい……」
「いや……」
空は離れようとした。
が、できなかった。
このまま半助を感じていたかった。
(土井先生……)
逆に、甘えるように半助の胸に頬を擦り寄せた。
「!」
半助の鼓動が瞬く間に加速する。
もう本のことは頭になかった。
長い沈黙が落ちる。
やがて、空は途切れ途切れになりながら、想いを語り出した。
「勘違いだったら、ごめんなさい……。でも……何だか…どうしても……土井先生が私と同じ気持ちなんじゃないかって……そんな風に思えてしまって……」
「……」
「今日ここに来て……隣のおばちゃんたちと話してて……すごく苦しかった……。皆信じきっているのに……私と土井先生はまだ……そうじゃないから……」
「空……」
「これからは……後ろめたさなんか持たずに、堂々と土井先生のそばに居たいです……」
空は尚も言葉を続けようとした。
だが、それを遮るかのように、全身を半助にきつく抱き締められていた。
(土井先生……)
空の胸が高鳴っていく。
半助は小さい溜息をつき、自嘲気味に言った。
「ほんっとうに情けないよ、自分自身が。モタモタしているばかりに、危うく先に言われそうになるし……」
「……」
「私も……今日心苦しかった。隣のおばちゃんにも大家さんにも。君といたいがために、ああいう嘘に甘えてしまっていて……」
「土井先生……」
「名前で呼んでくれないのか?……私と同じ気持ちなんだろう?」
それを聞いて、喜びが空の顔を支配する。
空は半助をパッと見た。
半助は照れている。
だが、微笑みを浮かべていた。
嬉しさに揺れるような微笑みを。
その笑みとともに、半助はずっと言いたかった言葉を口にした。
「空……好きだ」
(ああ……)
空の心が震える。
不意に涙が零れてしまった。
半助はやさしげな瞳で空を見つめている。
その眼差しに導かれて、言葉が自然と口から出ていた。
「半助さん……私も……好きだったの、ずっと……」
それを聞いて、半助は笑みを輝かせる。
空の涙をそっと手で拭った。
「半助さん……」
空は半助の名を呼んだ。
その声に誘われるように、半助はゆっくりと空に顔を近づけていく。
空は待っていたかのように目を閉じた。
「ん?」
半助は本の整理の最中だった。
呼ばれて振り返った半助は、いつもの優しい笑みを向けている。
「えっと、その……」
だが、空は気持ちが先走りすぎて行動が追いついていない。
緊張で表情が強張り、言葉がそこでつっかえてしまう。
結局、出てきた言葉は告白とは全く関係のないものだった。
「ほ、本の片づけ……私も手伝います」
言い終えて、空は苦々しく笑った。
内心、自分が情けなくて惨めだった。
この大チャンスをどうして生かせないのかと。
(あ~あ、私のバカ……!ほんっと意気地無し……)
「……?」
半助は空に話しかけられて、身構えていた。
が、手伝いと聞き、どこか肩透かしをくらったような心地であったことを空は知らない。
気を取り直し、冷静に返事を返した。
「うん。じゃあ、こっちに来てこの本を並べてもらえると助かる」
「はい」
それぞれの思惑を抱えながら作業を進める二人だが、半助はある本を見つけると感慨深そうにパラパラとめくる。
その本を嬉しそうに空に差し出した。
「これ、君でも読めるかも」
「え?」
「私が修業時代に読んでいた、火薬に関する本だよ」
「火薬の本……」
空は本を見るふりしてちらっと半助を見る。
その目は爛爛と輝いていた。
火薬は半助の得意分野だ。
少年のような幼ささえ感じる半助の表情を見て、空の口許に笑みが浮かぶ。
その表情を自分は何度も見たことがある、と。
「もう穴が開くほどこの本を読んだよ。どこに何が書いてあるかわかるくらい。えーっと、まずは……」
半助が本の説明を始めようとする。
が、次の瞬間二人は絶句した。
「!」
突然、ある昆虫が顔を出した。
それは蜘蛛だった。
天井から糸を引きながら下りてきて、ちょうど空の顔の前でピタリと止まったのだ。
半助の反応はああ……くらいでほとんど動じてなかったが、空はそうもいかなかった。
小さい蜘蛛ならともかく、その蜘蛛は全長10センチ以上はある。
うねうねと手足が動く様は、虫が苦手な女性なら身の毛がよだつ。
そいつを間近で目に入れた衝撃はあまりに大きかった。
「…………っ!」
声は挙げなかったものの、パニックになった空は慌てて半助に抱きついてしまった。
蜘蛛は空の驚きぶりに満足したのか、床に降りると格子の方へ進み、そこから外へ出てしまった。
それを見届けた半助は、空にやさしく声をかけた。
「もういなくなったから大丈夫だよ」
「……」
それを聞いて、空は落ち着きを取り戻し、顔を上げた。
眼前に半助の顔がある。
ようやく自分が何をしでかしたか知った。
「ご、ごめんなさい……」
「いや……」
空は離れようとした。
が、できなかった。
このまま半助を感じていたかった。
(土井先生……)
逆に、甘えるように半助の胸に頬を擦り寄せた。
「!」
半助の鼓動が瞬く間に加速する。
もう本のことは頭になかった。
長い沈黙が落ちる。
やがて、空は途切れ途切れになりながら、想いを語り出した。
「勘違いだったら、ごめんなさい……。でも……何だか…どうしても……土井先生が私と同じ気持ちなんじゃないかって……そんな風に思えてしまって……」
「……」
「今日ここに来て……隣のおばちゃんたちと話してて……すごく苦しかった……。皆信じきっているのに……私と土井先生はまだ……そうじゃないから……」
「空……」
「これからは……後ろめたさなんか持たずに、堂々と土井先生のそばに居たいです……」
空は尚も言葉を続けようとした。
だが、それを遮るかのように、全身を半助にきつく抱き締められていた。
(土井先生……)
空の胸が高鳴っていく。
半助は小さい溜息をつき、自嘲気味に言った。
「ほんっとうに情けないよ、自分自身が。モタモタしているばかりに、危うく先に言われそうになるし……」
「……」
「私も……今日心苦しかった。隣のおばちゃんにも大家さんにも。君といたいがために、ああいう嘘に甘えてしまっていて……」
「土井先生……」
「名前で呼んでくれないのか?……私と同じ気持ちなんだろう?」
それを聞いて、喜びが空の顔を支配する。
空は半助をパッと見た。
半助は照れている。
だが、微笑みを浮かべていた。
嬉しさに揺れるような微笑みを。
その笑みとともに、半助はずっと言いたかった言葉を口にした。
「空……好きだ」
(ああ……)
空の心が震える。
不意に涙が零れてしまった。
半助はやさしげな瞳で空を見つめている。
その眼差しに導かれて、言葉が自然と口から出ていた。
「半助さん……私も……好きだったの、ずっと……」
それを聞いて、半助は笑みを輝かせる。
空の涙をそっと手で拭った。
「半助さん……」
空は半助の名を呼んだ。
その声に誘われるように、半助はゆっくりと空に顔を近づけていく。
空は待っていたかのように目を閉じた。
