31.二人だけのワルツ
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隣のおばちゃんから借りた身拭に身を包み、空は半助の家へと戻った。
「すみません、遅くなりました」
「おかえり。おばちゃんとゆっくり話せた?」
振り返って空を目に入れた途端、半助の顔が一瞬で赤くなる。
濡れた髪が肌にはりついている。
湯上り姿が何とも色っぽい。
「……」
空は空で、半助の身拭姿に目が釘付けになっている。
まとまりの悪い髪が、まだ少し濡れていてしっとりとしている。
開いた胸元からは引き締まった筋肉が顔をのぞかせ、大人の男の色気に頭がのぼせそうになる。
何とか頭を働かせて、半助に返事を返した。
「は、はい。隣のおばちゃん、私たちが帰ってきて嬉しそうでした」
「そっか」
「……」
「……」
そこで会話が途絶えてしまう。
部屋に充満する沈黙が気まずくてしょうがない。
自分の心音が相手に聞こえてしまうのではないかとお互いが心配したほどだ。
こんな時にきり丸が居たら、場をほぐしてくれるだろう。
二人は改めてきり丸の偉大さに気づくのだった。
「……」
先に発したのは半助だった。
「髪、まだ濡れてるからちゃんと拭いておくんだぞ。夜はまだ冷えるし」
「はい……」
「私はもう少し部屋の整理を続けるよ。牧之介に散々散らかされているから」
それだけ言って、半助はその場を離れた。
そうでもして空から遠ざからないと、疚しい雑念ばかりが浮かんできて平常心を保てなかった。
「……」
そんな半助の心などつゆとも知らない空は髪を拭きながら自己嫌悪の嵐だった。
せっかくの二人きりというのに、いざそうなったら緊張して突然訪れたこの貴重な時間を楽しむことができない。
尤も、それは少し離れたところにいる半助も全く同じことを思っているのだが。
(北石さんみたいに話せたらいいのに……)
町で出会った北石は気さくに半助と話していた。
自分にはない、あの天真爛漫さ。
それが空にはどうにも羨ましかった。
「……」
空の心を沈ませる原因は他にもある。
直近の隣のおばちゃんとの会話だ。
笑顔でうんうんと対応していたが、その裏に感じていたのはとてつもないほどの罪悪感だった。
半助の恋人だと偽っていることが、今は心苦しく感じられる。
隣のおばちゃんだけではない。
大家にも。ひいては長屋の人々にも。
(そういえば……)
空は前の冬休みにきり丸の洗濯のバイトを手伝ったときのことを思い出していた。
隣のおばちゃんが長屋の女性陣に半助には恋人がいると伝えた後、何人かの年頃の娘たちは愕然としていた。
彼女たちは半助と一緒にいる自分を見て、自身の失恋を悟ったのだ。
そのときの、彼女たちの哀しげな表情が印象に残っていた。
あのときは、半助が好きだとはっきりと自覚していなかった。
だが、恋をして初めて気づいた。
恋人だと偽りながら半助のそばにいる。
それはあの純粋な少女たちに対して甚だ失礼な行為のかもしれないと。
いくら半助ときり丸が自分の身を心配したあまりについた嘘とはいえ、今の空にはどうしてもそれが許せなかった。
「……!」
居てもたってもいられず、空の足は半助の方へと動いていた。
「すみません、遅くなりました」
「おかえり。おばちゃんとゆっくり話せた?」
振り返って空を目に入れた途端、半助の顔が一瞬で赤くなる。
濡れた髪が肌にはりついている。
湯上り姿が何とも色っぽい。
「……」
空は空で、半助の身拭姿に目が釘付けになっている。
まとまりの悪い髪が、まだ少し濡れていてしっとりとしている。
開いた胸元からは引き締まった筋肉が顔をのぞかせ、大人の男の色気に頭がのぼせそうになる。
何とか頭を働かせて、半助に返事を返した。
「は、はい。隣のおばちゃん、私たちが帰ってきて嬉しそうでした」
「そっか」
「……」
「……」
そこで会話が途絶えてしまう。
部屋に充満する沈黙が気まずくてしょうがない。
自分の心音が相手に聞こえてしまうのではないかとお互いが心配したほどだ。
こんな時にきり丸が居たら、場をほぐしてくれるだろう。
二人は改めてきり丸の偉大さに気づくのだった。
「……」
先に発したのは半助だった。
「髪、まだ濡れてるからちゃんと拭いておくんだぞ。夜はまだ冷えるし」
「はい……」
「私はもう少し部屋の整理を続けるよ。牧之介に散々散らかされているから」
それだけ言って、半助はその場を離れた。
そうでもして空から遠ざからないと、疚しい雑念ばかりが浮かんできて平常心を保てなかった。
「……」
そんな半助の心などつゆとも知らない空は髪を拭きながら自己嫌悪の嵐だった。
せっかくの二人きりというのに、いざそうなったら緊張して突然訪れたこの貴重な時間を楽しむことができない。
尤も、それは少し離れたところにいる半助も全く同じことを思っているのだが。
(北石さんみたいに話せたらいいのに……)
町で出会った北石は気さくに半助と話していた。
自分にはない、あの天真爛漫さ。
それが空にはどうにも羨ましかった。
「……」
空の心を沈ませる原因は他にもある。
直近の隣のおばちゃんとの会話だ。
笑顔でうんうんと対応していたが、その裏に感じていたのはとてつもないほどの罪悪感だった。
半助の恋人だと偽っていることが、今は心苦しく感じられる。
隣のおばちゃんだけではない。
大家にも。ひいては長屋の人々にも。
(そういえば……)
空は前の冬休みにきり丸の洗濯のバイトを手伝ったときのことを思い出していた。
隣のおばちゃんが長屋の女性陣に半助には恋人がいると伝えた後、何人かの年頃の娘たちは愕然としていた。
彼女たちは半助と一緒にいる自分を見て、自身の失恋を悟ったのだ。
そのときの、彼女たちの哀しげな表情が印象に残っていた。
あのときは、半助が好きだとはっきりと自覚していなかった。
だが、恋をして初めて気づいた。
恋人だと偽りながら半助のそばにいる。
それはあの純粋な少女たちに対して甚だ失礼な行為のかもしれないと。
いくら半助ときり丸が自分の身を心配したあまりについた嘘とはいえ、今の空にはどうしてもそれが許せなかった。
「……!」
居てもたってもいられず、空の足は半助の方へと動いていた。
