31.二人だけのワルツ
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隣のおばちゃんは、先に半助と大家を帰らせた。
空は今、湯を張った大きな桶の中にいる。
行水をしていた。
「すみません、身体まで流してもらって」
「いいのよ!何にも準備せず、急に帰ってきたんでしょ。今回の騒動、あたしたちも悪いと思っているからねぇ」
おばちゃんは一瞬申し訳なさそうな顔をするが、すぐに笑顔をつくった。
帰ってきてからおばちゃんは終始笑顔だ。
その理由が半助が帰ってきたことにあると空は思っていた。
(なんだかんだで隣のおばちゃん、土井先生のことお気に入りよね……)
きっと自分の息子のように可愛がっているのだろう。
空が何気なく聞いた。
「おばちゃん、楽しそうですね。やっぱり半助さんが帰ってきたのが嬉しいんですか?」
「半助だけじゃない。空ちゃんも帰ってきたのが嬉しいのよ」
「えっ?私も……?」
驚く空に構わず、おばちゃんは続けた。
「半助ときり丸、男二人だとゆっくり話もできないでしょ?それに、あんな美味しそうに私の料理を食べてくれて作りがいがあるし。いまもこうやってお世話をするのが楽しくて仕方ないの」
「……」
「……半助ね、長屋の女の子たちには壁を作っていたの。表面上はやさしく対応するけど、一定の距離を置いておくのか普通で。それが今の仕事と関係しているかは知らないけどね」
おばちゃんは半助の事情をすべて知っているわけではない。
それは勘――長年色んな人間を見てきた年長者としての勘だ。
「だから、この前の冬休み、大家さんともう~ビックリしたのなんの!あんなに表情豊かな半助見たことなかったから。きっと空ちゃんにはすごく心を許してるのね」
「隣のおばちゃん……」
「これからも、半助のこと頼んだわよ」
「はい」
空は笑顔で頷いた。
***
先に家に帰った半助は大家と雑談をしていた。
「いやぁ、まさかあの嫁がニセモノの空ちゃんだったとは、驚いたのう!」
「ほんっと、いい迷惑です!思い出したら……ああ!またイライラしてくる!」
「それにしても、今日はきり丸がいないからふたりでゆっくり過ごせるな」
「へっ!?」
大家に言われて半助は気づいた。
牧之介騒動に気を取られてばかりいたが、今夜は自分と空だけで一晩共にする。
つまりは、一つ屋根の下にふたりきり。
とんぼ返りを惜しんだ隣のおばちゃんと大家のために一泊することを決めたが、それはよくよく考えれば大胆な決断だったのかもしれない。
真っ赤になって口を閉ざす半助を、大家はおおらかに見守っていた。
「そんな半助を見れるようになったのは新鮮じゃのう。空ちゃんが来る前は……どことなくきり丸の保護者を気負っているような感じじゃったけど……」
「大家さん?」
「いい人はいないのかと聞いても、いないの一点張りだったし。わしゃてっきりお前さんは男が好きなのかと……」
「大家さん!」
「だから、空ちゃんを連れて来たときは、隣のおばちゃんとともにそれはそれは……たまげたのう!」
「空は……特別ですから」
半助は照れたようにボソッと言う。
大家はそれだけ聞くと満足というような顔でスッと立ち上がった。
「ワシはそろそろこの辺でお暇しようかのう」
「え?もう帰るんですか?」
「悪いが恋人との時間を邪魔するような趣味は持ち合わせておらん。じきに空ちゃんが来るじゃろう。せっかくきり丸がいないんだし、二人のんびりと過ごすんじゃぞ」
それだけ言って、大家はあっさりと踵を返した。
空は今、湯を張った大きな桶の中にいる。
行水をしていた。
「すみません、身体まで流してもらって」
「いいのよ!何にも準備せず、急に帰ってきたんでしょ。今回の騒動、あたしたちも悪いと思っているからねぇ」
おばちゃんは一瞬申し訳なさそうな顔をするが、すぐに笑顔をつくった。
帰ってきてからおばちゃんは終始笑顔だ。
その理由が半助が帰ってきたことにあると空は思っていた。
(なんだかんだで隣のおばちゃん、土井先生のことお気に入りよね……)
きっと自分の息子のように可愛がっているのだろう。
空が何気なく聞いた。
「おばちゃん、楽しそうですね。やっぱり半助さんが帰ってきたのが嬉しいんですか?」
「半助だけじゃない。空ちゃんも帰ってきたのが嬉しいのよ」
「えっ?私も……?」
驚く空に構わず、おばちゃんは続けた。
「半助ときり丸、男二人だとゆっくり話もできないでしょ?それに、あんな美味しそうに私の料理を食べてくれて作りがいがあるし。いまもこうやってお世話をするのが楽しくて仕方ないの」
「……」
「……半助ね、長屋の女の子たちには壁を作っていたの。表面上はやさしく対応するけど、一定の距離を置いておくのか普通で。それが今の仕事と関係しているかは知らないけどね」
おばちゃんは半助の事情をすべて知っているわけではない。
それは勘――長年色んな人間を見てきた年長者としての勘だ。
「だから、この前の冬休み、大家さんともう~ビックリしたのなんの!あんなに表情豊かな半助見たことなかったから。きっと空ちゃんにはすごく心を許してるのね」
「隣のおばちゃん……」
「これからも、半助のこと頼んだわよ」
「はい」
空は笑顔で頷いた。
***
先に家に帰った半助は大家と雑談をしていた。
「いやぁ、まさかあの嫁がニセモノの空ちゃんだったとは、驚いたのう!」
「ほんっと、いい迷惑です!思い出したら……ああ!またイライラしてくる!」
「それにしても、今日はきり丸がいないからふたりでゆっくり過ごせるな」
「へっ!?」
大家に言われて半助は気づいた。
牧之介騒動に気を取られてばかりいたが、今夜は自分と空だけで一晩共にする。
つまりは、一つ屋根の下にふたりきり。
とんぼ返りを惜しんだ隣のおばちゃんと大家のために一泊することを決めたが、それはよくよく考えれば大胆な決断だったのかもしれない。
真っ赤になって口を閉ざす半助を、大家はおおらかに見守っていた。
「そんな半助を見れるようになったのは新鮮じゃのう。空ちゃんが来る前は……どことなくきり丸の保護者を気負っているような感じじゃったけど……」
「大家さん?」
「いい人はいないのかと聞いても、いないの一点張りだったし。わしゃてっきりお前さんは男が好きなのかと……」
「大家さん!」
「だから、空ちゃんを連れて来たときは、隣のおばちゃんとともにそれはそれは……たまげたのう!」
「空は……特別ですから」
半助は照れたようにボソッと言う。
大家はそれだけ聞くと満足というような顔でスッと立ち上がった。
「ワシはそろそろこの辺でお暇しようかのう」
「え?もう帰るんですか?」
「悪いが恋人との時間を邪魔するような趣味は持ち合わせておらん。じきに空ちゃんが来るじゃろう。せっかくきり丸がいないんだし、二人のんびりと過ごすんじゃぞ」
それだけ言って、大家はあっさりと踵を返した。
