31.二人だけのワルツ
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「許さん、ニセ嫁め!勝手に家に入り込んで……!」
勝手に空の名を名乗る自称・嫁に半助は相当頭にきていた。
怒りで我を忘れている。
が、もう一人の当事者はなんのこっちゃと置き去りにされたまま駆け足気味でついていく。
「あ、あの土井先生!ちょっと落ち着いてください!」
「これが落ち着いていられるか!」
待ったをかける空を無視し、半助はズンズン歩く。
しかし、空からすれば訳が分からぬまま強制的に連れ出されて限界だった。
「土井先生!いい加減にしてくださいー!」
半助が聞いたことがないほどの大声量で叫んでいた。
「空君!?」
「土井先生、まずは落ち着いてください!さっきからちっとも聞き入れてくれないし……一体何があったんですか!?」
空の必死な訴えに半助もようやく頭が冷えてきた。
一旦足を止めると、その場で語り出した。
「実は……。一週間ほど前から私の家に入り浸っている自称・私の妻がいるようだ。しかもそいつは君の名を語っている」
「え!?土井先生の妻?私が……!?」
「妻」という響きに思わず陶酔してしまう空だったが、もちろん自分に身に覚えはない。
では、一体どこのどいつなのか。
不安が空を襲う。
「話を聞いたが、その妻についてあまり良くない噂が立っている。それに、乱太郎の母上は私の家に立ち寄ってその女を見たそうだ」
「乱太郎君のお母さんが信じていたってことは隣のおばちゃんも大家さんもそうなんですよね。変装が得意な忍者なのかも……!」
「変装が得意な忍者か。う~ん……」
「あ、もしかして……!?」
空が目を見開いた。
「ん?何か心当たりがあるのか?」
「尊奈門さんですよ!諸泉尊奈門さん!土井先生と決闘したがってるから、妻に成りすましておびき寄せようとしているんじゃ……?」
空が挙げた諸泉尊奈門はタソガレドキ忍者である。
尊奈門はチョークや出席簿を武器にする半助と戦って負けて以降、半助に対しライバル意識を抱く自尊心の強い青年だった。
だが、半助は納得がいかないようだ。
「でも、あの尊奈門君がそんなことをするとは思えん。生真面目な性格だからな。それに、乱太郎の母はニセ嫁のことをふくよかと言っていたのが気になる」
「確かに……尊奈門さんはふくよかっていう体型ではないですよね」
結局、二人の推理は振り出しにもどった。
「とにかく、忍者だろうがなんだろうが、このままでは我々の評判は町でガタ落ちだ。一刻も早く、そいつを捕まえよう!」
「はい!」
今、半助と空の心は未だ正体の明かされていない「ニセ嫁」のおかげでひとつになっていた。
***
半助たちは家に着いた。
家の中を見回すと、食い散らかした後のようで、食器が床に置かれたまま。
その上、机は倒れ、箪笥は引き出しを開けっぱなし。
そこから着物が飛び出している。
「私は土井半助だ。空君の名を語るなど許さないぞ!どこだ~!ニセ嫁!」
烈火のごとく怒り狂う半助は血眼で家じゅうを探す。
だが、ちょうどニセ嫁は留守のようだ。
半助に比べ、わりかし冷静な空は家の中を覗いては呆れていた。
「すっごく部屋が散らかってますね。結構だらしない嫁さんですね……」
「断じて私の嫁ではない!」
そうこうしているうちに、隣のおばちゃんが家にやって来た。
「あら、半助!それに空ちゃん!」
「隣のおばちゃん!」
空と半助の声が重なる。
隣のおばちゃんは空を見て目を白黒させている。
「ど、どういうこと!?空ちゃんが二人いるなんて!」
「隣のおばちゃん、私が本物の空です!私はずっと土井先生と一緒にいました!」
「ん?土井先生?随分、他人行儀ね……?」
おばちゃんの鋭い指摘に、空はギクリとする。
(そうだった!この前の冬休みにお邪魔したときは、土井先生の恋人だと偽ったのよね……)
今回も同じように恋人のフリをしなければいけない。
空は咄嗟に半助の腕に絡みついた。
「あ、つい職場にいる時のクセで……。ね、半助さん?」
腕をとられた時、半助の顔がわずかに赤く染まる。
半助もまた、空の様子からきり丸と三人で口裏を合わせたことを思い出していた。
隣のおばちゃんに向かって、自信満々に叫んだ。
「そうですよ、隣のおばちゃん!空はいつも私と一緒にいます。一人で帰らせるなんてことはしません!」
「じゃ、じゃあ今大家さんと一緒に歩いてくる空ちゃんは一体……!?」
「え!?」
「ほら、あっち!」
二人は慌てておばちゃんの指さした方を見た。
「ああ!」
その女を見て半助と空は絶句する。
女は二人のよく知っている人物であった。
大家といるのは……ずんぐりむっくりした女。
妊娠しているのかお腹が出っ張っている。
家の前まで付き添ってくれようとしている大家に申し訳なさそうに言った。
「大家さん、もうここまでで結構です」
「何を言っとるんじゃ、空ちゃん。大事な赤ちゃんのいる身体なのに……!」
「きっと、半助さんにそっくりな赤ちゃんが生まれますわ!」
やりとりを聞いた半助はプルプルと震えている。
強烈な怒りとともに、半助はその女、いや正確には男の名を大声で叫んだ。
「花房、牧之介~~!!」
しかし、牧之介は何食わぬ顔で返事をする。
「あ~ら、あなた!」
「何があなただ!」
半助の怒声に牧之介はビビりまくっている。
(ま、まずいな……土井半助も空もいるし……)
牧之介はこれ以上言い逃れできないことに気づき、反対方向に逃げ出した。
「逃げるな~~!!」
半助は牧之介を追う。
一方、残された大家は本物の空に気づき、どういうことだとハテナマークを頭に浮かべている。
「何で空ちゃんが二人もいるんだ!?わしと一緒にいた空ちゃんは一体?」
「大家さん、あれは花房牧之介って男の人が私に変装していたんです!」
「そ、そうなのか……!」
大家は顔を真っ青にし、ショックを受けている。
「……」
せめて牧之介と自分の見分けくらいはついて欲しかった。
隣のおばちゃんといい、大家といい、この時代の人々の視力を本気で疑う空だった。
勝手に空の名を名乗る自称・嫁に半助は相当頭にきていた。
怒りで我を忘れている。
が、もう一人の当事者はなんのこっちゃと置き去りにされたまま駆け足気味でついていく。
「あ、あの土井先生!ちょっと落ち着いてください!」
「これが落ち着いていられるか!」
待ったをかける空を無視し、半助はズンズン歩く。
しかし、空からすれば訳が分からぬまま強制的に連れ出されて限界だった。
「土井先生!いい加減にしてくださいー!」
半助が聞いたことがないほどの大声量で叫んでいた。
「空君!?」
「土井先生、まずは落ち着いてください!さっきからちっとも聞き入れてくれないし……一体何があったんですか!?」
空の必死な訴えに半助もようやく頭が冷えてきた。
一旦足を止めると、その場で語り出した。
「実は……。一週間ほど前から私の家に入り浸っている自称・私の妻がいるようだ。しかもそいつは君の名を語っている」
「え!?土井先生の妻?私が……!?」
「妻」という響きに思わず陶酔してしまう空だったが、もちろん自分に身に覚えはない。
では、一体どこのどいつなのか。
不安が空を襲う。
「話を聞いたが、その妻についてあまり良くない噂が立っている。それに、乱太郎の母上は私の家に立ち寄ってその女を見たそうだ」
「乱太郎君のお母さんが信じていたってことは隣のおばちゃんも大家さんもそうなんですよね。変装が得意な忍者なのかも……!」
「変装が得意な忍者か。う~ん……」
「あ、もしかして……!?」
空が目を見開いた。
「ん?何か心当たりがあるのか?」
「尊奈門さんですよ!諸泉尊奈門さん!土井先生と決闘したがってるから、妻に成りすましておびき寄せようとしているんじゃ……?」
空が挙げた諸泉尊奈門はタソガレドキ忍者である。
尊奈門はチョークや出席簿を武器にする半助と戦って負けて以降、半助に対しライバル意識を抱く自尊心の強い青年だった。
だが、半助は納得がいかないようだ。
「でも、あの尊奈門君がそんなことをするとは思えん。生真面目な性格だからな。それに、乱太郎の母はニセ嫁のことをふくよかと言っていたのが気になる」
「確かに……尊奈門さんはふくよかっていう体型ではないですよね」
結局、二人の推理は振り出しにもどった。
「とにかく、忍者だろうがなんだろうが、このままでは我々の評判は町でガタ落ちだ。一刻も早く、そいつを捕まえよう!」
「はい!」
今、半助と空の心は未だ正体の明かされていない「ニセ嫁」のおかげでひとつになっていた。
***
半助たちは家に着いた。
家の中を見回すと、食い散らかした後のようで、食器が床に置かれたまま。
その上、机は倒れ、箪笥は引き出しを開けっぱなし。
そこから着物が飛び出している。
「私は土井半助だ。空君の名を語るなど許さないぞ!どこだ~!ニセ嫁!」
烈火のごとく怒り狂う半助は血眼で家じゅうを探す。
だが、ちょうどニセ嫁は留守のようだ。
半助に比べ、わりかし冷静な空は家の中を覗いては呆れていた。
「すっごく部屋が散らかってますね。結構だらしない嫁さんですね……」
「断じて私の嫁ではない!」
そうこうしているうちに、隣のおばちゃんが家にやって来た。
「あら、半助!それに空ちゃん!」
「隣のおばちゃん!」
空と半助の声が重なる。
隣のおばちゃんは空を見て目を白黒させている。
「ど、どういうこと!?空ちゃんが二人いるなんて!」
「隣のおばちゃん、私が本物の空です!私はずっと土井先生と一緒にいました!」
「ん?土井先生?随分、他人行儀ね……?」
おばちゃんの鋭い指摘に、空はギクリとする。
(そうだった!この前の冬休みにお邪魔したときは、土井先生の恋人だと偽ったのよね……)
今回も同じように恋人のフリをしなければいけない。
空は咄嗟に半助の腕に絡みついた。
「あ、つい職場にいる時のクセで……。ね、半助さん?」
腕をとられた時、半助の顔がわずかに赤く染まる。
半助もまた、空の様子からきり丸と三人で口裏を合わせたことを思い出していた。
隣のおばちゃんに向かって、自信満々に叫んだ。
「そうですよ、隣のおばちゃん!空はいつも私と一緒にいます。一人で帰らせるなんてことはしません!」
「じゃ、じゃあ今大家さんと一緒に歩いてくる空ちゃんは一体……!?」
「え!?」
「ほら、あっち!」
二人は慌てておばちゃんの指さした方を見た。
「ああ!」
その女を見て半助と空は絶句する。
女は二人のよく知っている人物であった。
大家といるのは……ずんぐりむっくりした女。
妊娠しているのかお腹が出っ張っている。
家の前まで付き添ってくれようとしている大家に申し訳なさそうに言った。
「大家さん、もうここまでで結構です」
「何を言っとるんじゃ、空ちゃん。大事な赤ちゃんのいる身体なのに……!」
「きっと、半助さんにそっくりな赤ちゃんが生まれますわ!」
やりとりを聞いた半助はプルプルと震えている。
強烈な怒りとともに、半助はその女、いや正確には男の名を大声で叫んだ。
「花房、牧之介~~!!」
しかし、牧之介は何食わぬ顔で返事をする。
「あ~ら、あなた!」
「何があなただ!」
半助の怒声に牧之介はビビりまくっている。
(ま、まずいな……土井半助も空もいるし……)
牧之介はこれ以上言い逃れできないことに気づき、反対方向に逃げ出した。
「逃げるな~~!!」
半助は牧之介を追う。
一方、残された大家は本物の空に気づき、どういうことだとハテナマークを頭に浮かべている。
「何で空ちゃんが二人もいるんだ!?わしと一緒にいた空ちゃんは一体?」
「大家さん、あれは花房牧之介って男の人が私に変装していたんです!」
「そ、そうなのか……!」
大家は顔を真っ青にし、ショックを受けている。
「……」
せめて牧之介と自分の見分けくらいはついて欲しかった。
隣のおばちゃんといい、大家といい、この時代の人々の視力を本気で疑う空だった。
