27.Crazy Rendezvous (Part 2)

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団子まで食べ終わった男は、それはもう上機嫌だった。
お腹をパンパンと叩いている。

「いやぁ~~お団子まで頂いちゃって!それにしても、お前ほんっとうにいいやつだな!」
「いえ、気にしないでください。そう言えば、刀を持ってますけど、お侍さんなんですか?」
「ああ。おれは剣豪だ!」
「剣豪……へぇー!すごいですね!」
「これから有名になる名前だからな。花房牧之介だ。覚えておけ!」
「花房、牧之介さん……ですか」
「そうだ。花房牧之介だ。おっと。助けてもらってなんだが……おれは先を急がねばならん。何しろ崇高な使命があるからな。じゃ」
「……」

助けてもらったにもかかわらず、あっさりとしたこの態度。
牧之介が踵を返そうとした瞬間、もう行ってしまうのかとの表情がかげる。

行き倒れになっていた牧之介とこの世界にいる自分とに、なんとなく親近感を感じていたのだ。
そんなの寂しげな雰囲気に、牧之介は前へ踏み出そうにもできなくなってしまった。

「な、なんだよ。そんなシケた面して……。お前ワケありっぽいな。あ、わかった!」
「?」
「お前はどっかの城のお姫さんなんだな!色々あって城から逃げ出してきたんじゃねぇのか?」

なんと、牧之介は盛大に勘違いをしてしまう。
しかし、今日のはあたかも一国の姫のような出で立ちだ。
それが誤解を招いてしまった。

「えっと、姫とかそんなんじゃ……!」
「いや、俺様の目は欺けないぞ!そうかそうか。複雑な事情なんだな。どれどれ、悩みがあるなら話してみろよ。飯食わせてもらったお礼だ。聞くだけ聞いてやる!」

が否定しても、うんうんと勝手に納得している牧之介は全く聞く耳を持たない。
その場にドカッと座り、胡坐をかいてが話を切り出すのを待っている。

「はぁ……」

人の深刻な悩みとは、親しい人物よりもかえって無関係の第三者に気兼ねなく話せるものかもしれない。
は軽い気持ちで相談することにした。


***


「ふーん。生きてきた世界が違う、身分違いの恋ね……」

自分と半助の恋をお姫様と従者の恋になぞらえて、牧之介に一部始終話したのだった。

「もし、牧之助さんがそういう人好きになったらどうしますか?」
「おれ、女に興味ないからわかんねぇ!」

牧之介は自信満々に言い切った。

「……」

の全身が石のように硬直する。
話すんじゃなかった、とこの瞬間思いっきり後悔した。

「でも、お前はそいつのことが好きなんだよな?自分と何もかも違う環境で育ったヤツを」
「はい……」
「その気持ちをぶつけて見たらいいんじゃねえのか?なんでそれをしねえの?」
「だって、それは……たとえ想いが通じ合っても、付き合っていくうちに……相手の重荷になるから……」

この発言に、牧之介には全く理解ができないと首を傾げた。

「なんでお前、勝手に上手くいかないって考えるんだ?」
「え?」
「そうなるかわかりもしねぇのに。一人で悩んでバッカじゃねえの?何もしねぇうちからさ」
「……」

そこまで言われて、はハッとする。
目の覚めるような思いだった。
そして、自分が躊躇う真の理由がわかったのだ。

今考えてみると、生きてきた世界が違うなどという理由は単に口実に過ぎなかった。

たとえ両想いになっても、自分の両親のように半助はいつか自分のもとを離れるかもしれない。
それが怖かったのだ。

仕事重視で育児に無関心だった両親を持つ
自分がいくら愛を乞うても、ついに応えてくれることはなかった。

両親に捨てられた悲劇を、半助で繰り返してしまうのが怖い。
その恐怖感がにストップをかけていた。


はぁ……と牧之介がため息をついて、さらに続ける。

「よくわかんねーけどよ、大事なのはお前が今どうしたい、そういう気持ちなんじゃねえの?先がダメになることばっかり想像したら、どんなこともうまくいかねーじゃん!」
「私の、今の気持ち……」
「ま、お前のくっだらねえ考えで惚れたヤツのこと諦めるのはしょうがねえけどよ……本当にそいつのこと手放しちまっていいのか、もう一回よく考えてみるんだな」
「……」
「そういや、お前の好きな男ってどんな男なんだ?」
「どんな男……」

牧之介に問われ、は半助のことを考えていた。


忍術学園でお世話になってから、半助は自分に文字を教え、知識を与えてくれた。
孤独に押しつぶされそうになっていた夜、半助は話し相手になって寂しさを紛らわせてくれた。

秋休み、一人で忍術学園に残って過ごしたときも、無事かどうか心配できり丸とともに駆けつけてくれた。
冬休みは半助の家で過ごして、きり丸のバイトを一緒に手伝って、楽しい思い出を積み重ねてくれた。

この世界で生きることに不安を抱いた時、半助は「全力で守る」と誓ってくれた。

心の中にいる半助は、いつだってやさしい笑みを浮かべている――

「私……バカだ……」

自虐的な言葉を吐くだが、その顔は笑っていた。

両親と違って、絶えずそのやさしさを自分に向けていてくれていたではないか。
目に見えない温かさをずっと近くで感じていたではないか。

あんなに純粋で尊敬できる人を、自分は土井先生以外に知らない――

牧之介の言葉と絡めて、は自問自答する。

こんなに自分の心を占めて、好きで好きでたまらない土井先生を簡単に諦められる?――

答えはもう明らかだった。



「やっぱり、諦められないです!わたし……!」

熱い想いが身体中にほとばしる。
言葉とともにポロッと涙がこぼれ出した。
これに、牧之介がぎょっとする。

「げっ!泣くなよ……俺、手ぬぐいもってねえぞ!」
「あ、大丈夫です!私持ってますから……」

は自分の巾着から手ぬぐいを出し、溢れ出たものをぬぐった。

「全く、これだから女ってやつは……」

とかブツクサ言いながらも、牧之介はが落ち着くまで待っていた。




「とにかく、もっと俺みたいに気楽に構えるんだな。気楽に。そのほうが案外うまくいくかもしれねえぜ!逆に、たとえ上手くいかなかったとしても……そんな奴、今度はお前から切り捨ててしまえ!」

牧之介は首を切るジェスチャーのあと、にかっと笑った。
彼自体は風変わりな人間だが、不思議とその笑顔には惹きつけられるものがあった。

「そうですね。でも切り捨てるって……!」

牧之介の可笑しい物言いに勇気づけられて、はハハッと声を出して笑う。

「だろ?よーし、その意気だ!ちゃんと笑えんじゃねーか。んじゃあ、あとは頑張んだぞ!てなわけで、これで俺様の人生相談はおしまい」
「牧之介さん……ありがとうございました」

は深々と頭を下げた。

「気にすんな、うまいメシのお礼だ。じゃあ、おれは忙しいからこれでおさらばするぞ。夢を実現させるためにな」
「そういえば……牧之介さんの夢って何なんですか?」

よくぞ聞いてくれたと、牧之介が勢いよく立ちあがった。

「日本一の剣豪になることだ!まずはライバルの戸部新左衛門を倒す!」
「えっ?戸部先生!?」

まさかの知っている名前が耳に入ってきて、は呆然とする。

「なんだぁ?お前、戸部新左エ門を知っているのか!?」
「戸部先生って忍術学園の剣術師範でしょ?めちゃくちゃ強いですよ!」

は以前、一年は組の授業の一環で戸部の授業を見学したことがある。
見本の丸太を切り刻んでいたが、全く太刀筋が見えなくてその超人的な技量に感動したことを思い出していた。

「は!?なら、お前忍術学園の関係者か!?お姫さんじゃなかったのか……だましたのか、おれを!」
「騙してません!牧之介さんが勝手に違う理解で話を進めて……」
「とにかく、話は早い!おい、お前なんて名だ?」
「へ?と申しますけど……」
!頼む、この通りだ!俺を忍術学園へ連れてってくれ!」

についていけば、念願の戸部新左エ門と決闘できると思ったのだろう。
牧之介がめがけて飛びついた。
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