22.約束
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ひとしきり泣いて、空は徐々に落ち着きを取り戻してきた。
ゆっくりと半助から身体を引き剥がす。
「もう大丈夫です……」
半助は空をじっと見る。
泣き腫らした顔を見られるのが恥ずかしいのか、居心地悪そうにしている。
その様はまるで叱られた子どものようだ。
(は組の子どもたちより幼く見えるな……)
クスっと笑った半助は、あやすように空の頭をポンポンと叩いた。
「今度またここに連れてきてあげるよ。ここだけじゃない。他にも綺麗な景色が見える場所なら沢山あるから……この世界には」
「……」
瞼を擦りながら、空は無言のまま頷く。
「そろそろ、帰ろうか」
「はい」
***
空が刻一刻と赤く染まり始めていた。
空の足では忍術学園まで帰るのにかなりの時間を要する。
半助が空を背負って戻ることにした。
「あの、重くないですか?」
「全然!それより酔いは大丈夫?」
空は半助に遠慮していた。
こぶし一個分の距離をあけるようにして半助の背に乗っている。
このままの体勢だと再び酔ってしまうかもしれない。
そう判断した空は、思い切って半助に甘えることにした。
「すみません、もう少し身体を預けていいですか?このままだと揺れで酔いそう……」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ、失礼します」
空は半助の首に腕を回し、隙間なく身体を密着させる。
その瞬間、大丈夫と言ったにもかかわらず、半助は大丈夫ではなくなった。
(あ……その、まいったな……)
顔と顔の距離が近づき、女性特有の甘い匂いが半助の鼻腔をくすぐる。
そして、背中には柔らかい膨らみが押し付けられている。
身体が火照る。
だが、こんなことで劣情を感じてはいけないと、半助は自分自身を叱責し、疚しい雑念を振り払う。
そんな半助の心など全く知る由がない空は、泣き疲れた脱力感からぼうっとしている。
どちらも会話をする気がなく、しばらく半助は山道を下ることに専念していた。
(土井先生の背中、安心する……)
温もりを通じて感じる安らぎ。
空は全てを信じきった表情で半助にしがみついていた。
どのくらいの時間が過ぎただろうか。
ふと、空はこれまでずっと気になっていたことを半助に聞きたくなった。
「土井先生」
「何だい?」
「土井先生は、どうして忍者になったんですか?」
「!」
その質問を受けて、半助は急に真顔になる。
「……」
沈黙が解けるまでは長かった。
やがて、半助の口からゆっくりと言葉が紡ぎ出された。
「空君みたいに不安に感じている人を一人でも減らすためかな」
「え?」
「こんな時代だからこそ、忍者を目指したよ。一つでも戦や争いを無くしたいと思ったから」
「戦や争いを無くす……」
「ああ。人同士の争いは本当に怖い。大切なものが一瞬でなくなる……」
「……」
再び辺りは静まり返る。
もしかしたら、半助には過去に何かあったのかもしれない。
空はその沈黙で察し、敢えてそれ以上追求しなかった。
「空君、戦において最も重要なものは何か知ってる?」
「え、何だろう……交渉力ですか?それともお金?」
「残念、不正解。答えは諜報活動だよ。なぜなら、敵の動きが分かれば、戦を防ぐことも、勝つことも自由自在だからね。それに情報を意のままにできれば、戦を防いだり、敵を孤立させることも余裕でできる」
「そうなんですね。じゃあ、そのために忍びの道に」
「私一人では非力だからこの世から戦を全て消滅させることなんてできないが……でも、こうして忍びとして活動していれば、いち早く危険を察知できる。私の周りにいる目の前の人たちを守ることができる」
熱く、強い意志をもって語る半助を、空は感激の面持ちで見つめていた。
(土井先生は本当に凄い。優しくて強くて、いつだって誰かのために動いてる……)
(危険な任務だってあるはずなのに、勇敢に立ち向かって……)
(ああ、そうか。だから私は……)
自分がなぜ半助に惹かれたのか。
空の中で半助への想いが、確固たるものへと変わった瞬間だった。
「さ、もうすぐ忍術学園だよ」
半助の言う通り、前方の生茂る木々の先に、忍術学園の白い塀が見えていた。
ゆっくりと半助から身体を引き剥がす。
「もう大丈夫です……」
半助は空をじっと見る。
泣き腫らした顔を見られるのが恥ずかしいのか、居心地悪そうにしている。
その様はまるで叱られた子どものようだ。
(は組の子どもたちより幼く見えるな……)
クスっと笑った半助は、あやすように空の頭をポンポンと叩いた。
「今度またここに連れてきてあげるよ。ここだけじゃない。他にも綺麗な景色が見える場所なら沢山あるから……この世界には」
「……」
瞼を擦りながら、空は無言のまま頷く。
「そろそろ、帰ろうか」
「はい」
***
空が刻一刻と赤く染まり始めていた。
空の足では忍術学園まで帰るのにかなりの時間を要する。
半助が空を背負って戻ることにした。
「あの、重くないですか?」
「全然!それより酔いは大丈夫?」
空は半助に遠慮していた。
こぶし一個分の距離をあけるようにして半助の背に乗っている。
このままの体勢だと再び酔ってしまうかもしれない。
そう判断した空は、思い切って半助に甘えることにした。
「すみません、もう少し身体を預けていいですか?このままだと揺れで酔いそう……」
「うん、大丈夫だよ」
「じゃあ、失礼します」
空は半助の首に腕を回し、隙間なく身体を密着させる。
その瞬間、大丈夫と言ったにもかかわらず、半助は大丈夫ではなくなった。
(あ……その、まいったな……)
顔と顔の距離が近づき、女性特有の甘い匂いが半助の鼻腔をくすぐる。
そして、背中には柔らかい膨らみが押し付けられている。
身体が火照る。
だが、こんなことで劣情を感じてはいけないと、半助は自分自身を叱責し、疚しい雑念を振り払う。
そんな半助の心など全く知る由がない空は、泣き疲れた脱力感からぼうっとしている。
どちらも会話をする気がなく、しばらく半助は山道を下ることに専念していた。
(土井先生の背中、安心する……)
温もりを通じて感じる安らぎ。
空は全てを信じきった表情で半助にしがみついていた。
どのくらいの時間が過ぎただろうか。
ふと、空はこれまでずっと気になっていたことを半助に聞きたくなった。
「土井先生」
「何だい?」
「土井先生は、どうして忍者になったんですか?」
「!」
その質問を受けて、半助は急に真顔になる。
「……」
沈黙が解けるまでは長かった。
やがて、半助の口からゆっくりと言葉が紡ぎ出された。
「空君みたいに不安に感じている人を一人でも減らすためかな」
「え?」
「こんな時代だからこそ、忍者を目指したよ。一つでも戦や争いを無くしたいと思ったから」
「戦や争いを無くす……」
「ああ。人同士の争いは本当に怖い。大切なものが一瞬でなくなる……」
「……」
再び辺りは静まり返る。
もしかしたら、半助には過去に何かあったのかもしれない。
空はその沈黙で察し、敢えてそれ以上追求しなかった。
「空君、戦において最も重要なものは何か知ってる?」
「え、何だろう……交渉力ですか?それともお金?」
「残念、不正解。答えは諜報活動だよ。なぜなら、敵の動きが分かれば、戦を防ぐことも、勝つことも自由自在だからね。それに情報を意のままにできれば、戦を防いだり、敵を孤立させることも余裕でできる」
「そうなんですね。じゃあ、そのために忍びの道に」
「私一人では非力だからこの世から戦を全て消滅させることなんてできないが……でも、こうして忍びとして活動していれば、いち早く危険を察知できる。私の周りにいる目の前の人たちを守ることができる」
熱く、強い意志をもって語る半助を、空は感激の面持ちで見つめていた。
(土井先生は本当に凄い。優しくて強くて、いつだって誰かのために動いてる……)
(危険な任務だってあるはずなのに、勇敢に立ち向かって……)
(ああ、そうか。だから私は……)
自分がなぜ半助に惹かれたのか。
空の中で半助への想いが、確固たるものへと変わった瞬間だった。
「さ、もうすぐ忍術学園だよ」
半助の言う通り、前方の生茂る木々の先に、忍術学園の白い塀が見えていた。