22.約束

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大木と対面した日の午後、は半助の授業中に大木のことを思い出していた。
彼にすっかり興味津々なようだ。

第一印象がキョーレツすぎた大木のせいで、幸か不幸か、は一時的に自身を取り巻く深刻な悩みから解放されていた。

(ああいう人もいるんだ。忍者の先生やめて、畑仕事して。それって転職だよね。ひどく現実的というか……)
(アクの強い人だったな。豪快に笑ったり、偉そうだし、お尻は叩くし……)

『小娘には興味無い』

のこめかみにピクッと怒りの四つ角マークが浮かぶ。
異性から面と向かって、ハッキリそんなことを言われたのは生まれて初めてだった。

(そうかもしれないけど、あの大木先生に言われたってのが癪に障るなぁ……)
(でも、そんなに私って子どもっぽい……?)

頭に浮かんだ疑問が気になってしょうがなくなったは、授業中にもかかわらず、自分の身体全体をまじまじと見始めた。
徐々にエスカレートし、今は手鏡まで取り出し、映った顔を覗き込んでいる。

そんなを半助は授業の傍ら、目を丸くして眺めていた。

(なんだ、なんだぁ?身なりを気にしてるようだけど。あれじゃあ、まるでくノ一教室の女の子たちと同じ……)

半助はしばらく放っておいたが、が一向にやめる気配がない。
目に余るので注意することにした。

真っ白なチョークが宙を舞う。

「いたっ!」
「こら、君!ちゃんと授業に集中しないと!」

は顔を歪めて、チョークの当たった箇所を手で押える。
皆の視線を集める中、半助に謝ろうとした、そのときだった。
ガラガラとうるさい音を立て、教室の戸が開く。

「どこんじょー!!」
「「大木先生!?」」

教室にいたその場の全員が、予想外の人物の登場に絶句した。

「な、なんで大木先生がここにいるんですか!?」
「大木先生……これは?」
「ちょっとあいつに用があってのう」

庄左エ門と半助が同時に詰め寄ろうとしたとき、大木は二人の合間をぬって、まっすぐの前まで来る。

「へっ……?」
「……」

大木は怖い形相でをじっと見据える。
その視線と威圧感に耐え切れず、は瞼を伏せた。

「わしが注意したのにも関わらず、死んだ魚のような目で大事な野菜を扱い追って!」

大木はそう言うと、をひょいと脇に抱える。

「えっ?」

急なことに素っ頓狂な声を上げるだったが、低くなった目線と腰に回された腕、さらには地につかない足で自分に何が起きているかを理解した。

「大木先生!?ちょっと?やだ、放して!」
「今からわしの特別授業に付き合わせてやる!」

半助は静観していたが、が大木にひょいと抱えられたのを見て、忽ち血相を変える。

「大木先生、勝手なことしないでください!今は私の授業中ですよ!」
「心配するな、用が済んだらすぐ戻る!」

半助の注意を全く意に介さない大木は、そのまま二階の窓から共々外へ飛び下りた。
突然の急降下には大絶叫する。

「きゃああああああっ!」
「これしきのことで悲鳴を上げるな、どこんじょーで耐えろ!」

を抱えながらも大木は地面に軽々と着地し、そのまま忍術学園の塀を超えて、裏々山のほうへと駆け出した。

ポツンと取り残された半助と一年は組の一同―

「あの、行っちゃいましたね、さんと大木先生……」
「……」

乱太郎が半助に気まずそうに声をかける。
半助はプルプルと怒りで震え、握っていたチョークをポキッと折った。

無論、この時の怒りは授業を妨害されたからではなく、惚れた女を目の前で連れ去られたことによる私的な理由からきている。

「土井先生、追いかけなくていいんすか……?」
「今日は、今から自習とする!」

苦笑いのきり丸に心配された半助は、もう窓から飛び降りる寸前だった。

「やったー!自習だぁ!」

授業から解放された喜びから、両手を広げてジャンプしたしんベヱがそう叫ぶと、何かを思い出して半助は慌てて教壇へと戻る。
その中からプリントを取り出し、は組のみんなに堂々とかざした。

「これ、自習の課題兼宿題。あとで、提出するように!」
「「えー!!」」

笑顔でちゃっかり指示を出す半助に、は組の全員はその場で大きくつんのめった。
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