22.約束
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どこまでも気持ちの良い青空が続いている。
肌を刺すようなからっ風が、空のストレートの髪を揺らした。
空は学園内の草むしりをしていた。
事務員である小松田だけでは人手が足りず、小松田の上司である吉野先生から直々にお願いされたのだ。
食堂の仕事も一段落し、特に予定もなかったため快く引き受けて、今に至る。
「はぁ……」
本日何度目かのため息。
彼女の表情には諦めや悲しみ、疲れ、失望、そういったエッセンスを持つ感情が入り混じっている。
先日、忍術学園にタソガレドキ城の忍者が来訪してからずっとこの調子だった。
半助と尊奈門、忍者同士が決闘するのを見たことをきっかけに、今自分の生きている世界が改めて苛酷な場所であることを実感してしまった。
戦や争いが常に存在する、殺し合いのある世界だと。
(やっぱり、違うんだよね……あの平穏な世界と……)
この世界での生活も、五か月目に入った。
前いた世界への郷愁は残しつつも、楽しい冬休みを経て、徐々にここでの暮らしを受け入れようとしている、そんな矢先のことだった。
この世界も悪くない。
空の価値観は変わろうとしていた。
なのに、冷や水を浴びせられた思い――
空は苦虫を嚙み潰したような顔で、ブチっと草を毟る。
来た当初もつらい思いをしたが、一日一日新しいことを覚えるのに必死で、どちらかと言えば順応することに意識が向いていた。
ここでの生活に慣れ、目新しさがなくなった今だからこそ、直面している問題といえる。
(今は平和に過ごせているけど、ここは室町時代末期の戦国時代。いつ戦が起こってもおかしくない……)
(忍術学園だっていつまでいれるかわからないし、もし一人になったら私は……)
数年後、数十年後、自分は楽しく生きているのだろうか。
未来が、見えない。
それが無性に怖い。
(朝起きて大学に行って授業に出て…帰りは友達とカフェで時間潰して…家に帰ってレポートやって…空いた時間はダラダラ過ごして趣味に費やして…)
(今までは何となく一日を生きてきた。でもその日常が、どれほど幸せだったか……)
平和な世界でぬくぬくと育ってきた自分にとっては、あまりにも厳しすぎる世界。
こんな世界で生きて、幸せになれるはずがない。
帰りたい――空の想いはその一点に集約されていた。
最近良く思う。
今までのことは全部夢なのではないか、と。
それだけを願って眠る日が増えた。
(結局夢で見るのはいつものあの夢だし……)
空は決まってみる夢を思い出していた。
桜の木に佇む巫女が現れる夢――
あの夢はこの世界に来た手がかりになるはず。
そう確信はあるのだが、夢の内容に特に進展はなかった。
(何か教えてくれるとありがたいんだけど、そんな兆候はないし……)
意気消沈する空はふと、真上を見上げた。
冬の澄んだ青空の上を鳥が羽根を広げ、気持ちよさそうに自由に飛んでいる。
空はその鳥がどうにも羨ましかった。
自分とは違って、何の悩みもなく生を謳歌するその姿が。
草むしりの手を止めて、空は左手を見る。
親指には自ら手裏剣を突き刺したときにできた傷が残っていた。
(全部、現実に起こってることなんだよね……)
やはり夢ではない――
空の口から溜息がこぼれる。
目の前の生い茂った草を見る空の目は虚ろだった。
丁度同じ頃、一年は組の教室の格子から乱太郎、きり丸、しんべえの三人組が顔をのぞかせていた。
草むしりをする空を見つける。
「空さん、最近元気ないよね」
「うん、私たちが話しかけても、ポーっとして話あんまり聞いてないし……」
「……」
しんべえと乱太郎は空の様子がおかしいと口々に言う傍ら、きり丸だけは何も発さず、静かに空を見つめる。
(空さん……)
きり丸のつぶらな瞳には哀しみの色が浮かんでいた。
肌を刺すようなからっ風が、空のストレートの髪を揺らした。
空は学園内の草むしりをしていた。
事務員である小松田だけでは人手が足りず、小松田の上司である吉野先生から直々にお願いされたのだ。
食堂の仕事も一段落し、特に予定もなかったため快く引き受けて、今に至る。
「はぁ……」
本日何度目かのため息。
彼女の表情には諦めや悲しみ、疲れ、失望、そういったエッセンスを持つ感情が入り混じっている。
先日、忍術学園にタソガレドキ城の忍者が来訪してからずっとこの調子だった。
半助と尊奈門、忍者同士が決闘するのを見たことをきっかけに、今自分の生きている世界が改めて苛酷な場所であることを実感してしまった。
戦や争いが常に存在する、殺し合いのある世界だと。
(やっぱり、違うんだよね……あの平穏な世界と……)
この世界での生活も、五か月目に入った。
前いた世界への郷愁は残しつつも、楽しい冬休みを経て、徐々にここでの暮らしを受け入れようとしている、そんな矢先のことだった。
この世界も悪くない。
空の価値観は変わろうとしていた。
なのに、冷や水を浴びせられた思い――
空は苦虫を嚙み潰したような顔で、ブチっと草を毟る。
来た当初もつらい思いをしたが、一日一日新しいことを覚えるのに必死で、どちらかと言えば順応することに意識が向いていた。
ここでの生活に慣れ、目新しさがなくなった今だからこそ、直面している問題といえる。
(今は平和に過ごせているけど、ここは室町時代末期の戦国時代。いつ戦が起こってもおかしくない……)
(忍術学園だっていつまでいれるかわからないし、もし一人になったら私は……)
数年後、数十年後、自分は楽しく生きているのだろうか。
未来が、見えない。
それが無性に怖い。
(朝起きて大学に行って授業に出て…帰りは友達とカフェで時間潰して…家に帰ってレポートやって…空いた時間はダラダラ過ごして趣味に費やして…)
(今までは何となく一日を生きてきた。でもその日常が、どれほど幸せだったか……)
平和な世界でぬくぬくと育ってきた自分にとっては、あまりにも厳しすぎる世界。
こんな世界で生きて、幸せになれるはずがない。
帰りたい――空の想いはその一点に集約されていた。
最近良く思う。
今までのことは全部夢なのではないか、と。
それだけを願って眠る日が増えた。
(結局夢で見るのはいつものあの夢だし……)
空は決まってみる夢を思い出していた。
桜の木に佇む巫女が現れる夢――
あの夢はこの世界に来た手がかりになるはず。
そう確信はあるのだが、夢の内容に特に進展はなかった。
(何か教えてくれるとありがたいんだけど、そんな兆候はないし……)
意気消沈する空はふと、真上を見上げた。
冬の澄んだ青空の上を鳥が羽根を広げ、気持ちよさそうに自由に飛んでいる。
空はその鳥がどうにも羨ましかった。
自分とは違って、何の悩みもなく生を謳歌するその姿が。
草むしりの手を止めて、空は左手を見る。
親指には自ら手裏剣を突き刺したときにできた傷が残っていた。
(全部、現実に起こってることなんだよね……)
やはり夢ではない――
空の口から溜息がこぼれる。
目の前の生い茂った草を見る空の目は虚ろだった。
丁度同じ頃、一年は組の教室の格子から乱太郎、きり丸、しんべえの三人組が顔をのぞかせていた。
草むしりをする空を見つける。
「空さん、最近元気ないよね」
「うん、私たちが話しかけても、ポーっとして話あんまり聞いてないし……」
「……」
しんべえと乱太郎は空の様子がおかしいと口々に言う傍ら、きり丸だけは何も発さず、静かに空を見つめる。
(空さん……)
きり丸のつぶらな瞳には哀しみの色が浮かんでいた。