第二話
name change
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
眩暈がしそうだった。
目の前に座っている少年から「土井半助です」と自己紹介を受けて以降、脳に酸素が回ってこない。
「わぁ、大丈夫ですか!?」
「これ、しっかりせい!」
ガクッとその場に崩れ落ちる空の身体を少年と和尚がゆする。
だが、空はうんともすんとも言わない。
(現代から室町時代に来るなんて普通に考えてもありえないのに、その上さらにタイムスリップするなんて……)
最初のタイムスリップ時も動揺は相当なものだったが、今では納得がいく。
それは、前世からの因縁。
元々室町の世で生を受けるはずだった――夢に出てきた前世の自分がそう教えてくれたのだ。
自分が室町時代に召喚されたことは、必然だった。
それを理解してから、空は室町の世の人間として生きていくと決心したし、今となってはこの世界の人間なのだという自負もある。
それなのに。
今回は誰のせいで、何の因果でこんな結果になったのだろう。
持てる知識を総動員して考えても、全くわからない。
(もし、ここから戻れなかったら……)
焦りが募る空はある結論に行き着くと、手足が冷えるほどの寒さを覚えた。
最悪の場合、ここでまた一からやり直さなければならない、と。
そう考えた瞬間、空の身体を絶望が支配しだした。
「どうしよう……うぅっ……」
気を失いそうになるかと思えば、今度は嗚咽まじりに泣きはじめる。
「……」
空を前にして、和尚と半助はなんて声をかけたらいいかわからず、ただ呆然と見つめるしかできない。
そのときだった。
〈あれれ?どうして泣いているんだミャー?おいら、せっかく頑張って願いを叶えてあげたのに!〉
突如、空の頭上から不思議な声がした。
空を蝕んでいた絶望を打ち砕くほどの、能天気且つ底抜けに明るい声が。
「え?だ、誰……?」
涙を拭いながら、真上を見たものの、そこに広がるのは天井のみ。
空耳だったのかと、反らした首を元通りにした、そのときだった。
「!」
空が眼をしばたたかせる。
少年・半助の頭の上にある物が乗っていたからだ。
それは、昨日忍術学園の蔵で掘り出した、ヘムヘムを模した招き猫。
空は少年・半助を指しながら言った。
「あの……あ、頭!頭!」
「へ?あ、頭……?」
「うん!あなたの頭に乗っているの、招き猫が!」
「……?」
そうしきりに言われたので、半助はしぶしぶ頭を触ったが、指に触れるのはまとまりの悪い髪ばかりで他には何もない。
「すみません、私の頭には何もないようですが……」
半助がほとほと困った顔で言う。
その横で和尚が「はて……幻覚でも見えとるのかのう……?」と苦々しそうに呟いた。
涙が止まったかと思えば、今度は驚愕の表情で見つめてきて奇妙なことを叫ぶ。
和尚サイドは完全に困惑し、空に薄気味悪さすら感じ始めている。
(ちょっと待って。二人にはあの招き猫が視えていない!?)
空はもう一度招き猫を見やる。
まるで自分の心でも読んだかのように、目の前のそれは言った。
〈その通りだミャー。おいらのことはご主人さまにしか見えないミャー。そっかそっか。おいらとしたことが、すっかり忘れていたミャー。となると……外野がいるとゆっくり話せないから、こうするミャー!〉
突如、招き猫の目から閃光が放たれる。
「わっ!」
あまりの眩さに、空は目を瞑る。
しばらくすると、白く染まった視界が徐々に鮮明さを取り戻していく。
「あれ……?」
目の前の光景に特段変わりはなかった。
和尚も、半助も――いや、二人の様子が明らかにおかしい。
瞬きを忘れてしまったかのように、微動だにしない。
その姿はまるでマネキンのよう――
「これって……」
〈お察しのとおり、時間を止めたんだミャー。これで、ご主人様に改めて自己紹介できるミャー〉
招き猫はぼうっと黄金色の光を放ちながら、宙に浮遊した。
ゆっくりと移動してきて、やがて空の眼前で止まる。
驚くべきことに、片手に納まる小さな置物だったそれは、今や本物の猫のサイズにまで膨れ上がっていた。
〈はぁ。久々のシャバの空気はうまいミャー。ご主人さまにはほんっとに感謝しているミャー。あんな陰気臭い蔵からおいらを見つけ出してくれて〉
「あの……あなたは一体?」
空が至極当然な疑問を口にすると、招き猫は満を持して言った。
目の前に座っている少年から「土井半助です」と自己紹介を受けて以降、脳に酸素が回ってこない。
「わぁ、大丈夫ですか!?」
「これ、しっかりせい!」
ガクッとその場に崩れ落ちる空の身体を少年と和尚がゆする。
だが、空はうんともすんとも言わない。
(現代から室町時代に来るなんて普通に考えてもありえないのに、その上さらにタイムスリップするなんて……)
最初のタイムスリップ時も動揺は相当なものだったが、今では納得がいく。
それは、前世からの因縁。
元々室町の世で生を受けるはずだった――夢に出てきた前世の自分がそう教えてくれたのだ。
自分が室町時代に召喚されたことは、必然だった。
それを理解してから、空は室町の世の人間として生きていくと決心したし、今となってはこの世界の人間なのだという自負もある。
それなのに。
今回は誰のせいで、何の因果でこんな結果になったのだろう。
持てる知識を総動員して考えても、全くわからない。
(もし、ここから戻れなかったら……)
焦りが募る空はある結論に行き着くと、手足が冷えるほどの寒さを覚えた。
最悪の場合、ここでまた一からやり直さなければならない、と。
そう考えた瞬間、空の身体を絶望が支配しだした。
「どうしよう……うぅっ……」
気を失いそうになるかと思えば、今度は嗚咽まじりに泣きはじめる。
「……」
空を前にして、和尚と半助はなんて声をかけたらいいかわからず、ただ呆然と見つめるしかできない。
そのときだった。
〈あれれ?どうして泣いているんだミャー?おいら、せっかく頑張って願いを叶えてあげたのに!〉
突如、空の頭上から不思議な声がした。
空を蝕んでいた絶望を打ち砕くほどの、能天気且つ底抜けに明るい声が。
「え?だ、誰……?」
涙を拭いながら、真上を見たものの、そこに広がるのは天井のみ。
空耳だったのかと、反らした首を元通りにした、そのときだった。
「!」
空が眼をしばたたかせる。
少年・半助の頭の上にある物が乗っていたからだ。
それは、昨日忍術学園の蔵で掘り出した、ヘムヘムを模した招き猫。
空は少年・半助を指しながら言った。
「あの……あ、頭!頭!」
「へ?あ、頭……?」
「うん!あなたの頭に乗っているの、招き猫が!」
「……?」
そうしきりに言われたので、半助はしぶしぶ頭を触ったが、指に触れるのはまとまりの悪い髪ばかりで他には何もない。
「すみません、私の頭には何もないようですが……」
半助がほとほと困った顔で言う。
その横で和尚が「はて……幻覚でも見えとるのかのう……?」と苦々しそうに呟いた。
涙が止まったかと思えば、今度は驚愕の表情で見つめてきて奇妙なことを叫ぶ。
和尚サイドは完全に困惑し、空に薄気味悪さすら感じ始めている。
(ちょっと待って。二人にはあの招き猫が視えていない!?)
空はもう一度招き猫を見やる。
まるで自分の心でも読んだかのように、目の前のそれは言った。
〈その通りだミャー。おいらのことはご主人さまにしか見えないミャー。そっかそっか。おいらとしたことが、すっかり忘れていたミャー。となると……外野がいるとゆっくり話せないから、こうするミャー!〉
突如、招き猫の目から閃光が放たれる。
「わっ!」
あまりの眩さに、空は目を瞑る。
しばらくすると、白く染まった視界が徐々に鮮明さを取り戻していく。
「あれ……?」
目の前の光景に特段変わりはなかった。
和尚も、半助も――いや、二人の様子が明らかにおかしい。
瞬きを忘れてしまったかのように、微動だにしない。
その姿はまるでマネキンのよう――
「これって……」
〈お察しのとおり、時間を止めたんだミャー。これで、ご主人様に改めて自己紹介できるミャー〉
招き猫はぼうっと黄金色の光を放ちながら、宙に浮遊した。
ゆっくりと移動してきて、やがて空の眼前で止まる。
驚くべきことに、片手に納まる小さな置物だったそれは、今や本物の猫のサイズにまで膨れ上がっていた。
〈はぁ。久々のシャバの空気はうまいミャー。ご主人さまにはほんっとに感謝しているミャー。あんな陰気臭い蔵からおいらを見つけ出してくれて〉
「あの……あなたは一体?」
空が至極当然な疑問を口にすると、招き猫は満を持して言った。