6.光芒
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澄んだ青空を眺めながら、空は忍術学園の敷地内を歩いている。
(なんか、騒がしいな……?)
少し先に人だかりを見つけた。
集まっているのは一年は組の忍たまたちで、その中心にいるのは空が心から慕う――
「あれは……土井先生!?」
驚いて駆け寄ると、半助は空に微笑みで挨拶を交わした。
いつもと変わらない、胸にすっと沁み込んでいくような温かい微笑みがそこにはあった。
(ど、どうして土井先生が……天鬼に変わったはずなのに……)
呆然とする空をよそに、半助が乱太郎たちに言う。
「ほら、お前たち。さっさと教室に入るぞ」
「「はーい!」」
は組の皆と一緒に半助が横を通過しようとする。
その半助を咄嗟に引き止めていた。
「ま、待ってください!」
「え?」
「土井先生……いつの間に元に戻ったんですか?」
「はぁ?どういうことだ?」
空は半助をじっと見た。
穏やかな声と口調。
明るく表情豊かで、春の陽気のような温かさを感じさせる彼は、正真正銘の土井半助である。
「本当に……本当に本当に土井先生ですよね?」
その言葉に半助が思わず眼をテンにする。
少しの間のあと、空の額をツンと指で突いた。
「何、寝ぼけてるんだ!?ほら、さっき鐘が鳴ったし、早いところ事務室に戻らないと、吉野先生に怒られるぞ!」
そう言って、半助は先を行く生徒たちのあとを追った。
半助の背がどんどん小さくなってゆく。
「そっか……何だかよくわからないけど、私が知らないうちに天鬼から元の土井先生に戻ってたんだ……今まで悩んでたのが嘘みたい……!」
ほっとしたのも束の間。
半助の忠告を思い出すや否や、忽ちハッとなった。
「いけない!私も早く戻らなくちゃ。今日は小松田さんと作る書類が沢山あったんだっけ」
空が走り出そうとした。
だが、次の瞬間、あるものを見て動けなくなる。
「何、あれ……!?」
驚くべきことに、今見えている景色の中央に亀裂が生じていたのだ。
その亀裂は中央から視界の端へと広がっていき、空間全体がガラスのように罅 割れていく。
やがて、破片が全て弾け飛び、演劇のように舞台が移り変わった。
「!」
次に現れた光景を目に入れて、空は声を上げそうになった。
暗雲の下、地上には死屍累々たる原野が出現していた。
どうやらここは合戦場らしい。
ある者は首から上を切り落とされ、またある者は全身でおびただしい本数の矢を受け止めている。
目を覆いたくなるほどの、凄惨な光景――
所々から断末魔の叫び声が聞こえ、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
そんな中、兵士たちの亡骸 を泰然と眺める一人の男がいる。
空は愕然とその男を見つめていた。
「天鬼様……」
真紅に燃ゆる戦火をバックに、その白装束がいやがうえにも映えている。
その佇まいは、まるで冥府へと誘う死神のようだった。
「――――っ!!!」
空は飛び起きていた。
ゼイゼイ……とその場で息を整える。
「ゆ、夢か……」
ようやく呼吸が整ってくると、天鬼のことがふたたび思い出される。
天鬼とは昨日議論が平行線になってからは、それっきり話をしていない。
ショックだった。
昨日はどうやってこの部屋まで戻って来たかなんて覚えていないほどに。
「ふぅ……」
空が重い溜息をつく。
朝を告げる鳥の鳴き声が聞こえない。
代わりに聞こえるのは、間断なく降る雨の音だ。
天鬼に自分の想いが伝わらなかった。
だからといって、彼を憎んだり嫌いになったりはしていない。
寧ろ、天鬼は根っからの悪人ではない――と昨日の一件ではっきり確信できた。
半助と天鬼は性格も思考も正反対でありながらも、一つだけ共通することがあった。
それは彼らの行動原理は「人を救うために動く」というものである。
空は覚えている。
以前、裏裏山で半助と話したとき、彼がどうして忍者になったかを訊いた。
そのとき彼はこう返した。
空のように戦乱の世を憂う人間を減らしたい。戦をなくしたい。自分の周りにいる人たちを守りたい、と。
一方で天鬼はこう主張する。
自分がこれから行うのは、民の犠牲を最小限にする、戦を止めるための戦であると。
ミクロ視点かマクロ視点かという、ものの見方の違い。
半助が理想主義者であれば、天鬼は徹底的な現実主義者 。
どちらの考えも正しい。
だが、敢えて言うならば、空は半助の考え方の方が好きだった。
そう強く思うのは、やはり裏裏山での一件。
そのとき、半助が自分に誓ってくれた言葉は、今でも空の心に深く刻み込まれている。
「……」
気が付けば、雨粒が大地を叩く音が徐々に大きくなっている。
まるで早く支度しろと急かされているようだった。
「行かなくちゃ……」
空は立ち上がろうとする。
だが、全身がやけに重くてふらついてしまう。
「あれ……?」
そう呟いたとき、空は布団に倒れ込んでいた。
「どうやら、軽い風邪のようですね」
一通り身体の様子を確認された後、校医の新野がそう判断を下した。
空は医務室に運ばれていた。
「あまり熱は高くないですが、最低でも今日一日はしっかり休んでください」
色々と事情はあるでしょうが、と最後に新野は付け加えた。
無論、新野も学園長の身に何が起こったかは知っている。
空がそばに居る伝蔵に頭を下げる。
「すみません……忍術学園が大変な時に」
「空君、そう気に病むな。あの日以来、心が休まることはなかっただろう。その疲れが少し出てしまっただけだ」
「山田先生……」
「なぁに、こんな時のためにきり丸がいるんだ。さ、余計なことを考えずに今はしっかり休むこと。私はこれからきり丸に伝えてくる」
そう言って、伝蔵はくるりと踵を返した。
完全に姿が見えなくなると、空は猛烈な睡魔に襲われる。
三秒とたたぬうちに、深い眠りに落ちていった。
(なんか、騒がしいな……?)
少し先に人だかりを見つけた。
集まっているのは一年は組の忍たまたちで、その中心にいるのは空が心から慕う――
「あれは……土井先生!?」
驚いて駆け寄ると、半助は空に微笑みで挨拶を交わした。
いつもと変わらない、胸にすっと沁み込んでいくような温かい微笑みがそこにはあった。
(ど、どうして土井先生が……天鬼に変わったはずなのに……)
呆然とする空をよそに、半助が乱太郎たちに言う。
「ほら、お前たち。さっさと教室に入るぞ」
「「はーい!」」
は組の皆と一緒に半助が横を通過しようとする。
その半助を咄嗟に引き止めていた。
「ま、待ってください!」
「え?」
「土井先生……いつの間に元に戻ったんですか?」
「はぁ?どういうことだ?」
空は半助をじっと見た。
穏やかな声と口調。
明るく表情豊かで、春の陽気のような温かさを感じさせる彼は、正真正銘の土井半助である。
「本当に……本当に本当に土井先生ですよね?」
その言葉に半助が思わず眼をテンにする。
少しの間のあと、空の額をツンと指で突いた。
「何、寝ぼけてるんだ!?ほら、さっき鐘が鳴ったし、早いところ事務室に戻らないと、吉野先生に怒られるぞ!」
そう言って、半助は先を行く生徒たちのあとを追った。
半助の背がどんどん小さくなってゆく。
「そっか……何だかよくわからないけど、私が知らないうちに天鬼から元の土井先生に戻ってたんだ……今まで悩んでたのが嘘みたい……!」
ほっとしたのも束の間。
半助の忠告を思い出すや否や、忽ちハッとなった。
「いけない!私も早く戻らなくちゃ。今日は小松田さんと作る書類が沢山あったんだっけ」
空が走り出そうとした。
だが、次の瞬間、あるものを見て動けなくなる。
「何、あれ……!?」
驚くべきことに、今見えている景色の中央に亀裂が生じていたのだ。
その亀裂は中央から視界の端へと広がっていき、空間全体がガラスのように
やがて、破片が全て弾け飛び、演劇のように舞台が移り変わった。
「!」
次に現れた光景を目に入れて、空は声を上げそうになった。
暗雲の下、地上には死屍累々たる原野が出現していた。
どうやらここは合戦場らしい。
ある者は首から上を切り落とされ、またある者は全身でおびただしい本数の矢を受け止めている。
目を覆いたくなるほどの、凄惨な光景――
所々から断末魔の叫び声が聞こえ、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図だった。
そんな中、兵士たちの
空は愕然とその男を見つめていた。
「天鬼様……」
真紅に燃ゆる戦火をバックに、その白装束がいやがうえにも映えている。
その佇まいは、まるで冥府へと誘う死神のようだった。
「――――っ!!!」
空は飛び起きていた。
ゼイゼイ……とその場で息を整える。
「ゆ、夢か……」
ようやく呼吸が整ってくると、天鬼のことがふたたび思い出される。
天鬼とは昨日議論が平行線になってからは、それっきり話をしていない。
ショックだった。
昨日はどうやってこの部屋まで戻って来たかなんて覚えていないほどに。
「ふぅ……」
空が重い溜息をつく。
朝を告げる鳥の鳴き声が聞こえない。
代わりに聞こえるのは、間断なく降る雨の音だ。
天鬼に自分の想いが伝わらなかった。
だからといって、彼を憎んだり嫌いになったりはしていない。
寧ろ、天鬼は根っからの悪人ではない――と昨日の一件ではっきり確信できた。
半助と天鬼は性格も思考も正反対でありながらも、一つだけ共通することがあった。
それは彼らの行動原理は「人を救うために動く」というものである。
空は覚えている。
以前、裏裏山で半助と話したとき、彼がどうして忍者になったかを訊いた。
そのとき彼はこう返した。
空のように戦乱の世を憂う人間を減らしたい。戦をなくしたい。自分の周りにいる人たちを守りたい、と。
一方で天鬼はこう主張する。
自分がこれから行うのは、民の犠牲を最小限にする、戦を止めるための戦であると。
ミクロ視点かマクロ視点かという、ものの見方の違い。
半助が理想主義者であれば、天鬼は徹底的な
どちらの考えも正しい。
だが、敢えて言うならば、空は半助の考え方の方が好きだった。
そう強く思うのは、やはり裏裏山での一件。
そのとき、半助が自分に誓ってくれた言葉は、今でも空の心に深く刻み込まれている。
「……」
気が付けば、雨粒が大地を叩く音が徐々に大きくなっている。
まるで早く支度しろと急かされているようだった。
「行かなくちゃ……」
空は立ち上がろうとする。
だが、全身がやけに重くてふらついてしまう。
「あれ……?」
そう呟いたとき、空は布団に倒れ込んでいた。
「どうやら、軽い風邪のようですね」
一通り身体の様子を確認された後、校医の新野がそう判断を下した。
空は医務室に運ばれていた。
「あまり熱は高くないですが、最低でも今日一日はしっかり休んでください」
色々と事情はあるでしょうが、と最後に新野は付け加えた。
無論、新野も学園長の身に何が起こったかは知っている。
空がそばに居る伝蔵に頭を下げる。
「すみません……忍術学園が大変な時に」
「空君、そう気に病むな。あの日以来、心が休まることはなかっただろう。その疲れが少し出てしまっただけだ」
「山田先生……」
「なぁに、こんな時のためにきり丸がいるんだ。さ、余計なことを考えずに今はしっかり休むこと。私はこれからきり丸に伝えてくる」
そう言って、伝蔵はくるりと踵を返した。
完全に姿が見えなくなると、空は猛烈な睡魔に襲われる。
三秒とたたぬうちに、深い眠りに落ちていった。