3.従者
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学園のトップがいる学園長室――その庵に行くときには、常にある種の緊張感があった。
しかし、今日ほど身体の強張りを感じたことはない。
空の表情に不安が広がっている。
そのわかりやすいほどの不安はきり丸へと容易に伝わってしまった。
「大丈夫ですか、空さん」
「う、うん……なんとか……」
八歳年下のきり丸に「大丈夫じゃない」と本音を返すことなんてできなかった。
逆に彼を守るべき立場の自分が心配されてしまって、情けなくなった。
二人は学園長の庵へと続く長廊下を歩いている。
「きりちゃんは……怖くないの?」
きり丸の足が止まる。
少しの沈黙のあと、きり丸は言った。
「怖くないって言えば噓になるけど……土井先生が前天鬼になったときの方が怖かったから……その時に比べると割と平気」
「え、前の方が怖かったって、どういうこと……?」
きり丸は当時の心境を話した。
半助が忽然と姿を消して消息を絶った時、一時は彼が死んだと思ってしまったのだと。
恐怖を感じたのは、天鬼という人間に対してではない。
家族のみならず半助をも失って、再度独りぼっちにされてしまう――その孤独が怖かったのだと。
「それに、おれのせいで土井先生を沢山傷つけた……だから、どっちかっていうと申し訳ないっていう思いの方が強い、かな」
「きりちゃん……」
己の行いを悔やむきり丸を見ると、空の中に何とかしなければという義務感が生まれた。
不安に埋もれている場合ではないのだ、と。
この子のためにも、乱太郎やしんべヱ・一年は組のためにも、
忍術学園のためにも、そして自分のためにも行動を起こさなければならない。
ついさっき交わした伝蔵とのやり取りが脳裏に浮かぶ。
『半助が元に戻ってそれで終わり……とはならなかった。だから、ワシは今回の件、何か運命めいたものを感じておる』
『運命……』
『ああ。上手くは言えん。でも、なんとなくだが、お前さんもしくはきり丸がそれに関わっている……そんな気がしてのう』
(私がどこまで力になれるのかわからない。でも、やるだけのことはやらないと……)
(絶対に土井先生を取り戻したい……!だって、まだ伝えてない気持ちがあるから……)
「行こう、きりちゃん」
先に歩き出したのは空の方だった。
***
庵の障子の前に空ときり丸は腰を下ろした。
二人が言うより先に、奥にいる人物が声を発した。
「入れ」
緊張の面持ちで空はそっと障子を引く。
きり丸とともに速やかに入室し、深々と一礼する。
「……!」
顔を上げた瞬間、空もきり丸も言葉を忘れてしまった。
天鬼の服が変わっている――
伝蔵たちとの交渉を終えてから、空たちが来るまでに先に用意させていたのだ。
修験者が着るような白装束に身を包んでいて、同色の頭巾は瞳以外を覆っている。
発せられる雰囲気は氷のように冷たく、また白刃さながらの鋭さがある。
(土井先生なのに、土井先生じゃない。もう別人としか思えない……!)
空の心のざわめきは大きかった。
きり丸も以前の姿を知っているとはいえ、やはりショックを隠し切れない。
その服に身を包んだのは――忍術学園を憎んでいる証。
自分たちのことなんて、頭の片隅にもないのだと。
(土井先生……)
しばし、茫然としていたが、いつしか重々しい空気が強まり、二人はハッと我に返る。
何を発さない二人に対し、天鬼は睨みつけていた。
(まずい……!)
「て、天鬼様。私は……空と申します。こちらにいるきり丸とともに、今日から身の周りをお世話をさせて頂きます」
声を上ずらせながらそう言うと、頭をめり込ませんとばかりに畳につけた。
ようやく欲しい言葉が聞けたと、天鬼が睨みを解いた。
「ここに書いてある書物が欲しい」
たった一枚の小さな紙を渡されて、天鬼との対面が終わった。
しかし、今日ほど身体の強張りを感じたことはない。
空の表情に不安が広がっている。
そのわかりやすいほどの不安はきり丸へと容易に伝わってしまった。
「大丈夫ですか、空さん」
「う、うん……なんとか……」
八歳年下のきり丸に「大丈夫じゃない」と本音を返すことなんてできなかった。
逆に彼を守るべき立場の自分が心配されてしまって、情けなくなった。
二人は学園長の庵へと続く長廊下を歩いている。
「きりちゃんは……怖くないの?」
きり丸の足が止まる。
少しの沈黙のあと、きり丸は言った。
「怖くないって言えば噓になるけど……土井先生が前天鬼になったときの方が怖かったから……その時に比べると割と平気」
「え、前の方が怖かったって、どういうこと……?」
きり丸は当時の心境を話した。
半助が忽然と姿を消して消息を絶った時、一時は彼が死んだと思ってしまったのだと。
恐怖を感じたのは、天鬼という人間に対してではない。
家族のみならず半助をも失って、再度独りぼっちにされてしまう――その孤独が怖かったのだと。
「それに、おれのせいで土井先生を沢山傷つけた……だから、どっちかっていうと申し訳ないっていう思いの方が強い、かな」
「きりちゃん……」
己の行いを悔やむきり丸を見ると、空の中に何とかしなければという義務感が生まれた。
不安に埋もれている場合ではないのだ、と。
この子のためにも、乱太郎やしんべヱ・一年は組のためにも、
忍術学園のためにも、そして自分のためにも行動を起こさなければならない。
ついさっき交わした伝蔵とのやり取りが脳裏に浮かぶ。
『半助が元に戻ってそれで終わり……とはならなかった。だから、ワシは今回の件、何か運命めいたものを感じておる』
『運命……』
『ああ。上手くは言えん。でも、なんとなくだが、お前さんもしくはきり丸がそれに関わっている……そんな気がしてのう』
(私がどこまで力になれるのかわからない。でも、やるだけのことはやらないと……)
(絶対に土井先生を取り戻したい……!だって、まだ伝えてない気持ちがあるから……)
「行こう、きりちゃん」
先に歩き出したのは空の方だった。
***
庵の障子の前に空ときり丸は腰を下ろした。
二人が言うより先に、奥にいる人物が声を発した。
「入れ」
緊張の面持ちで空はそっと障子を引く。
きり丸とともに速やかに入室し、深々と一礼する。
「……!」
顔を上げた瞬間、空もきり丸も言葉を忘れてしまった。
天鬼の服が変わっている――
伝蔵たちとの交渉を終えてから、空たちが来るまでに先に用意させていたのだ。
修験者が着るような白装束に身を包んでいて、同色の頭巾は瞳以外を覆っている。
発せられる雰囲気は氷のように冷たく、また白刃さながらの鋭さがある。
(土井先生なのに、土井先生じゃない。もう別人としか思えない……!)
空の心のざわめきは大きかった。
きり丸も以前の姿を知っているとはいえ、やはりショックを隠し切れない。
その服に身を包んだのは――忍術学園を憎んでいる証。
自分たちのことなんて、頭の片隅にもないのだと。
(土井先生……)
しばし、茫然としていたが、いつしか重々しい空気が強まり、二人はハッと我に返る。
何を発さない二人に対し、天鬼は睨みつけていた。
(まずい……!)
「て、天鬼様。私は……空と申します。こちらにいるきり丸とともに、今日から身の周りをお世話をさせて頂きます」
声を上ずらせながらそう言うと、頭をめり込ませんとばかりに畳につけた。
ようやく欲しい言葉が聞けたと、天鬼が睨みを解いた。
「ここに書いてある書物が欲しい」
たった一枚の小さな紙を渡されて、天鬼との対面が終わった。