2.覚醒
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「天鬼!?」
その場にいた全員が驚愕の表情で叫んだ。
特に、空以外の人間にとって、その名は強烈なインパクトを残している。
(嘘だ……嘘だろ!土井先生がまた天鬼になっちまうなんて……)
わずかな時間であったが、このとききり丸の脳裏には走馬灯のようにかつての悲劇が呼び起こされた。
ある日突然半助が行方をくらましたと思えば、ドクタケの軍師として再会し――
「そ、そんな冗談……やめてくださいよ。みんな困ってるじゃないですか……!」
きっと今の発言は、石火矢騒動を起こした自分たちへの意趣返しなのだろう。
へらへらと笑いながらきり丸がもう一度半助――天鬼に近づく。
だが、
「!」
天鬼の裾を掴んだ次の瞬間、きり丸は宙にいた。
天鬼に投げ飛ばされたのだ。
「危ない!」
伝蔵が慌ててキャッチする。
おかげできり丸の身体が冷たい畳に打ちつけられることなかった。
未だ信じられないといった様子で伝蔵が天鬼をみやる。
「あの、天鬼なのか……!?」
問いながら、そうと認めるしかなかった。
その据わった眼は、恐ろしく冷たく、周囲の空気を凍てつかせるほどだった。
天鬼は静かに頷く。
「そうだ。そして、お前たちは私の敵……」
抑揚のない声でそう呟くと、天鬼は動いた。
「ひっ……!」
学園長の顔が恐怖に引き攣っている。
一瞬のことだった。
一番近い学園長を奪取すると、懐から出した小刀を彼の首元に当てた。
「ヘムゥ!」
「学園長先生!」
ヘムヘムが、乱太郎たちが次々に悲痛な叫びをあげる。
その声に満足したように、天鬼は口の端を吊り上げた。
「こうもあっけないとは……かつて天才忍者と謳われた忍術学園の長が、簡単に我が手におちるとは」
天鬼があたりをゆっくりと見渡す。
「ここにいる人間に告ぐ。こいつの命の価値がわかるなら、私に従え」
***
天鬼は学園長を人質として、庵一帯を占拠した。
一刻後に再訪せよ――天鬼の残した言葉を受けて、空たちは一度退くこととなった。
伝蔵と伊作が作戦会議をしているが、乱太郎たち三人組と空は蚊帳の外だ。
しびれを切らした空が小声で言った。
「ねえ、天鬼って一体何者なの!?」
一連の流れを知らない空からすれば、当然のことだった。
「ああ、そうか。空さんは天鬼のこと知らないんですよね。実は……」
乱太郎たちは事の詳細を語り出した。
かつて、半助は諸泉尊奈門との決闘の末、崖から落ちて大怪我をした。
それをドクタケ忍者に発見され、城で介抱された。
その間、半助は記憶を失くしていた。
それに乗じてドクタケに偽の情報を刷り込まされた。
ドクタケの意のままに、軍師として八方斎に仕え、戦の準備をしていた――
「なるほどね。私がこの世界に来る前に、そんなことがあったなんて……」
ようやく空は腑に落ちていた。
あのとき――庵で目覚めた半助は既に別の人格であったのだと。
「信じられないけど、要は二重人格よね……」
「あのう、空さん。二重人格ってなんですか~?」
耳慣れない言葉に、しんべヱが聞き返す。
他の二人もハテナ顔になってたので、三人に答えるように空が続けた。
「二重人格っていうのは……一人の中に二人の人物がいる人のことを指すの。私が前いた世界では、小説とか漫画とか、それを題材とした物語は結構あったから、わりかし馴染みがあるんだけどね」
「なるほど~」
「でも、まさか実際に、しかも、土井先生がそうだったなんて、ほんとうにびっくり……」
きり丸が興味津々に聞く。
「じゃあさ、空さんは二重人格について詳しいってことですよね?どうして二重人格になっちゃうのか、理由や切欠はあるんですか?」
「う~ん、詳しい原因はよく分からないけど、本などで読んだ限りは、その人の生い立ちに起因するものが多かったかな。例えば、特殊な環境で育ったとか。それから、精神的に追い込まれたり窮地に立たされると、その現実から逃げるように別人格がでる、てのも良くある話だったよ」
空はさらに付け加える。
「あとは、物理的に強いショックを与えることで、もう一人の人間が現れるっていうパターンもあったかな」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください、空さん!精神的に追い詰められて、物理的なショックを与えてってそれってまるで」
乱太郎がそう言うと、空はゆっくりと頷いた。
「そう。今回のことが、さっき言った条件に見事に当てはまってるんだよね……」
乱太郎たちの成績の悪さに胃も心も痛めていた。
学園長からの辛辣な言葉によるストレスや自己嫌悪もあっただろう。
そして、とどめは砲弾による強打。
「わわわ……」
とんでもないことになってしまった。
罪の意識を自覚した乱太郎、きり丸、しんべヱが青い顔で震えている。
「と、とにかく、土井先生……じゃなかった天鬼、の出方を待つしかないよね。今のところ」
「「「空さん!」」」
不安が頂点に達した三人はたまらず空にしがみついた。
「だ、大丈夫だから……きっと……元の土井先生に戻れるよ……多分……」
そう何度も言いながら、空は三人を強く抱きしめる。
「大丈夫だよ……大丈夫……」
その呟きは、まるで自分にも言い聞かせているようだった。
その場にいた全員が驚愕の表情で叫んだ。
特に、空以外の人間にとって、その名は強烈なインパクトを残している。
(嘘だ……嘘だろ!土井先生がまた天鬼になっちまうなんて……)
わずかな時間であったが、このとききり丸の脳裏には走馬灯のようにかつての悲劇が呼び起こされた。
ある日突然半助が行方をくらましたと思えば、ドクタケの軍師として再会し――
「そ、そんな冗談……やめてくださいよ。みんな困ってるじゃないですか……!」
きっと今の発言は、石火矢騒動を起こした自分たちへの意趣返しなのだろう。
へらへらと笑いながらきり丸がもう一度半助――天鬼に近づく。
だが、
「!」
天鬼の裾を掴んだ次の瞬間、きり丸は宙にいた。
天鬼に投げ飛ばされたのだ。
「危ない!」
伝蔵が慌ててキャッチする。
おかげできり丸の身体が冷たい畳に打ちつけられることなかった。
未だ信じられないといった様子で伝蔵が天鬼をみやる。
「あの、天鬼なのか……!?」
問いながら、そうと認めるしかなかった。
その据わった眼は、恐ろしく冷たく、周囲の空気を凍てつかせるほどだった。
天鬼は静かに頷く。
「そうだ。そして、お前たちは私の敵……」
抑揚のない声でそう呟くと、天鬼は動いた。
「ひっ……!」
学園長の顔が恐怖に引き攣っている。
一瞬のことだった。
一番近い学園長を奪取すると、懐から出した小刀を彼の首元に当てた。
「ヘムゥ!」
「学園長先生!」
ヘムヘムが、乱太郎たちが次々に悲痛な叫びをあげる。
その声に満足したように、天鬼は口の端を吊り上げた。
「こうもあっけないとは……かつて天才忍者と謳われた忍術学園の長が、簡単に我が手におちるとは」
天鬼があたりをゆっくりと見渡す。
「ここにいる人間に告ぐ。こいつの命の価値がわかるなら、私に従え」
***
天鬼は学園長を人質として、庵一帯を占拠した。
一刻後に再訪せよ――天鬼の残した言葉を受けて、空たちは一度退くこととなった。
伝蔵と伊作が作戦会議をしているが、乱太郎たち三人組と空は蚊帳の外だ。
しびれを切らした空が小声で言った。
「ねえ、天鬼って一体何者なの!?」
一連の流れを知らない空からすれば、当然のことだった。
「ああ、そうか。空さんは天鬼のこと知らないんですよね。実は……」
乱太郎たちは事の詳細を語り出した。
かつて、半助は諸泉尊奈門との決闘の末、崖から落ちて大怪我をした。
それをドクタケ忍者に発見され、城で介抱された。
その間、半助は記憶を失くしていた。
それに乗じてドクタケに偽の情報を刷り込まされた。
ドクタケの意のままに、軍師として八方斎に仕え、戦の準備をしていた――
「なるほどね。私がこの世界に来る前に、そんなことがあったなんて……」
ようやく空は腑に落ちていた。
あのとき――庵で目覚めた半助は既に別の人格であったのだと。
「信じられないけど、要は二重人格よね……」
「あのう、空さん。二重人格ってなんですか~?」
耳慣れない言葉に、しんべヱが聞き返す。
他の二人もハテナ顔になってたので、三人に答えるように空が続けた。
「二重人格っていうのは……一人の中に二人の人物がいる人のことを指すの。私が前いた世界では、小説とか漫画とか、それを題材とした物語は結構あったから、わりかし馴染みがあるんだけどね」
「なるほど~」
「でも、まさか実際に、しかも、土井先生がそうだったなんて、ほんとうにびっくり……」
きり丸が興味津々に聞く。
「じゃあさ、空さんは二重人格について詳しいってことですよね?どうして二重人格になっちゃうのか、理由や切欠はあるんですか?」
「う~ん、詳しい原因はよく分からないけど、本などで読んだ限りは、その人の生い立ちに起因するものが多かったかな。例えば、特殊な環境で育ったとか。それから、精神的に追い込まれたり窮地に立たされると、その現実から逃げるように別人格がでる、てのも良くある話だったよ」
空はさらに付け加える。
「あとは、物理的に強いショックを与えることで、もう一人の人間が現れるっていうパターンもあったかな」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待ってください、空さん!精神的に追い詰められて、物理的なショックを与えてってそれってまるで」
乱太郎がそう言うと、空はゆっくりと頷いた。
「そう。今回のことが、さっき言った条件に見事に当てはまってるんだよね……」
乱太郎たちの成績の悪さに胃も心も痛めていた。
学園長からの辛辣な言葉によるストレスや自己嫌悪もあっただろう。
そして、とどめは砲弾による強打。
「わわわ……」
とんでもないことになってしまった。
罪の意識を自覚した乱太郎、きり丸、しんべヱが青い顔で震えている。
「と、とにかく、土井先生……じゃなかった天鬼、の出方を待つしかないよね。今のところ」
「「「空さん!」」」
不安が頂点に達した三人はたまらず空にしがみついた。
「だ、大丈夫だから……きっと……元の土井先生に戻れるよ……多分……」
そう何度も言いながら、空は三人を強く抱きしめる。
「大丈夫だよ……大丈夫……」
その呟きは、まるで自分にも言い聞かせているようだった。