わたしの軍師さま~きり丸との確執編~
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今にも一雨きそうな空模様のごとく、最近家の中の雰囲気が悪い。
理由はわかっている。
姿形が同じとはいえ、かの人の中身が全く入れ替わってしまったら、きり丸が今まで通りに過ごせないのは無理もない。
「アレもダメ、これもダメ……それなら、天鬼さんは一体どんな仕事ならできるんですか!?」
片眉を歪ませたきり丸が、人差し指で神経質そうに小机を叩く。
その小机越しにいる人物――天鬼が長い熟考の末、沈黙を解いた。
「軍師なら可能だ。私を採用すれば、どんな国にも勝利をもたらすことができるだろう。報酬は、そうだな……固定給に加え、成功報酬一貫で、」
竈の前でぐつぐつ煮えるうどんから目が離せない空だったが、話がいよいよ物騒になってきたので、慌ててふたりの方へと足が動いた。
「その話、ちょっと待ったぁ――!」
大声で叫んだとき、うどんは沸騰したお湯とともに盛大に吹きこぼれた。
「もうダメですよ、天鬼様!いくら得意とすることとはいえ……関係のない戦に加担して儲けようだなんて、絶対にいけません!」
「……」
何故怒られたのかわからないというような顔でうどんを啜る天鬼の横で、きり丸が忌々しそうに舌打ちする。
「ちぇ」
「ちぇ!じゃないでしょ、きりちゃん!」
空が睨みを利かせれば、きり丸のふっくらとした頬がさらに膨らんだ。
「だってさ、だってさ……天鬼さん、おれが頼むバイト、全っ然やりこなせなんだもん!」
きり丸がバシッと箸を叩きつけた。
それっきり、気まずい沈黙が周囲に広がる。
きり丸の言う通りで、天鬼に手伝わせたバイトはどれもうまく行っていない。
造花や風車に金魚掬いのポイ……といった定番の内職は何を作らせても不良品になってしまうし、子守は赤子が皆怖がってしまい、空かきり丸しか請け負えない。
洗濯をさせてみれば、汚れが全然落ちていないと、手厳しい奥様達からのクレームがついた。
作業系が向いてないのなら、女装して売り子のバイトなんてどうだろう、ときり丸が提案しても、「そんな恥ずかしいはことできない」と天鬼はにべもなく拒絶した。
半助と比べると、天鬼は手先が鈍く、それでいて多少我儘だった。
きり丸がむしゃくしゃと頭を掻きむしった。
「ああもう!せっかく、土井先生に頼もうと思ってあれこれ引き受けたのに、休みの予定が大幅に狂っちまった!」
「きりちゃん、ちょっと落ち着いて」
「ああ、もう我慢の限界!そもそも、何で休みに入ってからずっと、土井先生じゃなくてこいつがいるんだよ!」
「きりちゃん!」
堪りかねて、空が立ち上がった。
それを見て、さすがに言い過ぎてしまった、ときり丸の表情には反省の色が浮かぶ。
「ごっそさん……おれ、例の手伝いのバイトに行ってきますっ」
言うが早いか、きり丸は簾を潜って外に出る。
一寸の間の後、空の口から大きなため息が零れた。
「もう、きりちゃんったら……」
「気にするな、空。きり丸の言う通り、何もできず役に立たない私が悪い」
「でも、」
「……私がきり丸によく思われていないのは知っている。記憶を失くしていたとはいえ、過去お前たちにしたことは許されることではない」
「天鬼様……」
話は一週間前にまで遡る。
忍術学園から帰省したその日の晩、同じ衾 の中で、つと半助から相談を受けたのだ。
天鬼ときり丸の仲が気がかりだと。
「ずっと心残りだったんだ。私が二度も天鬼となって、忍術学園に牙を向けてしまって……君に心を救ってもらったとは言え、きり丸は天鬼を誤解したままだ。それがどうにもやるせなくてね」
「半助さん……」
「あいつ……きり丸を見ていると、昔の自分に重ねてしまうんだ。一人で生きて行かなければいけなかった自分とに……こんなこと依怙贔屓 同然だから、は組の皆の前では決して言えないけど、きり丸は私にとって生徒以上に特別な存在なんだ。弟のような、ね」
「……」
「だからこそ、きり丸だけには理解してほしい……もう一人の私、天鬼のことを。とはいえ、忍術学園でほいほい天鬼になるわけにもいかないし……生徒や先生たちと顔を合わせない長期休みの今が絶好の機会だと思っている。大変かもしれないが、空にはふたりを見守っていてほしい」
空は突然の申し出に驚いたものの、半助の心情を察し、大きく頷いた。
それから夜が明けると、半助は予告通り姿を消す。
隣には厳かな雰囲気を纏った天鬼がいた。
ふっと現実に戻れば、目の前の天鬼が申し訳なさそうに言った。
「すまない、空。私がいるばかりに気を揉むだろう。やはり土井半助を呼び戻した方がいいのかもしれぬ」
「ま、待ってくださいっ。まだたったの一週間ですよ!そんなに簡単に諦めてはいけません」
「しかし、無理にきり丸の誤解を解く必要はないのでは」
「ダメです、天鬼様。それでは半助さんの気持ちをないがしろにしてしまいます」
「……」
確かに今のきり丸には取り付く島もない。
けれど、空は知っている。
きり丸のため、と天鬼は天鬼なりに手を尽くしていることを。
「天鬼様も同じ気持ちだからこそ、ここにいらしてくれたのではないですか?たとえ不器用でも、きりちゃんのためにバイトを日々お手伝いされるのは、きりちゃんのことをとても大切に思っている何よりの証拠じゃありませんか」
そう言うと、天鬼の細い目がわずかに開いた。
「大丈夫ですよ。きりちゃんはまだ……あのときのまま時間が止まっているかもしれませんが、一緒に過ごすうちに天鬼様をわかってくれるはずです」
「しかしだな……」
「天鬼様!後ろ向きな考えは今後一切やめてください。大丈夫です。どうかご自分を信じてください」
「……」
「きりちゃんは良い子だから、天鬼様の良さをきっと理解してくれます」
これ以上天鬼がネガティブにならないよう、空は真正面から強い瞳で言い切った。
それは天鬼には一定の効果があったらしく、
「ありがとう」
と蚊の鳴くような声で礼を言われた。
顔を反らして視線を合わせなかったのは、照れたときの彼の癖だった。
理由はわかっている。
姿形が同じとはいえ、かの人の中身が全く入れ替わってしまったら、きり丸が今まで通りに過ごせないのは無理もない。
「アレもダメ、これもダメ……それなら、天鬼さんは一体どんな仕事ならできるんですか!?」
片眉を歪ませたきり丸が、人差し指で神経質そうに小机を叩く。
その小机越しにいる人物――天鬼が長い熟考の末、沈黙を解いた。
「軍師なら可能だ。私を採用すれば、どんな国にも勝利をもたらすことができるだろう。報酬は、そうだな……固定給に加え、成功報酬一貫で、」
竈の前でぐつぐつ煮えるうどんから目が離せない空だったが、話がいよいよ物騒になってきたので、慌ててふたりの方へと足が動いた。
「その話、ちょっと待ったぁ――!」
大声で叫んだとき、うどんは沸騰したお湯とともに盛大に吹きこぼれた。
「もうダメですよ、天鬼様!いくら得意とすることとはいえ……関係のない戦に加担して儲けようだなんて、絶対にいけません!」
「……」
何故怒られたのかわからないというような顔でうどんを啜る天鬼の横で、きり丸が忌々しそうに舌打ちする。
「ちぇ」
「ちぇ!じゃないでしょ、きりちゃん!」
空が睨みを利かせれば、きり丸のふっくらとした頬がさらに膨らんだ。
「だってさ、だってさ……天鬼さん、おれが頼むバイト、全っ然やりこなせなんだもん!」
きり丸がバシッと箸を叩きつけた。
それっきり、気まずい沈黙が周囲に広がる。
きり丸の言う通りで、天鬼に手伝わせたバイトはどれもうまく行っていない。
造花や風車に金魚掬いのポイ……といった定番の内職は何を作らせても不良品になってしまうし、子守は赤子が皆怖がってしまい、空かきり丸しか請け負えない。
洗濯をさせてみれば、汚れが全然落ちていないと、手厳しい奥様達からのクレームがついた。
作業系が向いてないのなら、女装して売り子のバイトなんてどうだろう、ときり丸が提案しても、「そんな恥ずかしいはことできない」と天鬼はにべもなく拒絶した。
半助と比べると、天鬼は手先が鈍く、それでいて多少我儘だった。
きり丸がむしゃくしゃと頭を掻きむしった。
「ああもう!せっかく、土井先生に頼もうと思ってあれこれ引き受けたのに、休みの予定が大幅に狂っちまった!」
「きりちゃん、ちょっと落ち着いて」
「ああ、もう我慢の限界!そもそも、何で休みに入ってからずっと、土井先生じゃなくてこいつがいるんだよ!」
「きりちゃん!」
堪りかねて、空が立ち上がった。
それを見て、さすがに言い過ぎてしまった、ときり丸の表情には反省の色が浮かぶ。
「ごっそさん……おれ、例の手伝いのバイトに行ってきますっ」
言うが早いか、きり丸は簾を潜って外に出る。
一寸の間の後、空の口から大きなため息が零れた。
「もう、きりちゃんったら……」
「気にするな、空。きり丸の言う通り、何もできず役に立たない私が悪い」
「でも、」
「……私がきり丸によく思われていないのは知っている。記憶を失くしていたとはいえ、過去お前たちにしたことは許されることではない」
「天鬼様……」
話は一週間前にまで遡る。
忍術学園から帰省したその日の晩、同じ
天鬼ときり丸の仲が気がかりだと。
「ずっと心残りだったんだ。私が二度も天鬼となって、忍術学園に牙を向けてしまって……君に心を救ってもらったとは言え、きり丸は天鬼を誤解したままだ。それがどうにもやるせなくてね」
「半助さん……」
「あいつ……きり丸を見ていると、昔の自分に重ねてしまうんだ。一人で生きて行かなければいけなかった自分とに……こんなこと
「……」
「だからこそ、きり丸だけには理解してほしい……もう一人の私、天鬼のことを。とはいえ、忍術学園でほいほい天鬼になるわけにもいかないし……生徒や先生たちと顔を合わせない長期休みの今が絶好の機会だと思っている。大変かもしれないが、空にはふたりを見守っていてほしい」
空は突然の申し出に驚いたものの、半助の心情を察し、大きく頷いた。
それから夜が明けると、半助は予告通り姿を消す。
隣には厳かな雰囲気を纏った天鬼がいた。
ふっと現実に戻れば、目の前の天鬼が申し訳なさそうに言った。
「すまない、空。私がいるばかりに気を揉むだろう。やはり土井半助を呼び戻した方がいいのかもしれぬ」
「ま、待ってくださいっ。まだたったの一週間ですよ!そんなに簡単に諦めてはいけません」
「しかし、無理にきり丸の誤解を解く必要はないのでは」
「ダメです、天鬼様。それでは半助さんの気持ちをないがしろにしてしまいます」
「……」
確かに今のきり丸には取り付く島もない。
けれど、空は知っている。
きり丸のため、と天鬼は天鬼なりに手を尽くしていることを。
「天鬼様も同じ気持ちだからこそ、ここにいらしてくれたのではないですか?たとえ不器用でも、きりちゃんのためにバイトを日々お手伝いされるのは、きりちゃんのことをとても大切に思っている何よりの証拠じゃありませんか」
そう言うと、天鬼の細い目がわずかに開いた。
「大丈夫ですよ。きりちゃんはまだ……あのときのまま時間が止まっているかもしれませんが、一緒に過ごすうちに天鬼様をわかってくれるはずです」
「しかしだな……」
「天鬼様!後ろ向きな考えは今後一切やめてください。大丈夫です。どうかご自分を信じてください」
「……」
「きりちゃんは良い子だから、天鬼様の良さをきっと理解してくれます」
これ以上天鬼がネガティブにならないよう、空は真正面から強い瞳で言い切った。
それは天鬼には一定の効果があったらしく、
「ありがとう」
と蚊の鳴くような声で礼を言われた。
顔を反らして視線を合わせなかったのは、照れたときの彼の癖だった。
