無防備な彼女
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季節は夏。
早朝でも、屋外で一定時間作業をしていれば、雨粒のような汗がどっと吹き出してくる。
「ふぅ……このくらい用意しておけば大丈夫だろう」
薪割りを終えた半助が額の汗を拭う。
燦燦と照り付ける太陽を睨みながら言った。
「きり丸……今日のバイト大丈夫かな。この暑さで熱中症にならないといいが……それにしても、喉が渇いた。水でも飲みに行くか」
そう呟いてから、半助は足早に井戸へ向かった。
***
井戸へ近づくにつれ、地べたにしゃがみ込んで洗濯物と格闘する長屋の女性たちが視界に入るようになってきた。
ふと、姦しい声が耳に飛び込んでくる。
「ああ、気持ちいい!」
「夏の洗濯はほんと天国ぅ~」
「こうやって涼めて最高よね!」
見れば、三人の若い娘たちが着物の裾をたくし上げ、太腿の半分以上をさらした状態で踏み洗いしている。
まるでミニスカートを履いているほどの露出度の高さ。
半助は眼のやり場に困り、慌てて顔をそらした。
(全く、もう少し恥じらいってものを持たないと……ああいうのの餌食になるぞ!)
半助の視線が娘たちとはもう別の集団へと移動する。
その集団とは、娘たちから少し離れたところでデレデレと鼻を伸ばした長屋の男たち四人。
いずれも二十前後の青年で、半助の顔見知りである。
皆明るく根が良いいのだが、発情期真っ盛りな彼らは自制心を抑えられないのが玉にキズ。
ちなみに全員彼女はいない。
「ああ、やっぱり夏って最高!」
「ほんとほんと。特に朝の時間帯は目の保養になるな」
「無料でいいもんが拝めるし」
「この暑さに感謝だな!」
(まぁ、同じ男だから気持ちはわからなくないが……その締まりのない表情、もう少し何とかした方がいいと思うぞ。みっともない)
とはいえ、忍者でもない一般人の彼らが忍者の三禁を遵守する必要はないので、自分に口を挟む資格がないのは充分に承知していた。
さっさと水だけ飲んで立ち去ろう。
半助は慣れた手つきで井戸に釣瓶を落とし、縄を引き上げて水を汲んだ。
「……」
ごくごくと喉を潤していたが、忍者として研ぎ澄まされた聴覚を持つのが災いし、嫌でも男たちの下世話な話を拾ってしまう。
「なぁなぁ、あの中で誰がいいと思う?」
「そりゃあ、花代ちゃんだろう。肉付きがよくて柔らかそうだし」
「月子ちゃんもなかなかのもんじゃないか?カモシカのようなほっそりとした美脚がそそるねぇ」
「いーや、小雪ちゃん一択だ。名前の通りの雪肌が……もうたまんねぇぜ!」
(はいはい……お盛んなことで)
心の中で男たちに冷ややかに相槌を入れつつ、半助は二杯目の水を喉の奥へと流し込む。
「おい、そういうお前はどうなんだよ?聞いてきたくせして」
「俺?俺はな……」
男たちが固唾を飲んで、残りの一人の言葉を待った。
「俺は……空ちゃんがいいと思ってる!」
この言葉を受け、半助は驚きのあまり噎せてしまった。
(なにぃ!空がいる!?)
ゲホゲホと咳き込んだのも束の間、慌てて娘たちの方を見ると、さっきまではいなかったはずの空がいた。
途中からあの輪の中に混じったようだ。
娘たちと同様、白い脚が惜しげもなくさらされている。
(あぁぁぁぁ!空ってば、公衆の面前でなんちゅうはしたない格好を……!)
恋人の焦る心をつゆ知らず、空が気持ちよさそうに水に足を浸している。
「ああ、気持ちいい……!」
「でしょでしょ、空ちゃん。やっぱ夏はこれに限るよね」
「冬は最悪だけど~」
「わっかるぅー!」
アハハハ……と娘たちは大盛り上がり。
半助は慌ただしく視線を移動し、男たちを見る。
彼らはまるで尊い仏でも見るかのように、胸の前で手を合わせていた。
「ああ、ありがたやありがたや……空ちゃんがいるとなると話は別だな。おれも空ちゃんに一票」
「おれも」
「おれも」
「だろ?ああ、今日はなんて良い日なんだ!空ちゃんの美し~いおみ足が拝めるなんて……ナマンダブ……」
「空ちゃんと言えば、長屋に住む我ら男性陣全員の憧れの的!しかし……」
そこまで言うと、男たちは一斉に泣き出した。
哀愁を漂わせている。
「彗星の如くいきなりこの町に現れたかと思えば、既に恋人がいらしたし……あの男前の土井さんが相手じゃ敵わないよな……」
「それだけじゃないぞ!利吉っていうべらぼうな色男も空さんの恋人だって主張しているんだと。なんでも二人は恋敵らしい」
「う~む……顔良し、性格良し、仕事もできそうなハイスペックのふたりが相手じゃ、俺たちの出る幕はないな」
「弟のきり丸君も、悪い男 が近づかないようにって、常に空ちゃんの傍についてるし。取り付く島もねぇよ……」
まるで試合でボロ負けしたチームのように男たちの空気が暗くなった。
「……」
最初は眼を吊り上げていた半助だったが、意気消沈する彼らを見て、その怒気はたちまち消滅してしまった。
同性から容姿を褒められ、その上高嶺の花の恋人を羨ましがられ、優越感が生じていたのだ。
いや、優越感を通り越して同情心すら湧いてきた。
(きっと、君たちにもいい人が見つかるよ……)
なんて気休めの言葉を心の中でかけていると、男たちの様子が急変する。
さっきまで一様に肩を落としていた四人だったが、そのうちの一人が沈んだ空気を打ち破るかのごとく、天に向かって拳を突き上げていた。
「しかーし、しかしだ!そんなモテない俺たちだからこそ、今できることを大事にしなければならない!」
「「ああ!」」
残りの三人はその言葉で察したらしい。
彼らは自然と円陣を組んでいた。
皆、何かを決心した真剣な表情――
半助は眼を丸くしていた。
この清々しいほどの士気の高まりは、まるで悪い怪物を退治しに行く、勇者一行さながらではないかと。
「……」
半助はすっかり男たちの空気に呑まれていた。
一秒たりとも目が離せず、男たちから出る次の一言を待つ。
先程拳を突き上げた男が高らかに叫んだ。
「俺たちができること……それは今の空ちゃんの艶姿をよく目に焼き付けておくことだ!」
「「おう!」」
残りの三人が呼応した途端、全員の顔が一気に崩れる。
デへへへ……
今にも涎を垂らしそうな、いやらしい顔つきで再び空を見物し始める。
結局やることは一緒だった。
(こ、こいつら……頭の中には煩悩しか詰まっとらんのか!?)
開いた口が塞がらない、とはまさにこのこと。
半助は少しでも彼らに同情した己を恥じる。
と同時に、つける薬がないほどの助平ぶりに、堪忍袋の緒が切れた。
(許せん!!!)
疾風 のごとく姿を現すと、それまで緩みきった表情の男たちに戦慄がはしった。
「君たちぃ……」
半助がドスの利いた声で言う。
「げげげっ!ど、土井さん……どうしたんですか、そんな怖い顔をして……」
「お、俺たちはただ風光明媚な景色を眺めていただけですよ」
「そ、そうそう。そうだよな、みんな!」
「ああ。土井さん、俺たちを信じてください!ほら、この通り、今日もお天道様が眩しいなぁ……!」
しらを切る男たちに、半助が般若の形相で叫んだ。
「とぼけるなぁぁぁ!今見ていたものを全部忘れろぉぉぉ!そして、今すぐこの場から立ち去れぇぇぇい!!!」
「「ご、ごめんなさ~い!」」
男たちはけたたましい悲鳴を上げるや否や、四方八方へと散らばっていった。
「よし……あとは空だけだな」
半助は急いで娘たちのところへすっ飛んでいく。
「空!」
「あれ……?半助さん!?」
只ならぬ雰囲気を纏って登場した半助に、空が目を白黒させる。
半助は乱暴に空の腕を掴みとると、そのままずかずかと家まで直行した。
早朝でも、屋外で一定時間作業をしていれば、雨粒のような汗がどっと吹き出してくる。
「ふぅ……このくらい用意しておけば大丈夫だろう」
薪割りを終えた半助が額の汗を拭う。
燦燦と照り付ける太陽を睨みながら言った。
「きり丸……今日のバイト大丈夫かな。この暑さで熱中症にならないといいが……それにしても、喉が渇いた。水でも飲みに行くか」
そう呟いてから、半助は足早に井戸へ向かった。
***
井戸へ近づくにつれ、地べたにしゃがみ込んで洗濯物と格闘する長屋の女性たちが視界に入るようになってきた。
ふと、姦しい声が耳に飛び込んでくる。
「ああ、気持ちいい!」
「夏の洗濯はほんと天国ぅ~」
「こうやって涼めて最高よね!」
見れば、三人の若い娘たちが着物の裾をたくし上げ、太腿の半分以上をさらした状態で踏み洗いしている。
まるでミニスカートを履いているほどの露出度の高さ。
半助は眼のやり場に困り、慌てて顔をそらした。
(全く、もう少し恥じらいってものを持たないと……ああいうのの餌食になるぞ!)
半助の視線が娘たちとはもう別の集団へと移動する。
その集団とは、娘たちから少し離れたところでデレデレと鼻を伸ばした長屋の男たち四人。
いずれも二十前後の青年で、半助の顔見知りである。
皆明るく根が良いいのだが、発情期真っ盛りな彼らは自制心を抑えられないのが玉にキズ。
ちなみに全員彼女はいない。
「ああ、やっぱり夏って最高!」
「ほんとほんと。特に朝の時間帯は目の保養になるな」
「無料でいいもんが拝めるし」
「この暑さに感謝だな!」
(まぁ、同じ男だから気持ちはわからなくないが……その締まりのない表情、もう少し何とかした方がいいと思うぞ。みっともない)
とはいえ、忍者でもない一般人の彼らが忍者の三禁を遵守する必要はないので、自分に口を挟む資格がないのは充分に承知していた。
さっさと水だけ飲んで立ち去ろう。
半助は慣れた手つきで井戸に釣瓶を落とし、縄を引き上げて水を汲んだ。
「……」
ごくごくと喉を潤していたが、忍者として研ぎ澄まされた聴覚を持つのが災いし、嫌でも男たちの下世話な話を拾ってしまう。
「なぁなぁ、あの中で誰がいいと思う?」
「そりゃあ、花代ちゃんだろう。肉付きがよくて柔らかそうだし」
「月子ちゃんもなかなかのもんじゃないか?カモシカのようなほっそりとした美脚がそそるねぇ」
「いーや、小雪ちゃん一択だ。名前の通りの雪肌が……もうたまんねぇぜ!」
(はいはい……お盛んなことで)
心の中で男たちに冷ややかに相槌を入れつつ、半助は二杯目の水を喉の奥へと流し込む。
「おい、そういうお前はどうなんだよ?聞いてきたくせして」
「俺?俺はな……」
男たちが固唾を飲んで、残りの一人の言葉を待った。
「俺は……空ちゃんがいいと思ってる!」
この言葉を受け、半助は驚きのあまり噎せてしまった。
(なにぃ!空がいる!?)
ゲホゲホと咳き込んだのも束の間、慌てて娘たちの方を見ると、さっきまではいなかったはずの空がいた。
途中からあの輪の中に混じったようだ。
娘たちと同様、白い脚が惜しげもなくさらされている。
(あぁぁぁぁ!空ってば、公衆の面前でなんちゅうはしたない格好を……!)
恋人の焦る心をつゆ知らず、空が気持ちよさそうに水に足を浸している。
「ああ、気持ちいい……!」
「でしょでしょ、空ちゃん。やっぱ夏はこれに限るよね」
「冬は最悪だけど~」
「わっかるぅー!」
アハハハ……と娘たちは大盛り上がり。
半助は慌ただしく視線を移動し、男たちを見る。
彼らはまるで尊い仏でも見るかのように、胸の前で手を合わせていた。
「ああ、ありがたやありがたや……空ちゃんがいるとなると話は別だな。おれも空ちゃんに一票」
「おれも」
「おれも」
「だろ?ああ、今日はなんて良い日なんだ!空ちゃんの美し~いおみ足が拝めるなんて……ナマンダブ……」
「空ちゃんと言えば、長屋に住む我ら男性陣全員の憧れの的!しかし……」
そこまで言うと、男たちは一斉に泣き出した。
哀愁を漂わせている。
「彗星の如くいきなりこの町に現れたかと思えば、既に恋人がいらしたし……あの男前の土井さんが相手じゃ敵わないよな……」
「それだけじゃないぞ!利吉っていうべらぼうな色男も空さんの恋人だって主張しているんだと。なんでも二人は恋敵らしい」
「う~む……顔良し、性格良し、仕事もできそうなハイスペックのふたりが相手じゃ、俺たちの出る幕はないな」
「弟のきり丸君も、悪い
まるで試合でボロ負けしたチームのように男たちの空気が暗くなった。
「……」
最初は眼を吊り上げていた半助だったが、意気消沈する彼らを見て、その怒気はたちまち消滅してしまった。
同性から容姿を褒められ、その上高嶺の花の恋人を羨ましがられ、優越感が生じていたのだ。
いや、優越感を通り越して同情心すら湧いてきた。
(きっと、君たちにもいい人が見つかるよ……)
なんて気休めの言葉を心の中でかけていると、男たちの様子が急変する。
さっきまで一様に肩を落としていた四人だったが、そのうちの一人が沈んだ空気を打ち破るかのごとく、天に向かって拳を突き上げていた。
「しかーし、しかしだ!そんなモテない俺たちだからこそ、今できることを大事にしなければならない!」
「「ああ!」」
残りの三人はその言葉で察したらしい。
彼らは自然と円陣を組んでいた。
皆、何かを決心した真剣な表情――
半助は眼を丸くしていた。
この清々しいほどの士気の高まりは、まるで悪い怪物を退治しに行く、勇者一行さながらではないかと。
「……」
半助はすっかり男たちの空気に呑まれていた。
一秒たりとも目が離せず、男たちから出る次の一言を待つ。
先程拳を突き上げた男が高らかに叫んだ。
「俺たちができること……それは今の空ちゃんの艶姿をよく目に焼き付けておくことだ!」
「「おう!」」
残りの三人が呼応した途端、全員の顔が一気に崩れる。
デへへへ……
今にも涎を垂らしそうな、いやらしい顔つきで再び空を見物し始める。
結局やることは一緒だった。
(こ、こいつら……頭の中には煩悩しか詰まっとらんのか!?)
開いた口が塞がらない、とはまさにこのこと。
半助は少しでも彼らに同情した己を恥じる。
と同時に、つける薬がないほどの助平ぶりに、堪忍袋の緒が切れた。
(許せん!!!)
「君たちぃ……」
半助がドスの利いた声で言う。
「げげげっ!ど、土井さん……どうしたんですか、そんな怖い顔をして……」
「お、俺たちはただ風光明媚な景色を眺めていただけですよ」
「そ、そうそう。そうだよな、みんな!」
「ああ。土井さん、俺たちを信じてください!ほら、この通り、今日もお天道様が眩しいなぁ……!」
しらを切る男たちに、半助が般若の形相で叫んだ。
「とぼけるなぁぁぁ!今見ていたものを全部忘れろぉぉぉ!そして、今すぐこの場から立ち去れぇぇぇい!!!」
「「ご、ごめんなさ~い!」」
男たちはけたたましい悲鳴を上げるや否や、四方八方へと散らばっていった。
「よし……あとは空だけだな」
半助は急いで娘たちのところへすっ飛んでいく。
「空!」
「あれ……?半助さん!?」
只ならぬ雰囲気を纏って登場した半助に、空が目を白黒させる。
半助は乱暴に空の腕を掴みとると、そのままずかずかと家まで直行した。
