大木先生と風変わりな茶店
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ガタガタガタ……
のどかな田舎道を大木雅之助が荷車を引いて歩いていた。
ついさっきまで、大木は野菜や自家製のらっきょう漬けを卸しに複数の町を回っていた。
「はぁ……」
仕事が終わって解放感に浸っているかと思えばそうでもない。
心の中にはすきま風が吹いている。
原因はわかっている。
いるはずの空が隣にいないからだ。
話は一週間前に遡る。
いつものように忍術学園の食堂に野菜を届けに行ったときのこと。
帰り間際、大木は一緒に町へ行って野菜卸の仕事を手伝うよう空にお願いした。
最初はブーブー文句を言っていた空も、回を重ねるにつれ、当たり前のごとく引き受けてくれるようになった。
それなのに今回は、
「ごめんなさい。その日は忍術学園がお休みなんですが、既に用事が入っているんです」
と丁重に断られてしまった。
休日に用事。
そう言われて、大木は愕然とした。
用事――それは恋人である土井半助と逢引 なのだろうと見当がついたからだ。
「ふぅ……」
回想を終えた大木がふたたび深い溜息をつく。
何を落ち込んでいるのだというのだ、自分は……。
空に恋人がいることなんて、最初から分かっていたではないか。
今更空が男の影をちらつかせたところで動揺することはない、そう思っていたのに。
蓋を開けてみれば、抑えきれないほどの嫉妬が大木を襲った。
今頃、空は愛しい男の隣で幸せそうに微笑んでいる――そう、道をすれ違う恋人たちのように。
「ああもう、むしゃくしゃする!!」
やけになった大木は、周囲にガンを飛ばしながら大股で歩いた。
道行く人が「ひっ」と怯もうが、気にしない。
「全く、どいつもこいつも浮かれやがって……!」
それにしても、今日という今日に限って、やけにカップルが目につくのは自分へのあてつけなのだろうか。
「あれぇ?」
大木は気づいた。
カップルが多いのは多いが、それにしてもこの数は異様すぎる、と。
さらに先を進めば、そのカップルたちの出所が分かった。
今、大木の歩く道は下部に長い川がはしっている土手沿いの道。
その土手一面に茣蓙が無数に敷かれ、カップルたちがそこで景色を眺望している。
「はて。今日は何か催しものでもやっていたかのう?見たところそれらしきものはないが……ん?」
大木は前方である人物を見つけた。
女装が板についている子どもを。
その子どもは茣蓙に座っている客に菓子や茶を運んでいた。
「なんと、きり丸ではないか!?」
慌てて駆け寄れば、きり丸もこちらの存在に気づき、手を振ってくれた。
「こんにちはぁ」
開口一番、普段よりも1オクターブ高い声が耳に届く。
今のきり丸はきり丸ではなく、きり子なのだ。
「おい、お前……一体何をやっているんだ?」
「あら、いやですわ、大木先生。見ておわかりにならないの?」
きり丸が科をつくる。
鼻につく仕草だったが、構わず続けた。
「アルバイトなのはわかるが、それにしてもその格好は何なんだ、その格好は、」
大木が指を差す。
きり丸の服装は明らかに異国のものであった。
黒を基調としているが、腕や脚など肌の露出が多く、着物と違って裾や袖の部分がふんわりと膨れ上がっている。
そして、その服の上にはまるで花びらのようにひらひらとした素材で縁取られた白色の前掛けを身に着けていた。
「これは今働いているお店の制服で、『めいどふく』っていうんです。南蛮人がよく着ているものらしいですよ」
「め、めいどふくね、う~ん。南蛮人のセンスはわからんのう……」
「服に合わせて、髪型も『ついんてーる』にしてみたんです。可愛いでしょう?うふふ♡」
「おい、そろそろその話し方をやめろ。気持ちが悪くて鳥肌が立つ」
「へーい」
きり丸が舌を出す。
あっさりと素に戻ったきり丸だった。
「それはそうと、大木先生はどうしてここに?」
「別に意図して寄ったわけではない。この道は杭瀬村までの帰り道だ」
「へぇ、そうだったんですか。それなら、ここでちょっくら休んでいきません?この茶店の店主がつくる柏餅は絶品なんですよ!お客さんのほとんどが注文してるんです!」
「ふ~ん」
大木は周りを見る。
きり丸の言った通り、カップルのほとんどが柏餅を手にしている。
ぐぅぅぅぅぅ……
不意に大木の腹の虫が鳴る。
今日は町から町へと移動を続けて、昼を抜いていたことを思い出した。
(何だか腹が空いてきたのう……)
このまま空腹を我慢してまっすぐ村へ帰ることもできるが、それではなんだか味気ない。
せっかく知り合いと出くわしたことだし、甘味でも食べてこの鬱々とした気分を吹き飛ばそう――
「よし、ここはひとつ売上に貢献してやるか。きり丸、柏餅を一つ頂戴しよう」
「毎度ありぃ!あ、お勘定はお店の方でお願いしやす。どうぞこちらへ」
そうきり丸に促されて、大木は茶店を目指す。
茶店は道沿いに立つ葉桜の木々の合間に存在していた。
のどかな田舎道を大木雅之助が荷車を引いて歩いていた。
ついさっきまで、大木は野菜や自家製のらっきょう漬けを卸しに複数の町を回っていた。
「はぁ……」
仕事が終わって解放感に浸っているかと思えばそうでもない。
心の中にはすきま風が吹いている。
原因はわかっている。
いるはずの空が隣にいないからだ。
話は一週間前に遡る。
いつものように忍術学園の食堂に野菜を届けに行ったときのこと。
帰り間際、大木は一緒に町へ行って野菜卸の仕事を手伝うよう空にお願いした。
最初はブーブー文句を言っていた空も、回を重ねるにつれ、当たり前のごとく引き受けてくれるようになった。
それなのに今回は、
「ごめんなさい。その日は忍術学園がお休みなんですが、既に用事が入っているんです」
と丁重に断られてしまった。
休日に用事。
そう言われて、大木は愕然とした。
用事――それは恋人である土井半助と
「ふぅ……」
回想を終えた大木がふたたび深い溜息をつく。
何を落ち込んでいるのだというのだ、自分は……。
空に恋人がいることなんて、最初から分かっていたではないか。
今更空が男の影をちらつかせたところで動揺することはない、そう思っていたのに。
蓋を開けてみれば、抑えきれないほどの嫉妬が大木を襲った。
今頃、空は愛しい男の隣で幸せそうに微笑んでいる――そう、道をすれ違う恋人たちのように。
「ああもう、むしゃくしゃする!!」
やけになった大木は、周囲にガンを飛ばしながら大股で歩いた。
道行く人が「ひっ」と怯もうが、気にしない。
「全く、どいつもこいつも浮かれやがって……!」
それにしても、今日という今日に限って、やけにカップルが目につくのは自分へのあてつけなのだろうか。
「あれぇ?」
大木は気づいた。
カップルが多いのは多いが、それにしてもこの数は異様すぎる、と。
さらに先を進めば、そのカップルたちの出所が分かった。
今、大木の歩く道は下部に長い川がはしっている土手沿いの道。
その土手一面に茣蓙が無数に敷かれ、カップルたちがそこで景色を眺望している。
「はて。今日は何か催しものでもやっていたかのう?見たところそれらしきものはないが……ん?」
大木は前方である人物を見つけた。
女装が板についている子どもを。
その子どもは茣蓙に座っている客に菓子や茶を運んでいた。
「なんと、きり丸ではないか!?」
慌てて駆け寄れば、きり丸もこちらの存在に気づき、手を振ってくれた。
「こんにちはぁ」
開口一番、普段よりも1オクターブ高い声が耳に届く。
今のきり丸はきり丸ではなく、きり子なのだ。
「おい、お前……一体何をやっているんだ?」
「あら、いやですわ、大木先生。見ておわかりにならないの?」
きり丸が科をつくる。
鼻につく仕草だったが、構わず続けた。
「アルバイトなのはわかるが、それにしてもその格好は何なんだ、その格好は、」
大木が指を差す。
きり丸の服装は明らかに異国のものであった。
黒を基調としているが、腕や脚など肌の露出が多く、着物と違って裾や袖の部分がふんわりと膨れ上がっている。
そして、その服の上にはまるで花びらのようにひらひらとした素材で縁取られた白色の前掛けを身に着けていた。
「これは今働いているお店の制服で、『めいどふく』っていうんです。南蛮人がよく着ているものらしいですよ」
「め、めいどふくね、う~ん。南蛮人のセンスはわからんのう……」
「服に合わせて、髪型も『ついんてーる』にしてみたんです。可愛いでしょう?うふふ♡」
「おい、そろそろその話し方をやめろ。気持ちが悪くて鳥肌が立つ」
「へーい」
きり丸が舌を出す。
あっさりと素に戻ったきり丸だった。
「それはそうと、大木先生はどうしてここに?」
「別に意図して寄ったわけではない。この道は杭瀬村までの帰り道だ」
「へぇ、そうだったんですか。それなら、ここでちょっくら休んでいきません?この茶店の店主がつくる柏餅は絶品なんですよ!お客さんのほとんどが注文してるんです!」
「ふ~ん」
大木は周りを見る。
きり丸の言った通り、カップルのほとんどが柏餅を手にしている。
ぐぅぅぅぅぅ……
不意に大木の腹の虫が鳴る。
今日は町から町へと移動を続けて、昼を抜いていたことを思い出した。
(何だか腹が空いてきたのう……)
このまま空腹を我慢してまっすぐ村へ帰ることもできるが、それではなんだか味気ない。
せっかく知り合いと出くわしたことだし、甘味でも食べてこの鬱々とした気分を吹き飛ばそう――
「よし、ここはひとつ売上に貢献してやるか。きり丸、柏餅を一つ頂戴しよう」
「毎度ありぃ!あ、お勘定はお店の方でお願いしやす。どうぞこちらへ」
そうきり丸に促されて、大木は茶店を目指す。
茶店は道沿いに立つ葉桜の木々の合間に存在していた。