きりちゃんの素朴なギモン
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起床して身支度を整えたあと、湯気立ちのぼる朝飯にがっつく。
それが終わると、迷わずアルバイトへ一直線――これがおれ、きり丸の長期休み中の日課となっている。
「それじゃあ、行ってきま~す!」
「あ、きりちゃん。お弁当と水筒は?」
「ちゃ~んと持ってますよ」
草履を履いているおれに向かって、決まり文句のように空さんが言う。
これも変わらない日常。
それから、横で不服そうに立っている土井先生も。
「なんで私がお前のバイトに付き合わされにゃならんのだ。しかも二週間も!」
「まぁ、そう言わないでください。土井先生が来てくれてから、あの夫婦、とっても助かってるんですよ。頼りになるって」
そう言うと、仕方ないな……と言って土井先生は矛をおさめてくれた。
今回のおれ(と土井先生)のバイトは顔見知りの農家さんのお手伝い。
依頼主の農家さんに赤ちゃんが産まれたものの、慣れない世話に夫婦で戸惑っていて、とうとう農作業に支障が出てきてしまった。
そんな困り果てたご主人が天才アルバイターのおれに泣きついてきた、というわけだ。
空さんがおれと土井先生に向かって改めて言った。
「二人とも、気を付けていってらっしゃい」
「はーい!」
元気よく返事したのはおれだけだった。
土井先生はというと、コホンとわざとらしく咳をつく。
「あー……きり丸君。君は先に表で待っていなさい。私はちょっと空に話があるから」
妙に畏まった口調なのが、どこか引っかかった。
「へ?今ここで済ませればいいんじゃないんですか?」
そう返すと、土井先生がキッと睨んできた。
察しろ、と言わんばかりに。
「……」
有無を言わせないような凄みがあった。
下手に逆らったら、機嫌を損ねてバイトに来てくれないかもしれない。
それは困る。
「へ、へーい……わかりやした、わかりやしたよ。でも、早くしてくださいね!」
と素直に従い、しぶしぶ外で待つことにした。
(変だよな……)
いつもそうだ。
空さんと土井先生、二人は決まって出かけ間際にコソコソするのだ。
「怪しい……」
一体何を話しているんだろう。
どうしておれだけ除け者にする必要があるんだろう。
一人だけ蚊帳の外に置かれているのが無性に悔しい。
(よ~し!こうなったら、ばれないようにそぉっと……)
細心の注意を払いながら、家の板張り壁のわずかな隙間から中を窺う。
土井先生たちの姿を視界におさめることができたけれど、隙間の位置が低くて腰から下しか見えない。
話し声が聞こえる。
「いいか――決して知らない人を中に――」
「はい、わかりました」
「もし外出するときは、隣のおばちゃんに――」
「……はい」
「もし隣のおばちゃんもいないときは、大家さんに――」
「半助さん!もう、いつまでも子供扱いしないでください!」
(わ、わけがわかんねぇ、、)
頭の中がチンプンカンプンだった。
土井先生が一人留守番の空さんの身を案じているのはわかる。
けれど、全然おれが同席してもいい内容ではないか、と。
(あ~あ、つまんねぇの。早く終わんねぇかな……)
わざわざおれを追い出してかと思えば、何やってるんだか、と馬鹿らしくなって回れ右した、そのときだった。
「バイト頑張ってくださいね」
「ああ……行ってくる」
さっきまでとは打って変わって、両者とも驚くほど声に甘さが混じっている。
思わず振り返って、もう一度二人を見た。
二人の距離が縮まっている。
土井先生が少しだけ足を折って、身体を屈めていることだけはわかった。
「待たせたな、さぁ行こう」
表に出てきた土井先生の表情は、妙にすっきりとしている。
出かける直前はブツブツ文句を垂れていたのがまるで嘘みたいだ。
「ふたりとも、行ってらっしゃい」
空さんも空さんで声が弾んでいる。
白い頬がほんのりと赤らんでいた。
それが終わると、迷わずアルバイトへ一直線――これがおれ、きり丸の長期休み中の日課となっている。
「それじゃあ、行ってきま~す!」
「あ、きりちゃん。お弁当と水筒は?」
「ちゃ~んと持ってますよ」
草履を履いているおれに向かって、決まり文句のように空さんが言う。
これも変わらない日常。
それから、横で不服そうに立っている土井先生も。
「なんで私がお前のバイトに付き合わされにゃならんのだ。しかも二週間も!」
「まぁ、そう言わないでください。土井先生が来てくれてから、あの夫婦、とっても助かってるんですよ。頼りになるって」
そう言うと、仕方ないな……と言って土井先生は矛をおさめてくれた。
今回のおれ(と土井先生)のバイトは顔見知りの農家さんのお手伝い。
依頼主の農家さんに赤ちゃんが産まれたものの、慣れない世話に夫婦で戸惑っていて、とうとう農作業に支障が出てきてしまった。
そんな困り果てたご主人が天才アルバイターのおれに泣きついてきた、というわけだ。
空さんがおれと土井先生に向かって改めて言った。
「二人とも、気を付けていってらっしゃい」
「はーい!」
元気よく返事したのはおれだけだった。
土井先生はというと、コホンとわざとらしく咳をつく。
「あー……きり丸君。君は先に表で待っていなさい。私はちょっと空に話があるから」
妙に畏まった口調なのが、どこか引っかかった。
「へ?今ここで済ませればいいんじゃないんですか?」
そう返すと、土井先生がキッと睨んできた。
察しろ、と言わんばかりに。
「……」
有無を言わせないような凄みがあった。
下手に逆らったら、機嫌を損ねてバイトに来てくれないかもしれない。
それは困る。
「へ、へーい……わかりやした、わかりやしたよ。でも、早くしてくださいね!」
と素直に従い、しぶしぶ外で待つことにした。
(変だよな……)
いつもそうだ。
空さんと土井先生、二人は決まって出かけ間際にコソコソするのだ。
「怪しい……」
一体何を話しているんだろう。
どうしておれだけ除け者にする必要があるんだろう。
一人だけ蚊帳の外に置かれているのが無性に悔しい。
(よ~し!こうなったら、ばれないようにそぉっと……)
細心の注意を払いながら、家の板張り壁のわずかな隙間から中を窺う。
土井先生たちの姿を視界におさめることができたけれど、隙間の位置が低くて腰から下しか見えない。
話し声が聞こえる。
「いいか――決して知らない人を中に――」
「はい、わかりました」
「もし外出するときは、隣のおばちゃんに――」
「……はい」
「もし隣のおばちゃんもいないときは、大家さんに――」
「半助さん!もう、いつまでも子供扱いしないでください!」
(わ、わけがわかんねぇ、、)
頭の中がチンプンカンプンだった。
土井先生が一人留守番の空さんの身を案じているのはわかる。
けれど、全然おれが同席してもいい内容ではないか、と。
(あ~あ、つまんねぇの。早く終わんねぇかな……)
わざわざおれを追い出してかと思えば、何やってるんだか、と馬鹿らしくなって回れ右した、そのときだった。
「バイト頑張ってくださいね」
「ああ……行ってくる」
さっきまでとは打って変わって、両者とも驚くほど声に甘さが混じっている。
思わず振り返って、もう一度二人を見た。
二人の距離が縮まっている。
土井先生が少しだけ足を折って、身体を屈めていることだけはわかった。
「待たせたな、さぁ行こう」
表に出てきた土井先生の表情は、妙にすっきりとしている。
出かける直前はブツブツ文句を垂れていたのがまるで嘘みたいだ。
「ふたりとも、行ってらっしゃい」
空さんも空さんで声が弾んでいる。
白い頬がほんのりと赤らんでいた。