乱きりしんは見た!
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月が煌々と輝く夜の時間――
いつもなら寝ているはずの良い子たちこと、乱太郎・きり丸・しんべえはなぜか天井裏にいる。
「えっと、空さんの部屋は……」
「こっちだ、きり丸」
身体を屈め、音を立てぬよう慎重に三人は進む。
一番後ろをついていくしんべえが突如グフッと笑みをこぼした。
「残業中の空さんに差し入れ持ってったら、絶対喜ぶよね」
「ああ。まさかしんべえの父ちゃんが今日荷物を届けてくれるなとはな……ナイスタイミングだったぜ」
「二人とも、そろそろ空さんの部屋につくよ」
乱太郎の言葉に、きり丸としんべヱは目を輝かせる。
空の部屋の真上で足を止めた三人は、そっと板の一部を外し、隙間から様子を窺う。
書類の山を相手に、空は一人ブツブツと呟いていた。
「ああ、もう忙しい忙しい。日の変わる前に早く終わらせないと……!」
予想通りの空の姿に、乱太郎たちは思わず顔を見合わせる。
「空さん、忙しそうだね」
「じゃあ、早速」
三人が空の部屋に降りようと決めた、そのときだった。
「お前たち、何をやっとるんだ」
誰かが不意に声をかけてきたのだ。
「「!」」
ぎょっとした三人は慌てて振り向く。
振り返れば、彼らの良く知る人物が目の前にいた。
「「ど、土井先生!!」」
「何でこんな時間に教職員長屋の……しかも天井裏にいるんだ!?もう寝る時間だぞ!」
小声で𠮟りつけた半助が鬼の形相で睨んでくる。
あたふたする三人組のうち、いち早くきり丸が反応した。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。おれたちを注意する前に……土井先生こそ、ここで何をやってるんですか?」
「私はただ、怪しい気配がしたから来てみただけだ!音を立てて侵入してくるし、大したことない曲者だとは予想がついたけど、まさかお前たちだったとは」
「ええ!ボクたち、そんなに下手でしたか!?結構自信あったのに」
「ああ。特にしんべヱ、お前また太っただろ?ほら、そこ……板がぎしぎし軋んでるぞ」
「あ、ほんとだ」
あはは……と笑い合う三人の横で、半助が深い嘆息をつく。
気を取り直して本題に入った。
「それで……こんな時間に一体どうしたんだ?わざわざ天井裏を伝ってきて」
「私たち、空さんにこれを届けに来たんです」
そう言って、乱太郎がしんべヱが持っている小瓶を指す。
しんべヱは小瓶の蓋を取り、中身を半助へと見せた。
「これ……今日ボクの父が届けてくれたんです。南蛮菓子で『こんぺいとう』っていうんですよ。空さん残業で大変そうだったから、甘いものでも食べて、元気になってほしくて」
「こっそり天井裏から来たのは、単にびっくりさせようと思っただけっす」
横からきり丸が言葉を足す。
「ふむ。そういうことか」
彼らなりに空を気遣ったのだろう。
理由を聞き、半助もようやく納得した。
「ところでお前たち……どうして彼女が残業する羽目になったのか、わかっているよな」
「う……っ」
三人の顔が引きつる。
実は空が残業をしているのは、元をたどればこの三人……主にきり丸に原因があるのだ。
というのも、本日の実習で作った忍者食の試食を事務の小松田にお願いしたのだが、食あたりを起こし、ダウン。
そのせいで、空一人で仕事を回さなくいけなくなったというわけだ。
「きり丸が調理前に手を洗わなかったから……そのきったない手で忍者食を手渡されて食べた小松田さんが下痢になっちゃったんですよね」
「ああ。全く、きり丸……これで二回目だぞ!」
そう。半助の言う通り、乱太郎たちは過去、くノ一教室のユキたちに復讐しようと特製カステラを作った際も全く同様のことがおきたのだ。(コミックス11巻参照)
「すんません、今回もその節も……反省してます」
「もう二度と同じ過ちを繰り返すんじゃないぞ!」
「はーい」
「ねえねえ、皆静かに。空さん……様子がヘン。鼻歌歌い出しましたよ?」
「え?鼻歌?」
耳をすませば、確かに鼻歌が聞こえてくる。
四人は天井裏からそっと様子を窺うことにした。
「~~♪」
全員が頭にハテナマークを浮かべている。
仕事に忙殺されているというのに、空の顔からはやけに生気がみなぎっている。
おまけに、独り言まで始まってしまった。
「ああ、やっと終わりが見えてきた。この調子ならあと一時間くらいかな。早く終わらせて、明日の準備をしないと……楽しみだな」
声を弾ませる空を見て、子どもたちは目を白黒させる。
半助だけが、なぜか視線を泳がせてだんまりしている。
どうやら、空の機嫌のよさに心当たりがあるようだ。
「土井先生……明日の準備って、明日ってお休みですよね?空さん、明日何かあるんすか?」
「えっと……その……町へ行く。一応、私と空……二人の予定だ」
歯切れ悪く半助が言う。
途端に三人の顔がにやけだした。
「それって、デートってことですよね?」
「……ああ」
「そっかそっか。だから空さん、あんなにはしゃいでるんだ」
「まぁ、無理もない……休みの度に我慢させていたからな。だれかさん たちの補習のせいで」
「ギクゥ」
優位に立ったのも束の間。
痛いところを突かれ、返す言葉もなく汗たらたらの三人であった。
「ん?」
ふときり丸が下を窺えば、空はいそいそと机の中から何かを取り出している。
現れたのは一枚の紙だ。
その紙を恍惚の表情でじっと見つめている。
「空さん……何眺めてるんだろう……ああっ!」
「どうしたの、きりちゃん?」
「空さんの持ってる紙……あれ、土井先生の似顔絵だ!」
「ええ、ほんと!?」
乱太郎・しんべえ・半助の三人も空の持っている紙を見る。
確かに、そこには半助の似顔絵が精巧に描き込まれていた。
乱太郎が思い出したように言う。
「そういえば、私……前に写生の授業の後で空さんにしつこく頼まれたっけ。土井先生の似顔絵描いてって」
「乱太郎は絵がうまいもんな」
「それにしても、空さん……よっぽど土井先生のことが好きなんですね~。似顔絵の紙をずっと眺めてますよ」
「ほんとほんと」
「う、うるさい!」
半助が真っ赤な顔で一喝する。
そんな天井裏での会話に気づかない空は夢見心地の気分で独白を続けるのだ。
「ああ……明日のお出かけ楽しみだな。仕事が終わったら、明日着ていく着物を選んで……小物はどうしようかな」
しばしの時間、完全に自分の世界に入っている空だったが、やがて自分の両頬をぺしっと叩く。
似顔絵の半助に向かって語りかけた。
「いけない、いけない。ぼーっとする前に、まずは仕事を片付けないと……半助さん、そういうわけで、私お仕事もうひと頑張りします。だから、応援してくださいね」
そう言って、紙に顔を埋め、似顔絵の半助にチュッと口付けをした。
「……」
乱太郎・きり丸・しんべヱの視線が半助に集中する。
そこには、身体全体から湯気を吹き出しそうなほど上気した半助の姿があった。
「『らぶらぶ』だねぇ、きりちゃん」
「ああ。あまりに『らぶらぶ』で……見てるこっちが恥ずかしくなるぜ」
「空さんにあんなに愛されて……んもう、土井先生の幸せ者ぉぅ!」
「お、お前ら!いちいちうるさいぞ!」
「「あはははは」」
居た堪れない気持ちを誤魔化すように半助がコホンと咳払いをした。
「と、とにかくだ。空に差し入れ渡したら、とっとと部屋に戻るんだぞ、いいな!私はもうこれで失礼する」
「「は~い」」
半助がそそくさとその場を去ろうとした、そのときだった。
ピキッ……ピキッ……
しんべヱの真下の板にひびが入りはじめたのだ。
「まずい!お、おい、しんべヱ……一刻も早くそこから離れろ!」
「は、はい……ああっ!」
半助が警告しても、時すでに遅し。
しんべヱが場所を変えようとするよりも先に、天井板の崩壊が進んでしまう。
悪いことに、板の亀裂は乱太郎ときり丸がいる位置まで急速に広がっていった。
バキバキバキバキッ……!!!
そしてついに――
「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
三人の大絶叫で何が起こったのか想像できたであろう。
その後の展開は、空にとって散々だった。
天井が崩壊し、部屋は木屑や粉じんまみれ。
残りの仕事を片付ける前に部屋の掃除と天井裏の補修を余儀なくされる。
勿論デートは中止となった。
「デート……デート……うぅっ……」
「よしよし、また今度行こうな」
塞ぎこむ空と対照的に、半助は最高に幸せだったという。
目にうるうると涙をためていじける恋人の姿は究極的に可愛らしく、自分がいかに彼女に愛されているか実感できたのだから。
いつもなら寝ているはずの良い子たちこと、乱太郎・きり丸・しんべえはなぜか天井裏にいる。
「えっと、空さんの部屋は……」
「こっちだ、きり丸」
身体を屈め、音を立てぬよう慎重に三人は進む。
一番後ろをついていくしんべえが突如グフッと笑みをこぼした。
「残業中の空さんに差し入れ持ってったら、絶対喜ぶよね」
「ああ。まさかしんべえの父ちゃんが今日荷物を届けてくれるなとはな……ナイスタイミングだったぜ」
「二人とも、そろそろ空さんの部屋につくよ」
乱太郎の言葉に、きり丸としんべヱは目を輝かせる。
空の部屋の真上で足を止めた三人は、そっと板の一部を外し、隙間から様子を窺う。
書類の山を相手に、空は一人ブツブツと呟いていた。
「ああ、もう忙しい忙しい。日の変わる前に早く終わらせないと……!」
予想通りの空の姿に、乱太郎たちは思わず顔を見合わせる。
「空さん、忙しそうだね」
「じゃあ、早速」
三人が空の部屋に降りようと決めた、そのときだった。
「お前たち、何をやっとるんだ」
誰かが不意に声をかけてきたのだ。
「「!」」
ぎょっとした三人は慌てて振り向く。
振り返れば、彼らの良く知る人物が目の前にいた。
「「ど、土井先生!!」」
「何でこんな時間に教職員長屋の……しかも天井裏にいるんだ!?もう寝る時間だぞ!」
小声で𠮟りつけた半助が鬼の形相で睨んでくる。
あたふたする三人組のうち、いち早くきり丸が反応した。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ。おれたちを注意する前に……土井先生こそ、ここで何をやってるんですか?」
「私はただ、怪しい気配がしたから来てみただけだ!音を立てて侵入してくるし、大したことない曲者だとは予想がついたけど、まさかお前たちだったとは」
「ええ!ボクたち、そんなに下手でしたか!?結構自信あったのに」
「ああ。特にしんべヱ、お前また太っただろ?ほら、そこ……板がぎしぎし軋んでるぞ」
「あ、ほんとだ」
あはは……と笑い合う三人の横で、半助が深い嘆息をつく。
気を取り直して本題に入った。
「それで……こんな時間に一体どうしたんだ?わざわざ天井裏を伝ってきて」
「私たち、空さんにこれを届けに来たんです」
そう言って、乱太郎がしんべヱが持っている小瓶を指す。
しんべヱは小瓶の蓋を取り、中身を半助へと見せた。
「これ……今日ボクの父が届けてくれたんです。南蛮菓子で『こんぺいとう』っていうんですよ。空さん残業で大変そうだったから、甘いものでも食べて、元気になってほしくて」
「こっそり天井裏から来たのは、単にびっくりさせようと思っただけっす」
横からきり丸が言葉を足す。
「ふむ。そういうことか」
彼らなりに空を気遣ったのだろう。
理由を聞き、半助もようやく納得した。
「ところでお前たち……どうして彼女が残業する羽目になったのか、わかっているよな」
「う……っ」
三人の顔が引きつる。
実は空が残業をしているのは、元をたどればこの三人……主にきり丸に原因があるのだ。
というのも、本日の実習で作った忍者食の試食を事務の小松田にお願いしたのだが、食あたりを起こし、ダウン。
そのせいで、空一人で仕事を回さなくいけなくなったというわけだ。
「きり丸が調理前に手を洗わなかったから……そのきったない手で忍者食を手渡されて食べた小松田さんが下痢になっちゃったんですよね」
「ああ。全く、きり丸……これで二回目だぞ!」
そう。半助の言う通り、乱太郎たちは過去、くノ一教室のユキたちに復讐しようと特製カステラを作った際も全く同様のことがおきたのだ。(コミックス11巻参照)
「すんません、今回もその節も……反省してます」
「もう二度と同じ過ちを繰り返すんじゃないぞ!」
「はーい」
「ねえねえ、皆静かに。空さん……様子がヘン。鼻歌歌い出しましたよ?」
「え?鼻歌?」
耳をすませば、確かに鼻歌が聞こえてくる。
四人は天井裏からそっと様子を窺うことにした。
「~~♪」
全員が頭にハテナマークを浮かべている。
仕事に忙殺されているというのに、空の顔からはやけに生気がみなぎっている。
おまけに、独り言まで始まってしまった。
「ああ、やっと終わりが見えてきた。この調子ならあと一時間くらいかな。早く終わらせて、明日の準備をしないと……楽しみだな」
声を弾ませる空を見て、子どもたちは目を白黒させる。
半助だけが、なぜか視線を泳がせてだんまりしている。
どうやら、空の機嫌のよさに心当たりがあるようだ。
「土井先生……明日の準備って、明日ってお休みですよね?空さん、明日何かあるんすか?」
「えっと……その……町へ行く。一応、私と空……二人の予定だ」
歯切れ悪く半助が言う。
途端に三人の顔がにやけだした。
「それって、デートってことですよね?」
「……ああ」
「そっかそっか。だから空さん、あんなにはしゃいでるんだ」
「まぁ、無理もない……休みの度に我慢させていたからな。
「ギクゥ」
優位に立ったのも束の間。
痛いところを突かれ、返す言葉もなく汗たらたらの三人であった。
「ん?」
ふときり丸が下を窺えば、空はいそいそと机の中から何かを取り出している。
現れたのは一枚の紙だ。
その紙を恍惚の表情でじっと見つめている。
「空さん……何眺めてるんだろう……ああっ!」
「どうしたの、きりちゃん?」
「空さんの持ってる紙……あれ、土井先生の似顔絵だ!」
「ええ、ほんと!?」
乱太郎・しんべえ・半助の三人も空の持っている紙を見る。
確かに、そこには半助の似顔絵が精巧に描き込まれていた。
乱太郎が思い出したように言う。
「そういえば、私……前に写生の授業の後で空さんにしつこく頼まれたっけ。土井先生の似顔絵描いてって」
「乱太郎は絵がうまいもんな」
「それにしても、空さん……よっぽど土井先生のことが好きなんですね~。似顔絵の紙をずっと眺めてますよ」
「ほんとほんと」
「う、うるさい!」
半助が真っ赤な顔で一喝する。
そんな天井裏での会話に気づかない空は夢見心地の気分で独白を続けるのだ。
「ああ……明日のお出かけ楽しみだな。仕事が終わったら、明日着ていく着物を選んで……小物はどうしようかな」
しばしの時間、完全に自分の世界に入っている空だったが、やがて自分の両頬をぺしっと叩く。
似顔絵の半助に向かって語りかけた。
「いけない、いけない。ぼーっとする前に、まずは仕事を片付けないと……半助さん、そういうわけで、私お仕事もうひと頑張りします。だから、応援してくださいね」
そう言って、紙に顔を埋め、似顔絵の半助にチュッと口付けをした。
「……」
乱太郎・きり丸・しんべヱの視線が半助に集中する。
そこには、身体全体から湯気を吹き出しそうなほど上気した半助の姿があった。
「『らぶらぶ』だねぇ、きりちゃん」
「ああ。あまりに『らぶらぶ』で……見てるこっちが恥ずかしくなるぜ」
「空さんにあんなに愛されて……んもう、土井先生の幸せ者ぉぅ!」
「お、お前ら!いちいちうるさいぞ!」
「「あはははは」」
居た堪れない気持ちを誤魔化すように半助がコホンと咳払いをした。
「と、とにかくだ。空に差し入れ渡したら、とっとと部屋に戻るんだぞ、いいな!私はもうこれで失礼する」
「「は~い」」
半助がそそくさとその場を去ろうとした、そのときだった。
ピキッ……ピキッ……
しんべヱの真下の板にひびが入りはじめたのだ。
「まずい!お、おい、しんべヱ……一刻も早くそこから離れろ!」
「は、はい……ああっ!」
半助が警告しても、時すでに遅し。
しんべヱが場所を変えようとするよりも先に、天井板の崩壊が進んでしまう。
悪いことに、板の亀裂は乱太郎ときり丸がいる位置まで急速に広がっていった。
バキバキバキバキッ……!!!
そしてついに――
「「わぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
三人の大絶叫で何が起こったのか想像できたであろう。
その後の展開は、空にとって散々だった。
天井が崩壊し、部屋は木屑や粉じんまみれ。
残りの仕事を片付ける前に部屋の掃除と天井裏の補修を余儀なくされる。
勿論デートは中止となった。
「デート……デート……うぅっ……」
「よしよし、また今度行こうな」
塞ぎこむ空と対照的に、半助は最高に幸せだったという。
目にうるうると涙をためていじける恋人の姿は究極的に可愛らしく、自分がいかに彼女に愛されているか実感できたのだから。