あぁ、勘違い
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季節は夏――
忍術学園は夏休み中だが、珍しいことに忍びの任務が舞い込んできた半助。
仕事を終え、利吉とともに帰路についていた。
「利吉君のおかげで任務が早く終わって助かったよ。ありがとう」
「いえいえ。しかし、まさかあのピンチを伝子さんに救われるとは思いもよらなかったですね」
「ああ、山田先生の女装もたまには役に立つもんだな」
一体そこには、どんなドラマがあったのか?と興味をそそられるような話の内容ではあるが、ストーリーの都合上触れないことにする。
さて、半助たち一行は田舎道を抜け、とっくに町に着いていた。
歩き進めば、半助の家が見えてくる。
日差しの強い真夏日。
にもかかわらず、何をするわけでもなくきり丸が家の前に立っていた。
「あっちぃな……あ、土井先生に利吉さん。忍びの仕事終わったんですね。おかえりなさい!大変でしたか?」
「まぁ、それなりにな。どころで、きり丸……お前こんなところで何やってるんだ?」
「何って、見張りですよ。空さんに頼まれたんです。行水中だから、誰も入れないようにって」
「ふ~ん、行水ねぇ。って行水!?」
半助たちの心拍数は急激に上昇し始める。
「そうですよ。こうも暑いと汗かいちゃうでしょ。気持ち悪いから、身体を洗い流したいって」
(空(さん)が行水……)
戸一枚隔てた向こうには、愛しい女 が生まれたままの姿でいる。
ゴックンと生唾を呑んだ男たちの妄想に歯止めがきかなくなる。
このとき、半助と利吉の二人は以下のことを想像していた。
チャプン……
水を張った大きな桶の中心に空が座っている。
濡らした手ぬぐいで身体中を拭いては、再び手ぬぐいを水に浸し……を繰り返していく。
「はぁ……気持ちいい。梅雨があけてから蒸し暑い日が続くし、やんなっちゃう」
首元に水滴が光る。
滑らかな曲線を描く女の身体に沿って、水滴がゆっくりと下へとすべり落ちた。
腕、脚、首回り……と空は身体の隅々まで丁寧に洗っていく。
「いつも綺麗にしておかないと……いつ半助(利吉)さんとふたりきりになるか、わからないし」
そこまで言って、空は自分自身の言葉に身体を熱くした。
「やだ、私ったら。まるでそういうこと を期待しているみたい……」
火照る顔を冷ますように、空は冷たい手ぬぐいを頬に押さえつけた。
(空さん、私のために身体のお手入れを……何て健気なんだ……)
(いつも綺麗にしておきたいなんて……ああもう、いますぐ空を抱きしめたい!)
見た目にはギリギリ顔面を保っているが、内心ではデヘヘへ…と桃色の妄想に取り憑かれた二人なのだった。
半助がキリッと表情を引き締める。
「きり丸。いつから行水しているんだ?」
「へっ?そういえば、結構長いなぁ。もう三十分くらいは経つかも、」
「いくら真夏でも、あまりに長いと風邪引くぞ。う~ん、心配だなぁ。どれ、ちょっと様子を見てこよう」
これに、利吉が待ったをかけた。
「なっ……それは私の役目です!土井先生はここで待っててください!」
中に入る気満々のふたりに、きり丸がぎょっとした。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと、お二人とも!誰も入れるなって言われてるから、だめですってば!」
「大丈夫、大丈夫。他の男ならもっての外だが、私と空は恋人なんだ。何の問題もない」
「何言ってるんですか、土井先生!問題ないのは、この私だけです!大人しく引っ込んでてください!」
「わわっ!二人とも、話を聞いてくだ……」
「「問答無用!そこをどけ、きり丸!」」
大の大人の力できり丸を押しのけ、半助と利吉はほぼ同時に家へ突入する。
地面にぶつかったきり丸は、とんでもない真相を口にした。
「痛 ててて。んもう……絶対勘違いしてるよな。あの二人。今行水してんの、おりん婆さんなんだけど」
直後、空の声とはほど遠いご婦人の悲鳴が上がった。
「キャアァァァ!ノゾキよぉぉ、エッチぃぃぃ!!!」
ドンガラガッシャーン!!
騒々しい物音のあと、頭に風呂桶を被せられた半助と利吉が入口から放り出された。
***
土井家の居間で、着替えまで済ませたおりん婆さんがプンプンと立腹している。
ちなみにこんな初登場となってしまったが、彼女はきり丸以上のドケチ。
日銭屋を営んでいた。
おりんの隣に座る空は、顔じゅうに怒りをあらわにしている。
半助と利吉は頭には大きいタンコブを、顔には引っ掻き傷をつくっていた。
「全く、清らかな乙女の裸を覗くとは……本来ならありえないほどの金額を請求するところじゃが、今日のところはまぁ勘弁しといてやろう」
そう言って、おりん婆さんがひゃっひゃっひゃ、と笑って、差し出された西瓜 にがっつく。
完全に上から目線の物言いに、半助がたまらず叫んだ。
「ちょっと待ってください!大体、何で他人 ん家 で勝手に行水していたんですか!」
「それは……きり丸を訪ねてここへ来たら、この娘が行水していたんじゃ。普段から節約節水を心掛けている生活をしているだけに、たっぷりと水を使って涼んでいる姿を見たら、つい羨ましくなってのう」
「それにしても、二人とも!どうして中へ入って来たんですか?わざわざきりちゃんを見張りにつけといたんですよ!」
鋭い空の追及に、半助と利吉の目が泳ぎだす。
横からきり丸が言った。
「空さーん。聞いてくださーい。この二人はですねぇ、行水をしているのが空さんだと勘違いしたみたいで……」
「わーわー!言うな、きり丸!」
「しー!しー!」
慌ててきり丸の口を塞ぐが、もう遅い。
「……!」
二人の怪しい行動の原因がまさか自分にあると思っていなかった空は完全に狼狽している。
(もう、ふたりとも……エッチなんだから!)
今食べている西瓜のごとき真っ赤な顔で叫んだ。
「半助さん!利吉さん!り……理由はどうであれ、女性の入浴を邪魔するなんて、言語道断です!もう二度とこういうことはしないでください!」
「は、は~い……」
半助と利吉がシュンと肩を落とす。
そんな二人を、きり丸は呆れた顔で見つめていた。
(どの城もほしがるプロ忍二人も、空さんの前ではかたなしってわけか……)
冷静にそう悟って、黙々と西瓜を頬張る。
「今日は町に来てよかったのう。身体も流せたし、こんなに美味しい西瓜にもありつけたし。ヒャッヒャッヒャッ」
何ともいえない空気の中、ご機嫌なおりん婆さんの笑い声だけが部屋に響き渡っていた。
忍術学園は夏休み中だが、珍しいことに忍びの任務が舞い込んできた半助。
仕事を終え、利吉とともに帰路についていた。
「利吉君のおかげで任務が早く終わって助かったよ。ありがとう」
「いえいえ。しかし、まさかあのピンチを伝子さんに救われるとは思いもよらなかったですね」
「ああ、山田先生の女装もたまには役に立つもんだな」
一体そこには、どんなドラマがあったのか?と興味をそそられるような話の内容ではあるが、ストーリーの都合上触れないことにする。
さて、半助たち一行は田舎道を抜け、とっくに町に着いていた。
歩き進めば、半助の家が見えてくる。
日差しの強い真夏日。
にもかかわらず、何をするわけでもなくきり丸が家の前に立っていた。
「あっちぃな……あ、土井先生に利吉さん。忍びの仕事終わったんですね。おかえりなさい!大変でしたか?」
「まぁ、それなりにな。どころで、きり丸……お前こんなところで何やってるんだ?」
「何って、見張りですよ。空さんに頼まれたんです。行水中だから、誰も入れないようにって」
「ふ~ん、行水ねぇ。って行水!?」
半助たちの心拍数は急激に上昇し始める。
「そうですよ。こうも暑いと汗かいちゃうでしょ。気持ち悪いから、身体を洗い流したいって」
(空(さん)が行水……)
戸一枚隔てた向こうには、愛しい
ゴックンと生唾を呑んだ男たちの妄想に歯止めがきかなくなる。
このとき、半助と利吉の二人は以下のことを想像していた。
チャプン……
水を張った大きな桶の中心に空が座っている。
濡らした手ぬぐいで身体中を拭いては、再び手ぬぐいを水に浸し……を繰り返していく。
「はぁ……気持ちいい。梅雨があけてから蒸し暑い日が続くし、やんなっちゃう」
首元に水滴が光る。
滑らかな曲線を描く女の身体に沿って、水滴がゆっくりと下へとすべり落ちた。
腕、脚、首回り……と空は身体の隅々まで丁寧に洗っていく。
「いつも綺麗にしておかないと……いつ半助(利吉)さんとふたりきりになるか、わからないし」
そこまで言って、空は自分自身の言葉に身体を熱くした。
「やだ、私ったら。まるで
火照る顔を冷ますように、空は冷たい手ぬぐいを頬に押さえつけた。
(空さん、私のために身体のお手入れを……何て健気なんだ……)
(いつも綺麗にしておきたいなんて……ああもう、いますぐ空を抱きしめたい!)
見た目にはギリギリ顔面を保っているが、内心ではデヘヘへ…と桃色の妄想に取り憑かれた二人なのだった。
半助がキリッと表情を引き締める。
「きり丸。いつから行水しているんだ?」
「へっ?そういえば、結構長いなぁ。もう三十分くらいは経つかも、」
「いくら真夏でも、あまりに長いと風邪引くぞ。う~ん、心配だなぁ。どれ、ちょっと様子を見てこよう」
これに、利吉が待ったをかけた。
「なっ……それは私の役目です!土井先生はここで待っててください!」
中に入る気満々のふたりに、きり丸がぎょっとした。
「ちょっと、ちょっと、ちょっと、お二人とも!誰も入れるなって言われてるから、だめですってば!」
「大丈夫、大丈夫。他の男ならもっての外だが、私と空は恋人なんだ。何の問題もない」
「何言ってるんですか、土井先生!問題ないのは、この私だけです!大人しく引っ込んでてください!」
「わわっ!二人とも、話を聞いてくだ……」
「「問答無用!そこをどけ、きり丸!」」
大の大人の力できり丸を押しのけ、半助と利吉はほぼ同時に家へ突入する。
地面にぶつかったきり丸は、とんでもない真相を口にした。
「
直後、空の声とはほど遠いご婦人の悲鳴が上がった。
「キャアァァァ!ノゾキよぉぉ、エッチぃぃぃ!!!」
ドンガラガッシャーン!!
騒々しい物音のあと、頭に風呂桶を被せられた半助と利吉が入口から放り出された。
***
土井家の居間で、着替えまで済ませたおりん婆さんがプンプンと立腹している。
ちなみにこんな初登場となってしまったが、彼女はきり丸以上のドケチ。
日銭屋を営んでいた。
おりんの隣に座る空は、顔じゅうに怒りをあらわにしている。
半助と利吉は頭には大きいタンコブを、顔には引っ掻き傷をつくっていた。
「全く、清らかな乙女の裸を覗くとは……本来ならありえないほどの金額を請求するところじゃが、今日のところはまぁ勘弁しといてやろう」
そう言って、おりん婆さんがひゃっひゃっひゃ、と笑って、差し出された
完全に上から目線の物言いに、半助がたまらず叫んだ。
「ちょっと待ってください!大体、何で
「それは……きり丸を訪ねてここへ来たら、この娘が行水していたんじゃ。普段から節約節水を心掛けている生活をしているだけに、たっぷりと水を使って涼んでいる姿を見たら、つい羨ましくなってのう」
「それにしても、二人とも!どうして中へ入って来たんですか?わざわざきりちゃんを見張りにつけといたんですよ!」
鋭い空の追及に、半助と利吉の目が泳ぎだす。
横からきり丸が言った。
「空さーん。聞いてくださーい。この二人はですねぇ、行水をしているのが空さんだと勘違いしたみたいで……」
「わーわー!言うな、きり丸!」
「しー!しー!」
慌ててきり丸の口を塞ぐが、もう遅い。
「……!」
二人の怪しい行動の原因がまさか自分にあると思っていなかった空は完全に狼狽している。
(もう、ふたりとも……エッチなんだから!)
今食べている西瓜のごとき真っ赤な顔で叫んだ。
「半助さん!利吉さん!り……理由はどうであれ、女性の入浴を邪魔するなんて、言語道断です!もう二度とこういうことはしないでください!」
「は、は~い……」
半助と利吉がシュンと肩を落とす。
そんな二人を、きり丸は呆れた顔で見つめていた。
(どの城もほしがるプロ忍二人も、空さんの前ではかたなしってわけか……)
冷静にそう悟って、黙々と西瓜を頬張る。
「今日は町に来てよかったのう。身体も流せたし、こんなに美味しい西瓜にもありつけたし。ヒャッヒャッヒャッ」
何ともいえない空気の中、ご機嫌なおりん婆さんの笑い声だけが部屋に響き渡っていた。