続 きりちゃんのトクトク☆大作戦!
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「なんで私が土井先生と二人で買い物に……」
バケツのような漬物樽を抱え歩きながら、利吉がぼやく。
隣に並んでいる半助は思わず顔をしかめた。
「それはこっちの台詞だ、利吉君!それにしても……」
半助がゲンナリとした調子で続けた。
「またきり丸に言いように利用されたな」
「ええ……」
利吉が疲れたように相槌を打つ。
二人は事の一部始終を思い出していた。
***
話は半刻前に遡る。
空と半助、それから偶々遊びに来ていた利吉を含む三人できり丸の内職を手伝っていた。
が、やはりムードが悪すぎた。
「どうですか、空さん?この造花、私の方が土井先生のよりも綺麗につくれていると思いません?」
「何をいうか、利吉君!君がつくったやつは茎の部分がよれてるぞ!」
「はぁ?どこ見て言ってるんですか?真っすぐですよ、ほら。変な難癖つけないでください」
「難癖ではない!本当のことだ!」
(気、気まず~い……!)
「わ、わたし、夕飯の準備をそろそろ」
空は逃げるように土間へ降りた。
そのまま炊事場に置いてある食材をチェックしている。
「ああ!」
不意に空が悲鳴を上げた。
「どうしたんですか、空さん?」
「お漬物、切れちゃってる……」
見れば、樽の中にあった漬物は全てからっぽ。
ちょうどそこへ、きり丸が帰ってきた。
「たっだいまー!って、あり?みなさんで漬物樽を眺めて、一体どうしたんですか?」
「きりちゃん、お漬物切れちゃったの。これから買いに行こうかと思って」
「そうっすか。じゃあ、おれと一緒に買い物に……ってああ!」
余程重大なことを思い出したのか、きり丸の目がカッと見開いた。
少しの思案のあと、きり丸の顔がにやける。
猫なで声で言った。
「土井先生、利吉さぁん。ちょおっとお願いがあるんですけどぉう……」
「なんだ、きり丸?」
「今からぁ、買い物お願いしたいんでぇす。漬物屋さんにぃ、ひとっ走りしてきてくださぁい!」
「ん?何で私たちに頼むんだ?買い物はきり丸が担当じゃないか」
「ひどぉい!こんな年端もいかない子どもにぃ、おもたぁい漬物樽を運ばせる気ですかぁ?」
「小銭をチラつかせば、米一俵くらい軽々と担ぎ上げるお前に説得力など皆無だ」
漫才のようなやりとりを繰り広げる半助ときり丸のよそで、利吉がハッとした。
「土井先生、きり丸の狙いが分かりましたよ!また私たちに女装させる気満々ですよ?お得だとかなんとかいって!」
「はは~ん。そういうことか、きり丸……」
以前八百屋に買物に行った際、女装させられた屈辱を二人は忘れていなかった。
「……」
ジト目で睨みつけてくる半助と利吉に対し、焦ったきり丸はブンブンと首を横に振った。
「いえ、今日は女装なんて必要ありません。むしろ絶対にそのままの格好 でお願いします!」
「ん?どういうことだ?」
「い、いえ……なんでもないっすよ。それに……ここの漬物、滅茶苦茶美味いし、何といったって空さんの大好物だし。ね、空さん?」
「はい。本当においしくて箸が止まらなくなるんです。できれば、今日の夕飯にも出せると嬉しいんですけど……」
空がしんみりと言う。
そのわずかばかりの寂しそうな表情に、半助と利吉の心が突き動かされた。
この娘 のために何とかしてあげたい。
この娘 の喜ぶ顔が見たい、と。
「私が買ってくるよ、空。君にこんな重たいものを運ばせられないからな」
「いえ、私が行ってきます。空さん、帰ってきたら美味しい漬物、一緒に食べましょう!」
そう言って、一足先に利吉が発つ。
「ああ、ずるいぞっ!利吉君!」
半助も慌てて後を追う。
残された空はきり丸をじっと見た。
「きりちゃんが買い物に行かないだなんて、珍しい。雨でも降らないといいけど……」
「実はおれ、帰り道にあの漬物屋通ったんですけど、客が全くいなくて。おっかしいなと思って、店をチラッと覗いてみたら、店番してたのがあの大女将がだったんですよ」
「なるほどね。大女将かぁ。そういうことなら、半助さんと利吉さんに行かせたのは大正解かもしれない……」
どうやらきり丸と空は漬物屋の大女将の人となりを知っているようである。
その人物を想像して、空は大丈夫かしら……とほんの少し、いや、かなり心配になった。
繁華街から外れた、半助たちの家からは少し距離のある漬物屋。
この辺では知らない者はいないくらいの名店だった。
手作りの漬物は絶品で、近くの城の殿様もひいきにするほどだという。
店主夫婦の人柄の良さもあいまって、店頭は町の奥様たちで常にごった返しているはずだが、どういうわけか、今日は客足が途絶えている。
少し遠くから、半助たちは店の様子を窺っていた。
「あれ、変だな。いつも混んでいるのに今日は人が全くいない……」
「でも、幟は出ているし、営業はしているようですね。ちゃっちゃと買って帰りましょう」
店の前に来たふたりは、暖簾をくぐって中へ入る。
すぐさまぎょっとするような光景が目に飛び込んできた。
奥で老婆と男が口論しているのだ。
「なぁ、頼むからここの漬物を売ってくれよ、大女将さん!こんなに売れ余っているし、いいじゃねえか!」
「ダメじゃ。お前さんには売れねぇ」
「そう言わずにさぁ。お願いだから、なんとかしてくれよ!じゃないと、俺……せっかく働き始めた城の仕事、クビになっちまうよ!」
「ダメなもんはダメなんじゃ!」
年は四十路くらいだろうか。
白髪交じりの中年男性が必死に食い下がるが、取りつく島もないようである。
対して、厳格な雰囲気を持つ老婆――大女将と呼ばれた彼女は頑なに拒むのみだった。
男はとうとうその場で頭を抱えてしまった。
「どうしよう……ここの漬物を持って帰れないとなると、城の料理番の親方に大目玉くらっちまう。最悪クビだ……まだ乳飲み子がいるっていうのに……」
一部始終を見ていた半助と利吉はヒソヒソと話をしている。
(漬物を売ってくれない……土井先生、これはマズいですね)
(ああ。空のためにも手ぶらで帰るわけにはいかん!……というわけで、あの男性を助けよう!)
半助と利吉はつかつかと歩き進み、二人の前に躍り出た。
「すみません!私たちも漬物を買いに来たんです。どういう事情があるかは知りませんが、ぜひ漬物を売っていただけませんか?」
「そうですよ、ご婦人!男性の言う通り、これだけ余っているのに売れないというのはおかしいです。なにとぞ、ご厚情を……!」
男の方は予期せぬ助っ人の出現に胸を熱くする。
一方、大女将は突然現れた半助と利吉を見て、唖然としていた。
果たして、大女将は承諾してくれるだろうか。
沈黙を保つ大女将に、男三人に焦りが募る。
「……」
やがて大女将は顔をうっとりと蕩けさせて言った。
「うん。売るわ!あなたたちの言う通りにするっ!」
「「へ?」」
「ここにあるもの、好きなだけ持ってってちょうだい!お安くするわよ、うふっ♡」
語尾にハートマークまで出現し、さっきまで途方に暮れていた男が眼を丸くする。
大女将に突っ込まざるを得ないほどに。
「おい……大女将さん。ず、随分俺のときとは態度が違うようだけど……」
これに、大女将が凄まじい気迫で言った。
「そりゃそうよ!いいこと?覚えておきなさい!私はねぇ、若くてかっこいいイケメンが好きなの。イケメン以外に大切なお漬物、売りたくないんだから!」
「……」
大女将のポリシーに男たち三人はドン引きする。
一方、大女将はくるっと向き直し、半助と利吉に狙いを定めた。
声色も媚びを含んだものに変わっている。
「それより、あなたたち、ほんとうに素敵ねぇ。ねぇ、名はなんていうの?年はいくつなの?好きな女性のタイプは?年上の女性は好き?ぶっちゃけ……あたしとかどうかしら?」
悩殺ポーズで大女将は片瞬き を決める。
その場にいた男三人がガクッとつんのめった。
バケツのような漬物樽を抱え歩きながら、利吉がぼやく。
隣に並んでいる半助は思わず顔をしかめた。
「それはこっちの台詞だ、利吉君!それにしても……」
半助がゲンナリとした調子で続けた。
「またきり丸に言いように利用されたな」
「ええ……」
利吉が疲れたように相槌を打つ。
二人は事の一部始終を思い出していた。
***
話は半刻前に遡る。
空と半助、それから偶々遊びに来ていた利吉を含む三人できり丸の内職を手伝っていた。
が、やはりムードが悪すぎた。
「どうですか、空さん?この造花、私の方が土井先生のよりも綺麗につくれていると思いません?」
「何をいうか、利吉君!君がつくったやつは茎の部分がよれてるぞ!」
「はぁ?どこ見て言ってるんですか?真っすぐですよ、ほら。変な難癖つけないでください」
「難癖ではない!本当のことだ!」
(気、気まず~い……!)
「わ、わたし、夕飯の準備をそろそろ」
空は逃げるように土間へ降りた。
そのまま炊事場に置いてある食材をチェックしている。
「ああ!」
不意に空が悲鳴を上げた。
「どうしたんですか、空さん?」
「お漬物、切れちゃってる……」
見れば、樽の中にあった漬物は全てからっぽ。
ちょうどそこへ、きり丸が帰ってきた。
「たっだいまー!って、あり?みなさんで漬物樽を眺めて、一体どうしたんですか?」
「きりちゃん、お漬物切れちゃったの。これから買いに行こうかと思って」
「そうっすか。じゃあ、おれと一緒に買い物に……ってああ!」
余程重大なことを思い出したのか、きり丸の目がカッと見開いた。
少しの思案のあと、きり丸の顔がにやける。
猫なで声で言った。
「土井先生、利吉さぁん。ちょおっとお願いがあるんですけどぉう……」
「なんだ、きり丸?」
「今からぁ、買い物お願いしたいんでぇす。漬物屋さんにぃ、ひとっ走りしてきてくださぁい!」
「ん?何で私たちに頼むんだ?買い物はきり丸が担当じゃないか」
「ひどぉい!こんな年端もいかない子どもにぃ、おもたぁい漬物樽を運ばせる気ですかぁ?」
「小銭をチラつかせば、米一俵くらい軽々と担ぎ上げるお前に説得力など皆無だ」
漫才のようなやりとりを繰り広げる半助ときり丸のよそで、利吉がハッとした。
「土井先生、きり丸の狙いが分かりましたよ!また私たちに女装させる気満々ですよ?お得だとかなんとかいって!」
「はは~ん。そういうことか、きり丸……」
以前八百屋に買物に行った際、女装させられた屈辱を二人は忘れていなかった。
「……」
ジト目で睨みつけてくる半助と利吉に対し、焦ったきり丸はブンブンと首を横に振った。
「いえ、今日は女装なんて必要ありません。むしろ絶対に
「ん?どういうことだ?」
「い、いえ……なんでもないっすよ。それに……ここの漬物、滅茶苦茶美味いし、何といったって空さんの大好物だし。ね、空さん?」
「はい。本当においしくて箸が止まらなくなるんです。できれば、今日の夕飯にも出せると嬉しいんですけど……」
空がしんみりと言う。
そのわずかばかりの寂しそうな表情に、半助と利吉の心が突き動かされた。
この
この
「私が買ってくるよ、空。君にこんな重たいものを運ばせられないからな」
「いえ、私が行ってきます。空さん、帰ってきたら美味しい漬物、一緒に食べましょう!」
そう言って、一足先に利吉が発つ。
「ああ、ずるいぞっ!利吉君!」
半助も慌てて後を追う。
残された空はきり丸をじっと見た。
「きりちゃんが買い物に行かないだなんて、珍しい。雨でも降らないといいけど……」
「実はおれ、帰り道にあの漬物屋通ったんですけど、客が全くいなくて。おっかしいなと思って、店をチラッと覗いてみたら、店番してたのがあの大女将がだったんですよ」
「なるほどね。大女将かぁ。そういうことなら、半助さんと利吉さんに行かせたのは大正解かもしれない……」
どうやらきり丸と空は漬物屋の大女将の人となりを知っているようである。
その人物を想像して、空は大丈夫かしら……とほんの少し、いや、かなり心配になった。
繁華街から外れた、半助たちの家からは少し距離のある漬物屋。
この辺では知らない者はいないくらいの名店だった。
手作りの漬物は絶品で、近くの城の殿様もひいきにするほどだという。
店主夫婦の人柄の良さもあいまって、店頭は町の奥様たちで常にごった返しているはずだが、どういうわけか、今日は客足が途絶えている。
少し遠くから、半助たちは店の様子を窺っていた。
「あれ、変だな。いつも混んでいるのに今日は人が全くいない……」
「でも、幟は出ているし、営業はしているようですね。ちゃっちゃと買って帰りましょう」
店の前に来たふたりは、暖簾をくぐって中へ入る。
すぐさまぎょっとするような光景が目に飛び込んできた。
奥で老婆と男が口論しているのだ。
「なぁ、頼むからここの漬物を売ってくれよ、大女将さん!こんなに売れ余っているし、いいじゃねえか!」
「ダメじゃ。お前さんには売れねぇ」
「そう言わずにさぁ。お願いだから、なんとかしてくれよ!じゃないと、俺……せっかく働き始めた城の仕事、クビになっちまうよ!」
「ダメなもんはダメなんじゃ!」
年は四十路くらいだろうか。
白髪交じりの中年男性が必死に食い下がるが、取りつく島もないようである。
対して、厳格な雰囲気を持つ老婆――大女将と呼ばれた彼女は頑なに拒むのみだった。
男はとうとうその場で頭を抱えてしまった。
「どうしよう……ここの漬物を持って帰れないとなると、城の料理番の親方に大目玉くらっちまう。最悪クビだ……まだ乳飲み子がいるっていうのに……」
一部始終を見ていた半助と利吉はヒソヒソと話をしている。
(漬物を売ってくれない……土井先生、これはマズいですね)
(ああ。空のためにも手ぶらで帰るわけにはいかん!……というわけで、あの男性を助けよう!)
半助と利吉はつかつかと歩き進み、二人の前に躍り出た。
「すみません!私たちも漬物を買いに来たんです。どういう事情があるかは知りませんが、ぜひ漬物を売っていただけませんか?」
「そうですよ、ご婦人!男性の言う通り、これだけ余っているのに売れないというのはおかしいです。なにとぞ、ご厚情を……!」
男の方は予期せぬ助っ人の出現に胸を熱くする。
一方、大女将は突然現れた半助と利吉を見て、唖然としていた。
果たして、大女将は承諾してくれるだろうか。
沈黙を保つ大女将に、男三人に焦りが募る。
「……」
やがて大女将は顔をうっとりと蕩けさせて言った。
「うん。売るわ!あなたたちの言う通りにするっ!」
「「へ?」」
「ここにあるもの、好きなだけ持ってってちょうだい!お安くするわよ、うふっ♡」
語尾にハートマークまで出現し、さっきまで途方に暮れていた男が眼を丸くする。
大女将に突っ込まざるを得ないほどに。
「おい……大女将さん。ず、随分俺のときとは態度が違うようだけど……」
これに、大女将が凄まじい気迫で言った。
「そりゃそうよ!いいこと?覚えておきなさい!私はねぇ、若くてかっこいいイケメンが好きなの。イケメン以外に大切なお漬物、売りたくないんだから!」
「……」
大女将のポリシーに男たち三人はドン引きする。
一方、大女将はくるっと向き直し、半助と利吉に狙いを定めた。
声色も媚びを含んだものに変わっている。
「それより、あなたたち、ほんとうに素敵ねぇ。ねぇ、名はなんていうの?年はいくつなの?好きな女性のタイプは?年上の女性は好き?ぶっちゃけ……あたしとかどうかしら?」
悩殺ポーズで大女将は
その場にいた男三人がガクッとつんのめった。