きりちゃんのトク☆トク大作戦!
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長期休み中の出来事。
半助の家に利吉が遊びにきている。
ただ、ムードは最悪だ。
「空さん。これ、絶対貴女に似合うと思って」
利吉がそういって差し出したのは簪だった。
まぁ……と驚きの声を上げる空と対象的に半助はプンスカと怒りまくっている。
「おいおい、利吉君!なんで勝手に簪なんか買ってきたんだ!?大体空は私の恋人だぞ!」
「そうでしたっけ?」
「そうだ!」
「あは、あはははは……」
膠着状態に陥っていると、そこへ、あっけらかんとした元気の良い少年が現れた。
「たっだいまー!」
きり丸だった。
アルバイトから帰ってきたのだ。
「きりちゃん!」
「あ、利吉さん来てる。てことは、ま~た、くっだらない小競り合いやっていたんっすね」
慌てて駆け寄った空がすがるような眼差しでコクコクと頷く。
きり丸が思い出したように尋ねた。
「そろそろ夕餉の支度をしないといけませんね。買い物行きました?」
「ん~ん、まだ。だって、半助さんと利吉さん、ずっとこれだもん……」
空がチラっと見れば、半助と利吉は睨み合っている。
きり丸も呆れ顔だ。
「もう、しょうがないっすねぇ!じゃあ、おれと空さんふたりで行きましょうか」
「そうね、そうしましょ」
空ときり丸は買い物かごを手にし、仲良く外へ出ようとする。
そのときだった。
「ちょっと待ったぁ!」
半助と利吉が同時に叫んだ。
「買い物なら、私もついて行く(行きます)!」
ほぼ同じセリフを発した半助と利吉は、素早く空の隣を確保した。
「空さんに重い荷物を持たせるわけにはいきませんから」
「ああ!私が言おうとした台詞を!」
「もう、二人とも、」
「こ、こんなに買い物についてこられても困るんだけど……おれが行くのは必須として」
そう。土井家の買い物は都合の許す限り、ほぼきり丸が担当している。
居候でありながら、きり丸は半助の家計も管理しているのだ。
一度空が一人で買い物に行って、途中こっそり饅頭を買い食いした際、無駄遣いだときり丸から非難囂々の嵐だったことがある。
そのくらい、きり丸は買い物に関して口うるさかった。
「ああ、そうだ!」
きり丸が目を輝かせて叫んだ。
「土井先生、利吉さん……お二方、どうしても一緒に行きたいんですよね?買い物」
「ああ、そうだけど」
「それなら……ちょおっとばっかし、協力してもらいますよ」
きり丸がニヒヒッといやらしく笑う。
銭と化した目が妖しく光った。
***
きり丸たちは町の大通りを歩いている。
皆容姿に恵まれ嫌でも目立つ四人だが、今日は普段以上に注目を集めていた。
さて、きり丸たちがついたのは八百屋。
「さぁ、寄った寄ったぁ!今日も新鮮な地場野菜が沢山並んでるよ!」
額にねじり鉢巻きをつけた、ガタイのいい四十代くらいの男が声を張り上げて呼び込みをしている。
この男性は、八百屋の主人。
気さくな性格が評判で、きり丸たちも行きつけにしていた。
「おやっさん、こんにちは!」
「おおう、きりちゃん。調子はどうだい?」
「ぼちぼちだよ。おやっさんは?」
「この通り、ありがたいことに忙しくってしょうがねぇ。やあ、空ちゃん。相変わらず美人さんだねぇ。こんな近くで空ちゃんの顔を拝めるなんて、俺は幸せモンだなぁ!」
「もう、ご主人ったら。いつもお世辞がうまいんだから」
「お世辞なんかじゃねえよ!俺の言うことに間違いはねぇ。なんなら、やもめ暮らしの俺と籍を入れてくんねえ?」
ご主人が空の手を握り取る。
だが、これに空はもう慣れっこ。
そして、この数秒後にはお決まりの展開が待っているのだ。
「いってぇぇぇぇぇ!」
「あんた、何勝手にあたしを鬼籍に入れてんのさ!」
そう言って、主人の手を抓り上げた姉御肌気質の女性が、フンと鼻をならす。
主人の妻だった。
ストンと流れ落ちる黒髪に、気の強さを感じさせる切れ長の目。
大人の色香漂う美しい女性である。
この二人が並ぶと、「美女と野獣」――そう周りの目は受け止めてしまう。
「おかみさん!」
「空ちゃん、大丈夫?変なことされてないかい?」
主人の妻に本気で心配されて、空は苦笑する。
「相変わらず、どっぷり尻に敷かれてるねぇ、おやっさん!」
「はは……きりちゃんに言われるとは、まいったぜ」
周りの買い物客がどっと笑う。
この夫婦の掛け合いも、店の魅力のひとつなのだ。
きり丸と空は棚に並んだ野菜を物色しているが、半助と利吉は何やら様子がおかしい。
やたらと人の視線を気にし、店の隅の方で目立たぬように佇んでいる。
だが、二人の存在は予想以上に際立っていた。
「ん?」
二人を見つけるや否や、八百屋の主人の目が大きく見開く。
前にいたきり丸を手繰り寄せた。
「おいおい、きりちゃん。今日はどうしたんだい?空ちゃん以外にも、すごい別嬪さんがいるじゃねぇか?しかも、二人も」
八百屋の主人が言及するものだから、周りの客たちの視線が二人に集中する。
そうなると、言われた側は自己紹介せざるを得ない。
女たちはしぶしぶといった様子で、言葉を絞り出した。
「……半子です」
「……利子です」
もうお分かりの通り、八百屋の主人が絶賛した女性とは半助と利吉が女装した姿である。
きり丸が鼻高々に言った。
「エッへへ。すげえ、美人さんでしょ?」
「ああ!」
「今、二人はおれんちに遊びに来ててさ。これからごちそう作んなきゃいけねえんだ。だから、おやっさん……この大根ちょ~っとばっかし負けてくんない?」
「くぅ~きりちゃん、空ちゃんていう美人の姉がいるってだけでも羨ましいのに、こんな美女たちに囲まれながら晩飯を突っつくなんて……この幸せ者ぉ!いいぜ、その大根無料 で持ってきな」
「やりぃ!」
八重歯を覗かせたきり丸がぴょんと八百屋の主人に抱き着く。
実はここのご主人は綺麗なご婦人に滅法弱い。
きり丸はそれを知っていて、半助たちを女装させたのだ。
無料でもらった大根とは別に数点野菜を購入し、きり丸たちは店を後にした。
ガクッと力なく歩く半子と利子に対し、空が慰めるように声をかける。
「た、大変でしたね。お二人とも。でも、女装とっても似合ってますよ。素敵です」
「はぁ……」
どんよりした空気が周囲を包む。
対照的に、きり丸の周りだけはお花畑のように明るい。
「お二人のおかげで大根タダでゲットできたし、作戦大成功!いやぁ、今日はツイてる、ツイてるぅ!」
「もしかして……きりちゃん、こうなることを見越して二人を女装させたの?」
「そうでぇす。だって、買い物するときは『女』の姿の方が得することが多いですからね。オマケしてもらえることが多いし!ニヒヒヒヒッ」
きり丸が疲れ気味の半子と利子に向かってしたり顔をつくる。
これが二人の癇に障った。
「おい、きり丸!こういうのは二度とごめんだからな!」
「そうだぞ!大体、買い物だって空さんと二人で行きたかったのに!」
半子と利子が鬼の形相できり丸を怒鳴りつける。
が、きり丸には「暖簾に腕押し」。
「まぁまぁ、そんなこと言わず。次は魚屋に行きましょう。あそこのご主人も美人にサービスしてくれるんです」
「「いいっ!?」」
「ほらほら、早く早く!」
きり丸は二人の腕をとって、ズンズンと歩き進んでいく。
「あはは……」
空としては、最早笑うしかなかった。
半助の家に利吉が遊びにきている。
ただ、ムードは最悪だ。
「空さん。これ、絶対貴女に似合うと思って」
利吉がそういって差し出したのは簪だった。
まぁ……と驚きの声を上げる空と対象的に半助はプンスカと怒りまくっている。
「おいおい、利吉君!なんで勝手に簪なんか買ってきたんだ!?大体空は私の恋人だぞ!」
「そうでしたっけ?」
「そうだ!」
「あは、あはははは……」
膠着状態に陥っていると、そこへ、あっけらかんとした元気の良い少年が現れた。
「たっだいまー!」
きり丸だった。
アルバイトから帰ってきたのだ。
「きりちゃん!」
「あ、利吉さん来てる。てことは、ま~た、くっだらない小競り合いやっていたんっすね」
慌てて駆け寄った空がすがるような眼差しでコクコクと頷く。
きり丸が思い出したように尋ねた。
「そろそろ夕餉の支度をしないといけませんね。買い物行きました?」
「ん~ん、まだ。だって、半助さんと利吉さん、ずっとこれだもん……」
空がチラっと見れば、半助と利吉は睨み合っている。
きり丸も呆れ顔だ。
「もう、しょうがないっすねぇ!じゃあ、おれと空さんふたりで行きましょうか」
「そうね、そうしましょ」
空ときり丸は買い物かごを手にし、仲良く外へ出ようとする。
そのときだった。
「ちょっと待ったぁ!」
半助と利吉が同時に叫んだ。
「買い物なら、私もついて行く(行きます)!」
ほぼ同じセリフを発した半助と利吉は、素早く空の隣を確保した。
「空さんに重い荷物を持たせるわけにはいきませんから」
「ああ!私が言おうとした台詞を!」
「もう、二人とも、」
「こ、こんなに買い物についてこられても困るんだけど……おれが行くのは必須として」
そう。土井家の買い物は都合の許す限り、ほぼきり丸が担当している。
居候でありながら、きり丸は半助の家計も管理しているのだ。
一度空が一人で買い物に行って、途中こっそり饅頭を買い食いした際、無駄遣いだときり丸から非難囂々の嵐だったことがある。
そのくらい、きり丸は買い物に関して口うるさかった。
「ああ、そうだ!」
きり丸が目を輝かせて叫んだ。
「土井先生、利吉さん……お二方、どうしても一緒に行きたいんですよね?買い物」
「ああ、そうだけど」
「それなら……ちょおっとばっかし、協力してもらいますよ」
きり丸がニヒヒッといやらしく笑う。
銭と化した目が妖しく光った。
***
きり丸たちは町の大通りを歩いている。
皆容姿に恵まれ嫌でも目立つ四人だが、今日は普段以上に注目を集めていた。
さて、きり丸たちがついたのは八百屋。
「さぁ、寄った寄ったぁ!今日も新鮮な地場野菜が沢山並んでるよ!」
額にねじり鉢巻きをつけた、ガタイのいい四十代くらいの男が声を張り上げて呼び込みをしている。
この男性は、八百屋の主人。
気さくな性格が評判で、きり丸たちも行きつけにしていた。
「おやっさん、こんにちは!」
「おおう、きりちゃん。調子はどうだい?」
「ぼちぼちだよ。おやっさんは?」
「この通り、ありがたいことに忙しくってしょうがねぇ。やあ、空ちゃん。相変わらず美人さんだねぇ。こんな近くで空ちゃんの顔を拝めるなんて、俺は幸せモンだなぁ!」
「もう、ご主人ったら。いつもお世辞がうまいんだから」
「お世辞なんかじゃねえよ!俺の言うことに間違いはねぇ。なんなら、やもめ暮らしの俺と籍を入れてくんねえ?」
ご主人が空の手を握り取る。
だが、これに空はもう慣れっこ。
そして、この数秒後にはお決まりの展開が待っているのだ。
「いってぇぇぇぇぇ!」
「あんた、何勝手にあたしを鬼籍に入れてんのさ!」
そう言って、主人の手を抓り上げた姉御肌気質の女性が、フンと鼻をならす。
主人の妻だった。
ストンと流れ落ちる黒髪に、気の強さを感じさせる切れ長の目。
大人の色香漂う美しい女性である。
この二人が並ぶと、「美女と野獣」――そう周りの目は受け止めてしまう。
「おかみさん!」
「空ちゃん、大丈夫?変なことされてないかい?」
主人の妻に本気で心配されて、空は苦笑する。
「相変わらず、どっぷり尻に敷かれてるねぇ、おやっさん!」
「はは……きりちゃんに言われるとは、まいったぜ」
周りの買い物客がどっと笑う。
この夫婦の掛け合いも、店の魅力のひとつなのだ。
きり丸と空は棚に並んだ野菜を物色しているが、半助と利吉は何やら様子がおかしい。
やたらと人の視線を気にし、店の隅の方で目立たぬように佇んでいる。
だが、二人の存在は予想以上に際立っていた。
「ん?」
二人を見つけるや否や、八百屋の主人の目が大きく見開く。
前にいたきり丸を手繰り寄せた。
「おいおい、きりちゃん。今日はどうしたんだい?空ちゃん以外にも、すごい別嬪さんがいるじゃねぇか?しかも、二人も」
八百屋の主人が言及するものだから、周りの客たちの視線が二人に集中する。
そうなると、言われた側は自己紹介せざるを得ない。
女たちはしぶしぶといった様子で、言葉を絞り出した。
「……半子です」
「……利子です」
もうお分かりの通り、八百屋の主人が絶賛した女性とは半助と利吉が女装した姿である。
きり丸が鼻高々に言った。
「エッへへ。すげえ、美人さんでしょ?」
「ああ!」
「今、二人はおれんちに遊びに来ててさ。これからごちそう作んなきゃいけねえんだ。だから、おやっさん……この大根ちょ~っとばっかし負けてくんない?」
「くぅ~きりちゃん、空ちゃんていう美人の姉がいるってだけでも羨ましいのに、こんな美女たちに囲まれながら晩飯を突っつくなんて……この幸せ者ぉ!いいぜ、その大根
「やりぃ!」
八重歯を覗かせたきり丸がぴょんと八百屋の主人に抱き着く。
実はここのご主人は綺麗なご婦人に滅法弱い。
きり丸はそれを知っていて、半助たちを女装させたのだ。
無料でもらった大根とは別に数点野菜を購入し、きり丸たちは店を後にした。
ガクッと力なく歩く半子と利子に対し、空が慰めるように声をかける。
「た、大変でしたね。お二人とも。でも、女装とっても似合ってますよ。素敵です」
「はぁ……」
どんよりした空気が周囲を包む。
対照的に、きり丸の周りだけはお花畑のように明るい。
「お二人のおかげで大根タダでゲットできたし、作戦大成功!いやぁ、今日はツイてる、ツイてるぅ!」
「もしかして……きりちゃん、こうなることを見越して二人を女装させたの?」
「そうでぇす。だって、買い物するときは『女』の姿の方が得することが多いですからね。オマケしてもらえることが多いし!ニヒヒヒヒッ」
きり丸が疲れ気味の半子と利子に向かってしたり顔をつくる。
これが二人の癇に障った。
「おい、きり丸!こういうのは二度とごめんだからな!」
「そうだぞ!大体、買い物だって空さんと二人で行きたかったのに!」
半子と利子が鬼の形相できり丸を怒鳴りつける。
が、きり丸には「暖簾に腕押し」。
「まぁまぁ、そんなこと言わず。次は魚屋に行きましょう。あそこのご主人も美人にサービスしてくれるんです」
「「いいっ!?」」
「ほらほら、早く早く!」
きり丸は二人の腕をとって、ズンズンと歩き進んでいく。
「あはは……」
空としては、最早笑うしかなかった。