夏夜の再会
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土井先生が忍術学園で天鬼になった騒動以後、時々夜天鬼様とお会いするようになった。
彼は夜、私の部屋に突然現れる。
服は土井先生のままでも、声の調子や雰囲気ですぐに天鬼様だと気づかされる。
天鬼様にはやっぱり白が似合うから、いつ現れても良いように白の装束を用意して待っている。
彼に会った日は、様々なことをする。
ある時は兵法や戦について語り合う。
あの騒動以後、私も自分で兵法書を読んだり土井先生に教えて貰ってそこそこの知識がついた。
堅苦しい話の語り合いなんて恋人同士らしくない行動かもしれないけど、天鬼様も私も本当に楽しんでいる。
火薬のことも自主的に学んでいるから、今度天鬼様とお話しできてた時に饒舌な天鬼様が見れたらいいなとか、自分の学んだことがどれだけ彼に通用するかとか二人にしか味わえない楽しみを共有している。
またある時は二人で外に行き、寄り添いながら景色を眺める。
天鬼様が私を抱えてくれて、裏山の頂上や、森の中の綺麗な湖のほとりに連れ出してくれる。
夜、自然の中に佇む天鬼様。
夜の暗闇に彼の白装束がとても映えている。
月の光に包まれるように存在している天鬼様は神々しくさえ感じ、息をのむほど美しい。
それから、ただただ身体を重ねる日もある。
天鬼様に切なげに見つめられるから、それに吸い寄せられるように抱き合って。
会っていなかった時間を埋めるように、ずっとお互いの身体を求め合って過ごす。
…但し、翌日の土井先生の機嫌はすこぶる悪くなってしまうという問題があるけど。
これはまた別のお話。
***
今は八月の終わり。
夏の暑さは徐々になりを潜め、幾分過ごしやすくなってきたけど、まだじんわりとした暑さが残る夜。
また彼は突然現れた。
「天鬼様…!」
天鬼様は白い装束に身を包むと開口一番にこう仰った。
「外で星を見たい」
私の支度が終わると、天鬼様に横抱きにされ、学園の裏山へと向かう。
天鬼様は軽々と自分を抱えながら、身のこなし軽く木々の間をジャンプしていく。
その間、彼は息一つ切らしていない。
頂上に着くまでの間、全く崩れることのない端正な横顔にずっと見とれていた。
***
裏山に着くと、辺り一面の草花が揺れていた。
青々した草の香りが風に乗り鼻孔をくすぐる。
適当な大きい岩に二人は腰掛け、満天の星空を見上げる。
周りには二人だけしかいない。
二人の間に存在するのは、会話が無くても心地良い沈黙。
自然が作り出す音以外、静寂が辺りを支配していた。
やがて天鬼が隣に座っている空を見て、口を開いた。
相変わらず笑みは浮かべないが、とても穏やかな声だった。
「空」
「…はい」
「逢いたかった」
「…私もです」
どこからともなく、二人は自然に唇を合わせる。
口付け後、空は天鬼にもたれかかるようにして―
天鬼もまた、そんな彼女の肩を優しく抱いた。
天鬼自身と肩に回された手から彼の温もりが伝わってくる。
(私にはこんなに人間味のある天鬼様を見せてくれるのに…)
あの騒動を思い出す。
最初は恐ろしかったけど、話をするようになってからはとても真剣に、丁寧に兵法を教えてくれた。
ドクタケ忍者に捕らえられた時も助けてくれて怪我の心配までしてくれた。
その時に見せた冷たい目の奥にある暖かい光―
きり丸君やは組のみんなには土井先生が必要なのはわかっている。
でも一方で後天的に現れた「天鬼」という人間を理解してほしいと願う自分もいた。
前々から疑問に思っていたが、何故だろう。
ずっと胸の中で留めておけたのに。
どうしてかわからないが、今日は言わずにはいられなかった。
「天鬼様はこんなに暖かく優しいのに…。どうしてその優しさを冷たさで隠して他者に分かってもらおうとしないんですか?」
天鬼は表情は崩れなかったものの、そこには戸惑いの色があった。
天鬼はすっと立ちあがり、夜空を見上げる。
数多の星に目を向けながら、天鬼が語り出した。
「私は光と影でいえば影…。土井半助の影であり続けるために私を知ってもらう必要はない…。それに天鬼として生まれた時に、人とは交流を持たぬと決めていた…」
あの生い立ちが深く関与しているのだろう。
父母を救えなかった、不安定な戦乱の世が憎かった半助の悔恨の思いから生まれた天鬼。
修羅に徹した以上、これ以上他人と関わるような生き方はしない。
自ら他者との交流を絶っていた。
空を見上げていた天鬼の視線は下に落ち、俯きがちになる。
表情は変わらないが、その姿は愁いを帯びていて―
やがて、ポツリと呟いた。
「仮に土井半助に代わって表に出て生きられたとしても…。私は天涯孤独の身。私のようなもののために、人に泣いて欲しくない…」
このとき、空はようやく理解した。
冷たさこそ、優しさであったことを。
人間親しくなったが故に自分の死や不幸は他者を悲しませることになる。
それならば、最初から関わりを持たぬよう冷たく振舞えばよい。
冷たくしておけば、自分に向けられるのは嫌悪や敵意。
自分なんぞの人間に慈しみの感情など持って欲しくない。
―こんなにも優しい人がいたなんて。やっぱり天鬼様は、土井先生の半身。でもその優しさは、誰にも知られることなく埋もれて終わってしまう。それはとても、哀しい生き方―
天鬼の真意がわかった時、空はある種の感動すら覚えていた。
でも同時に、その独自の優しさ故にいつかぱったりと自分の前からも姿を消してしまうんじゃないかという不安が空の脳裏をよぎる。
空は後ろから天鬼の装束をぎゅっと掴んだ。
「…またこうやって、次の夜も、その次の夜も、お会いできますよね?」
土井先生と違って、表に出て生きることが決して許されない人―
天鬼の境遇と彼自身で決めた生き方を思うと、熱いものが目から零れ出る。
「当たり前だ。空の許を離れるつもりは、毛頭ない。…絶対に」
天鬼の口調は静かなものだったが、そこには力強い意志が込められていた。
「私は…私だけは、本当の貴方の優しさを忘れません…絶対に…」
天鬼は空を正面から抱き締めていた。
極めて自然に。
「空…私のために泣くのはお前だけで良い…」
「天鬼様…」
お互いの温もりの心地良さを感じながら、二人はずっと抱き合ったままでいた。
誰も立ち入ることのできない二人だけの強い絆が、そこには在った。
彼は夜、私の部屋に突然現れる。
服は土井先生のままでも、声の調子や雰囲気ですぐに天鬼様だと気づかされる。
天鬼様にはやっぱり白が似合うから、いつ現れても良いように白の装束を用意して待っている。
彼に会った日は、様々なことをする。
ある時は兵法や戦について語り合う。
あの騒動以後、私も自分で兵法書を読んだり土井先生に教えて貰ってそこそこの知識がついた。
堅苦しい話の語り合いなんて恋人同士らしくない行動かもしれないけど、天鬼様も私も本当に楽しんでいる。
火薬のことも自主的に学んでいるから、今度天鬼様とお話しできてた時に饒舌な天鬼様が見れたらいいなとか、自分の学んだことがどれだけ彼に通用するかとか二人にしか味わえない楽しみを共有している。
またある時は二人で外に行き、寄り添いながら景色を眺める。
天鬼様が私を抱えてくれて、裏山の頂上や、森の中の綺麗な湖のほとりに連れ出してくれる。
夜、自然の中に佇む天鬼様。
夜の暗闇に彼の白装束がとても映えている。
月の光に包まれるように存在している天鬼様は神々しくさえ感じ、息をのむほど美しい。
それから、ただただ身体を重ねる日もある。
天鬼様に切なげに見つめられるから、それに吸い寄せられるように抱き合って。
会っていなかった時間を埋めるように、ずっとお互いの身体を求め合って過ごす。
…但し、翌日の土井先生の機嫌はすこぶる悪くなってしまうという問題があるけど。
これはまた別のお話。
***
今は八月の終わり。
夏の暑さは徐々になりを潜め、幾分過ごしやすくなってきたけど、まだじんわりとした暑さが残る夜。
また彼は突然現れた。
「天鬼様…!」
天鬼様は白い装束に身を包むと開口一番にこう仰った。
「外で星を見たい」
私の支度が終わると、天鬼様に横抱きにされ、学園の裏山へと向かう。
天鬼様は軽々と自分を抱えながら、身のこなし軽く木々の間をジャンプしていく。
その間、彼は息一つ切らしていない。
頂上に着くまでの間、全く崩れることのない端正な横顔にずっと見とれていた。
***
裏山に着くと、辺り一面の草花が揺れていた。
青々した草の香りが風に乗り鼻孔をくすぐる。
適当な大きい岩に二人は腰掛け、満天の星空を見上げる。
周りには二人だけしかいない。
二人の間に存在するのは、会話が無くても心地良い沈黙。
自然が作り出す音以外、静寂が辺りを支配していた。
やがて天鬼が隣に座っている空を見て、口を開いた。
相変わらず笑みは浮かべないが、とても穏やかな声だった。
「空」
「…はい」
「逢いたかった」
「…私もです」
どこからともなく、二人は自然に唇を合わせる。
口付け後、空は天鬼にもたれかかるようにして―
天鬼もまた、そんな彼女の肩を優しく抱いた。
天鬼自身と肩に回された手から彼の温もりが伝わってくる。
(私にはこんなに人間味のある天鬼様を見せてくれるのに…)
あの騒動を思い出す。
最初は恐ろしかったけど、話をするようになってからはとても真剣に、丁寧に兵法を教えてくれた。
ドクタケ忍者に捕らえられた時も助けてくれて怪我の心配までしてくれた。
その時に見せた冷たい目の奥にある暖かい光―
きり丸君やは組のみんなには土井先生が必要なのはわかっている。
でも一方で後天的に現れた「天鬼」という人間を理解してほしいと願う自分もいた。
前々から疑問に思っていたが、何故だろう。
ずっと胸の中で留めておけたのに。
どうしてかわからないが、今日は言わずにはいられなかった。
「天鬼様はこんなに暖かく優しいのに…。どうしてその優しさを冷たさで隠して他者に分かってもらおうとしないんですか?」
天鬼は表情は崩れなかったものの、そこには戸惑いの色があった。
天鬼はすっと立ちあがり、夜空を見上げる。
数多の星に目を向けながら、天鬼が語り出した。
「私は光と影でいえば影…。土井半助の影であり続けるために私を知ってもらう必要はない…。それに天鬼として生まれた時に、人とは交流を持たぬと決めていた…」
あの生い立ちが深く関与しているのだろう。
父母を救えなかった、不安定な戦乱の世が憎かった半助の悔恨の思いから生まれた天鬼。
修羅に徹した以上、これ以上他人と関わるような生き方はしない。
自ら他者との交流を絶っていた。
空を見上げていた天鬼の視線は下に落ち、俯きがちになる。
表情は変わらないが、その姿は愁いを帯びていて―
やがて、ポツリと呟いた。
「仮に土井半助に代わって表に出て生きられたとしても…。私は天涯孤独の身。私のようなもののために、人に泣いて欲しくない…」
このとき、空はようやく理解した。
冷たさこそ、優しさであったことを。
人間親しくなったが故に自分の死や不幸は他者を悲しませることになる。
それならば、最初から関わりを持たぬよう冷たく振舞えばよい。
冷たくしておけば、自分に向けられるのは嫌悪や敵意。
自分なんぞの人間に慈しみの感情など持って欲しくない。
―こんなにも優しい人がいたなんて。やっぱり天鬼様は、土井先生の半身。でもその優しさは、誰にも知られることなく埋もれて終わってしまう。それはとても、哀しい生き方―
天鬼の真意がわかった時、空はある種の感動すら覚えていた。
でも同時に、その独自の優しさ故にいつかぱったりと自分の前からも姿を消してしまうんじゃないかという不安が空の脳裏をよぎる。
空は後ろから天鬼の装束をぎゅっと掴んだ。
「…またこうやって、次の夜も、その次の夜も、お会いできますよね?」
土井先生と違って、表に出て生きることが決して許されない人―
天鬼の境遇と彼自身で決めた生き方を思うと、熱いものが目から零れ出る。
「当たり前だ。空の許を離れるつもりは、毛頭ない。…絶対に」
天鬼の口調は静かなものだったが、そこには力強い意志が込められていた。
「私は…私だけは、本当の貴方の優しさを忘れません…絶対に…」
天鬼は空を正面から抱き締めていた。
極めて自然に。
「空…私のために泣くのはお前だけで良い…」
「天鬼様…」
お互いの温もりの心地良さを感じながら、二人はずっと抱き合ったままでいた。
誰も立ち入ることのできない二人だけの強い絆が、そこには在った。